No.757054 ALO~妖精郷の黄昏~ 第60話 死する竜、悲しみの戦火本郷 刃さん 2015-02-08 14:37:01 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:5144 閲覧ユーザー数:4616 |
第60話 死する竜、悲しみの戦火
グランド・クエスト[神々の黄昏]
『侵攻側クエスト[終末の黒き龍]:ニーズヘッグと共にフレースヴェルグを討て』
『侵攻側クエスト[黄金の抱擁]:ファフニールと共にシグルズとブリュンヒルデを迎撃せよ』
『侵攻側クエスト[終焉の火葬]:シグルズを討て』
『防衛側クエスト[死者喰らいの鷲]:フレースヴェルグと共にニーズヘッグを討て』
『防衛側クエスト[剣の英雄]:シグルズと協力してファフニールを討て』
No Side
――アルヴヘイム・アルン高原東部
央都アルンを囲むアルン高原の東部、ここでもオーディン軍とロキ軍の戦いが起きようとしていた。
両軍を率いる者達が先頭に立ち、いますぐにでも開戦の火蓋が切られそうだ。
オーディン軍を率いているのは〈
それに〈
フレースヴェルグは白い大鷲であり、その名前は“死体を飲みこむ者”の意を持つ。
その意味ゆえに彼はラグナロクの時に死者を嘴で引き裂くほか、世界のあらゆる風を巻き起こすとされている。
だからこそ、彼の攻撃には風属性とアンデッド殺しの効果が付加されている。
シグルズはその身を白銀の甲冑で包み、同じく白銀の兜を被っており、その髪もまた白銀の輝きを持つ。
左手には彼の愛用する『魔剣グラム』が握られており、ユージーン将軍の持つ『魔剣グラム』と同じである。
また、右手の中指には魔法の指輪『アンドヴァラナウト』が嵌められている。
ブリュンヒルデは美しい炎髪灼眼の女性であり、紅き甲冑と白鳥の羽衣に身を包んでいる。
右手に持つ紅いランスにテュールと同じく勝利のルーン『
彼女はワルキューレであると同時にその筆頭格の1人であり、“戦死者を選定する女”の意を持つヴァルキリーだ。
さらに、彼女は主神であるオーディンを父に、
知の女神にして大地の化身である女神のヨルズを母に持ち、一説にはトールの妹であるともされている。
この者達の背後には他の三ヶ所と同じく1000体規模のエインフェリアとワルキューレが控え、
オーディン軍のプレイヤーも4つのレイドから構成されているため200人を超えている。
対し、ロキ軍を率いるのは〈
黒い鱗でその身を覆い、翼をはばたかせて空に滞空するのはニーズヘッグ。
彼の名前には“怒りに燃えてうずくまる者”という意味があり。
また、口周りは彼が啜った死者の血によって赤く染まっている。
フレースヴェルグとは罵り合うほどに仲が悪く、今も視線だけで射殺せそうなほどに睨みつけている。
黄金の鱗で身を包み、翼は無いがその巨体で大地を揺らすのはファフニールである。
絶対防御とも言えるほどの防御力を誇り、弱点らしき場所は少ない。
そんな彼の名は“抱擁するもの”の意がある。
彼らの背後にはアンデッド型と邪神型のMobが隊列を組んでおり、その数は合わせて700体ほど。
ロキ軍のプレイヤーはレイドが2つとそれ以上の人数なので120人くらいだろう。
ロキ軍のボス2体に対して、オーディン軍は3体という風にも捉えられるかもしれないが、
ファフニールのステータスと神々に対するシグルズとブリュンヒルデのステータスを考えれば、妥当なところなのだ。
