No.766056

恋姫†無双~終端の果てに紡ぐもの~


どうも~
『明日』から頑張るって言っちゃいましたし?
有言実行だぜ☆
難産でした・・・

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2015-03-21 19:00:01 投稿 / 全31ページ    総閲覧数:1882   閲覧ユーザー数:1645

 私が『そこ』に着いたとき、『そこ』はもう、既にどうしようもないほど絶望的に、地獄だった。

 

 泰山。

 

 大陸を平定した天の御使い、北郷一刀がこの世界そのものの命運を賭けて戦った戦場。

 

 魏を降し、呉を併合し、大陸を平定した北郷一刀が己の投入できる全兵力を投入して攻め入った『たった一つの山』。

 

 彼の率いた北郷十字軍の実質的なほぼ総戦力、動員兵数65万。

 

 治安維持のためと残されていながら、途中参戦した魏と呉のほぼ総戦力、魏の動員兵数40万、呉の動員兵数35万。

 

 実質的な大陸の総戦力。総数140万。大陸のほぼ全戦力が集結していた。

 

 『ただの山』の攻略戦にしては、あまりにも過剰すぎる戦力。

 

 通常、そんな戦力で挑まれれば降伏するか逃げ出すかしかない。

 

 戦闘になったら、『山』程度などあっさり平地になってしまう。

 

 私の目の前にはそんな光景が広がっているはずだった。

 

 では…今私の目の前に広がっている、この光景は一体…なんだというのだろうか?

 

 死だ。

 

 死が蔓延っている。

 

 泰山は未だその威容を保ちながら、その山肌と周囲にはおびただしいほどの『死』が蔓延っている。

 

 

 足の踏み場がないほどに骸が散乱し、積み重なる骸そのものが大地となり、積み上げられた骸の山が景色を成している。

 

 もはや浄化のされようもないほど濃厚な血の川が流れ、骸自身が垣根となった血の湖が広がり、ここから最も近い川から下流を赤黒く飲み込み始めいる。

 

 …もうこの下流で人は生活できないだろう。

 

 昼間だというのに暗く重い天候ですら気にならない。こんな地獄でも、私は行かねばならない。

 

 私は絶対にこの目でこの結末を見なければいけないのだから。

 

 馬を進ませようとした途端、異変に気付いた。

 

 私が、出発前の北郷様から頂いた馬、的盧は北郷様と共に数多の戦場を駆けた名馬である。呉との戦いで負傷して戦線を離脱したが、それでも名馬であるはずの的盧が…この先に進むことを拒絶している。

 

 彼の目が言っている。この先に行きたくないと。この先には行ってはいけないと。

 

 …ここからは徒歩で行くしかなさそうだ。

 

 グチャッ…ピチャッ…グニュッ…グキッ…バキッ…グシャッ…

 

 嫌な音を嫌に響かせ、嫌な感触を嫌になるほど堪能しつつ、私はなんとか足を進める。

 

 誰かの死体の上を歩くのに抵抗がないわけではない。数日前まで一緒に笑い合っていた同僚の死体も足元に転がっているのだ。…酷く胸が痛い。

 

 だが、それでも進まなくてはいけない。

 

 途中に見つけた旗を横目に見ながら私は進む。

 

 

 『蜀』、『魏』、『呉』…大陸に名高い国家の旗。

 

 今のところ、牙門旗や幹部級の武将や軍師の旗はない。

 

 …死体の下に埋まっている可能性もあるが、それは考慮しないでおこう。

 

 歩くのが辛い。肉体的にも精神的にも。

 

 足を上げるのも苦痛だ。

 

 錯覚だとわかっていても、彼らの手が私の足をつかんで縋り付いているようだ。

 

 足を踏みしめるのが苦痛だ。

 

 錯覚だとわかっているのに、彼らの末期の叫びが聞こえてくるようだ。

 

 息をするのが苦痛だ。

 

 錯覚だと信じていても、我らの魂が私の魂を侵食しているようだ

 

 目を開けているのが苦痛だ。

 

 錯覚だと思いたかったのに、大陸軍の圧倒的敗北が現実のものとして突きつけられる。

 

 足が滑る。

 

 転んだ私は彼らの血を全身に浴びた。誰もいない戦場で無駄な迷彩効果が出来上がった。

 

