No.757199

九番目の熾天使・外伝 ~改~

竜神丸さん

進む展開

2015-02-08 22:32:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2549   閲覧ユーザー数:902

「よし、誰もいねぇな…?」

 

地上本部、地下通路。ハルトは通路を徘徊していたモンスターを一通り始末し、地上本部内のあちこちを捜索して回っていた。曲がり角で一度立ち止まった彼はコッソリと通路先を覗き込み、誰もいない事を確認してから更に先へと進んでいく。

 

(ゲンさんが言うには、レムレスとかいうヴァリアントの幹部が持ってる手錠の鍵を奪い取れば、牢獄にいる皆を助け出せるって話だったな)

 

「ピギッ!?」

 

通路を曲がった先でカエル顔をしたモンスターのトードと出くわすも、ハルトは予めコネクトの魔法で取り出していたウィザーソードガンでトードを真っ二つに斬り裂き、トードが絶命するのを確認する間もなく階段を見つけて登って行く。

 

「何とかしねぇとな……ゲンさんに、あんな頑張りを見せられたんだし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故ハルトだけが活動出来ているのか?

 

それは、数分前の事…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、儂等を繋いどるこの手錠はかなり厄介じゃ。無理やり壊そうとすれば同じ番号の手錠を付けられた者が死に、外部の者が壊そうとすれば同じ番号の手錠同士が死ぬ」

 

「はい、それはハルトさん達から聞きました」

 

牢獄にて、ルカ逹はゲンからとある提案に関して、一通り確認をさせられていた。

 

「実質、これを外すには手錠の鍵を奴等から奪い取るか、同じ番号の手錠を付けたどちらかが死ぬしかない。じゃが鍵さえ手にしてしまえば、全員がこの手錠を外して自由の身になれる」

 

「でも、どうするんデスカ? 今の状況、誰もまともに動ける状態じゃないデース」

 

「確かにその通りじゃ。じゃがある方法を使えば、一人だけなら簡単に自由の身にする事が出来る」

 

「本当!? それって一体…」

 

「ちょっと待った」

 

こなたが歓喜の表情を浮かべるが、ここでハルトがストップをかける。その表情は、明らかに嬉しそうなものではなかった。

 

「悪いがゲンさん、その方法は言わないでくれないか? 正直、俺はそんな話は聞きたくないね」

 

「え、ハルト?」

 

「…なるほど、そういう事ね」

 

「へ? ねぇ、どういう事?」

 

「?」

 

ハルトの何時にない真剣な表情を見て、アキもすぐに察したようだ。こなたやミカヤはまだ二人が何に気付いたのか把握出来ていないらしく、訳が分からなさそうに首を傾げる。

 

「ゲンさん、まさか…」

 

ルカも気付いたようで、ゲンの方に視線を向ける。

 

「…まぁ、気付かれるだろうとは思うとったわい。じゃが…」

 

 

 

-ゴブゥッ!!-

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

「!? ゲンさん!!」

 

「お爺ちゃん!?」

 

突如、ゲンは口から大量に血を床に向かって吐き出した。すぐにルカとハルトが駆け寄り、周りにいた人達もゲンの吐血を見てざわめき出す。

 

「ゲンさん、しっかり!!」

 

「ゴホッ……モンス、ターがおらず、とも…儂は元、から…ブフッ!! はぁ、はぁ……病気持ちじゃ…長くない、命じゃ…ゲホ、ゴホ…」

 

「おい、それ以上喋るなゲンさん!!」

 

「お爺ちゃん、死んじゃやだぁ!!」

 

「じゃが……ゴホ…まだ、希望は…ある…」

 

死にかけにも関わらず、ゲンの右手が震えながらもハルトの服の袖を掴む。

 

「!」

 

「頼む…ハルト、殿……どうか…皆の命を……救って、く…れ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数十秒後、ゲンの身体はピクリとも動かなくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在に至る訳である。

 

「…しっかりやんねぇとな」

 

ハルトは自身の頬を両手で叩き、気合いを入れ直してからウィザーソードガンを構え直す。

 

「安心しなゲンさん……アンタの死、絶対無駄にはしねぇ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上本部、会議室…

 

 

 

 

 

『―――ほう、逃げただと?』

 

『えぇ、そのようです……チッ! 人間風情が私の拘束から抜け出すとは、忌々しい…』

 

