黒外史 第十八話
汜水関の軍議では次の事が決定された。
先行している徐栄の追撃隊はそのまま官渡に陣を構築する事。
徐栄への早馬は既に出してある。
そして援軍に呂布、張遼、趙雲、華雄の部隊が向かい、これに軍師として孔明、陳宮、李儒が同行。孔明が本隊到着までの指揮官となる事。
洛陽から馬騰軍を呼び、汜水関の防衛を任せる事。
馬騰軍が到着した後、北郷軍本隊、董卓軍本隊、孫堅軍が官渡に向かう事。
董卓は先の援軍に出ようとしたが、これを一刀が止めた。
董卓が行けば指揮官は官職が一番上の董卓が行う事になる。
そうなれば董卓が好き勝手を行うのは間違い無いだろう。
一刀が一緒に行ければ良いのだが、そうなると汜水関の守りが孫堅軍だけとなる。
寝返ったばかりの孫堅軍にそれをさせるというのは常識的に考えて不可能だ。
また、同じ理由で孫堅軍を先の援軍に加える事が出来ない。
故に一刀は董卓と孫堅と共に、馬騰の到着まで汜水関に残る事を選んだのだ。
軍議を終えた一刀は、ひと息入れようと一度自分用の部屋に向かいひとりで廊下を歩いていた。
「徐庶はどうやって劉備達を救出するつもりなんだろうな………連携も必要だからって理由で孔明が前線に行く事になったが…………あいつも董卓とは違った意味で、俺の目の届かない所に行かせるのは心配なんだよな…………ん?誰か居るのか?」
廊下の先に二つの小さな人影が何やら言い合っているのが目に入る。
ひとりは頭から足下まで覆うフード付きの外套で身を包んでいて怪しげな格好だが、もうひとりは一刀のよく知る、しかし、この外史では初めて出会う人物、小喬だった。
一刀は反射的に胸が熱くなった。
それは董卓が一刀をからかう時に見せる月の仕草を真似た時。
朱里とそっくりな諸葛均を見た時。
それと同じだった。
「大丈夫だって、お兄ちゃん。そいつが変なことしようとしたらあたしがキンタマ蹴り潰してやるんだから!」
実に物騒な発言だが、一刀は懐かしさに苦笑してしまう。
(最初の外史でも猫を被っていたのがバレると、こんな感じで食って掛かって来たっけ。それでも妙に間が抜けていて憎めなかったんだよな………)
「そ、そんな事したら駄目だよ、小喬ちゃん!お父様はモチロン、炎蓮様にもご迷惑をお掛けする事になっちゃうよ!」
「それは分かるけど!…………でも、このままじゃ………」
「そんなに心配しないで欲しいな。俺は何もするつもりは無いから。」
一刀は努めて明るく振る舞って声を掛けた。
フードの下から聞こえた声に一刀はそれが大喬である事を確信している。
しかし、小喬が自分のよく知る姿だったからといって、大喬も同じだとは限らない。
(双子って言っても、二卵性だなんてオチかもしれないしな…………それに………)
一刀は最近自分が周りからどう言われているかを知っているので、小喬に過剰な反応をしない為にも努めて冷静になる様にも自分に言い聞かせた。
「うわっ!出たっ!」
声に振り返った小喬は、それが一刀だと判ると身構え、大喬を背中に庇った。
「出たって……俺は妖怪か?」
「似たようなモン………じゃなくって………オホホホ♪冗談ですよ、北郷一刀様♪緊張ほぐすためのジョ・ウ・ダ・ン♥」
コロリと態度を変え如何にも芝居じみた小喬の仕草、始まりの外史を含め多くの外史で小喬は似たような態度を見せているので、一刀はまた心の中で懐かしさに震えた。
「まあいいか。君が喬玄さんの子の喬婉で、そっちが双子のお兄さんの喬靚だね。」
「そ、そうですぅ♪お父様に言われてここに来たんですけどぉ♪挨拶も終わったから失礼しますねぇ♪」
小喬は大喬の手を握って素早くこの場を離れようとしたが、一刀がその前に回り込んだ。
「そう急がずに、少し話をしよう。喬靚とは挨拶してないし、顔もまだ見せて貰ってないじゃないか。」