 ついに肉体的疲労が倫理観を越え、近くに突き刺さっていた槍を手に取った。杖代わりにさせていただこう。そして私は、気付かない方が良かったモノに気付いてしまった。

 

 槍の先端、穂先の突き刺さっているモノ。綺麗なすみれ色の艶やかだったソレには見覚えがあった。忘れられるわけがない。ソレは私にとって最も大切なモノだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 徐晃、私のたった一人の親友。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は崩れ落ちた。

 

 頭頂部を貫いた槍を強引に、しかしなるべく優しく素早く引き抜いて、首だけになった物言わぬ親友の頭をかき抱き、私は年甲斐もなく喉が枯れ果てるほど泣き叫んだ。

 

 この時私が何を思い、何を叫んだのか正直覚えていない。そもそもそれは言葉だったのだろうか?

 

 ここまでなんとか耐えてきた私の心は音を立ててひび割れ、どうしようもないほどに深い傷を作った。

 

 どれだけそうしていたのかわからない。

 

 いつの間にか、ギリギリの均衡を保っていた天候は崩れ、静かな雨を降らせていた。

 

 私は懐から一枚の布のようなものを取り出した。

 

 戦場に立つものの嗜みの一つだ。敵将の首級を入れるためのものである。それで親友を丁寧に包む。

 

 両手でしっかりと親友を抱きしめながら、私は再び歩き出す。

 

 …先程までと違って、今足を進める原動力は使命感から無気力と惰性という、実に空虚なものになった。

 

 ようやく山の入り口に辿り着いた。

 

 そこには誰にも知られていなかった砦があった。

 

 誰がいつどのような目的で造ったものかもわからないが、既に砦としての機能は果たせないだろう。

 

 門はもちろんだが、城壁も何か所も砕かれ、門よりむしろそちらの方が通りやすいほどだ。

 

 

 砦の中ももちろん地獄だ。

 

 だが少しだけ不自然だった。

 

 何カ所か大地が窪んでいる。

 

 ここに来るまでにももしかしたらあったのかもしれないが、あったとしても死体で埋まってしまっていただろう。

 

 窪みに落ちないように注意しながら出口を探す。

 

 入口の真裏が出口であるという保証もない。

 

 少なくとも私なら、そこに伏兵か罠を配置する。

 

 仮に罠なら、まだ発動していないかもしれない。

 

 私が罠にかかっても助けは来ない。慎重に進まなくては。

 

 あたりを警戒しながら進んでいるとき、私は偶然に、本当に偶然に、数多ある窪みの一つの、その中心にあった『それ』を見つけた。

 

 雨に濡れながらも、拭えぬ血がこびりつき、その独特の形状から見間違えることはまずない『それ』は真ん中から大きくひび割れ、辛うじて原形を保っている状態だった。

 

 先端から滴り落ちる滴が、涙のように見えたのは、本当にただの錯覚なのだろうか?

 

 『それ』を戦場で使う人間を私は一人しか知らない。

 

 『それ』は簡単に使いこなせるものなどではないからだ。

 

 『それ』がここにある意味は分かっていたが、いよいよもって形を持って眼前に突き付けられ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岩打武反魔(いわだむはんま)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魏王、曹孟徳の親衛隊長を任せられている、曹孟徳の懐刀、虎痴の許褚のみが扱える巨大な鉄球である。

 

 既に岩打武反魔は繋がれていた強固な鎖がなくなり、攻撃的だった外形はもの悲しさすら感じる。

 

 あの無垢な笑顔が永遠に失われてしまったことに、私は先程までとは違った意味で絶望した。

 

 私はしばし立ち止まって、黙祷を捧げた。

 

 他の失われた命に思うところがなかったかと言われれば、答えは『否』だが、それでも私にとって、彼女の損失は大きなものに感じられた。

 

 いくら彼女でも、この状況を素手で戦い抜けるとは考えられない。

 

 私は再び歩き出した。

 

 その足取りは、先程までに比べてずっと重かった。

 

 砦の出口は予想よりもずっと早く見つかった。

 

 というのも、死体の量がそこだけ多かったので目印になったというだけだ。

 

 その向こうに舗装された階段があったことには驚いたが、砦を作れるのだからこの程度はむしろ当然なのだろう。

 