「世界樹から離れてこのような場所まで来るとはご苦労なことだな、フレースヴェルグ!」
「ふん、貴様のその煩い声を出す喉元を食い千切ることが出来るのならば苦労などではないぞ、ニーズヘッグ!」
「我を討ち果たさんとするか、英雄たる人の子と戦乙女よ。ならばかかってくるがいい」
「行こう、ブリュンヒルデ! この戦いを終わらせるために!」
「ええ、シグルズ! 貴方とならどこまでも!」
ニーズヘッグとフレースヴェルグは互いに罵り合い、ファフニールはただ悠然としており、
シグルズとブリュンヒルデは意気込んで黄金の竜の前に立ち塞がる。
両軍共に気合いは十分、相手を全力で倒すことだけが彼らの
そして、ボスである彼らが動きだし、戦いが始まった。
ニーズヘッグとフレースヴェルグ、黒い竜と白い鷲がその巨体をぶつけ合い、ダメージを負い合う。
かなりの重量だがどちらも高速で飛行できる存在であるため、衝撃も凄まじく衝撃波も発生して周囲に影響が出る。
「相変わらず速さだけのようだな、貴様は!」
「そういう貴様こそその無駄な図体をどうにかしたらどうだ!」
相手への罵倒を減らさずにぶつかり合う両者は巨体がぶつかる瞬間に噛み付き合う。
ニーズヘッグの無数の歯がフレースヴェルグの首元に歯を突き刺し、
フレースヴェルグは鋭い嘴が突き刺さるようにニーズヘッグの首に齧り付いた。
どちらも同じタイミングで噛み付き、さらに同じタイミングで放して距離を取る。
「フゥ~…カァッ!」
「ハァァァッ!」
大きく息を吸い込んだ次の瞬間、ニーズヘッグは闇のような黒い炎をブレスとして吐いた。
だがフレースヴェルグは翼を激しくはためかせることで激しく大きな竜巻を放って相殺した。
炎と風がぶつかり合って爆発が起こるが、いまの攻撃はどちらにもダメージを与えることはなかった。
しかし、それだけでは終わらないのがボスである彼らだ。
ニーズヘッグは再び接近すると前脚の爪でフレースヴェルグを切り裂き、
対抗してフレースヴェルグは両足の鉤爪でニーズヘッグを切り裂く。
体や翼をぶつけ合い、爪や鉤爪で切り裂き合い、歯や嘴で噛み付き合い、ブレスと暴風をぶつけ合う。
巨大な黒竜と白鷲が戦うその様は特撮でありそうな怪獣決戦にも見える。
そのあまりの激しさにプレイヤー達は中々介入が出来ないほどだ。
「「死に晒せぇぇぇっ!」」
激しい罵りを絶えず投げかけながら、彼らは戦いを続けていく。
ファフニールはただその場に立ちながら、守ることもせずに粛々と攻撃を行う。
4本の脚で敵を払っては潰し、尾で薙ぎ払い、噛み砕き、ブレスを吐く。
NPCであるエインフェリアとワルキューレ、そしてプレイヤー達に損害を与えていく。
だが、それに待ったを掛ける者達が居る、シグルズとブリュンヒルデだ。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「焼き尽くされよ!」
「ぐっ、その剣、『魔剣グラム』だな…!」
雄叫びを上げながらその手に持つグラムでファフニールを斬ったシグルズ。
絶対防御とも言われ、ダメージをまともに与えることが出来なかったはずだが、ファフニールは容易にダメージを負った。
さらにはブリュンヒルデが放った炎の魔法が開いている瞳に直撃し、大きくはないもののダメージを受けた。
ファフニールはグラムに対してだけ弱点を持っており、グラムにだけはその鱗を斬り裂かれてしまう。
「我を斬ったのだな、黄金である我を……面白い! この身を斬り裂く者が現れる、これほどの祝福は無い!