「お、お兄ちゃんはあがり性だから………こんないつ誰が来るか分からない所じゃ……」
「それじゃあ俺の部屋に入ろう。ここだし。」
一刀は微笑んで部屋の扉を指差したのだが、小喬のツリ目がキツくなり愛想笑いが消えた。
「へ、部屋に連れ込んで変な事する気ねっ!」
今までの演技をかなぐり捨てて、小喬は吠えた。
「だから話しをするだけだって。それに君達がこんなに早く戻ったら、さっき喬靚が言ってた様に喬玄さんの立場が悪くなるんじゃないのかな?」
大喬と小喬は人質として一刀の所に差し出され、しかも二人だけで一刀の部屋を訪れている。喬玄がどの様な意図でそうさせたのかを、一刀も幾つか憶測が着いていた。
しかし、主筋である孫家を守る為という大前提は変わらない筈である。
それなのに、まともな挨拶もせずに帰って来たとなれば、喬玄の面目を潰す事になる。
大喬の言う『炎蓮様にもご迷惑をお掛けする』事にもなるのだ。
一刀は純粋に喬玄を心配し、二人が差し障りのない時間に戻れる様に時間潰しをさせてあげるつもりで言ったのだが、小喬には『ここで帰ったらお前の父親が非道い事になるぜ。げへへへへ♪』と聞こえていた。
「ひ、卑怯者………わかったわ……あたしが何でも言う事聞くから…その代わりお兄ちゃんは見逃して!」
「ダメだよ!小喬ちゃん!わたしなんかの為に身を犠牲にしないで!」
「お兄ちゃんはずっと苦しんで来たじゃない!あたしはこれ以上お兄ちゃんが苦しむのを見たくないのっ!」
「わたしはいいのっ!わたしの代わりに小喬ちゃんが苦しい思いをする方がもっと嫌なのっ!!」
(あれ?…………俺ってもしかして悪役的なポジションにされてる?)
「北郷一刀様!」
大喬は顔を隠していたフードを跳ね上げた。
毅然と睨むその顔は、間違いなく一刀の知る大喬と同じだった。
「は、はい!」
垂れ目がちではあっても伝わる気迫に、一刀は思わずたじろいだ。
「そうまで仰るならわたしも逃げません!ですがひとつだけ約束してください!」
(仰るならって、俺は話をしようって言っただけなんだけど…………)
心の中でそう思ったが、下手に何か言うと更に拗れそうなので、一刀は黙って首を縦に振った。
「わたしの身体は呪われています!わたしの身体を見た事で北郷様はお怒りになられるでしょう!ですがその怒りは全てわたしに向けてください!決して小喬ちゃん…いえ、喬婉と、そして孫呉に向けられないと誓ってください!」
(呪われている!?それってもしかして大喬の股間に……………いや!ここはそういう世界なんだからそこじゃない!)
この時、一刀の記憶の封印がまたひとつ外れた。
それは大喬と身体を重ねた日々の記憶だった。
軍議の時に思い出した記憶ではその部分が抜け落ちていた。
しかし、一刀はその事に何の疑問を感じず、『大喬』と『ふたなり』を関連付ける事すら無かったのだ。
それだけこの封印が強力に掛けられていたのだが、今の一刀にそこまで気付く余裕は無かった。
一刀が再び無言で頷くと、大喬は外套を開いて見せる。
外套の下から出てきたのは小喬と同じピンクのセーラーカラーの白いワンピース。
しかし、一刀の記憶とは明らかに違う部分が有った。
胸の部分が大きく膨らんでいるのだ!
「……………………………………………」
一刀は言葉が出なかった。
「北郷一刀様!わたしの身体は呪われているでしょう!?五胡の様な身体をしているのですからっ!!」
大喬は半ば自暴自棄となっていた。目に涙を浮かべて、自虐の笑みさえ浮かべている。
そして一刀は………………こちらも目に涙を浮かべていた。
だがそれは大喬と正反対の涙だ。
今、一刀の目の前には夢にまで見た本物のおっぱいが存在している!