 しかしこの時私は気が付かなかった。

 

 疲れていたとしか言いようがない。

 

 もしくは、異常な状況に慣れて、正常な判断力が失われていたのだろう。そうとしか考えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここだけは階段が見える(・・・・・・)

 

 地面は死体で埋め尽くされていなかったのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく私は階段を上っていた。

 

 途中何度も死体に道を塞がれながらも、時には死体を押しのけ、時には死体を乗り越え、時には岩肌に摑まって回り道をした。

 

 そして私は遂に見つけてしまった。

 

 いずれ見つけてしまうかもしれないとは思っていたが、さすがにこれは重すぎた。

 

 思わず一歩後ずさって、真っ赤な足元から冷たい嫌な水音がした。

 

 そこにあったのは『孫』、『甘』、『曹』、そして2つの『夏候』の旗だった。

 

 血に濡れ、ズタボロになったその旗は、必死に戦い抜いた、その英雄としての生き様を示しているかのようだった。

 

 そして私はここにきて、ようやく違和感に気付いたのだ。

 

 それは、見事にへし折れた『南海覇王』、変形し切った『鈴音』、岩に突き刺さった『絶』、粉々機砕け散った『七星餓狼』、槍の刺さった『餓狼爪』を見るまで気付くことができなかった。

 

 今まで気付かなかったのは、状況に圧されていたのだろうが、それ以前に、『その事実』に気付くには『それ』を発見していることが前提になる。

 

 それが何を意味するのかは正直わからないが、私にはそれが何か重大な意味を持っているものだと思った。

 

 なぜかはわからないが、そう思ってしまったのだ。

 

 この暗い絶望の中で少しでも何かしらの希望に縋りたかっただけかもしれない。

 

 しかし、『この事実』を前に、『これ』は一体、どれほどの意味があるのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死体がない(・・・・・)

 

誰の死体もない(・・・・・・・)

 

王も、将軍も、どころか敵兵の死体すら残っていない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あり得るわけがない。

 

 でもどれだけ見渡しても、見つかる死体は味方の兵のみ。

 

 思い返してみても、味方の兵の死体はあったが、敵兵の死体はどこにもなかった。

 

 これはいったい、何を意味する?

 

 彼らは途中から素手で、もしくは敵の武器を奪って戦いながら進んでいた?いやしかし旗まで捨てて、戦い抜いたとでも言うのだろうか?

 

 そんな可能性は絶対にない。牙門旗にはそれだけの重さがある。

 

 そもそも、そのか細い可能性でも、敵兵がいないことの説明にはならない。

 

 これはいったい、どういうことだろう?

 

 不気味だ。

 

 北郷様たちは、こんなにも不気味な、得体も知れないものに立ち向かったというのか。

 

 大陸の命運を賭けた戦い。

 

 北郷様は私にだけ教えてくれた。この戦いの本当の意味。

 

 賭けられているのは大陸の命運ではない。

 

 賭けられているのは世界の命運(・・・・・)なのだと。

 

 敗北はすなわち、この世界に生きる、人を始めとしたすべての生命の終焉、未来の閉塞を意味すると。

 

 だから何があっても負けるわけにはいかないのだと。

 

 

 あの時の私には正直意味がわからなかった。

 

 でも今なら僅かながらに、その片鱗が垣間見える。

 

 本当にそれだけのことをやりかねない存在と戦っていたのだと、否が応にも理解させられる。

 

 私は泰山の頂を見上げた。

 

 重い空模様、微かな雲と、冷たい雨で霞んでいても、私の目には、確かに頂上が見え始めていた。

 

 私は再び歩き出した。

 

 『そこ』にすべての答えがある。

 

 私はそれを、見届けなくてはならない。

 

 絶対に。

 

 少しだけこの天気に感謝した。

 

 ずっと足の裏が、血でベタベタ張り付いていた。それがとても不快で、あまりに不快で仕方なかった。

 

 それが雨で流されて、今では足元が少々ぬかるんでいる程度で、不快感は格段に軽減された。

 

 その分疲労感が蓄積されるものの、まだマシだと思った。

 

 途中から味方の兵の死体が見えなくなった。

 

 おそらく彼らは、ここまで辿り着けなかったのだろう。

 

 

 足元に未だにある、おびただしい血だまりを作った本人たちは、おそらくこの先まで到達したのだろう。

 

 その可能性が、私の心を少しだけ救ってくれた気がした。

 

 (この戦いの結末、一緒に見に行こう?)

