『三国広しと言えど、誰が最強か?』
これは三國志を知る人間ならば一度は考えたことがある議題だろう。
たとえば、呂布。序盤に無念の退場をしたものの、こと『武』においては呂布を武将は存在しないだろう。
実際にはいたのかもしれないが、この質問をした時に、真っ先に口から出てくる人物の名前は『呂布』で間違いはない。それほどにまで強烈で、印象的なのだ。
しかし、総合力で見るとどうなるだろうか?一騎がけを行った趙雲だろうか。はたまた、曹操軍を一人で足止めした張飛。張遼や関羽、甘寧も捨てがたい。もし実際にその時代を見て、聞く事が出来たならばこの議論に終止符を打つことができるだろう。
そして、その議論に終止符を打てる男がいた。
北郷一刀、その人である。
「三国の中で、一番強い武将ってやっぱり恋なのか?」
「……非常にくやしいですが、そのとおりでしょうな」
一日の政務が終わったある日、一刀は星と城壁の上で酒を酌み交わしていた。
質問を投げかけられた女は苦笑いを浮かべ、右手に持った杯を一度傾けながら答えた。
すぐに左手でメンマを口に運び、瓶から酒を杯に注ぐ。何度も繰り返されてきたこの動作は、まるで機械のような精密さで寸分違わず同じ軌跡を描く。
その様子を毎回の事ながら一刀は『美しい』と思う。美女が酒を飲んでいる姿はそれだけでも見惚れる程の情景だろうが、今回一刀が美しいと思ったのは数ミリの誤差も無く決まった場所、に置かれる酒瓶や手の動作を見ての事である。
「俺のいた国では総合力なら星や愛紗じゃないか?って言われてたんだ」
「ふーむ……総合力、ですか。確かに知略、というものは恋殿にはあまり感じませぬが、獣のごとき勘の良さ、勝利をもぎ取れる運、何より誰も到達出来ない究極の武を持っている。はっはっは、総合力でも最強は恋殿でしょう」
「そ、総合力でも恋が最強か……ものすごいな」
「精密さ、器用さで言えば私の方が優れておりますが……一騎討ちという条件ならば恋殿に敵う者はおりますまい。それが軍全体の勝利に繋がるか、と言えばそれは別の話ですな」
言い切ると、また杯を傾ける。口角がゆるみ、軽い口調で自分では届かない存在だ、と言っているが、長年の付き合いである一刀にはその顔は武人として悔しさを孕んでいる物だと看破した。
「そういえばさ、俺の国では星に愛紗、鈴々や翠、紫苑の五人の事を『五虎大将』って呼んでたんだけど」
「ほう、これはまた大層な名前ですな。おおかた朱里が他国に力を示す為に桃香さまに進言でもしたのでしょう。して、その五虎大将がいかがなされました?」
たいして興味もなさそうにメンマを口に含む。軽く口づけをして、舌先で味わってから口の中に放り込む動作は見ている男を魅了する。メンマなのに。
しかし、これまた長年の付き合いである一刀には興味津々だということが分かっていた。興味が無ければ星は聞いてこない。聞いてくるということは、もっと教えろ。という証なのだ。
「じゃあさ、五虎大将の中では誰が一番優れてるんだ?」
誰もが思った事あるだろう。『五虎大将の中での一番は誰か』
本人が眼の前にいるのだから、聞けば答えが返ってくる。今までの議論に問答無用で終止符をうてる完璧な模範解答が得られる。 そんな考えで言った言葉だった。
―――これが事の発端だった。
こんな素朴な疑問が、のちに五虎騒動と朱里が名付けた、はためいわくな騒動の始まりだった。
Tweet |
|
|
11
|
1
|
追加するフォルダを選択
恋姫†無双の短編の物語、五虎騒動を投稿させていただきます。
3月の上旬までは時間がありあまっているので、順次投稿させていただきます。
1回の文章が約1500文字と少なめです。申し訳ございません。
疑問を持った一刀のふとした一言が、負けず嫌いの蜀の武将の心に火をつけます。はた迷惑なとある一日をお楽しみください。