許昌襲撃事件の前日 洛陽 猪々子視点
劉協「ではこれより、三国合同会議を行う」
今この場には、あたいと斗詩で両脇を固めたアニキ、麗羽様、華琳、風、蓮華、冥琳、桃香、朱里、雛里、劉協様、李儒、そしてそれぞれの国の護衛として愛紗、鈴々、星、紫苑、春蘭、思春、高順が居る。
洛陽の無駄に広々とした玉座の間。
玉座が設置されている前には円卓があり、皆がここに座っている。
これだけの人数が一度に集まってもまだまだ余裕のある空間。
恐らく、後五百人くらいが入っても余裕があるだろうな
猪々子「ふわぁ…」
何てことを思いつつ、あたいは三国の首脳陣が一堂に会するこの会議を眺めていた
正直、つまらない。
あたいはただの護衛なんだ。口出しする事もないし、口を出したところで、影響力はないと分かっている。
時々入る、アニキの女性問題は、聞いていて少し面白いが
劉協「では、次は劉淵殿の件についてなんだが…」
劉淵?聞いたことがある名前だ。確か、現五胡の代表で、【晋】にも一度来ている。
一線級の実力者であり、民を想う王の風格を纏う女傑。そんな印象だ
華琳「彼女と、その場にいた沙和が行方不明、ねぇ。これもまた、徐福って奴の仕業なのかしらね」
劉淵だけでなく、沙和まで?一体どういう…
「いかにも。劉淵殿は余が指示した事である」
見知らぬ女の声が玉座の間に響き渡る。
その声の持ち主は、先程まで誰も座っていなかった筈の玉座に悠々とした態度で座っている。
その両脇には、彼女の護衛らしき人物も立っていた
猪々子「なんだテメェ?どっから入ってきた?」
あたいは大剣を構え、その女に問い掛ける。
依然、その女は座ったまま、笑みを崩す事はなかった
浸入に気が付かなかった。この場の誰もが。目の前の女は、自然に、いつの間にか溶け込んでいた
「なんじゃ狂犬?王の前であるぞ?無礼ではないか?」
女はあたいを見る。その瞬間、あたいは異様な悪寒に襲われた。
その瞳がとても淀んでいるように見えた。
まるで、深い闇のような…あたいの五感の全てが警告している。こいつは危険だと…
猪々子「っ!」
斗詩「文ちゃん!」
あたいは無言で女に斬りかかった。
こいつは殺さないとマズイ。姿形は人間のそれなのに、中身がそうとは思えなかった。
なんの根拠もないのに、目の前にいるこいつが化け物に見えた
「ほう?」
あたいは女の元まで飛び、女の頭上に大剣を振り下ろす。
両脇にいた奴らは動かない、もしくはあたいの動きに反応出来なかった。
好都合だと思った。だが…
「悪くない。実に悪くない。単身で余に手を出させるとは、余程の剛の者であるのだな」
あたいの大剣は、軽々と片手で止められた
猪々子「なに!?」
麗羽「猪々子を止めた!?」
麗羽様の驚く声が聞こえた。だが、あたいはその声に反応する程の余裕がない。
あたいの大剣が、微動だにしないのだ
徐福「ふむ、褒美を与えよう。お主が先程問うた質問を答えてやる。余は徐福。そうさのぉ…ここ最近、お主らを騒がせておる元凶というやつじゃな。そして、余がどの様にしてここに入ったかと言うと…普通にそこの扉からじゃが?ここには扉が一つしかないんじゃから、当然であろう?」
当然?馬鹿言うな。
この部屋唯一の扉は閉まっていて、尚且つ扉の前には愛紗と春蘭が居るんだぞ?
普通じゃ絶対に入れねぇ!
猪々子「チッ!」
あたいは大剣を捨て、一旦距離を取る。
殺さないとマズイとはわかっているが、あたいの第一目標はアニキの護衛だ。
それを全うしなきゃならねぇ
一刀「お前が徐福?へぇ、どんな人かと思っていたが、随分若いんだな」
アニキは立ち上がり、二振りの刀のうち、長い方をあたいに貸してくれた。
この場にいる全員が武器を構える。
それでも、徐福と名乗った女はそれすら愉快だと言わんばかりに、笑みを大きくする
徐福「ふふ、世辞が上手いのう、小僧。余はこう見えて、400年は生きておるのじゃがな」
400…?