部屋の中に、八人のモンスターが集まっていた。その内二人はルーパスとラディチェスで、他にもレジスタンスのメンバーを一人殺害したガーゴイル、呪術師(ネクロマンサー)のレムレス、サハギンのシーハッグ、両腕が鳥の翼になっている可愛らしい容姿のハーピー、頭に角が生えた一つ目の大男サイクロプス、そして黒い服装の上に赤いマントを羽織っている整った容姿の男―――ヴァンパイアだ。

 

現在、そのヴァンパイアの男に対してレムレスが牢獄からハルトが脱走した事について報告を入れていた。

 

『珍しいな。レムレスの制作した手錠で拘束してなお、人間が脱走するとは…』

 

『申し訳ありません、アルカルド様。逃走した人間については、私が何としてでも捕縛します』

 

『いや、構わん。放っておけ』

 

『な、アルカルド様!? ですが…』

 

『レムレスの拘束から抜け出すとは興味深い。野蛮で脆弱な種族である人間が、どのようにして我々ヴァリアントに張り合うのか興味がある』

 

『し、しかし…』

 

ヴァンパイアの男―――アルカルドが楽しそうに述べた言葉に、レムレスは困惑の表情を浮かべる。そんな彼女の背後からハーピーの女性が声をかける。

 

『逃げた逃げた~♪ 人間が逃げた~♪ 魔法使いの癖に情けな~い♪』

 

『ギャハハハハハ!! 傑作だなぁ、レムレスさんよぉ?』

 

『えぇい、うるさいわよティリアもラディも!! あなた達には関係ないんだから黙ってて!!』

 

『そうだぞ二人共、レムレス殿だって失敗する時はある。猿も木から転落死すると言うだろう?』

 

『シーハッグ、その例えは私がドジって死ぬみたいに思えちゃうからやめなさい!! 物凄く情けない死に様で余計に腹立つわ!!』

 

『レムレスゥ~、腹が減ったぞぉ~』

 

『ブルクはそこにあるおやつでも食べてなさい!! こっちは話し合いで忙しいの!!』

 

ハーピーのボラティリアやラディチェスから馬鹿にされ、シーハッグから無自覚な悪意の篭った励ましを受け、サイクロプスのブルクから強請られ、顔を真っ赤にして突っ込みをいれまくるレムレス。そんな彼女達が騒いでいる中、ガーゴイルのパリスはアルカルドに問いかける。

 

『アルカルド様、よろしいのですか? 不安要素は一刻も早く取り除くべきでは…』

 

『せっかくの機会だ、退屈凌ぎにはちょうど良かろう。それに…』

 

『?』

 

『このミッドチルダにまた、異世界からの訪問者達が訪れたのだ。目いっぱい歓迎してやろうじゃないか』

 

アルカルドは面白そうに笑い、パリスもそれ以上は追及しない。首領が決めたのであれば、部下である自分がいちいち口を挟む必要はないだろう。

 

そんな中、ラディチェスがルーパスの様子に気付く。

 

『ん? どしたよ、ルーパス』

 

『…あぁクソッタレが!!』

 

今まで何も言わず静かにしていたルーパスは、突然テーブルに拳を叩きつけてテーブルに皹を生やす。突然の轟音に騒いでいたレムレス逹も思わずそちらに顔を向ける。

 

『わ、何? どしたのルーパス?』

 

『テメェ等には関係ねぇよ……チッ! ちょいと外出てくらぁ…』

 

『む、おい!』

 

ボラティリアやシーハッグの呼びかけにも応じる事なく、ルーパスは苛立った様子で会議室から出て行く。ボラティリアやラディチェスは面白くなさそうな表情を浮かべる。

 

『な~んだ、ルーパスの奴つまんないの~』

 

『何だぁ? あの狼、人間なんぞにやられたのがそんなに悔しかったのか? 笑わせるぜ』

 

『そういうラディだって、人間相手に負けたって聞いたよ? おあいこだね~』

 

『だぁぁぁぁぁやかましい!! 飛ぶしか能が無ぇ奴は黙ってやがれ!!』

 

『あぁ~言ったな!? たかが植物の分際でさぁ!!』

 

『あぁ!? やんのかテメェ!!』

 

『ちょっと二人共、喧嘩はやめなさい!! アルカルド様の前で―――』

 

『『うっさいババァは黙ってろ!!』』

 

『カッチーン……上等よ鳥女に植物!! 表出なさい!!』

 

『シーハッグゥ~、おやつなくなった~』

 

