No.756736

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百三十六話 オークション

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2015-02-07 08:31:10 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:15172   閲覧ユーザー数:12719

 ~~テスラ視点~~

 

 「申し訳ありませんお父様…」

 

 「先日、奪取した二対の首飾りですが本物の『天使の涙』ではありませんでした」

 

 「そうか…」

 

 お父様に報告すると、お父様は短く答えて椅子の背もたれに背を預ける。

 私と双子の妹であるなっちゃんは私達のお父様に言われてつい先程、とある行商人の豪邸から戻って来た。

 お父様に与えられた任務の内容は『天使の涙』と思われる二対の首飾りを手に入れてくる事だった。

 事前に豪邸の見取り図や豪邸を警備する警備員の人数や配置場所、更には豪邸内のトラップの有無等を念入りに調べ、完璧に把握して作戦を立ててからなっちゃんと共に侵入。そのまま作戦通りに事が運び目的の首飾りを手に入れる事が出来た。

 けれど帰ってきて調べた結果、聖杯の欠片の1つではあったものの『天使の涙』ではなく、本物を模した複製品だった。

 内包されている力も弱々しいものであり、お父様曰くでは『7つの聖遺物(セブンアミュレット)と比べると遥かに劣る』らしい。

 

 「今日はご苦労だった。ゆっくりと休むがいい」

 

 「「はい。失礼します」」

 

 私となっちゃんは軽く頭を下げ、部屋を後にする。

 これで任務は終わり。明日から次の任務までは『ツインファントムのテスラ・ヴァイオレット』としてではなく『学生の取田テスラ』として過ごさなくては………。

 

 

 

 ~~テスラ視点終了~~

 

 「……という訳で、昨日は大変だったみたいだよ」

 

 「大勢の警備員や屋敷内のトラップがあるにも関わらず、簡単に盗まれたなんて侵入者の泥棒さんは相当の手練れみたいッスねぇ」

 

 ここはさざなみ寮。

 朝からリスティさんに呼び出されたから来てみたら、とある豪邸に泥棒が侵入して物品が盗まれたという報告を聞かされた。

 てか何で俺、報告聞かなアカンの?俺、警官でも何でも無いんだけど。

 

 「気にするな。勇紀と話すネタが無かったから事件の詳細を語るしかないんだ」

 

 「ネタが無いからって……良いんですか?俺なんかに話して」

 

 「別に極秘情報って訳でも無いしな」

 

 あっけらかんと言うけど、本当に大丈夫なんだろうか?

 

 「盗まれたのは『天使の涙』と呼ばれる二対の首飾りらしい。結構な値の張る装飾品だったと屋敷の主人は言ってたそうだ」

 

 「天使の涙……」

 

 ここでそのアイテムが出てきますか…。

 まあ、偽物だろうけどね。

 

 「もっとも、その『天使の涙』というのは本物を模した複製品だったらしいけど」

 

 やっぱり。

 もしツインエンジェルの原作知識通りなら本物の『天使の涙』は今……。

 

 「その証拠に来週の週末、『ホテル・ベイシティ』で行われるオークションに『天使の涙』が出品されるらしいし…」

 

 「リスティさんリスティさん。その出品される『天使の涙』も偽物っすよ」

 

 「……即答するって事は何かしらの根拠があるんだな?」

 

 「本物のある場所知ってますから。何で知ってるか理由は言えませんけど」

 

 こればっかりは言えません。ええ、言えませんとも。

 

 「……ボクに心を読ませない様、隠すなんて余程の理由みたいだな」

 

 「うっす」

 

 唯我独尊(オンリーワンフラワー)による防御も完璧ッス。

 

 「…まあ、無理に聞き出すのも何だしな。しかし偽物と分かったのは良いけど、例の泥棒はオークションに現れるだろうから、警備の数を増員した方が良いかもな」

 

 「来るのは確定ですか?」

 

 「今回以外にも何度か『天使の涙が盗まれた』という案件があるんだよ。それ等も全て複製品だったが、泥棒がこうも狙うという事は目的はどう見ても本物の天使の涙を手に入れる事だろうし」

 

 向こうは本物か偽物か分からないだろうしねぇ。もし分かるなら偽物ばっか狙うとは思えん。

 

 「はぁ…もしそうなればボクは休日返上での出勤確定だな。よりにもよってオークションの開催日がボクが休日の時なんだ」

 

 「……お疲れ様です」

 