華琳「まさか貴女、本物の徐福と言うんじゃないでしょうね?」
徐福「本物、じゃと?余に偽物でもおると言うのか?誰じゃ?その無礼な奴は?」
彼女の表情や声音が、その言葉を本心で言っているものだと、きっとこの場の誰もが感じ取った。それと同時に、あり得ないという感情も…
冥琳「驚いたな。あれは零士殿の与太話だと思っていたが、まさか本物だとは」
一人、冥琳だけは、目の前の徐福を見ても冷静に分析しているようだった
確かに零士は、不老不死に近い術があると言っていた。
何百もの人間を贄に一人の人間の肉体の老化を抑える。確かそう言っていた気がする
劉協「と言うことは、始皇帝が命じていた不老不死の秘術を完成していたと言うのか?」
徐福「始皇帝?もしやあの愚王の事か?フハハハハ!懐かしいな!そうそう!余はその愚王の命で、不老不死の秘術を研究しておったのじゃったな!」
まるで、旧友と再会したかのように、徐福は喜びを露わにした
徐福「研究は成功しておったよ。余がその生き証人じゃ。その秘術で400年、老いることなく生きてきた。まぁ、あやつには教えなかったがな。あんな生に固執した愚王なんぞ、精々朽ち果ててしまえと思っておったからな」
クツクツと笑って言う徐福の姿が、歪んで見えた気がした。やはりこいつは、人間を辞めている
一刀「何故、今になってこんな事を?」
徐福「ふむ、長く生きておると、段々退屈になってしまってなぁ。余は元々導師だったのじゃが、その道を極め、さらに武術も極め、多種多様な職人芸は全て極めて来たと自負しておる。それが約100年も前の事。暇じゃったのじゃよ。極めるとは、もうその先がないのじゃからな。そしてある日、余は思い至った。そうじゃ、世界制服でもしようと」
とても軽く、とんでも無いことを言い放った。こいつは今、なんと言った?世界制服?
蓮華「馬鹿馬鹿しい!世界制服ですって?」
蓮華がこの場を代表して言った
徐福「馬鹿馬鹿しいじゃと?何を言うか。余は常々思っておった。何故、この広い世界から争いがなくならないのかと。人間は争ってばかりじゃ。争い、殺し、奪い…多くの血と涙が流れ、悲しみ、嘆き、怒り、恨む。にも関わらず、人は争う事を止められない。余は長年生き、その解を得た。人間は欲深い。その欲深い人間が何人も王を名乗り、奪い合うから争いは無くならないのじゃと。なら、余がその王となろう。この世界唯一の、人間を管理する王になろうと、そう至ったのじゃ」
正直、目の前の怪物が何を話しているのか、理解できなかった。
あたいが馬鹿なのか、それともこいつがあたい以上の馬鹿なのか。
同じ言語を話しているとは思えないほど、頭が理解しようとしなかった
愛紗「あぁ、馬鹿馬鹿しいな!貴様のはただの妄言だ!そんな戯言で、我々が築いてきた平和を壊されてたまるか!」
愛紗は青龍偃月刀を徐福に構えて啖呵を切った
その瞬間、華琳や軍師陣達が苦々しい表情をした
徐福「平和?平和じゃと?お主は阿呆か?この場の何人かは気付いておるようじゃが、この大陸は平和とは言えん。お主のその鉾が良く示しておるではないか?この世が真に平和なら、何故お主は武器を構えておる?何故鍛える?」
愛紗「それは、敵がいるから…」
徐福「そう敵じゃ。お主らには敵がおる。それは、余が事を起こす前から居た五胡もそうじゃろう。その敵を討つために武器を取り、鍛える。さて、今一度問おう。それで、本当に平和と言うのか?それとも、争いのあるこの世も、平和と言うのか?戦った誰かが傷付き、死に、悲しみ、憎悪するこの世が」
それは、かつて零士も嘆いていたどうしようもない事実であり矛盾。
悪が栄えたためしはないとは言うが、悪が消える事もない。
そして、その悪を減らす為に武力を持って制する。その度に誰かが傷付き、悲しむ。
終わりの見えない、終わらない負の事実だ
徐福の言葉は、この場の誰の心にも深く刺さったらしく、皆が下を向いていた。
あの愛紗でさえ、言い返せないでいる
一刀「それでも、俺達は戦わなければならない。矛盾を抱えているのはわかっている。終わりがないとも理解している。それでも、誰かが戦わなければ、誰かが悲しむんだ。俺達の務めは、そんな誰かが少しでも悲しまない世界を作る事だ」
アニキが力強く言った。その言葉に、徐福は少し目を見開き、嬉しそうに口元を歪ませた
徐福「良い良い!お主、なかなか良き男じゃの!どれ、その顔、もっと近う見せ」
徐福が言った瞬間、徐福の姿が目の前から消えた。それと同時に、異常な圧力を背後から感じた
徐福「ほう、顔もなかなか。なるほどなるほど、天の御使いと呼ばれる男がどれほどの者かと思っておったが。いや悪くない」
一刀「な!?」
徐福はいつの間にか、アニキの背後を抱き締めるように捕まえていた
猪々子「テメェ!アニキを離せ!」
あたいは刀で徐福の頭を貫こうとする。だけだそれは叶わず、再び目の前から消えてしまった
鈴々「速い!」
鈴々は徐福の動きを目で追えたようだ。
その徐福は、アニキを抱えたまま再び玉座に腰を下ろしている
桃香「ご主人様!?」
チッ!やべぇ!あたいがいながら、何簡単に抜かれてんだよ!?これじゃあ下手に動けねぇぞ!