 

 腕の中の、物言わぬ親友に私は心の中で語りかけた。

 

 (私の首なんて重くて足手まといでしょ?そんなの置いてってくれてよ…疲れちゃうでしょ?私軍人なんだから…野に死体晒すくらい、なんでもないよ?いつも頭柔らかいのに、たまにそういうトコ固いから…それ、短所だよ…よくないよ?)

 

 多分彼女はこう言うだろう。むしろ、いつもの言動から絶対にこう言うのは目に見えていた。

 

 だけどそれに対して、私は確実にこう答える。

 

 (そんなの私以外に言ってほしい。私には無理な相談。親友を置いて行くことができると本気で思ってる?怒るよ?)

 

 私には、親友の死体が野に晒されるなんて耐えられない。

 

 そんなちょっとした親友との擬似的な会話に、私は少しだけ元気と、勇気をもらった。

 

 今は少しでも勇気が欲しい。

 

 ほんの僅かな勇気が私の一歩を手助けしてくれる。

 

 たとえそれが、空想から来るものだとしても、今の私には必要なものだ。

 

 私は…目の前に現れた、謎の神殿の扉を開くために、今だけはほんの僅かでも勇気が欲しかった。

 

 

 ギィ…

 

 少し古い扉らしく、少々甲高い音を立てながらなんとか扉を開いた。

 

 静かだった。

 

 まるでそこに一度も人がいなかったかのように、冷たい停滞した空気があった。

 

 私はなんとなく、音を立てないように気を付けて進んでいった。

 

 おかしなことに、ここは死体どころか血だまりもなく、誰かがいた痕跡も見いだせなかった。

 

 暗がりの中を私はよく目を凝らして、ようやく私はその痕跡を見つけた。

 

 足跡だ。

 

 真っ赤だった血が、黒く固まって足跡を形成していた。

 

 足跡は、合計で7個。

 

 つまりここを、7人が通ったことを意味する。

 

 140万人もいて、辿り着いたのはたったの7人だった。その事実は絶望するには十分だったが、今はその時ではない。

 

 私は足跡の中に手がかりを見出した。この大陸に二つとない特殊な足跡。

 

 草鞋ではできないそれの名前は、かつて教えてもらった。

 

 靴。

 

 つまり、ここを天の御使い、北郷一刀様は通ったのだ。

 

 

 しばらく進むと、玉座のような場所に出た。

 

 そこには生々しい戦闘の痕跡があった。

 

 柱という柱には傷があり、中には力づくで強引にへし折ったと思われるものまである。

 

 無意識に一歩下がりかけて、足が何かにぶつかった。

 

 『それ』に気付いたとき、私はなぜ気付いてしまったのかと深く後悔した。

 

 旗だ。

 

 しかも先程までとは比較にならない重さを持った大陸最高の旗。

 

 

 

 

 

 『関』、『張』、『趙』、『馬』、『黄』、『諸葛』、そして『十』の牙門旗。

 

 

 

 

 

 私は息ができなくなった。

 

 いや、正確には逆だ。

 

 過呼吸状態になっている。

 

 目を逸らしたい。

 

 今すぐ叫んで気が狂ってしまえたら、それはどれだけ楽なことだろう。

 

 

 それはできない。

 

 私は見届ける義務がある。

 

 それがどれだけ重くても、苦しくても、私はそれを背負って、進んで行かなくてはいけないのだ。

 

 暗がりで気が付かなかったが、そこかしこに彼女らの武器の破片があった。

 

 あの破片は誰の武器だろう?

 

 もはや誰のものかもわからないほどに、原型を失っている。

 

 ここに散っている血は、一体誰のものだろう?