ポッチリとした影が乳首の存在を如実に語っていた!
一刀の鍛え上げられた眼力がGカップは有ると読み取った!
一刀は大喬を抱き締めた。
「え?………」
「ちょっとあんた!お兄ちゃんに何する気っ!!」
戸惑う大喬。
兄に危害を加えられると恐れ、一刀の服を掴んで引き剥がそうとする小喬。
どちらの声も一刀の耳には入っていない。
ただ大喬を優しく、守り包み込む様に抱きしめて滂沱の涙を流していた。
「………ありがとう………ありがとう………この世界に居てくれて………」
一刀の呟きが大喬の耳に、そして心に響いた。
「………わたしが………」
「……あんた………それってどういう………」
大喬は呆然と廊下の天井を見上げていた。しかし、その目は別の物を映していた。
小喬は掴んでいた手を放し、一刀の顔を覗き込む。
涙を流し優しく微笑みながら『ありがとう』を繰り返す一刀を見て、小喬も大喬と同じ物を見た。
『希望』という名の扉が僅かに開いた光景を。
「ちょ、ちょっと!本当に人が来ちゃうかも知れないから部屋に入ろう!」
僅かに見えた希望を失いたくないと、小喬は再び一刀の服を引っ張った。
先程とは逆の、一刀の部屋に向かって。
今度は一刀の耳にも小喬の声が届いたらしく、大喬を守る様にしながら小喬に従う様に部屋へ入った。
部屋に入った一刀は少し落ち着きを取り戻した。
一刀は大喬と小喬を小さな卓の椅子に座らせ、自分は少し離れた机の椅子に座る。
「……取り乱して済まなかった………つい嬉しくなってしまってさ………」
頭が冷えると自分のした事にバツの悪さを覚え、照れ笑いを見せた。
その様子をみて、小喬は戸惑いどう対応して良いのか決めかねている。
大喬は一刀の言葉に心臓の鼓動が高まり、頬が赤く染まる。
(ダ、ダメよ……け、警戒を解いては!わたしの行動がお父様と孫呉の未来を左右するのよ!)
心ではそう言い聞かせても、身体は一刀の温もりを覚えてしまった。
肉親以外の人間に本当の自分の姿を知られ、その上で強く優しく抱き締められた。
「北郷一刀様は………わたしの身体を見て………なぜ嫌悪されないのですか?」
絞り出す様に、必死の想いで口にする。
返される答えが死刑宣告の様な言葉かも知れないと覚悟を決めて。
「そうだな………俺が天の御遣いと呼ばれているのは知っているよな?」
大喬と小喬は無言で頷く。その瞳には期待と疑いが交じり合い、一刀がこれから答える言葉を待っていた。
「信じられないとは思うけど、俺は本当に違う世界からやって来たんだ。解り易い様に天の国と言ってるけどね。そしてその世界には喬靚の様に胸が膨らんでいる人が大勢いる。」
「その人達は五胡と違うのですか?」
「違う。五胡は葉牡丹から生まれるが、天の国では人間から生まれる。いや、胸の膨らんでいる『おんな』しか子供を産めないんだ。この世界では『漢』が子供を産むけど、天の国は『おとこ』は子供を産む器官を持っていない。」
「そ………それでは天の国では『漢』と『五胡』が反対………」
大喬と小喬は身を竦ませた。目の前の一刀が五胡と同じ存在なのではないかと思い至ったからだ。
「それも違う。天の国の人間は陰茎を持つ者が『おとこ』で………ここでは『やおい穴』だったな………それを持つ者が『おんな』なんだ。つまり君達から見たら身体の機能が分かれて、二種類の人間が居る世界に見えるだろう。」
大喬と小喬には、俄かに信じられない話しだった。
しかし、先程の恐怖心は消え、代わりに好奇心が湧いてきた。
「あの………さっき、わたしと同じ様に胸が膨らんでいる人が居ると仰ってましたけど………それは『おんな』なのですか?」
「あ、ああ、そうだ。肝心の部分を言い忘れていたな。その通りだよ。そして俺は天の国の『おとこ』で、子供を産ませる事は出来ても産む事は出来ない。」