『む、そうか。私のおやつを分けてやろう』

 

『あ~り~が~と~』

 

『…本当にうるさい連中だ』

 

ボラティリア、ラディチェス、レムレスの三人が大喧嘩を始め、ブルクはシーハッグから食べ物を分けて貰い、パリスは呆れた様子で溜め息をつく。そんな彼の様子すらも、アルカルドは面白そうに眺めていた。

 

(しかし、ルーパスもルーパスでそれなりに強い方ではあるが……はてさて。そんなルーパスに傷を負わせたという異世界の人間とやらにも、ぜひ会ってみたいものだ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くそ、くそ……クソクソクソクソクソクソクソクソクソォッ!!! 本当に腹立つぜ、あのクソッタレな生意気野郎が…!!』

 

廊下を歩いている間も、何度も壁を殴りつけるルーパス。しかしどれだけ壁を殴って凹ませても彼の苛立ちは一向に収まらず、ルーパスは忌々しげに自分に傷を負わせた者の顔を思い出す。

 

『あの白髪野郎、覚えてやがれよ…!! この牙を折られた恨み、必ず晴らしてやる……徹底的に潰して、二度と歩く事も出来ないようにしてやる…!!』

 

ルーパスはBlazに対する恨みを吐き捨てながら、犬歯が一本折れている状態のまま歯軋りするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、レジスタンスのアジトにて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、miri」

 

「お、支配人。それにげんぶも……ちょっと待て」

 

あれから支配人やげんぶ達はレジスタンスのアジトに戻り、miriと再会していた。しかしmiriは支配人とげんぶが抱えている人物達を指差し、すかさず突っ込みを入れる。

 

「…その三人はどうしたよ?」

 

「「「「「ZERO」」」」」

 

「OK、把握した」

 

支配人達が抱えている人物達―――ティーダと琥珀は全身黒焦げのまま、凛は未だ目を回したまま瀕死の状態だった。ZEROが暴れている状況の中で手当てをするのは危険だと判断した支配人達は、わざわざアジトまで戻って来る事にしていたのだ。

 

「で、結局ZEROはどうしたんだ?」

 

「モンスター達を潰しながらどっか行っちゃったよ。私達の方には見向きもしなかった」

 

「はぁ、あの戦闘馬鹿は…」

 

フィアレスの言葉に、思わず頭を抱えるmiri。名前を出しただけですぐに事情が分かってしまう辺り、ZEROの暴走する癖にはmiriも怒りを通り越して呆れる事しか出来ない。

 

その時だ。

 

「! …兄さん、他のメンバーも戻って来た」

 

「「「!」」」

 

ユイの指差した方向から、ディアーリーズ達が戻って来るのが見えた。それを見た支配人はディアーリーズ達に呼びかける。

 

「おう、お前達も戻ったか」

 

「「「「「……」」」」」

 

「…どうした?」

 

しかし、ディアーリーズ達はかなり沈んだ表情をしており、おまけに人数もディアーリーズ、刃、楓、真優、テレンス、イザベルの六名のみであり、何名か姿が見当たらない。支配人達はすぐに事情を察知し、代表して支配人が刃に問いかける。

 

「何かあったのか?」

 

「…えぇ、ありましたよ。色々とね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……ジョージさんが…!?」

 

「嘘だろ、おい…」

 

アジトの地下に移動した後、ディアーリーズ達は今回の捜索中に起こった出来事を説明する。愛華と目覚めたばかりのティーダや琥珀は、仲間のジョージが死亡した事を聞いて愕然としていた。

 

「すみませんでした。僕達がもっと周りに気を配っていれば、こんな事にはならなかったのに…」

 

「いや、お前達の所為じゃねぇさ……しかし、いざ仲間の死を聞くとやっぱキツいぜ。本当に慣れないもんだ…」

 

「…あれ? レイモンズさんやダニーさん、それに葵さん達は?」

 

「彼等は今も生存者の捜索を続けてます。ロキさんとBlazさんの二人も彼等に同行して、僕達は助けた生存者をここまで連れて来たんです」

 

「あぁ、なるほど。道理で姿が見えない訳だ…」

 

ここで、楓がある事に気付く。

 

「ん? そういえば支配人さん、蒼崎さんと竜神丸さんは?」

 

「あぁ、蒼崎はユーリのところにいるってさ。竜神丸は……あれ、アイツ何処に行ったんだ? 悪い、竜神丸については俺も分からねぇ」

 

「む、アルはここにいないのか……いたら匂いを嗅ぎたかったのに…」

 

(…キーラさん、何かブラコン度が増してきてる?)