さぁ、死した人の子にして英雄のシグルズよ! その戦乙女と共に我を楽しませてみよ!」
気分が高揚したファフニールはいままでとは違い、静かな雰囲気から一転して体を動かし始めた。
前脚を思いきり地面に叩きつけるとそこから無数の黄金の棘が生えていき、シグルズ目掛けて向かっていった。
シグルズはそれをグラムで斬り裂くもダメージを負い、けれどブリュンヒルデがその場に降り立ちランスで黄金の棘を受け止めた。
「さすがはファフニール、アレくらいではやられてはくれないようだ…!」
「そうですね……ですが、妖精達も手を貸してくれています、これからです」
シグルズとブリュンヒルデは苦戦を免れないことを察しながらも怯まずにファフニールに立ち向かう。
その時、赤い影が2人の横を過ぎ去り、ファフニールに攻撃を仕掛けた。
その影は剣を振るい、ファフニールの体を斬り裂いた。
「ぐぅ……シグルズの他に、我の鱗を斬り裂ける者が居るだと…!」
そこに降り立った人物、それをオーディン軍のプレイヤー達は良く知っていた。
「なるほど、【閃光】殿が言っていたのはこういうことだったか。確かに俺はここで戦うべきだな」
「ユ、ユージーン将軍!?」
「ど、どうして将軍が…!」
そう、現れたのはアスナの提案によってこの場に赴いたサラマンダーの将軍、ユージーンであった。
アスナは神話通りならば魔剣グラムがファフニールを討つ鍵になることを悟り、彼をこの場に進めたのだ。
「なに、ここでグラムが必要だと聞いたのでな。
俺はシグルズとブリュンヒルデに協力してファフニールを討つ。Mobやロキ軍のことは任せるぞ」
「「「「「はい!」」」」」
彼の登場によってオーディン軍の士気は上がり、動きが良くなっていく。
ユージーンはシグルズとブリュンヒルデと共にファフニールを相手に戦闘を始めた。
周囲に影響を及ぼすほどの激しい戦闘を繰り広げるボス達、集団戦を行うプレイヤー達、
潰し合っては消えていくNPCとMob達が戦う中である2名のプレイヤーはその乱戦から離れて戦闘を行っていた。
1人は
「ちっ…デュランダル相手に立ち回るなんて、相当な刀だな!」
「お褒めに預かり光栄だよ。製作者が腕利きなものでね!」
伝説級武器の『不剣デュランダル』を振るうのはヨツンヘイムでファフニールを相手に奮戦したガルム。
彼に対抗しているのは太刀を扱うロキ軍の青年である。
青年の名は『ガイ』、種族はスプリガン、黒髪に薄紫色の瞳を持ち、
黒い服の上に赤いジャケットを着用し、ズボンと茶色の靴を履いている。
その手に持つ刀は太刀と分類される物で銘を『逆鱗』と言い、プレイヤーメイドである。
『
(『英雄伝説 閃の軌跡Ⅱ』のリィン・シュバルツァーの姿と服)
そんな2人の戦いはこれまで以上に激しいプレイヤー同士の戦闘となっている。
「八葉一刀流・一の型《螺旋》!」
「《ホリゾンタル》!」
ガイは八葉一刀流の一の型である《螺旋》を使用した。回転の動きを利用して強烈な一撃を放つ技である。
ガルムは片手剣のソードスキルである単発技《ホリゾンタル》を使用し、その強烈な一撃を相殺した。
「八葉一刀流・二の型《疾風》!」
「《ホリゾンタル・スクエア》!」
八葉一刀流の二の型《疾風》は高速移動から連続で斬撃を放つ技であり、最速で攻撃を仕掛ける。
その連続斬撃を片手剣の4連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》で迎え撃つ。どちらも見事に攻撃をぶつけ合っている。
「八葉一刀流・四の型《紅葉斬り》!」
「《ソニック・リープ》!」
八葉一刀流の四の型は《紅葉斬り》というものであり、居合の構えから放たれる技ですれ違いざまに斬る技だ。