 

 間違いなく、私の知っている彼女らの誰かのものだろう。

 

 そして、やはり誰の死体もなかった。

 

 恐怖感すら呼び起こしかねないその事実を前に、私は歯を食いしばって足を進めた。

 

 もちろん今にも逃げ出したい。

 

 それでも目を逸らさないのは、それが私の使命だからだ。

 

 誰にも命じられてはいない。強いて言えば、後事を託された私に与えられた天命だ。

 

 天の御使いが命じたわけでもない天命。そんなものに従う必要など欠片も見いだせはしないが、それでもこれは私が自分で選んだ道だ。

 

 そして、何かが供えてあったと思われる少し高いそこに、『それ』はあった。

 

 遂に見つけてしまったそれは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平原北国白勇(へいげんきたのくにはくゆう)

 

天の御使い、北郷一刀様の愛刀。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は遂に膝をついた。

 

 真っ直ぐ地に突き刺さったそれは、闇の中でなおどこか輝いて見えた。

 

 血に濡れ、酷いほど刃こぼれしたその刀身は、何も知らぬままこの乱世に落とされるという理不尽の中でなお、真っ直ぐ平和を目指して戦い抜いた北郷一刀という一人の人間の生き様を表しているようだった。

 

 それでも私には何の慰めにもならない。

 

 北郷様は逝ってしまわれたのだ。

 

 北郷様が身罷られた。

 

 その事実は重すぎる。

 

 私は遂に挫折した。

 

 もう立ち上がれない。

 

 もう誰もいない。

 

 苦しい。

 

 悲しい。

 

 死にたい。

 

 楽になりたい。

 

 逃げ出したい。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴロゴロゴロ…ピシャァァァァァ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の轟音に咄嗟に身を固くする。

 

 私は慌てて辺りを見回した。

 

 そしてようやく思い出した。

 

 外は雨が降っている。

 

 雷くらい鳴るに決まっている。

 

 さっきまでとは全く違う意味で脱力した。

 

 そしてなぜだか、それがここで散っていった多くの英霊からの叱咤のように聞こえたのだ。

 

 思わず笑みを浮かべる。

 

 そうだ、私はまだ生きている。

 

 生きているなら生き続けなくてはいけない。

 

 たとえどれだけ過酷で、厳しく、孤独でも、生きなければいけない。

 

 私は突き刺さった平原北国白勇に手をかけた。

 

 どこまでできるかわからない。

 

 でも、できるところまでやっていこう。

 

 その思いを胸に、私はその白き刃を引き抜いた。

 

 先程までとも、今まで生きてきた中の、どの瞬間とも違う、力強く、しっかりとした足取りで、私はこの戦場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大陸の都、洛陽に戻ってからは大変だった。

 

 大陸の王、北郷一刀の戦死。

 

 絶えない反乱。

 

 主要な将も文官もいなくなった国を支えるのは、当然だが非常に大変だ。

 

 しかも、乱世の英雄たちが軒並み逝ってしまったのだ。

 

 当然民は不安に苦しんでいた。

 

 そして民の不安というのは非常に厄介で、実体を持っていないから、対処しようにも打つ手は多くない。

 

 死者を生き返らせる方法があるわけでもないのだ。

 

 もっとも、彼らが生き返ることを望むような人間かと問われれば、それは誰もが首を横に振ることだろう。

 

 彼らの人柄は、民によく知られている。

 

 しかし、それで納得できないのが人情というものなのだろう。

 

 現に、「御使い様がいらっしゃった頃は…」などという声は国中で聞こえている。

 

 そんなことは私自身が一番よく知っている。それは行動で何とかするしかない。

 

 そんな中、洛陽にある報せが届いた。

 

 それはある意味では当然の判断だと言える。

 

 だがそれは、もうほんの少し待ってほしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『五胡襲来せり、総数100万、占領地では虐殺が行われている模様』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は立ち上がった。

 

 もう迷わない。

 

 あの戦場に比べれば、なんと規模の小さいことか。

 

 こんなものに腰を抜かしていては、彼らに笑われてしまう。

 

 私は国中からかき集めた戦力で迎え撃たんとした。

 

 もっとも、国中で反乱の恐れがあったため、連れて来れる兵力は雀の涙にすら届きはしない。

 

 総兵力20万。

 

 それが現状、こちらに割ける最大の兵力であり、誰の目に見ても五胡100万の兵力の前にあまりに無力な戦力だった。

 

 だがこれでいい。これだけあれば十分だ。

 

 私は、これだけいれば戦える。

 

 五胡の本隊と事を構えることになる地点に、運よく砦があった。

 

 私はそこで、城壁に立ち、眼下の兵達をゆっくり観察した。

 