一刀は大喬と小喬の目をしっかりと見てそう言い切る。
大喬と小喬は一刀の瞳に射抜かれた様な衝撃を感じた。
一刀はひとつ重要な事を失念していた。
この漢帝国に於いて『子供を産ませる事は出来ても産む事は出来ない』存在は皇室である劉家の特質である事を。
それは高貴な血筋の証明であり、それだけでこの世界の『漢』は畏敬の念を抱く。
大喬は椅子から立ち上がり、一刀の前まで歩み出る。
一刀は少し戸惑ったが、大喬の氣が穏やかな事を感じ取りそのまま見守った。
そして大喬は一刀の足元に跪き、平伏して言葉を述べる。
「わたし、喬靚は真名、大を生涯北郷一刀様に捧げる事をお誓い致します。今後は大喬とお呼びください。」
「ええ!?真名を捧げる?普通真名は預けるんじゃないのか!?」
「はい。ですからこれはわたしの全てを北郷一刀様に捧げるという意味です。今この場で『死ね』と仰られるなら即座にこの首を掻き斬ってご覧に入れる所存です。」
一刀は他の外史で大喬がここまで強い意志を見せた事が無いので驚いた。
けれど、それは決して不快な物ではない。
「死なれるのは困るな…………大喬♪」
一刀が真名を呼ぶ。その真意を悟り大喬は顔を上げた。
その目には先程とは違う意味の涙が、一刀が流した涙と同じ物が頬を伝う。
「ありがとう………ございます………」
大喬は嗚咽を抑え、それだけを口にした。
「はあ…………お兄ちゃんったらひとりで話しを進めちゃうんだもんなぁ。」
それまで事の成り行きを見守っていた小喬が拗ねた口調で割り込んだ。
「ごめんね、小喬ちゃん…………でも、わたし………」
「いいからいいから♪あたしだって一刀様の事、気に入っちゃたし♪」
小喬も一刀の前に進み出て跪いた。
「あたしの真名、小を預けます。以後お引き回しください、一刀様♪」
「ああ、よろしく頼むよ、小喬♪」
小喬の軽い口調のお陰で、重苦しくなっていた場の空気が和やかな物に変わった。
(おっぱいが膨らんで立場が悪くなるなんて、まさか貧乳党の呪いがこの外史に影響してるんじゃないのか?)
一刀は冗談でそんな事を笑って考えられるくらい余裕が出てきた。
大喬と小喬は一刀がそんな事を思っているとは解らないので、一刀が大喬の胸の辺りを見て微笑んでいるのを見てアイコンタクトで小さく頷き合う。
「あの、北郷一刀様!」
「あ、大喬。俺の事は名の一刀で呼んでくれる?で、何かな?」
「は、はい!一刀様!お願いしたい事が有るんです!」
「うん?俺に出来る範囲でなら便宜を図るけど……」
一刀は大喬が言い出す事だから、自分のおねだりでは無く孫呉に対する処遇の話しだと思った。しかし、次に大喬の口から出る言葉に一刀は驚かされる事になる。
「いえ!そうではなくて!…………わたしの胸を見て頂きたいんです………」
「え!?」
まさか大喬がそんな事を言い出すとは思っていなかった一刀だが、禁欲生活の続いた一刀の心はその一言で大きく傾いた。
「その………わたしは今までこの胸を忌み嫌っていました……でも、一刀様に認めて頂ければ、受け入れられると思うんです……………どうか天の国の人と違わないか………教えてください!」
大喬は立ち上がると着ていたワンピースの裾を掴んで一気にたくし上げた。
まろび出た二つのGカップの果実は柔らかさを主張する様に揺れ、その先端には乳首が桜色に色付いている。
形は翠や愛紗に近く、張りと弾力も有りそうだ。
大喬は服を脱ぐのに手間取り、服で顔が隠れた状態で早く脱ごうと藻掻いた為、乳房を縦横に揺らし、図らずも一刀の欲情を更に誘う結果となった。
「ふう………も、申し訳ありません!手間取ってしまって………」
