永遠の夏が終わり、貴音は遥に告白した。遥は貴音の想いを受け入れ、恋人になり、一年後に遥はプロポーズした。貴音は涙を流して喜び、二人は夫婦になった。
夫妻は話し合い、一年間は新婚気分を味わおうという事になった。一年はあっという間に経ち、子供も欲しかったので子作りを開始した。しかし、一年経っても子供は出来なかった。病院で検査して貰うと、遥の精子が少しだけ元気がないとの事だった。
薬を処方され、欠かさず飲んだ。しかし、それでも子供は出来なかった。一年を過ぎた頃、薬剤治療を続けながら人工受精も始めた。
「貴音、ごめんね。僕のせいで…」
遥はとても申し訳なさそうに言った。今にも貴音を想って別れを切り出しそうな気さえした。
「何を言ってんの!そんなの気にしないの。私、子供は欲しいけど出来ないならそれでも良いと思ってるの。だって、遥がいるじゃない」
遥がいるなら他に何も要らない。そう言うと、彼は嬉しそうに笑った。それからは二人共、特に遥は不妊治療に気を張らなくなった。
そしてある日、貴音は妊娠した事に気付いた。病院で診て貰ったら双子だと言われた。夫妻も仲間達も歓喜に湧いたがある日、病院からの電話が水を差した。
《申し訳ありません。非常に言い辛いのですが、看護師の一人が重大なミスを犯したようです》
そのミスとは、人工受精した精子が別の男性の精子だという事だった。
《産まれるまでどちらの子か分かりません。本当に申し訳ありませんでした》
謝罪の後に言われたのが、堕胎という選択肢だ。夫妻は話し合ったが、時間がかかる事なく出産を選んだ。大人の事情で幼い命を摘み取るような事を、したくなかったのだ。
そうして生まれた双子は、どちらも男児だった。
産まれた双子の遺伝子を調べると、兄は遥の子、弟は別の男性の子だと分かった。夫妻は種違いの双子などあるのかと驚いた。二人は医者から解り易く説明して貰った。
女性が多排卵で二つの卵子を排出している時に多数の男性の精子が入ると、稀に各々の卵子に二人の男性の精子が受精する事がある。これを『異父重複受精(いふちょうふくじゅせい)』と謂う。そしてソレ等の受精卵で身籠る事を『異父過受胎』、『異父過妊娠』と謂う。
「本当に申し訳ありません。なんとお詫びしてよいか…」
看護師や医者は、頭を下げ謝罪してくれた。夫妻はひとまず医療ミスを保留にし、双子の弟の遺伝上の父親に会う事を要求した。
彼は九ノ瀬夫妻よりも数年長く、不妊治療をしていた。夫は合川陽、妻は結愛(ゆめ)と名乗った。
九ノ瀬夫妻は、合川夫妻に双子を見せた。
「この子が、貴男の子です」
貴音が弟を抱いて言うと、合川夫妻は子を暫く見詰めた後、抱かせて欲しいと懇願した。勿論、拒絶する理由はない。
「…可愛い」
「ホント。目元が陽さんそっくり」
陽が頬を綻ばせ言い、結愛さんも頭を撫でた。
「名前は、何というのですか?」
陽の問いに九ノ瀬夫妻は視線を交わし合った後に遥が口を開いた。
「実は、付けてないんです」
弟は貴音の子であると同時に陽の子でもある。万が一、合川夫妻が育てる事になったなら九ノ瀬夫妻の名付けが無駄になってしまう。
そう話すと、合川夫妻は難しい顔になった。
「…確かに、正直この子は私が育てたいと思っております。妻が許してくれるならですが」
心配そうに妻の顔を見るように、結愛は優しく微笑んだ。
「私も、貴男の子を育てたい。でも…」
結愛は言葉を切り、今度は心配そうな面持ちで貴音を見る。
「あなた方は、それで良いのですか?貴音さんの子でしょう?」
結愛の心配そうな質問に、貴音は複雑そうな表情になった。
「確かに、私はその子が可愛いです。傍にいたいです。でも、あなた方の事を考えるとこのまま知らん顔も出来なかったんです」
それは、遥も同じだった。妊娠中から二人で考えて話し合って、そうして出した結論が合川夫妻が望めば親権を譲るというモノだった。
これは簡単な事柄ではない。話し合いは数日に及んだ。そして、解決案を出したのは結愛だった。
「近くに引っ越しましょう」
互いの家を行き来出来るように、いつでも会えるようにもっと近くに住むのだ。その提案に、他の三人も同意した。四人で一緒にちょうど良い家を探した。熟考の末、徒歩でも通える家をなんとか見付けた。
九ノ瀬夫妻が仲間達に子の父親や引っ越しの事を話すと、彼等は大変驚いた。
双子の兄は奏太(かなた)、双子の弟は海斗(かいと)と名付けた。互いの家族は二人が成長する迄は異父兄弟である事は知らせずに、仲良しのご近所として暮らした。
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不妊治療してたら特殊な双子を身籠った貴音の話。