徐福「なるほどなるほど、鍾会の言っておった通りか。お主ら、三国にそれぞれ王がおると言うのに纏まる事が出来たのは、全てこやつの存在有ってこそか」
華琳「あら?どういう意味かしら?その男の価値はその男が有している知識だけよ。発言力がある訳でも、仕事が出来る訳でもない。そんな男が居なくても、私達は協力する事が出来たわ」
華琳が冷静に微笑んで吐き捨てた
徐福「つまり、こやつは王ではないと?」
華琳「えぇ。ただ、有益な知識を有しているだけよ。殺すには惜しいが、もしその男を使って三国を乗っ取る気でいるなら、無駄よ」
徐福「ふむ、強がっている訳ではないな。どれ、では…」
瞬間、ぼとり、と重いものが落ちる音が聞こえた。それが何なのか理解するのに、数秒を使ってしまう
頭だった
誰の頭だ?いや、そんなのは考えなくてもわかる
だけど、きっと誰もが、そんな筈はないと否定した
その頭が、ころころとこちらに転がってくる
そして見せた顔は…
華琳「か、一刀?」
恐怖に目を見開いた、アニキのものだった
桃香「い、いやぁぁぁぁぁ!!!?」
桃香の悲鳴が響き渡る。
他の皆は、目の前で起こった事が未だに信じられず、茫然自失としている
徐福「試させてもらうぞ、覇王よ。お主の言葉が、意思が、この男を殺した」
華琳「そ…ん……」
猪々子「テンメェェェェェェ!!!」
徐福の笑い声が響き渡る。あたいは全力で駆け出し、徐福に向けて刃を突きつける
ガキン
だけどそれは、あたいが使っていた大剣で受け止められた
徐福「良い気迫じゃ、狂犬!じゃが、一歩届かんかったな」
高順「よくも北郷様をぉぉぉぉぉ!」
止められた直後、あたいの背後から高順が槍で突進してくる。
あたいはそれに気付き、一旦距離をとって高順と代わった。高順の槍は止められた。
だが!
猪々子「【晋】流抜刀術!」
刀を一旦鞘に収め、全身全霊の力を込めて一気に抜く。
神速で抜かれた刀は、徐福の大剣を持っていた方の腕を刈り取った
鮮血が吹き、腕と共に大剣が宙に浮く。あたいは大剣を手に取り、それと同時に振り下ろした
大剣は徐福の胴体を縦に切り刻む。さらに追い討ちの如く、高順も槍を心臓に突き刺した
猪々子「はぁ…はぁ…」
やったはずだ。これだけ血を流せば、普通じゃ立てねぇ
だけど、なんだこの悪寒は?
それに、徐福の両脇に居たこいつらは、なんで動かねぇ?自分の主人がやられてんのに…
徐福「クハッ!良い良い!じゃがやはり、殺すまでには至らん!」
高順「なに!?グハッ!」
猪々子「高順!ガハッ!?」
高順が吹っ飛ばされたかと思うと、その直後に腹にとんでもない衝撃が走る。
メシメシメシと骨が悲鳴を挙げ、何本かは鈍い音と共に折れたと分かる。
そして、高順同様、扉付近まで吹き飛ばされた
麗羽「猪々子!」
斗詩「文ちゃん!」
ゴホッゴホッ!クソッ!なんだあの威力!?咲希と同じかそれ以上じゃねぇか!