 皆顔色が悪い。一人としてまともな顔をしていない。

 

 皆これが負け戦だと思っているのだろう。

 

 なら見せてやろう、守る戦いというものを。

 

 私は、腰の刀を抜き、高らかに兵に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えるか戦士達!この刀が!これは理不尽な地獄の中で、なおも平和を祈った一人の英雄の刀だ!英雄の名は北郷一刀!天の御使いその人だ!!」

 

 掲げた刀、鍛え直した平原北国白勇は太陽の光に眩しく輝いた。彼の魂を示すように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御使いは天に帰った!しかしそれは、我々を見捨ててのことではない!御使いは最後に、大陸の戦乱を裏で操っていた者達と戦い、打倒し、そして役目を終えたのだ!!」

 

 彼らの背中を思い出す。今なら少しだけわかる。彼らはあの戦場でも一歩も引かなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろんその被害は大きかった!今なお癒え難い傷を残している!しかし!今我々が死の恐怖に怯えずに済んでいたのは、彼らが命がけで築いた平和のおかげだ!!」

 

 今私は、『生』を、『平和』を深く感じている。眼下の彼らも、感じているに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、我々の目の前に、それを壊さんとする者達がいる!奴らは占領した土地の人間を虐殺する蛮族である!!」

 

 私は、私の今感じている感情の炎で、彼らの感情にとても大きな炎を灯す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴らにこれ以上勝手を許すな!!立ち上がれ!!我がお前達を勝利に導こう!!」

 

 私は断言する。彼らの勝利を。この程度の戦場で敗北しては、いくらなんでも恥ずかしすぎる。今でもはっきり思い出せる。北郷様の言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この戦いで俺が死ぬようなことになったら、そうでなくても俺が天に帰るようなことになるかもしれない…。だから君に、どうしても伝えておきたいことがある。』

 

 内心私は、期待していたんですよ北郷様?こんな切り出され方したら、誰だって期待しても仕方ないとは思いませんか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もちろん強制はしない。でも今から言うことを聞いて、それで…よく考えておいてほしいんだ。君ならできると、俺は信じてるからさ。』

 

 期待させないでください。でもこの時あなたは、もっと遠くを見ていたのですね…。あなたの目には、一体何が見えていたのですか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺が死んだらその時は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君が次の皇帝になれ。(れい)…いや、晋の宣帝、司馬懿仲達!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が名は司馬懿、司馬懿仲達!天の御使いに大陸を託されし、晋の宣帝なり!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!!

 

 男たちの野太い声が上がる。

 

 これでいい。

 

 これで最低限の下地は出来上がった。

 

 あとは、この策が成功するのを祈るだけ。

 

 失敗させない。

 

 私は多分、この時の為に声を掛けられていたのだろうから。

 

 あの決戦の前、私は北郷様に言われた言葉を、私は忘れない。

 

「君ならできると、俺は信じてるからさ。」

 

 私は、あなたを信じます。あなたの信じる私を信じます。

 

 なら私がすることは一つしかない。

 

 どうか見ていてください北郷様。

 

 私は必ず、あなたの期待に応えてみせます。

 

 私は必ず、あなたの守った世界で、あなたの愛した大陸を守ってみせます。

 

 晋の宣帝として、私は戦います。

 

 英霊の皆様に恥じない戦いをしてみせます。

 

 どうか北郷様、私に…私達に、天のご加護を―――――!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追記

 

 司馬懿仲達、大陸防衛戦を勝利に導くも、五丈原にて戦死。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どもども~心は永遠の中学二年生です。

 

どうでしたか?

 

暗い?それは申し訳ないっす!!!!

 

無印エンド後の大陸を描いてみました!

 

そんな時期を書いてる人見かけませんでしたから…独自に解釈して勝手な設定盛りだくさんですね!

 

はい、『私』は司馬懿仲達でした!

 

その後の大陸の歴史については突っ込まないでください・・・

 

それはもう、歴史の創造だから・・・

 

天元突破なネタを思わず入れてしまいました・・・

 

ではではみなさん、そのうちに新しい投稿するかもしれません!

 

本当は長編にチャレンジしたいんですが・・・自信ない

 

もしもの時は、お楽しみに!

 

していてほしいです・・・

 


 
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