「――――以上です。後日でよいですがなるべく早くその書類を提出して下さい。それでは」
「はーい有難う御座いまーす失礼しまーす」
扉を閉める司馬懿さんを見送って、何か不貞腐れてる系の許攸さんに向き直る。
「で、一体何したんです?」
とりあえず、ここから聞かなきゃ始まらない。
「五月蝿いわね、貴女に関係ないでしょ」
「関係ありますよ何ですか身元引受人って、一刀さんのお願いじゃなきゃ断っちゃってますよ!?」
「…ちょっと、色々あったのよ」
うわ可愛くない。顔は可愛いのに。
「…まあ、しばらくの間『居候』されるってことですけど。それなり程度は行儀良くしてて下さいね」
「ふん…」
結構広かったはずのあたしの私室に、急ごしらえの折りたたみの間仕切り二つ。それぞれの奥に寝台があってそこだけが専用空間でこっちは共用の居間。今は間仕切り畳んでるけどこれ出したら居間が狭い。大分狭い。
…つーかこれじゃ一刀さん部屋に呼べないじゃん!?確かもうすぐ番だったはずなんだけど!?
「どーすんのよ!」
慌てて配布されてる当番表を見る。…四日後だ。
「おおぅ…」
一刀さんとこでも嫌じゃないけど、月さんとか仕事関係の人も出入りしてるからいまいち落ちつかないんだよね。遠出は今更一刀さんの予定つかないだろうし、高級なとこはまだあたしの給料じゃ厳しいし自分の店(三国一)とか絶対やだし。
「どーしよっかなー…」
「…何がよ」
寝台を椅子代わりに腰掛けた許攸さんが足をプラプラさせながら聞いてきた。くっそー貴女さえ居なければ。
「んー?まあ許攸さんには関係ないことですけどぉ、皇帝陛下と『で・ぇ・と』の予定をどぉしよぉっかなぁー、って考えてんですよ」
「…あんたも北郷様の女だったの?」
「ふっふーん、まあねん」
「噂には聞いてたけど、北郷様も結構物好きなのね」
「よけーなお世話ですよ!」
相変わらず口悪いわこの人、あー苦手…。とか言っても明日からあたしの部下なんだ、なんとかしていかなきゃ。
「ところで司馬懿さん、許攸さんメイドになること知らないっぽくなかった?」
「そうね、なんか知らなさそうだったわね。北郷様、あたしをあんたに引き渡せとだけ言ってたし」
「そっか。じゃあ明日改めて挨拶行かないとね。一応中ボスさんだし」
「要らないわよ。あんな無表情でどんくさそうなの、直ぐ私の方が偉くなるわ」
「へぇ……」
とりあえずおもむろに扉を開けて廊下に顔をだしてみた。
「斗――――詩―――――!許攸さんがね―!一刀さんの事なんかもがが!」
「や、やめなさいよ!?」
慌てて飛んできたんでこのへんで勘弁してあげる。
「ぷは、…やめて欲しけりゃも少しまともな口利いて下さいよ!そーゆー発言命取りですよここじゃ、それに司馬懿さんてバカ強い人ですからね!もっかい凌遅行きになっても助けませんよ今度は?」
「ふん…わ、わかったわよ…」
この人マジ困ったちゃんだ…はぁ。
「…とりあえず、風呂とご飯行って寝ましょうよ今日は」
「そうね。どこかアテあるのかしら」
「風呂はここの共用の風呂使えますから。ご飯は…庁内食堂が近いですけど」
「あと、斗詩と椿(審配)がどうしてああなったのか知りたいんだけど」
「あたしだって知りたいさー!」
「逆ギレしないでよ!?」
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この人ほんとめんどくさい…今日は今日で、挨拶回りでいきなり先輩キレさせるかね普通。
総務室を後にして、涙目で唇を尖らせながら隣を歩くめんどくさいさんに話しかけた。
「…だぁーから礼儀正しくしてっていったじゃないですか」
「…五月蠅いわよっ、それより私の頬切られてないわよねっ?」
「切れてませんよ、司馬懿さん短戟得意らしいですからちくちくされただけじゃないですか?もみ上げはちょっと切れてるみたいですけど」
「うそ、どうしてくれんのよあの女!?」