それに対するのは片手剣ソードスキルの単発技である、先制向きのスキルの《ソニック・リープ》である。
速さと先制の技がぶつかり合い、これもダメージにならない。
そこでガイが再び居合の構えを取ったことでガルムは《紅葉斬り》という技だと判断し、
再び《ソニック・リープ》を使用した。
「八葉一刀流・五の型《残月》!」
「がっ…!?」
だが、ガルムのスキルに対してガイが使用したのは八葉一刀流の五の型《残月》だった。
これは居合の構えから放たれる抜刀術だが、相手の攻撃に対して放つカウンターであり、
ガルムの攻撃はいなされ、その直後に彼は斬られたのである。
ここにきて絶対不屈の耐久値を持つデュランダルを持ちながらダメージを負うことになった。
「八葉一刀流・七の型《無想》!」
「《バーチカル》!」
ガイは敵とすれ違いざまに斬り抜ける八葉一刀流の七の型の技《無想》を使用して攻撃した。
けれど、《残月》によるダメージを物ともせずにガルムは片手剣ソードスキルの《バーチカル》で迎撃した。
ここまででガイにダメージは無く、ガルムが一度斬られたことでダメージを負っている。
ガルムはここで防御に徹するのは良くないと判断し、
駆け出してから片手剣ソードスキルの《ヴォーパル・ストライク》を放った。
重攻撃の突撃技により、ガイは思わず防御をしてしまった。
不変の耐久値を誇るデュランダルにそれは愚策であり、筋力値で劣るガイは武器を弾かれてしまう。
武器を弾かれたガイに対し、ガルムは技後硬直が解けたので剣を振るい、ガイに一度ダメージを与えた。
「これで…!」
「八葉一刀流・八の型《無手》!」
ガルムはそのままガイを仕留めようとするが、ガイはさせるものかというように技を放つ。
八葉一刀流の八の型《無手》はその名の通り手元に武器が無い時に使う技であり、掌底による打撃を放つ格闘術だ。
デュランダルを避けたガイはガルムの懐に入り込み、掌底を打つ。
武器無しのダメージは極僅かなものだがガルムを少しでも吹き飛ばせたので御の字だ。
ガイはすぐさまストレージを操作、弾かれた逆鱗を回収して構え、ガルムも体勢を整える。
「やるじゃねぇか……お陰で楽しいぜ…!」
「そちらこそやるじゃないか。俺もこれほど楽しいと感じたのは久しぶりだ…!」
激しい攻防、けれど2人は笑みを浮かべて楽しんでいた。
やるべきこともある、だがそれ以上にいまはこの戦いを楽しみたいと、ガルムもガイも思っている。
だからこそ、2人は切り札とも言うべき行動に出た。
ガルムは右手にデュランダルを握っているが、
ストレージを操作してもう1本の伝説級武器『光剣クラウ・ソラス』を取り出して左手で持つ。
我流の二刀流である。
ガイは逆鱗をストレージに収め、新たな太刀を取り出した。
その太刀の銘は『天羽々斬剣』、SAO時代に入手したボスドロップのレア武器である。
SAO時代からいままでは目立つことを忌避して使用してこなかったが、いまこそ使うべき時だと判断して持ち出した。
互いに最大の手段を用いて戦闘を再開した。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「はあぁぁぁぁぁっ!」
ガルムが我流の二刀流で圧倒的な連撃を行っていく。
キリトのように整った《二刀流》ではなく、我流であるために2本の剣を振るっているたけとも言える。
だが、本人の実力もあって2本の伝説級武器は荒れ狂う様に振るわれ、凄まじい連撃の嵐を引き起こす。
けれど、ガイも負けることなくその連撃を防ぎ、いなし、躱していく。
守るだけではなく、攻撃の隙を突いて反撃していく。両者共に引けを取らないほどである。
そこで、ガルムはさらに驚くべき技術を披露してみせた。