徐福「なんじゃ?もう誰も来ないのか?」
猪々子「ガフッ!…な!?」
くいくいと、指で来いと誘ってくる徐福の手。
だが、その手はおかしいのだ。その手は、先程あたいが切り落とした方の手なのだから
斗詩「お前ぇぇぇぇ!!!」
だ、ダメだ斗詩!クソッ!声が出ねぇ!
劉協「止まれ斗詩!」
麗羽「止まりなさい顔良!」
お嬢と麗羽様の声で、斗詩は何とか踏み止まった。
斗詩は今にも踏み込みそうな勢いで徐福を睨みつけている
徐福「動いたのは、狂犬と男とそこの三人…いや、そこな文官もか。いつの間に救援を呼んだ?」
李儒「…この城に勤めている時間だけは、誰にも負けませんから」
恐らく、あたいと高順、斗詩、麗羽様、お嬢、それにお嬢の近くに居た李儒の事を言っている。他は精神的にキているのか、まだ立ち直れていない
徐福「ここまでじゃな」
徐福がパチンと指を鳴らす。すると、先ほどまで首が無かったアニキの体に、首が戻っていた
猪々子「な…ん…」
誰もが戸惑った。それは、当の本人であるアニキもそうだろう。アニキの顔には困惑の色が見られる
徐福「幻術じゃよ。この男は死んではおらんよ。じゃが証明されたな。お前達は、この男がおらねば何もできない。お前達は、国より男を取った。だが恥じる事はない。それはとても人らしい。欲に従ったお前達に何の非はない。じゃが、この男の命と引き換えに、国は貰うがな」
徐福は笑った。とても愉快に、とても邪悪に
一刀「ダメだ、みんな!」
徐福「無駄じゃよ天の御使い。見てみよ、あの女の悲痛な顔を。愛されておるなぁ、お主は」
徐福はアニキを抱えたまま立ち上がった。そしてアニキを両脇に居た奴の一人に預ける
徐福「鍾会、こいつを独房にでも入れておけ。殺すなよ。それ以外なら好きにして構わん」
鍾会「畏まりました、徐福様。うふふ、ようやく二人きりになれそうですね、御使い様」
鍾会と呼ばれた女が舌舐めずりをする。あいつは確か、この洛陽で働いていた奴じゃ…
猪々子「ぬ…アアアアァァァァ!!」
んな事、今は関係ねぇ!止めなきゃ!アニキが連れてかれちまう!
あたいはボロボロになった体を無理矢理起こす。側に落ちていた刀を拾い、再び徐福に飛びついた
鈴々「ご主人様を離せーー!!」
鈴々も立ち直ったらしく、一緒に合わせてくれた。あたいはそれを確認し、刀を振り下ろす
徐福「ほう?あの傷でまだ立ち上がるか狂犬。真、良き闘志じゃ。それに、もう一人のその蛇矛。お前が張飛じゃな?」
あたいの刀は片手で受け止められた。
しかも、そのままとんでもない力で刀を奪われ、鈴々の蛇矛さえも止められてしまう
鈴々「チッ!ハァァァ!」
鈴々は一度止められただけでは止まらない。
さらに一撃、二撃と重ねていく。あたいもそれに続いて、素手で徐福を攻撃した。
重い攻撃は、徐福の涼しい顔に反して、徐福の体を地に徐々に沈めていった
徐福「林冲、見せてやれ」
林冲と呼ばれたもう一人の女が前に出る。その背に背負われていたのは…
鈴々「!?せ、星彩!」
鈴々の娘、星彩だった。どうやら眠っているようだが…
その瞬間、鈴々の攻撃はぴたりと止まってしまった。
何故なら、星彩の首には、短刀が突きつけられていたから
猪々子「チッ!やぁぁぁ!」
あたいは攻撃を止めなかった。だがそれも、一瞬で終わる
徐福「終わりじゃよ狂犬。なかなかに、愉しめたぞ」
徐福がそう言った瞬間、徐福の鋭い蹴りがあたいの横腹を直撃した。
あたいはその衝撃に耐えられず、そのまま壁に激突してしまう
そしてあたいは、意識を手離した
猪々子「ん…」
ふと、目が醒める。身体中の節々が痛み、呼吸をするのさえ苦しい
ここは、どこだ?