 

竜神丸の不在を知ったキーラはシュンと落ち込んだ様子を見せ、それを見たディアーリーズは彼女のブラコンが悪化している事を何となくだが把握する。もし竜神丸が帰還すれば、間違いなく彼は彼女に飛びかかられてしまう事だろう。

 

「にしても竜神丸の奴、何処に行きやがったんだ? 何の理由もなくいなくなるのはいつもの事だが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お時間、取らせて頂いてよろしいですか? kaitoさん」

 

 

 

 

 

 

 

その竜神丸は現在、ユリスやフレイア、そしてkaitoの前に姿を現していた。しかし数秒前に竜神丸の口から告げられた一言は、kaitoに困惑の表情を浮かべさせていた。

 

「…いやいやいやいやいやいやいやいや!? ありえないでしょ!? 自分ただの武器商人だよ、武器商人!! そんな自分が何故に旅団の最高機密情報を知る事になんのさ!! おかしい、これはきっと夢だ!! 夢なら早いところ覚めなければ!!」

 

「落ち着きなさい」

 

「ぎゃん!?」

 

今までにないほど慌てふためているkaitoの後頭部に、竜神丸のハリセンによる一撃が命中する。

 

「今更あなたが何を言おうと、あなたは最高機密情報を知る権利を得た。そうなった以上、あなたには知るべき情報を知る義務があります。先に言っておきますが、拒否権は存在しておりませんよ」

 

「随分と無理やりな事を言うものじゃな、竜神丸とやらよ。本人は嫌がっておるではないか」

 

「あ、すみません。お二人は何処かに引っ込んでてくれますか? ハッキリ言って邪魔ですので」

 

「ふむ、言うてくれるではないか。失礼にも程があるぞ」

 

「事実ですし。それとも一言だけじゃ分かりませんか? 老けましたねぇ~」

 

 

 

-ブチッ-

 

 

 

たった一言。

 

竜神丸のたったその一言で、フレイアの怒りに火がつくのはあっという間だった。

 

「ほぉ~う……ワシ、最近耳ガ遠クナッテヨク聞コエナクテノォ~? モウ一度ダケ言ウテクレンカノォ~?」

 

「フ、フレイア…?」

 

「お、おぉ…見える、巨大な龍が見える…!!」

 

怒りの炎に燃えて、口調も片言になるフレイア。その背後に巨大な龍のオーラが形成されているのを見たユリスとkaitoは震え上がるも、竜神丸は相変わらずの涼しい顔で告げる。

 

「おや、本当に分からなかったようですねぇ……ではもう一度だけ言いましょう。邪魔なので引っ込んでてくれませんかねぇ、老けたドラゴンさん?」

 

 

 

 

 

 

「―――殺スッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「ちょ!? ま、待てフレイア!! 気持ちは分かるが取り敢えず落ち着け!!」

 

「エェイ離セェッ!!! コヤツダケハ、コヤツダケハ、今スグコノ場デ灰塵ニ帰シテクレルワァッ!!!」

 

「おぉ~怖いですねぇ~」

 

ユリスに抑えられていなければ、今にも龍の姿になって竜神丸に襲い掛かっているだろうと思われるくらい激怒しているフレイア。種族がどうであれ、やはり女性相手には年齢の話は絶対にタブーなのだ……最も、竜神丸からすればそんな事は知った話ではないのだが。

 

「まぁ実際、kaitoさんとの二人きりにならなければ話が出来ないのは事実ですしね。そんなに怒り狂ってないで、早いところ席を離れてくれると助かるのですが」

 

「誰ノ所為ダト思ウトルンジャ!!! 誰ノ所為デ!!!」

 

「はいはい分かりました、私が悪かったですよ。まぁとにかくkaitoさん、早速場所を変えて話がしたいのですがよろしいですか?」

 

「ちょ、今のこの状況でそれを聞くの!? 怖いんですけど!! そこにいる超綺麗な美人さんがめちゃくちゃ怖いんですけど!!」

 

「…超綺麗、とな? ほぉ、お主は世辞が上手いのぉ~♪」

 

((あ、機嫌直った))