「《ハウリング・オクターブ》、《サベージ・フルクラム》、《バーチカル・スクエア》!」
それはキリトが編み出した二刀流によるスキルを繋げるシステム外スキル《
ガルムは二刀流の
《ハウリング・オクターブ》の8連撃、《サベージ・フルクラム》の3連撃、《バーチカル・スクエア》の4連撃、
計15連撃が伝説級武器によって放たれた。
「スキルコネクト!? それなら…!」
しかし、その15連撃のソードスキルをガイは全ていなし、相殺した。
相手の放つ連撃スキルに対して、寸分の狂いも無く太刀で全てをいなし、相殺することを目的とした技術。
その名も《
「マジかよ。結構自信あったんだぜ」
「だが、俺は無効化できただけで反撃はできなかった」
ガルムはガイの成し遂げたことに驚愕したが、ガイもまたガルムの成したことに驚愕していた。
どちらの技術も相当な能力がなければ成しえないからだ。
だが、2人ともまだまだ終わらないという風に動き出す。
「《蒼炎ノ太刀》!」
「《ヴォーパル・ストライク!》」
ガイは太刀に蒼炎を纏わせて斬る、物理4割と炎6割のOSS《蒼炎ノ太刀》を放った。
ガルムは片手剣ソードスキルの重攻撃技である《ヴォーパル・ストライク》をデュランダルで放ち、
クラウ・ソラスを添えることで威力を増させた。
「《鳳凰烈波》!」
「《メテオ・ブレイク》!」
飛び上がり高速横回転を行う事で鳳凰を象った炎を纏って相手に突進し敵を粉砕する、
物理4割と炎6割のOSS《鳳凰烈波》をガイは放つ。
対して、片手剣ソードスキルの上位重攻撃技である《メテオ・ブレイク》をガルムは放ち、クラウ・ソラスを添えて相殺した。
「《風神烈破》!」
「《ハウリング・オクターブ》!」
続けてガイは超高速の斬撃を10回与えて風を纏った強烈な一撃で敵を殲滅する、物理6割と風4割のOSS《風神烈破》を使用した。
対抗するべくガルムは片手剣の上位ソードスキルで8連撃の《ハウリング・オクターブ》を使用し、
クラウ・ソラスを合わせることで足りない分の連撃は抑えた。
「《黒皇》!」
「《サベージ・フルクラム》!」
さらに上空に飛び上って相手に向かい突進し、
地面に着地すると同時に強烈な風の一撃を与える、物理2割と風8割のOSS《黒皇》をガイは使った。
ガルムは片手剣の上位ソードスキルで3連撃の《サベージ・フルクラム》を使い、
クラウ・ソラスを添えることで攻撃を防ぎ切った。
「喰らえ、《暁》!」
「《ファントム・レイブ》! ぐあぁ…!?」
そして、ガイは瞬時に相手に近づき炎を纏う太刀で相手を三方向から斬り、
さらに正面から6連続で斬る9連撃のOSS《暁》を決めた。
ガルムは片手剣の上位ソードスキルにして奥義技である6連撃の《ファントム・レイブ》を使ったが、
クラウ・ソラスを添えても防ぎきれず、ダメージを負った。だが、彼はそこで終わらなかった。
「これでも、喰らってろ!」
「がはぁっ!?」
なんとガルムは攻撃を受けた直後に風系魔法を発動し、ガイにダメージを与えたのだ。
予め高速詠唱で発動準備を整えておき、攻撃が終わった直後を狙って零距離で発動したのである。
クラウ・ソラスの付加効果によって魔法の威力などが上昇しており、自身が受けたダメージと同等の分を返すことが出来た。
「剣の技術も然ることながら、魔法こそがその本領……これが【殲滅魔導士】の力か…!」
「まぁな……けどよ、そっちこそ相当な腕だろ? 現実世界で何かやっているのか…?」
「ああ。剣術と武術を兼ね備えた流派『八葉一刀流』が“皆伝”、【風焔の剣聖】の通り名を授かっている」
「なるほど、“皆伝”なら納得だ…! ところで、まだまだ行けるだろ?」
「当然だ」
HPは互いに半分を超えたが、ほぼ差異は無い。故に両者はもう一度構える。
