No.765049

温泉泉士ゲンセンジャー 第一話(2)

某おんせん県で悪?の組織と戦う戦隊ヒーロー物第一話の2です。

2015-03-17 14:50:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:406   閲覧ユーザー数:406

第一話(2)

 

 

朝のHRが終わり教室がざわめき始める。教卓から担任が手招きするので寄っていくと明日提出する必要のある書類の件ともうひとつ校内見学の話をされた。

「出来れば今日の放課後にでも、校内を誰かに案内して貰おう、そうだな、おい委員長、案内役を頼めるか?」

担任の目が俺の背後を見る。なんとなくおさげに丸眼鏡をかけた可愛い田舎の委員長という風な女子を想像して振り向けば、そこにいたのは眼鏡は眼鏡でも無愛想で可愛くない男子だった。

「ふう、仕方ありませんね」

「もう聞いているかもしれんが高橋がうちのクラスの委員長だ。数少ない男子同士いろいろ教えてもらえ」

「はいはーい、ボクも一緒に行くよ」

高橋は嫌そうに溜息をつくが、こっちだってあんまり嬉しくはない。だが、高橋の横で手をあげる小野の姿にちょっと気分がもちなおした。

「では、今日の放課後に案内しよう。迷惑をかけないように一度で覚えてくれよ」

……なんか、こいつさっきからちくちくと刺があるよな。あ、そうださっきと言えば。

「おい、高橋君、四人目って一体……」

俺が尋ねようとしたちょうどその時、一限目の現国の教師が入ってきた。高橋はさっさと席に向かってしまったので疑問を解くことは出来なかった。

 

そしてやってきた放課後。

高橋と小野、そして後藤まで俺の案内を買って出てきて四人で校内を見回ることとなった。とは言っても田舎の小さい学校のことだ。すぐさま校内見学は済んでしまう。

さてこれからどうするか。本来ならばジュースか何か奢ってお礼をすべきなのかもしれないが、小野と後藤はともかく、高橋にはそんなことをしても迷惑がられそうな気がする。

 

教室に戻って、置いていた荷物をロッカーから取り出しつつ悩んでいると、背後で他の三人がなにやらひそひそと話し合いを始めた。

「――なに?」

ロッカーのドアを閉めて振り向けば、そこには既に帰宅準備を終えた小野と後藤がにんまりと笑って俺を見ていた。何となく気圧されて一歩下がればロッカーの戸に背中がぶつかる。高橋はそんな二人の横でまた眼鏡をキラッとさせながら俺を怪しい者を見る目で見ていた。

「ね」

小野が腰の後ろで手を組んでぴょんと跳ねるようにして俺に近づいた。

「いい所にいかない?」

「イ、イイトコロ??」

「そ、すごーく気持ちいいよ?」

俺より低い位置から上目使いで見上げてくる小野の大きな目にどきどきした。しかも薄い唇が出す声は息まじりで妙に色っぽい。イイトコロって気持ちいいってなんだ。

「ね?一緒に気持ちよくなろう?」

小野がそっと腕に手を置いてくる。やめろ、なんか胸がどきどきする。

「なあ」

いきなり右から伸びてきた腕に肩を抱かれた。後藤だった。

「行こうぜ?ほんと、全身熱くなるからさあ」

そのまま引き寄せて耳元で囁いてきた。やめろ、なんか全身の毛穴が立ち上がる。

軽く混乱して高橋の方を向けば、何故か顔を赤くしてそっぽ向いた。

「お、お前がどうしても行きたいと言うなら連れて行ってあげてもいいが?」

なんで照れてるんだ。やめろ、なんか背筋がぞわぞわする。

 

「さあさあ」

「さあさあさあ」

そうしているうちに両腕をそれぞれ小野と後藤に捕らえられて引きずられてしまった。

「ちょっと待て、気持ちよくて全身熱くなってしまういい所ってどこだよ!よ、4人なんて人数で行っていいのかよ!」

「もっちろん!人数多い方が楽しいよ!」

「あ、もちろん1人でゆっくりってのもいいけどな」

「俺は人数よりも方法が重要だと思っている」

どうなっちまうんだ、俺。

都会でもそんなエロい、いやいや、危ない目に合ったことがないのに、まさかこんな温泉しかないような田舎で?!し、しかも最初から複数ってどうなんだ!上級者すぎんだろ!

 

「さ、ついたよー」

「いるもんあったらかしてやるから遠慮なく言えよ」

「俺は先にちょっとやることが……」

「……へ?」

ふわ、とゆで卵の匂いがした。おんせん県に引っ越してきた時、まず最初に都会との違いを感じさせられた独特の匂いが。

目の前に現れた古い民家風の建物にはこれまた古いかすれた筆文字の看板がかけられていた。『ひめのゆ公共温泉』となんとか読める。民家の背後には竹で編まれた柵が見えた。そこから沸き上がっている湯気こそがこのゆで卵臭の源だ。

「……温泉かよ!」

「……そうだよ?」

「だって、気持ちよくて全身熱くなるいいところって!」

「だから、温泉のことだろ?それ?」

小野と後藤がきょとんとした顔でつっこむ俺を見ている。じと、と高橋がこちらを睨んだ。

「……やはり、破廉恥(はれんち)だな貴様」

だから、ハレンチってなんだよ。あと眼鏡が湯気で曇ってんぞ。

 

ああそうだよ、俺が早とちりしたんだよ!シティボーイだからな!こんな温泉しかないところで大人な色っぽい展開を妄想した俺が汚れてんだよ!てか、本当に温泉しかないんだなここは!

