(オレは二度も詩乃を守れなかった)
一つ目は当然の事ながら平行世界上に於ける同一人物である朝田詩乃と同じ時期に起こった郵便局強盗。
もう一つは、彼女の持つドラグハート・ウェポンの力に目を付けた屑な上級悪魔が彼女を無理矢理眷属にしようとした時の一件だ。
前者では彼女が犯人を殺してしまい人殺しと呼ばれるようになった事、それによっていじめの対象になってしまった事だ。……まあ、いじめの一件はいじめていた生徒全員を切れた四季が男女問わず全員大怪我させた事で、四季による一種の恐怖政治によって鎮圧してきたが……。
それが原因で四季は不良と呼ばれるようになった訳だが、当の本人は対して気にしては居ない。……まあ、それが原因で中学時代には不良グループを幾つも潰したと言う過去が有るが。
だが、人は異端を嫌う。人よりも優れているだけで何処か距離を感じるように……強力な神器等と言う代物を宿していて、それを発現させてしまったら……
有る意味では、原典世界での中心人物となっていた『兵藤一誠』は幸運と言えるだろう。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と言う強力な神器を宿しながらも、少なくとも異端として他者から拒絶される事はなかったのだから。
まあ、発現させてしまった以上は普通の人間としての日々は送れないだろうから、悪魔に転生したのも選べる選択肢の一つだろう。
四季の場合は早い段階に目覚めながらも、アウトレイジの仲間達や師匠となったアウトレイジのクリーチャー達のお蔭で力のコントロールも十分に出来た。
だが、誰も導く者も居らず、上級悪魔から逃れるために神滅具(ロンギヌス)を超えるゴッドスレイヤーとなりうる力を持ったドラグハート・ウェポンを発現させ、その強大な力を制御できずに使ってしまい、それが原因で母から『化け物』と拒絶された彼女は……四季や一誠と違い不幸な例と言えるだろう。
もっと早くその場に駆けつけられたならと四季は何度も後悔していた。だからこそ無力を呪って力を求めた。今度こそ駆けつけられる力を、守れるだけの力を。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
斬撃と共に高温に焼き払われるドーナシークの片腕、先程詩乃へと光の槍を投げようとしていた腕を切ると、焼かれると言う苦痛を同時に味遭う事となる。
「あぁ……」
恐怖の感情が浮かび上がる中、ドーナシークはそれを行なった四季を化け物を見るような目で見る。
(な、何なんだこいつは!?)
絶対的な死への恐怖と、既に己を殺そうとするクリーチャーの口の中に居ると言う光景を幻視する。『先程まで珍しい神器を持った小娘を追いかけて狩りを楽しみながら、アザゼル様に送る神器を手に入れようとしていた筈なのに』と言う考えが浮かぶ。
「取り合えず、テメェ」
「ひぃ……!!!」
頭を鷲掴みにされると同時に四季の纏う高温がドーナシークの顔を焼く。能力発動時……腕の武器『紅き血(ザ・ヒート)』展開時の四季は体内温度は6000度を超える温度を自由にコントロールできる。
「ちょっと下まで……ツラを貸せ!」
コンコルドの翼の出力を全開にして地面へと向かって落下すると、衝撃音と共にドーナシークの体が地面に叩き付けられる。周囲への被害を考えて体内温度を地面に近付くのにあわせて低下させつつと言う芸当まで行なって、だ。
「ガハァ!!!」
片腕を消し炭に変えられ、顔を焼かれ、地面に叩きつけられた衝撃で全身の骨もいくらか折れただろう。それでも尚生きているのは人外である事の恩恵に当たるのだろうか。だが、それは幸運でもなんでもない。
(こ、殺される……。なんだ、あの化け物は!? 早く逃げなければ……)
「何処へ行く気だ?」
四季の腕の『紅き血(ザ・ヒート)』が炎によって繋がれた蛇腹剣へと形を変える。
「天使だろうが、堕天使だろうが、神だろうが悪魔だろうが、なんだろうが……。詩乃を傷付ける奴は叩き切る!!!」
「く、くるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「その魂に刻め!!! これがお前を裁く……オレの、アウトレイジの!!!」