恐縮する大喬に、一刀は心の中で手を合わせ『ごちそうさまです』と唱えていた。
「い、いや、気にしてないよ。それに綺麗で整ったおっぱいだ。素敵だよ♪」
「そ、そうなんですか?私達の感覚では『素敵な雄っぱい』とは炎蓮様の様な方を言うのですが………」
「……………………ごめん。俺には筋肉の胸板にしか見えない…………ええと……触ってもいい?」
「は、はい…………」
一刀は両手ですくい上げる様に乳房を包み、力が入り過ぎない様に優しく揉み始めた。
絹の様に滑らかな肌と、予想通りの弾力と張り。
久しぶりの感触に一刀は酔いしれた。
「あふぅ♪」
大喬は自分の口から漏れ出た声に驚き、顔を真っ赤にして恥じ入ってしまった。
「大喬は自分で胸を揉んでたのかな?」
少し意地悪く一刀が訊く。
「あ、あの……腫れを引かせる軟膏を塗っていたので………小喬ちゃんにも塗ってもらっていたので………」
「俺としてはその薬が効かなくて良かったよ。効いていたらこんな幸せな気分になれなかったからね♪」
「幸せ………ですか?一刀様?」
「ああ♪俺は今、最高に幸せな気分だ♪」
自分を認めてくれた人がこの身体に触れて幸せだと言ってくれる。
先程大喬が虚空に見た希望の扉が全開になった。
「お兄ちゃんったら、胸を揉まれて勃っちゃってるわよ♪」
小喬が屈み込んで絹の下着に包まれた股間を見ていた。
「いやぁ……小喬ちゃん、言わないでぇ………」
一刀も小喬の言葉に思わず視線を下げてしまう。
そこには一刀のよく知るイチモツが絹の紐パンから顔を覗かせていた。
そう。本当に一刀のよく知る大喬の陰茎である。
そこには嫌悪感も拒絶感も沸き起こらない。ただ愛おしい相手の一部であり、愛すべき場所という感覚が心を占める。
(そうだ…………俺は大喬のち●ちんを愛してあげていたじゃないか!)
「それに一刀様もぉ♪苦しそうだから楽にしてあげますねぇ~♪」
小喬が言い終わる前に素早く一刀のズボンのファスナーを下ろすと、一刀の男根が勢い良く飛び出した。
「うわあ♪おっきい♪炎蓮様程じゃないけどスゴい逞しいぃ♥」
「しょ、小喬!?ちょ、ちょっと…」
「いただきまぁ~~す♥」
一刀が声で止めさせようとするより早く、小喬は亀頭にしゃぶりついた。
「おほおおおぉぉぉおおおおおぉぉぉおおぉっ!!」
これもこの外史に来てから初めて味わう、久々の快感だった。
手を使えば簡単に止められただろうが、一刀の両手は大喬の乳房を感じる事に忙しくそれ処では無い。
「あむ…クチュ………れろれろ…ンチュンチュ…………ングング………」
小喬の舌技に一刀の箍が完全に外れた。
種馬北郷一刀がここに復活したのだった。
一方、反北郷連合は官渡の砦に到着し、追撃を迎え撃つ準備が進んでいた。
「真桜!新兵器の準備は出来ている?」
「はいな、華琳さま♪敵さんアレ見たらタマゲるでえ♪攻撃喰らって二度びっくりや♪」
顔や身体のあちこちを油で汚した李典は曹操にVサインでニカッと笑って見せた。
その姿を曹操と同行している劉虞、劉備、袁紹も見ていた。
「新兵器とはどんな物ですの、華琳さん?」
「それは言えないわね、麗羽。新兵器とは隠しておいてこそ、初手で大きな効果を発揮出来るのだから。」
「それではわたくし達はどう連携を取って良いか分からないではないですの!」
憤慨し食って掛かる袁紹を劉虞が割って入りなだめる。
「まあまあ、本初。楽しみは後に取って置きましょう。最初の攻撃をその新兵器で行い、敵が混乱している所に我々が襲いかかるのですから。」
「劉虞様がそう仰るのであれば…………では華琳さん!わたくし達は敵が来るまで何をしたらよいのでしょうね?」
「兵に休養を与えて鋭気を養っておく事ね。まあ、貴方が暇だと言うのなら歌でも踊りでも好きな事をしていて頂戴。」