 

kaitoの「超綺麗な美人」発言に、フレイアは一瞬で機嫌が直り満更でもなさそうに鼻歌を歌い出す。ひとまず彼女の怒りが収まった事にkaitoとユリスは安堵し……そしてkaitoは竜神丸の方に振り返る。

 

「…それで、真面目に聞かなきゃいけない訳? その話は」

 

「えぇ、真面目に聞いて下さい。OTAKU旅団の目的の根幹に関わって来る話ですので」

 

「…やっぱ帰って良い?」

 

「駄目です」

 

「ガ~ン」

 

結局kaitoはその場から逃げられず、竜神丸から話を聞かされる羽目になるのだった。この時、機嫌の直ったフレイアがユリスに抱きついてユリスが慌てふためていたのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、別の場所では…

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、やはりこんな物ですか」

 

『グゥ……ハァ、ハァ…!!』

 

軍刀を手にしたデルタはつまらなさそうな顔をしたまま、地面に倒れているミノタウルスを見据える。ミノタウルスは全身から血を流しており、既に満身創痍だった。

 

「この世界のモンスターはどれくらい強いのかと思えば……やはり期待外れでしたね。いつもよりだいぶ手加減もしてあげたというのに、全盛期でない私に傷一つ付けられないとは」

 

『グ、ゥ……この、人間如きに俺がぁ!!』

 

「無駄です」

 

 

 

-バギャアッ!!-

 

 

 

『な…!?』

 

デルタの腹部目掛けて振るわれたミノタウルスの金棒も、デルタの腹部に命中した途端に粉々に砕け散る。想定外の事態に驚愕するミノタウルスを他所に、デルタは欠伸をしながら一本の武器を取り出す。

 

「ふぁぁ……さて、そろそろ終わりにしましょうかね。私も飽きちゃいましたし」

 

『こ、この……嘗めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

ヤケクソとなったミノタウルスは、デルタに向かって拳を振るおうとする。しかしミノタウルスの拳が真上に振り上げられた瞬間―――

 

「わざわざ隙を見せるとかご親切ですねぇ」

 

 

 

-ドスッ-

 

 

 

『!? !? !? !? !? ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

デルタの肘から放出された毒針がミノタウロスの腹部に突き刺さり、その瞬間ミノタウロスは地面にのたうち回り始めた。

 

巨針蟻(ディノポネラ)……別名で“弾丸蟻”とも呼ばれる最強の蟻。その蟻が最強と呼ばれる由来は、毒針で刺された際に銃弾で撃たれたような激痛が24時間以上続くことから来ています。そしてたった今あなたの体内に注入した毒は「もし腕を刺された時に鎌があれば迷わず斬り落としていただろう」とも言われるくらいの激痛を伴います」

 

『アガァァァァァァァァァァァァァァァァ!?』

 

「残念でしたねぇ? 刺されたのが腕でなくて。もし腕に刺さっていれば、腕を斬り落としてその苦痛から逃れられていたでしょうに」

 

デルタが説明するも、ミノタウルスは毒で苦しんでいる為にそれどころではなく、デルタの話など彼の耳には全くと言って良いほど聞こえてはいない。

 

「とはいえ、あなたの悲鳴も割とうるさいですねぇ……まぁそういう事ですので、とっとと死んで下さい。この私の為にね」

 

 

 

-シュパパパパァッ-

 

 

 

のたうち回っているミノタウルスの真横をデルタが通り過ぎた瞬間、ミノタウルスの全身が一瞬でサイコロ状に斬り分けられる。ミノタウルスだった大量の肉(・・・・・・・・・・・・・)が地面に落ち、デルタは軍刀に付いた返り血を振り払ってから鞘に納める。

 

「さて……出て来なさい。いるのは分かってますよ? okakaさん」

 

「…まぁ、やっぱ気付くよなぁ」

 

デルタの後方にある建物の陰から、okakaがひょこっと顔を出す。

 

「何時から気付いてたんだ?」

 

「だいぶ前からです。あなた、ずっと私の事を監視していたでしょう?」

 

「あぁ、それについてはすまなかった……にしても、また随分と殺したな」

 

okakaが振り返った先には、ミノタウルス以外にも多くのモンスター達の死体が転がっていた。骨だけが残っている死体、バラバラに分解されている死体、全身に毒針が刺さっている死体など、どのモンスターも死体がまともな形で残っておらず、デルタがこれまでにどれだけ残虐な攻撃をしていたのかがよく分かる。死体に見慣れている筈のokakaでさえ、この光景には苦い表情を浮かべている。