『赤熱の神殺(ヒートスラッシュ)』
「熱き血だ!!!」
四季の神器はアウトレイジの書であり、『紅き血(ザ・ヒート)』はアウトレイジの書が覚醒した時に熱量のコントロールも武器の具現も可能になった。……故に四季はそれをアウトレイジの持つ能力と認識している。
他のアウトレイジの力は訓練を必要としていたのに、この力だけは当然の様に最初から自在に扱える事も疑問だった。まるで最初から自分の物だったように、だ。
本来なら堕天使は死に伴って羽を残すが、四季の一撃によって高温で焼かれると同時に両断されると言う二重の苦痛を味わいながらドーナシークは残すべき羽さえも灰へと変え、生きていたと言う痕跡を残す事無く消え去って行った。
腕ごと紅き血(ザ・ヒート)を振ると、僅かに付着していた高温によって固形化したドーナシークの血が風に舞って消えていく。
「ふぅ……」
軽く息を吐くと同時に腕の紅き血(ザ・ヒート)が消える。完全に詩乃が殺されそうになった事で頭に血が上って居たが、冷静になってしまうと生け捕りにしなかった事は失敗したとも思う。
「詩乃、無事か!?」
だが、先程まで戦っていた堕天使の事や、後々の事など一瞬の思考のみで一時頭の中から消去、地面に座り込みながら唖然としていた詩乃へとそう言って駆け寄る。
「悪い、遅くなった。怪我は……」
そう言って手を伸ばそうとした時、一瞬の躊躇が生まれる。……彼女の中のドラグハート・ウェポンが目覚めているとは言え、彼女は裏の事は何も知らない。……そんな相手にアウトレイジの力を見せてしまったと言う事は……
(覚悟していたって言っても、その時になってみるとやっぱり辛いよな)
『化け物』と呼ばれて拒絶されても、結果的に彼女が守れればそれで良かった。だが……いざ、己の力の事を知られてしまった結果、彼女から拒絶されるかもしれないと考えると……
「っ!?」
「怖かった……殺されるかと思った……」
詩乃が抱きついて泣き始めると、そんな迷いなんて消えていく。
「怖く……無いのか、オレの……事が?」
アウトレイジの力に目覚めてから……それを彼女に知られて離れられる事を恐れていた。だから、あの時も……間に合わなかった。だが、そんな迷いなど感じる必要は無かった。
「四季は、四季じゃ無い」
己の事を受容れてくれるその言葉だけで十分だった。彼女は己の全てだと確信できる。
「遅れてごめん。それと……」
-ありがとう-
最後の一言だけは口に出さずに心の中でそう呟くのだった。
(今まで手加減されていたと言う訳か)
急いで立ち去った四季をリアスに言われて木場は追いかけていた。目撃したのは一方的に堕天使を倒す姿だけだったが、それでも木場は今まで四季から手加減されていたと確信するには十分だった。
(それに……彼女も神器を持っているのか。部長に報告を……)
「おい、小僧」
「っ!?」
後ろから聞こえてくる声と威圧感に気付き己の神器の力で魔剣を作り出して振り返ると同時にそれを構える。
「オメェ、あの身の程知らずの手下だったか。まあいい」
木場の後ろに立っていたのは『不死帝 ブルース』。不死の名を持つアウトレイジの一角だ。四季がこの場所に来る様に頼んだアウトレイジの一人でも有る。
興味無いと言う態度のブルースに対して憤りを覚える。実力が圧倒的にブルースの方が上だとは理解できるが、
「何を報告するのも勝手だが、一つ忠告してやる」
武器を構えている木場を気にする様子も無く、背中を向けてそう言いながら立ち去ろうとする。己の事を敵とさえ認識していない。武器を向けられているというのに……騎士の駒の特性と合わせて一流と言える領域に居るというのに、目の前の相手は一瞥さえしていない。
屈辱に感じるが、それさえもブルースは意に介していない。
「あの女の身の程知らずさが……お前を地獄に叩き落すかもな」
「そう」
ブルースからの忠告を受けた後、木場はリアスへと報告を行っていた。当然ながら、四季の事だけでは無く……堕天使に狙われた詩乃の事についてもだ。
(……奴には今の僕じゃ……いや、全員で戦っても勝てない)
ふと、その事について報告した時にブルースからの忠告を思い出し、『これでよかったのか?』と言う考えを浮べるがそれは直ぐに振り払う。