「ちょこっとですよ、切られた跡はわかんないくらい。あの『ドンッ』ってやった瞬間にはらはらっと何本か落ちるの見えただけですから」
「…は、はんっ、総務室もあんな腕力馬鹿置いてるなんてやっぱり大した事ないわねっ…すぐにあたしが」
「司馬懿さん脳筋呼ばわりホント止めて!?あの人筋肉にまで脳ミソ入ってんじゃないかって人だから!」
「?だから脳筋でしょ?」
「逆だっつーの!」
ああもうどぉして分かんないかなぁ!?あたしが言うのもアレだけどこの人、人を見る眼とかも半端だしなぁ…。いいやもうとにかく済ませよう。
「まぁいいや次行こ次、次財務だから」
「……ちょっと待って。やっぱり私ちょっとお風呂行ってくるわ」
「へっ?さっき切れてないって言ったじゃん大丈夫だって、次先方だって待ってるし」
「いっ、いいのよちょっと汗かいたから!」
「えっマジで困るってー、もう話通してるしさぁ」
「い、いいから!行かせなさいよ!」
腕掴んで引っ張ってこうとしたら、結構マジな力で抵抗された。腕力は私の方があるからその気になったら引き摺ってけるけど…
あっ。
そうか。
そういうことねぇ。それならしょうがないよねぇ。
絶対に近い確信に、思わず口の端がつり上がってしまう。ウェヒヒヒヒ。
「あらぁ…それじゃぁ、しょうがないですよねぇ」
「な…何がよ」
「そりゃあ…ねえ?お汚しになった下着を換えたいのに引き摺ってくほど、あたしも鬼じゃありませんしぃーしぃーしぃー?」
ってカマ掛けたら、面白いくらい顔を真っ赤に変えてくれちゃった。掛詞まで使ってうーんあたしって文人。
「ううううううるさいわねっ、ほんのちょびっとだけよっ!す、直ぐに戻るからそこで待ってなさいっ!」
「先方には『そーゆー事情で』って謝っときますからごゆっくりぃ~♪」
「喋るんじゃないわよ、ばーかっ!」
とか少しからかって、ちょいとばかしは溜飲下がったんだけど。
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「って感じでー、最近ホント大変なんですよ白蓮さぁーん…ね、聞いてます?」
「う、うん、そぉだな…大変だな」
「でも笑っちゃいますよねぇー!いい年してお漏らしとか無いわー、そりゃ司馬懿さんみたいな人にいきなり短戟突きつけられたらびびりますけどぉー!」
「いや、そういうことだって…まあ、なんだ、あることも無いとも言えないんじゃないか?」
「えー!?じゃあ白蓮さんも漏らしちゃう?しょーって」
「いや私はしないけどな!?あ、いや、うん…たまたまその、無いだけかもしれないけどな、なあ杏さんちょっと飲み過ぎじゃないか、そろそろ…」
「いやでも最近の私の心労もちょっと思いやって下さいよぉ、もぉ白蓮さんと一刀さんが心の支えで…ところでさっきからえーと、馬超…さんでしたっけ、顔紅くて大人しいですけどお酒弱いんです?」
「あ、ああうん、翠はちょっとお酒弱くて、な?」
「そんな事言わないで飲みましょーよ!ね、馬超さんだって漏らしたりとかおかしいって思うでしょ!?つか、馬超さんくらい美人ならそもそも厠行かないよ!うん、こんな美人が行くもんか!一刀さんだって絶対そう思ってるよ、いやむしろ見てみたいぐらい思われてるかも!ねえ白蓮さん!?」
「杏さんマジでやめてやって!?帰ろう、もう帰ろう、な!?」
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その後の、とある新米メイドの奮闘記です。
既に皆様御覧頂いたかも知れませんが、またまた飯坂様がイラストを描いて下さっておりそれに触発されて(短いですが)一気に書き上げました。
hujisaiも紹介文で微力を添えさせて頂きまして、もし宜しければ飯坂様のイラストも御覧になって頂けると嬉しく存じます。
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