「「行くぞ!」」
強者得たり、2人は激化していく自身らの戦いを大いに楽しんでいく。
ボス達が戦いを始めた頃に乱戦にならないよう少し距離をあけた場所で戦う者達も居た。
1人は短剣系統である小太刀を二刀流で振るうケットシーの青年、もう1人は短剣を振るう女性でこちらもケットシーだ。
「キミ、中々やるね!」
「それは、どうも!(この人、強い…!)」
小太刀による二刀流攻撃の速さと連撃に防戦一方になる女性はダメージを受けないように必死で抵抗する。
そこへ小さな赤い影が割り込んできた。
「きゅあ~!」
「カァッ!」
「ファム!」
「ヤタ!」
赤い影は赤色の小さな竜であり、その姿は〈フェザーリドラ〉に似ている。
それに対抗しているかのように黒い影、烏が割り込んで体をぶつけ合った。
小太刀の二刀流を行うのはファルケン、ヨツンヘイムでニーズヘッグを相手に善戦したプレイヤーだ。
使用している武器の小太刀の銘は『逆鱗・光牙』といい、それを2本使って二刀流を行っている。
共に戦うのはテイムしている〈ヤタガラス〉のヤタだ。
その1人と1匹を相手している女性の名は『レイナ』、種族はケットシー、黒髪で瞳は黄色、
服はガイと似たものを着用しており、違う点はスカートを穿いていることだろう。
武器は短剣で銘を『麒麟』という。『SAO生還者』であり、ガイとは幼馴染で恋人同士でもある。
(『ストライク・ザ・ブラッド』の姫柊雪菜を成長させた姿)
一緒に戦っているのは彼女がSAO時代にテイムしたモンスターで、
〈フェザーリドラ〉の別種の〈フレイムリドラ〉であり、名を『ファム』という。
ファルケンは上位プレイヤーであるため、その実力もかなりのものだ。
それに対してレイナは生還者とはいえ中層レベルであり、せいぜい中の上、良くてギリギリ上の下という実力だ。
ファルケンの速度ある連撃を相手に耐えることができるのはSAOでの経験の賜物だろう。
だが、それでも掠ることで僅かなダメージを負っていく。
「きゅっ、きゅ~!」
「熱っ…!」
そんなレイナを守るようにサポートしているのがファムだ。
シリカのテイムしている〈フェザーリドラ〉のピナとはその体の色が異なり、赤色となっているのが特徴だ。
ファムは火弾を吐いてファルケンにダメージを与えるが、大きなダメージにはならない。
それでもファムはレイナを守るために彼の行動を妨害していく。
「カッカァッ!」
「うっ、てぇい!」
だが主を守りたいと思うのはファムだけではない、ヤタもまたファルケンを守るために進んで攻撃を仕掛ける。
モンスターが持つ固有のスキル、翼に風を纏わせて攻撃する《ソニックブレイカー》を使い、レイナに攻撃した。
彼女はそれを短剣のソードスキルである《ラピッド・バイト》を使うことで相殺させた。
「ヤタ、《
「カァッ!」
「きゅ~…」
「
ファルケンの言葉が分かるかのようにヤタはそれに従って味方の全ステータスを20%UPさせ、
敵の全ステータス5%DOWNさせる固有スキルを発動した。
けれど、この状態は良くないと思ったレイナの判断は正しく、長文の詠唱を高速で行い魔法を発動させた。
彼女は支援魔法が得意であり、DOWNした分を補うように自身とファムのステータスをUPさせた。
「続けて行かせてもらうよ!」
「うぅっ、はっ、くぅっ…!(負けられ、ない…!こんなところで…!)」
「クァッ、カァッ!」
「キュウ~!」
ステータスが上昇したファルケンは一気に攻め立て、レイナはやられないように集中して防御に徹する。
ヤタは固有スキルの1つで火弾を複数生成して放つ《フレアバースト》を使い、ファムは火炎ブレスでそれらを破壊する。