彼にとってグレモリー眷属の騎士としても、個人としても、王であり恩の有るリアスに偽りを言うと言う選択肢は選べなかった。
……最悪、これが原因で四季と敵対した場合……そう考えるとブルースと対峙した時の事を思い出してしまう。当然だろう、未だにブルース性質の実力は四季よりも高い位置に有る。格下の四季にさえ負けるのだから、勝てないのは当然の事だ。
圧倒的な格上とでも言うべき威圧……ブルースの実力を木場は辛うじて判断できた。……圧倒的過ぎて差を感じることが出来ないほどでは無いことに喜ぶべきか判断に迷う。そして、想像出来るのは全員で向かって行った結果、ブルースに返り討ちにされる自分達の姿だ
(……戦っても勝てない。二天龍を敵にした戦う感覚……とでも言うのかな、あれが)
ぶっちゃけ、あの段階でブルースも人間態の為に力を抑えていた。……正しく評価を与えるならば、最低ラインは全盛期の二天龍……カツキングを含めて四季が用意していたアウトレイジの戦力である。
……付け加えると、二天龍を纏めて倒したカツキングには更に上が有ったりするが……。知らない方が幸せだろう。マックスとか、ギャングとか、マスターとか、ムゲンとか。一応、基本形態でさえその実力だ。
……今更ながら万が一詩乃に何か有ったら、全盛期の二天龍レベルの戦力率いて堕天使殲滅に動いていたことだろう……四季が。
間違いなくそうなったら堕天使と言う堕天使を皆殺しにするまで四季は止まれなかった事だろう。下手したらそれでも止まれずに天使にまで怒りをぶつけていた可能性も有る。
ぶっちゃけ、存在していた記録まで消していたら最早どれだけアザゼル辺りが懇願した所で一切の問答は無用で堕天使と言う最大勢力の一部が最低でも致命傷、最悪は消滅と言う憂き目に遭う所だった。
そう考えると、迂闊なマネをした過去の上級悪魔とドーナシーク……寧ろ殺された方が悪魔と堕天使達にとっては良かったのかもしれない。下手すればこいつ等のせいで自分達の種族が滅んでたかもしれないのだし。
その後、リアスから持っていた契約のチラシから死の間際に自分を呼び出した一誠を悪魔として『兵士(ポーン)』の駒で悪魔に転生させた事を教えられ、明日の放課後にでも四季と詩乃の二人と一緒に此処に連れてくる様に頼まれた。
本来ならばそれは一日ほどずれる筈だが。本来の歴史において何も知らない一誠を襲撃するはずのドーナシークは四季の逆鱗に触れて羽さえも残らず灰にされている。
同時に四季の事も有り、リアスは早い段階で新しく眷族になった一誠に事情を説明するべきと判断したのだ。
婚約者との件までの期日はそれなりに近付いている。まだ時間が有ると言っても、未だに残りの戦車、僧侶、騎士の駒は見つからず、僧侶の駒の転生悪魔は彼女では扱えないと判断されているのだ。……婚約破棄の為にも少しでも早く眷属は見つけたいが、未だに三つも駒が余っている。
既に候補として考えていた四季と新たに見つかった詩乃の二人……二人が眷族に加わってくれれば、
(私達眷属は強くなれる)
そう思う。この時、詩乃まで巻き込んだ事で余計に四季の怒りを買う事になるのだが……当然ながら、この時の彼らは知る由もなかったりする。
その日、四季は朝から心此処に有らずと言った様子だった。まあ、昨日の堕天使の一件で何だかんだで告白して受容れられて……晴れて詩乃と恋人と同士になった訳だ。
「な、なあ、四季は覚えてるよな? 夕麻ちゃんはちゃんと居たよな!?」
四季の姿を確認した一誠がそう問いかけてくるが……聞いちゃいなかった。
「お、おい、四季!!!」
「? 居たのか、イッセー」
「居ただろ、さっきから!」
今まで一誠の存在にさえ気付いて居なかった四季だった。縋り付く様に四季の肩を掴んで聞いてくるが……此処で一誠は大事な事を忘れている。
「誰だよ、夕麻ちゃんって?」
四季は夕麻ちゃんと言う相手の事は最初から知っていない。
「そんな……四季までそうなのかよ?」
彼の質問の意味が分からずに聞き返しただけなのだが、一誠は震えながら何処か絶望にも似た色を表情に浮かべていた。そんな彼を一瞥しつつ『何だったんだ、あいつ?』と疑問を浮べながら背中を見送っていた。
(……もしかして、昨日言ってた彼女の事か?)