「さ、早く入ろうぜ」

頭を抱える俺に構わず、ぐいと後藤が腕を引く。

「え、でも、俺なんも準備してないし」

「大丈夫、タオルとかシャンプーなら俺が貸してやるし」

後藤が手にしていたスポーツバッグから小さなプラスチックの籠を取り出した。中にはシャンプーだの石鹸だのヘチマ(……)だのが入っている。

「僕も持ってるよー」

いつのまにか小野の手にも同じような風呂セットの入った籠がある。

「お前ら用意がいいな……」

「おんせん県の者ならば、この風呂セットは常に用意してあるものだ」

いや、そこでなんでどや顔なんだ。高橋よ。

 

俺の腕を引いたまま後藤が戸をからからと開けた。中には短い廊下が横たわっていて、真ん中に俺の腰辺りぐらいの高さの台が設置されている。台の上にはおそらくは神様なのだろう小さな石像。台の左右にはまたそれぞれ戸があり、右に男左に女とハゲかけたペンキ文字で書かれていた。

へえ、と思わず感心したような声を出してしまった。

「俺、温泉に入るのって初めてだ……」

途端に、激しい勢いで三人の顔が俺へと向き直った。

そんな、と小野が口許に手をあて小刻みに震えた。

「温泉に入ったことがないなんてよく今まで無事だったね?!」

――何が?!

言われた科白の意味がわからず他の二人へと視線を動かせば、これまた見開いた目で両手の拳を震わせている高橋がいた。

「哀れな……」

――誰が?!

後藤が腕から離した手でガシッと俺の肩を掴んだ。

「今までつらかったな……。しかし、このおんせん県に来たからにはもう大丈夫だ!」

――つらくねえし?!

 

なんなんだ、温泉に入ったことがないというだけでこの反応は。

しかたないだろう。近所にこんな風に温泉なんて沸いてなかったし、企業戦士だった親父が忙しくて温泉旅行もしたことがないんだから。

「おんせん県ではこういう公共浴場は、地元民なら格安で入れる場合が多い。ちなみに料金はここに入れるんだ」

後藤が石像とともに台に乗せられている小さな募金箱のようなものを指さした。

「ここの湯は料金というよりは、温泉を湧かせてくれたこの姫神への賽銭って形になっている。だから決まった額っていうのはない。その時、持っている金に応じてでいい」

後藤が財布を取り出した。小銭を取りだしチャリンチャリンと入れていく。

「大神の分は祝★初めての温泉★てことで今日は俺が奢るぜ」

キラッと歯を光らせる後藤の顔はちょっと濃いがなかなかのイケメンだ。……が、いかんせん取り出した財布がマジックテープなのが気になった。

「あ、ありがとう後藤君」

礼を言えば、指を目の前で振られる。

「葵でいいって。俺も謙二郎って呼ぶから」

「ボクも!双葉って呼んでよ!」

小野、いや双葉もチャリンと小銭を入れている。

女子を名前呼びするのって何か照れる。しかもこんな可愛い子をとにやけていたら、高橋がこちらを見た。なんでか、頬が赤い。

「ど、どーしても呼びたいっていうんなら……っ」

「いや、それほど呼びたくないから」

手を振って見せれば、なぜか目を見開き腕で口許を隠しぷるぷると震える。そうかと思えば、いきなりガラッと乱暴に男と書かれた戸を開けてなかに入っていってしまった。

 

「あーあ、求馬はツンデレだからなあ」

ははは、と笑う後藤、いや葵も後を追った。俺もそれに続く。

足を踏み入れたそこは床が板張りの脱衣所だった。なんというか全体的にレトロだ。昭和三十年代を舞台にしたドラマで見たような体重計とか脱衣籠とかが並んでいる。先に入った高橋はなぜか隅っこで携帯をいじっていた。座り込んでこちらに向けている背はまるまっている。なんだかいじけているように見えるが、スマホを打つ指の動きは早い。

 

「……高橋、何してるんだ?」

気になって尋ねてみれば、座ったままこちらを肩越しに振り向く。なんでか、ちょっと目が潤んでいる。

「ブログの更新だ。温泉に入った時は必ず書くようにしている」

「お前ブログとかやってんの?!」

「求馬のシャカシャカブログはシャカシャカなかなか人気なんだぞ」

そうなのかと頷きつつも、言葉の合間に混じる擬音が気になり横を向けば、口に歯ブラシをつっこんでいる葵の顔があった。いや、口から泡こぼしつつサムズアップするなよ。

「なんで、いきなり歯みがきしてんの……?」

「ん?風呂に入る時一緒に磨いとけばあとは寝るだけになるから楽だろう?」

葵は既に腰タオル一枚の姿になっていた。鍛えられた体なのだが、左手を腰にあてがに股立ちで歯磨きしている姿が……ぶっちゃけ、非常に親父臭い。

「もう、葵ってば親父臭いんだから」

軽やかな笑いが背後から聞こえた。ああ、やっぱりそう思うよな。

「だよなあ……あ、ああああああああ?!」

「どうしたの?謙二郎」

「な、なんでいるんだよ、双葉!」

 

俺は驚きのあまり指さしつつ、後じさった。なんで、男湯に来てんだよ!そこには双葉が可愛らしく小首を傾げて立っていたのである。


 
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