レイナはファルケンに勝てないことを理解しているが、それでも負けるわけにはいかないと決意している。
恋人のガイが、相棒のファムが頑張っているのに、実力で劣っているからとはいえ諦められない。
大切な人達のためにもやられるわけにはいかないのだ。
「てぇあっ!」
「おっと、思いきりが良いね!」
必死にくらい付くレイナに対し、余裕そうなファルケン。
レイナはダメージを負えども受けていくのは僅かな限りでアイテムでの回復も行う。
ファムもヤタを相手に負けないで戦っている。この2人と2匹の戦いもまだまだ続きそうだ。
戦いが始まって数十分後、この東部でのボス戦にも決着がつこうとしていた。
HPゲージが残り1本まで削られたフレースヴェルグは全身に風を纏っている。
また、HPが残り2本となっているニーズヘッグは全身の黒い鱗の隙間から漆黒の瘴気を放って纏う。
HPに差があったものの終末に現れる黒い竜と白い鷲では、やはり元のステータスでニーズヘッグが勝っている。
「やはり、
「黙れ! 例え、劣勢であろうとも、貴様を討ち果たしてみせる!」
互いに罵り合うことはやめず、されど攻撃の手は緩めない。
体当たり、翼打ち、噛み付き、引っ掻き、ブレスに風、激しい攻撃がぶつかり合ってダメージを次々に削り合う両者。
それでも、やはりHPの差分が勝敗を決した。
ニーズヘッグが全身に纏った瘴気をそのままぶつけ、フレースヴェルグも暴風の体当たりを行ったが、
ニーズヘッグのHPを1本にすることが限界だった。
「バカ、な……無念、だ…」
「ハーハッハッハッハッハッ! さらばだ、フレースヴェルグ! 我の勝利だ!」
フレースヴェルグは重力に従って地面に落下していき、地に落ちた瞬間に衝撃と共にポリゴン片となって消滅して逝った。
ニーズヘッグは高笑いを上げながらその場を旋回し、直後にはロキ軍を援護するようにオーディン軍へ攻撃を行い始めた。
一方、ファフニールはシグルズとブリュンヒルデ、ユージーンの猛攻に遭いながらも徹底抗戦をしていた。
HPが残り1本の半分以下になっているファフニールは黄金の鱗が全て黄金の棘へと変化している。
しかし、シグルズもHPは1本の半分となっており、全身に闘気にも似たオーラを纏っている。
逆にブリュンヒルデはHPが3本と多めであり、ユージーンに至ってはアイテムや味方の魔法も合って全快に近い。
そして、決着が訪れる。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「《ヴォルカニック・ブレイザー》!」
「ぐおぉぉぉぉぉっ!?」
シグルズはオーラを纏ったグラムで斬りかかり、ユージーンは自身の8連撃OSSを使い赤い輝きを放つグラムで斬った。
ファフニールは2本のグラムによって体を斬り裂かれ、大ダメージを受けてHPが0になった。
「私達の勝利だ。眠れ、ファフニール」
「黄金たる我が、負けるのか……ふふ、これぞまさしく…未知、である…」
ファフニールは大地に倒れ伏し、笑みを浮かべながらポリゴン片となり、砕け散って逝く。
ここにおいて北欧神話やニーベルングの指輪の通り、ドラゴンのファフニールは英雄シグルズに討たれた。
「シグルズ、お疲れ様でした」
「ああ、ブリュンヒルデ。キミや妖精達のお陰だ」
言葉を掛けあう恋人同士のシグルズとブリュンヒルデ。気を取り直して敵を倒そうとした、
その時だった。
「この時を待っていた…《終ノ太刀・暁》!」
「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」
最速の飛行によってガイがその場に駆け付け、OSSの《暁》をOSSとしてではなく、自身の技術で以て使用した。
よって、OSSは属性を纏うことはなく、技の銘は《終ノ太刀・暁》となった。