 

「本当に凄い光景だよ……こういう光景、まるでマグリブの時と同じだ。なぁ? デルタさん」

 

「マグリブ? 何ですかそれ? okakaさん、あなたもとうとう頭でも打ちましたか? 私はそんな名前など知りもしませんよ」

 

「…あぁ、すまんデルタさん。あれは別のメンバーとの任務だった」

 

「しっかりして下さいよ? これから先、まだまだ多くの仕事がありますからね」

 

「あぁ、分かってる」

 

「…さて、そろそろ他のメンバーと合流しましょうか。と言っても、何処に誰がいるのかまるで分かりませんけども」

 

デルタはその場から歩き始め、okakaもそれに続く。okakaはデルタの後ろ姿を見つめる。

 

(やっぱりな……デルタさんにとって重要である筈の、マグリブの事までご丁寧に忘れてやがる。誰かに記憶を書き換えられて、マグリブの事を忘れさせられたとしか思えない……うん、間違いなく竜神丸だな。アイツ以外に考えられない)

 

デルタの様子がおかしい事には、早い段階から気付いていたokaka。デルタが記憶を改竄されている事も察知したが、旅団メンバーの中で記憶の改竄が出来そうな人間は一人しか思いつかない。

 

(何が目的だ? 団長の許可もなくそんな事をすりゃ、本来なら処罰ものだ……まさか、団長がそれを容認したのか!? だとすれば何の為に…)

 

ますます疑問が複雑になってしまったokaka。しかしどれだけ考えたところで、それを探る為の情報が無ければどうしようもない。

 

(…ちょっとばかり、調べ物をしないとマズそうだな。後はデルタだけでなく、竜神丸の監視もした方が良さそうかも知れん)

 

そんな事を考えつつ、okakaはデルタの後ろを付いて行く。しかし彼はまだ気付いていなかった。現時点で、竜神丸の暗躍は更に進行しているという事に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、Unknownが連行された洞窟では…

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「はぁ、はぁ、はぁ…♪」」」」」

 

「あ、ぅん…♪」

 

「…あれ、何この状況」

 

既に“行為”を終えた後だからだろうか。全裸姿であるUnknownの周りには、全身をビクビク痙攣させたまま地面に倒れているモンスター娘達がいた。この集団のリーダーであるサキュバスすらも、全身が汗だくな上に顔を赤くしたままピクピク震えており、どうにか身体を起こすのがやっとだった。

 

「ゆ、油断してたわ……まさか…こんなにも凄いなんて…!」

 

「いや、あそこまでやられたのであれば悪あがきもするさ。むしろこの程度で根を上げたのか?」

 

「う、嘘……あれだけやって、まだやれるの…!? 可愛い癖に、末恐ろしい子ね…」

 

「悪かったな。というか可愛いと言うな、一応私は男だ……さて。そろそろ聞きたい事を聞かせて貰おうか、この世界の事についてな。あと服も調達しなくては」

 

「あら……そんな事、私達が答えると思うかしら?」

 

「嫌とは言わせんぞ」

 

「あ…!?」

 

逃げようとするサキュバスをUnknownが取り押さえ、思いきり地面に押し倒す。最初の時と違い、今度はサキュバスがUnknownに襲われているかのような光景になる。

 

「あらやだ、拷問する気かしら?」

 

「私は情報を聞きたいだけだ。そちらが望むのであれば、また続きをしてやっても良いが?」

 

「あん、また食べられちゃう…♪」

 

その時…

 

「「アン娘(さん)!!!」」

 

朱音と瑞希の二人が、洞窟内に飛び込んで来た。もちろん囚われの身であるUnknownを助ける為だ……しかし、今回の場合はタイミングが悪かった。

 

「「…あ」」

 

「「…あ?」」

 

朱音と瑞希の目の前には、全裸のままサキュバスを押し倒しているUnknownの姿が映っていた。この数秒後に何が起こるか、Unknownは容易に理解した。

 

「ま、待て二人共!! 話せば分か―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「O☆HA☆NA☆SHI……しましょっか?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Noooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!???」

 

それから数分間、UNknownの断末魔が洞窟内から外まで響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃっ!?」

 

「あ、あの、awsさん……今の声は…」

 

「私に聞かないでくれ。頼むから」

 

 

 

 

 

 

当然、awsの胃痛がまた酷くなってしまったのは言うまでもない。

 


 
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