「…………分かりましたわ。そうさせていただきます。劉虞様、参りましょう。」
「そうですね………では玄徳殿も…」
曹操が劉虞を遮って劉備の前に立った。
「劉備殿。話が有るので来てもらえるかしら?」
「は、はい?」
劉備は迷ったが、新兵器の情報を手に入れられるかもと、曹操に付き合う事を決めた。
「では曹操さん、お願いします。」
劉虞に目配せをすると小さく頷く返事が返って来る。
劉備は意を決して曹操の後に付いていく
移動した先は砦の中で一番高い物見の上だった。
「いい天気ね♪」
「そ、そうですね……」
「風も気持ちいいし♪」
「そうですね………」
「ここでまぐあったら最高でしょうね♪」
「そうで……………ええええええええええぇぇぇええええぇぇえっ!!」
「冗談よ♪」
どこまで本気でどこまで冗談か、劉備には判断が着きかねた。
曹操は気にせず周囲を見回す。
「北に黄河、南に平野。この広大な景色も地図に示せば大陸の点に過ぎないわ。」
「はい………」
「目に見える範囲がこれしか無くて、声が届く範囲は更に狭く、手の届く距離は身の回りだけなのに、そんな人間が大陸全てを治めるのに必要な物が何か解るかしら?」
「それは……………帝のご威光だと思います。」
「ではその威光とは何?」
「え?帝は一番偉い方で、従うのは当然…」
「そんな物は腐れ儒者と子供の戯言よ!貴方だって解かっているのでしょう!」
曹操の剣幕に劉備は内心舌を巻いた。
これは惚けきれないと覚悟して答えを口にする。
「…………力……ですね。強大な軍事力。政を行う政治力。国家を運営する財力。様々な力を兼ね備えなければ大陸全てを治め続ける事は出来ません。」
「流石、盧植殿に師事していて将来を期待されただけは有るわね♪」
「…………知っていたんですか?」
「貴方の事を調べさせたわ。先代が若くして亡くなられなければもっと出世していたでしょうね。」
「どうでしょう…………確かに回り道をしましたけど、それは必要な事だったと思います。庶人の暮らしや考え方を知る事が出来ましたし、役人の悪い部分も直に見る事が出来ました。今の法律で守れない弱い人たちを自ら守りたいと思うようになり、侠に身を投じました。そこで愛紗ちゃんと鈴々ちゃんという掛け替えのない人と出会えました。きっとこれがわたしの天命なんです。」
「では、こうして私とここで話しをしているのも天命なのね。」
「………そうですね。ここに至るまでのお誘いがかなり強引でしたけど。」
劉備はここぞとばかりに皮肉を込めて言い返した。
「ふふ♪でも良い勉強になったのではなくて?恐怖という力が貴方と私の争いを回避したのよ。死人がひとりも出なくて良かったでしょう♪」
「そんなやり方では人の恨みを買い続けます!いつか裏切られてしまいますよ!」
「貴方は本当にお人好しねぇ。一番裏切る可能性が高い貴方が忠告するだなんて♪」
「………………」
劉備は自分の迂闊さに落ち込んだ。自ら密偵の真似事をしていると言うのに、その相手に裏切りの忠告をするなんて間抜けが過ぎる。
「そんな貴方だからこうして声を掛けたのだけどね…………劉玄徳、私と共にこの大陸に覇を唱えない?」
「…………それは……わたしに皇帝という傀儡になれって事ですか?」
もうここまで来たら言いたい事を言わねば気が済まなかった。
自分がここで殺されても、関羽と張飛が遺志を継ぎ、一刀の所に駆けつけてくれると信じて。
「違うわね。帝とは天子よ。天子は慈悲の心を以て人々に接し、人々から敬われなければならないわ。けれど大陸を治めるには先に貴方が言った様に力が無ければならないわ。恐怖という名の力を私が担当して裏の世界を押さえる。貴方はその仁徳を以て表の世界を治め弱き人々を守りなさい!」