レイナによる支援魔法で強化されたガイ、その攻撃を背中からまともに受けたシグルズのHPは0になり、倒れ伏した。
「すま、ない……ブリュン、ヒルデ…」
シグルズはブリュンヒルデに別れを告げ、ポリゴン片となり消滅して逝った。
それを目の前で見ていたブリュンヒルデは呆然とし、それから絶望の表情を浮かべる。
「シグ、ルズ…? あ、いや…あ、あぁ……あ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?????」
絶望の表情と共にその口からは絶望の絶叫が溢れ出た。
次の瞬間、ブリュンヒルデの全身から紅蓮の炎が放出され、周囲へ広がっていった。
炎は瞬く間に辺りを焼き尽くし、そのままアルヴヘイム中に広がり続ける。
さらに炎は徐々に上空へと上がっていく、このままではいずれアインクラッドやアースガルズへ到達するだろう。
世界を覆い尽くしていた雪と氷は掃われるが、今度は炎が世界を覆い尽くしていく。
「シグルズシグルズシグルズシグルズシグルズシグルズシグルズシグルズシグルズシグルズゥゥゥゥゥッ!?
シ、グル、ズ……わたしも、あなたと…とも、に…」
シグルズの名を叫んでいたブリュンヒルデだが、次第に炎は彼女自身を焼き尽くす。
そして、彼女は悲しみのままに消滅して逝った。
「悪いな、シグルズ、ブリュンヒルデ。だが俺達は止まるわけにはいかないんだ。
行こう、レイナ…ここでの俺達の役目は終わりだ」
「ええ、ガイ……ごめんなさい、ブリュンヒルデ…」
「きゅ~」
ガイはレイナとファムを連れて『
「アイツら、最初からこれが狙いだったのか…!」
「これは、さすがに不味そうだね」
「カァッ…」
ガルムは驚きのままに言葉にし、ファルケンは状況が良くないと考え、ヤタは悲しそうに鳴いていた。
その後、Mobは壊滅したものの炎によってNPCも焼かれ、オーディン軍は甚大な被害を被り、
央都アルンを守る為に防衛戦を行うしかなくなり、ユージーンがその指揮を執ることになった。
ロキ軍は攻めに出て、戦いを続けていく。
『侵攻側クエスト[終末の黒き龍]:ニーズヘッグと共にフレースヴェルグを討て』クエスト・クリア
『侵攻側クエスト[黄金の抱擁]:ファフニールと共にシグルズとブリュンヒルデを迎撃せよ』クエスト・フェイリュア
『侵攻側クエスト[終焉の火葬]:シグルズを討て』クエスト・クリア
『防衛側クエスト[死者喰らいの鷲]:フレースヴェルグと共にニーズヘッグを討て』クエスト・フェイリュア
『防衛側クエスト[剣の英雄]:シグルズと協力してファフニールを討て』クエスト・クリア
No Side Out
To be continued……
あとがき
というわけで、今回でアルン高原戦は最後となりました、実質はロキ軍の勝利ですが痛み分けですね。
アバターのガイに関してはモデルが確定しているので提供してくださった方の案をもとに、
元々のキャラクターやそのゲーム内での設定を一部オリジナルにしていることをご容赦ください。
また、シグルズが死んだ時にブリュンヒルデが炎を放ち、自滅しながら炎を広げたことですが、
簡単に説明しますと『ニーベルングの指輪』や北欧神話における彼女の最期を元にしています。
詳しくは今後の本編中に語られることになりますのでその時にでも。
次回はアルヴヘイムでの世界樹防衛やバハムートの様子、各領地の簡単な様子を書こうと思います。
それでは次回で・・・。
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第60話になります。
今回がアルン高原戦最後、東部戦となっています。
どうぞ・・・。