昨日は詩乃を助けた事や詩乃に告白した事で頭が一杯で先程まで思いつかなかったが、もう一箇所堕天使の気配が在った事を思い出した。恐らくは何らかの目的で一誠に近付いたのだろう。
そして、『夕麻=堕天使』とするならば、パルサーのアドバイスを元にしたデートの最後で一誠に対して何かをして、最後には目的を果たしたので己の存在に繋がる記憶や記録を消したと言う事だろう。何故一誠の記憶だけ消えていないかは疑問だが、状況から考えてそうである可能性が高い。
(もしくは彼女の方が神器持ち……って線は薄そうだな。相手もバカじゃないなら、目撃者が居ない時……一人の時を狙うはずだ。それにしても、あいつ忘れてるだろ……オレは彼女が出来たって言われても、名前は聞いてないからな)
周囲との語弊に焦っているのか、一誠は四季に夕麻と言う名前を言っていないと言う事をすっかり忘れている様子だ。態々指摘するのも面倒と四季は四季で放置しているが。
別に一誠の事は嫌っていないが一誠の問題と斬り捨てる事にしたのだった。
放課後……
今日は既に昨日の内に彼女の護衛と言う事で一緒に帰る約束をしているので、素早く帰り支度をしていると教室のドアが開く。
「やあ、どうも」
「はぁ」
内心『またか』と思いたくなる相手の登場に思わず溜息を吐いてしまう。今日は詩乃と一緒に帰る予定なので相手にしている暇は無い、と無視して帰ろうとするが、
「君が兵藤くんかい?」
「ああ。それでオレに何の御用ですかね」
「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」
イケメンに対して睨みつつも面白く無さそうにしている一誠の姿を一瞥する。
(オレから他に興味が移ってくれたって事か? まあ、面倒が無くなって助かったな)
「すまない、待ってくれるかな。君にも用が有るんだ」
「先約が有る」
木場の言葉をその一言で斬り捨てて帰ろうとするが、木場は四季の肩を掴んで呼び止める。
「待ってくれるかな? 悪いけど、生徒会の方にも君に用が無いかは確認しておいたんだ」
「離せよ、色男。だいたい、何で生徒会限定なんだ? 他の相手との約束だからってお前等の方を優先させる義理も無いだろ?」
ぶっちゃけ、四季にとっては生徒会の呼び出しよりも詩乃との約束の方が優先順位は高い。肩を掴む腕を払いながら帰ろうとするが、
「君にも来て欲しいって部長が呼んでるんだ」
「断る」
「お前、三年のリアス・グレモリー先輩の呼び出しだぞ! それを断るって、それでも男か!? 普通優先するだろう!?」
「オレはあの先輩の事は嫌いなんだよ」
興奮気味に怒鳴ってくる一誠を呆れた目で見ながら、内心で『他の生徒の記憶から消えた彼女の事は良いのか?』と思ってしまうがそっちは口には出さない。
「ったく、詩乃を待たせたくないんだ、邪魔するな」
「な!? なんで、あんな“人殺し”がグレモリー先輩より優先なんだよ、お前」
一誠の言葉が聞こえた瞬間、四季の足が止まり次の瞬間、
「っ!?」
四季の拳が一誠を殴り飛ばしていた。ドアの所から窓際まで殴り飛ばされ、進路上に有った机や椅子にぶつかりながら一誠の体が吹っ飛ばされた。それに教室中から悲鳴が上がるが、四季はそれを無視して殴り飛ばした一誠に近付き、彼を見下ろしながら、
「おい、変態。次ぎ詩乃を悪く言ってみろ……本気で」
―殺すぞ―
殴り飛ばした一誠を睨みつけながら本気で殺意の篭った言葉、それに対して脅えながら慌てて一誠は首を楯に振る。
「いや、彼女にも一緒に来て欲しいって言ってるんだ。……昨日の事でね」
「へぇ」
彼の一言で四季の纏っていた殺気の矛先がその言葉によって今度は木場へと向く。冷や汗を流しながらも表情には出さず、木場は言葉を続ける。
「だから、ぼくと一緒に来てくれないかな」
「……良いだろう。行ってやるよ……。だけど、覚悟しておけ……事と次第によっては」
それは四季にとっての揺るがない覚悟、
「あいつに何かしてみろ……地獄を味合わせてやる」
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「あいつを傷付ける奴は、悪だ!」
これは無法の力を手にした少年とその仲間達の物語である。
この作品はハイスクールD×Dとデュエルマスターズのクロスです。カードゲームはしません。
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