硬い地面に寝転がっていたあたいは、周囲の状況を確認する為に辺りを見回す
薄暗く、肌寒い、石の部屋。目の前には鉄の格子
あぁ、何となくわかった。ここは牢屋か。でも、なんで牢屋に?
あたいは意識を失う前の記憶を思い起こす
確かあたいは、アニキの護衛として、あの三国合同会議に出席していて。
つまんねぇ会議に欠伸をかいて。そしたら徐福が…
猪々子「徐福!あぐっ!?」
思い出すと同時に、身体が悲鳴を挙げた
あぁそうだ、あたいは徐福にやられて、こんなボロボロなんだ。
クソッ!サボってたのは認めるけど、あんな一方的にやられちまうなんて…
「む、猪々子、起きたのか?」
突如、暗闇から声がした。
あたいはその声のする方へ向くと、そこには薄暗いながらも、桃色の短髪が特徴的な女性がいた
猪々子「その声、その髪色、お嬢か?」
劉協「あぁ、無事であるか?」
無事…なのか?これは間違いなく何本か折れてる。
それでも生きているのだから、無事と言えなくもない
猪々子「はい。お嬢も無事ですか?」
劉協「我は無傷だ。体もピンピンしている」
それは良かった。だけど、いったい何でお嬢がこんな所に…
猪々子「あたいが気ぃ失った後、どうなったんですか?」
劉協「そうであるな、結論から言えば、三国は乗っ取られた。桃香も蓮華も華琳も、北郷を人質に従った。麗羽は、お前と我を人質に従った」
麗羽様まで…クソッ、あたいが不甲斐ねぇから
劉協「ここにはお前以外に、李儒と高順、北郷、馬超、それに宋江と呼ばれるものがおる。まぁ、今は寝ておるがな」
そうか、アニキも李儒も高順も、それに翠までここに居るのか。あと、宋江?って誰だ?
宋江「宋江とはこの私の事です」
猪々子「うおっ!?だ、誰だあんた?」
突然、別の牢屋から声がしたので驚いてしまった。とても澄んだ女性の声だった
宋江「私の名は宋江。梁山泊の頭を張らせていた者だけど…今はあなた達同様、徐福に捕まっています」
猪々子「!?梁山泊ってあの?」
確か、徐福と一緒に行動してた奴じゃ
劉協「梁山泊も、我達と同じなのだ。そこの宋江を人質に活動を強要されていた」
猪々子「そ、それじゃあ…」
劉協「あぁ、黒幕は徐福だ」
宋江「それでも、私の仲間が世間を騒がせていたのは事実です。このお詫びは必ず…」
猪々子「い、いや、そんな、お前のせいじゃねぇよ。脅されてたんなら仕方ねぇって」
宋江「いえ、それでは梁山泊の名折れ。必ずや、贖罪を!」
まいったな。というか、あたいの一存で決める事でもねぇし
劉協「事態は色々複雑のようであるが、今はお前も休め。連中、どうやら殺す気はないらしい」
猪々子「どういう事ですか?」
劉協「人質という事もあるが、あいつの計画に我達が必要らしい。それが何かはわからんが、それまでは生かす気でおるだろう」
計画?世界制服とか言っていたが、まだ何かあるのか?
劉協「それに、生きているのなら再起を図れる。もうあやつらに迷惑を掛けたくは無かったが、この国には三国以外にも頼れる存在がいる。そして、あやつらは家族を第一に考えている。必ずあやつらは動くはずだ。その時が来るまで、今は体を休めておけ」
…あぁそうか。そうだよな。ここにあたいが居るって事は、そうなるよな。
不謹慎だけど、それが少しだけ嬉しく思っちまった
劉協「まったく…まさかまたここにぶち込まれる事になるとはな」
状況は最悪だってのに、お嬢の様子はどこか落ち着いていた。
いや、声音は不安も見え隠れしているが、この状況に慣れているという様子だ。
それが、少しだけ頼もしい
猪々子「また?お嬢は前もここに?」
劉協「ふむ、そうであるな。どうせ暇なのだ。少し思い出話でも語るとしよう。あれはお前達が連合を立ち上げた時…」
あたいはお嬢の話を聞きながら、体を休める事にした
そう、【晋】は必ず動く。
なら、あたいもそれまでに、少しでも調子を整えなきゃならねぇ。
徐福め、この借りは倍にして返してやる
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