劉備は曹操の強い瞳の光を書面から受けて、背筋に熱い物が走るのを感じた。
しかし、それだけで曹操の言葉に従う程、劉備は単純では無い。
侠として生きてきた経験が劉備を強かにさせていた。
「…………曹操さんがわたしを買ってくれるのは嬉しいです。ですけど、わたしにも選ぶ権利が有ります。」
「選ぶ権利…………それは北郷一刀の事ね。」
「はい♪わたしはあの方に恩があります。何よりわたしはあの方が好きですから♪」
「あら?この大陸で北郷一刀へ最初に目を付けたのはこの曹孟徳よ♪………そうね、あの男を私の足元に跪かせれば、貴方も私の言う事を聞いてくれるかしら?」
「…………そうですね。一刀さんが曹操さんを認めて膝を屈するのならば、わたしも曹操さんの話しを聞きます。」
劉備と曹操は互いに不敵な笑みを浮かべて視線を交わしあった。
「さてと、それでは最後にひとつ、提案が有るのだけど。」
「はい………何ですか?」
既に宣戦布告をしたような相手が出す提案だ。何を言い出しても落ち着いて対処しなければと心構えをする。
「私の真名、華琳を預けるわ。」
「え?…………ええええええっ!!」
早くも心構えが崩れた劉備だった。
「好敵手と書いて友と読む。私は臣下とは別に、認めた相手と真名を交換する様にしているの♪麗羽とも同じ理由で幼い頃に真名を交換したのよ♪」
「………分かりました。それではわたしの真名、桃香を預けます。」
一刀が大喬と小喬を相手に真名を受け取った状況とは大きく違い、緊張感に満ちた真名の交換だった。
「ありがとう、桃香♪」
「こちらこそ、華琳さん。」
「では真名も交換した事ですし、さっきの提案通り♪やらないか?」
「それはご遠慮しますうううううううぅぅぅぅううっ!!」
劉備は物見から飛び降りる様に逃げ出した。
汜水関から官渡に向かう街道。
徐庶が一軒の茶屋で腹拵えをしていた。
「うん、美味い団子だなぁ。」
「おう、ありがとよ、兄ちゃん♪」
徐庶は店主のオヤジと話しをしている。
みたらしのタレを指で掬って綺麗に舐めとりながら。
「こんなに美味い団子だがぁ、その腕は大陸じゃぁ二番だぁ!」
「は?おれぁ別にそこまで美味いとは思っちゃいねえんだけど…………」
徐庶はオヤジの話しを聞かずに自分を親指で示す。
「一番はこの徐庶元直さぁっ!」
「あんた旅が長そうだから各地の団子を食ってるんだろうな♪ひとつ教えちゃくれねえかい?」
「この俺の腕を見せてやるぜぇ♪」
まるで噛み合ってない会話の筈なのに最後には徐庶が店主に団子作りを教える事で収まってしまった。
果たして徐庶は何の為にこんな事をしているのか。
意味が有るのか無いのか?
まるで分からないまま次回へ続く。
あとがき
ふた月半の間を開けて、再開した途端に一刀がついにやっちゃいましたwww
完全に嫁補正が入って暴走してますw
運営さんに消されないかドキドキです…………。
そして、劉備と曹操の会話の元ネタは、三国志に精通されている方にはご存知の
「天下に英雄は君と私だけだ」ってやつです。
正史では動揺した劉備が箸を落とし、その時に轟いた雷が怖くて箸を落としたと言い、機転を利かせて窮地を切り抜けますが、この外史では読んで頂けた通りですwww
徐庶は……………自分も彼が何をしたいのかまるで解りませんwww
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二ヶ月半ぶりの黒外史です。
やっちまいました。
何をやっちまったかは本編でw
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