 休日出勤ともなればリスティさんに同情せざるを得ない。

 俺は基本休日出勤とか無いね。地上本部首都防衛隊には優秀な連中がいるので。

 

 「ホント、泥棒が来ない事を祈るよ」

 

 ソウデスネー、コナイトイイデスネー。

 

 「くぅ~♪」

 

 俺の膝の上で丸くなっている子狐形態の久遠を撫でながら泥棒は絶対来るだろうと思い、リスティさんに改めて同情するのだった………。

 

 

 

 ……で、オークションの開催日当日。

 携帯に表示されている時刻はもうすぐ18時になろうとしている。

 オークション会場であるホテル・ベイシティに向かっているのだが…

 

 「頑張って泥棒さんから天使の涙を護ろうね、皆!」

 

 「はい!頑張りましょう」

 

 「まあ、私がいるんだもの。大船に乗ったつもりでいなさい」

 

 俺のすぐ後ろには気合十分と言った感じの遥、水無月、葉月の3人がいた。

 ツインエンジェル(2人じゃなくて3人だが)もオークションに出品される『天使の涙』が目的なのだ。

 ただ、泥棒の様に盗む訳じゃなくて『天使の涙』の防衛と真贋の見極めが目的だ。

 …どうしてこうなった?

 

 「《仕方ないんじゃないかな?ユウ君がツインエンジェル達と関わっちゃったんだし》」

 

 デスヨネー。

 ダイダロスの指摘はごもっとも。

 先日、学園長に呼び出された俺は1つの依頼をお願いされた。

 それはツインエンジェル達と共に『天使の涙』が出品されるというオークション会場にて、彼女等と同様に真贋を見極めてほしいのだという事。

 さざなみ寮でリスティさんに聞かされた話の内容と全く同じ事を学園長から説明され、もし泥棒が『天使の涙』を盗むために現れたなら、それも防いでほしいとも言われた。『偽物なら盗まれても良いとして本物ならば必ず護り抜いて』と念を押されて。

 ……しかしそこはホラ、ツインエンジェル様に任せようと思う訳ですよ俺は。

 泥棒が何処の誰かは知らないけど、並の相手に後れは取らんでしょうし。

 コイツ等が苦戦する原作キャラと言ったらテスラ、ナインの2人…ツインファントムぐらいっしょ。だから俺のサポートはいらない筈。

 …ていうかさぁ……

 

 「お前等、作戦とか立ててんの?」

 

 「「「???」」」

 

 3人揃って首を傾げる。

 

 「だから……『どうやってオークション会場に潜入するの?』とか『潜入した後はどうするの?』とか…」

 

 「「「……………………」」」

 

 「ついでに言えば『『天使の涙』が本物だった場合、どうするのか?』とか逆に『偽物だった場合はどうするのか?』とか…」

 

 「「「……………………」」」

 

 俺の指摘で無口になる3人。

 ……マジッスカ。

 

 「まさか行き当たりばったりなんてこたぁ無いよな?流石にそれだと無計画にも程があるし、オークション会場を警備する警備員さん達をも敵に回しかねんぞ」

 

 「「「……………………」」」(スッ…)

 

 視線逸らしやがった!!

 ダメだこりゃ。

 俺は思わず溜め息を吐いてしまう。

 

 「な、何よ!じゃあアンタは何か妙案があるって言うの!?」

 

 「ん……」

 

 葉月の言葉に対し、俺は懐から1枚の紙を見せる。

 

 「何それ?」

 

 「今日のオークションに参加するための入場券」

 

 「「「…………へ?」」」

 

 「俺、今日のオークションには落札者として参加する予定なんだよ」

 

 実を言うと俺、学園長に依頼されるまでもなく、今回のオークションには足を運ぶつもりだったしな。

 目的はとある出品物。

 最初は主催者が開設したホームページ内のオークションに出品される品物を眺めてただけなんだけど、画面をスクロールしていると、ある物品に目が留まった。

 極稀に見掛ける事のある赤い宝石…

 

 『(何で地球にレリックあるんだよ……)』

 

 あん時はそう思った。

 爆発すると結構な被害を出す第一級捜索指定ロストロギア。

 それが何故か地球に……しかもオークションに出品されていた。その事実に軽く頭抱えたし。

 今回そのレリックを出品したと思われる人が管理局や他の次元世界と関係のある人かは知らんし、出品したレリックも危険物と知ってるのかは不明だが。

 いや…写真越しに見ただけで実際にはレリックに瓜二つな唯の宝石かもしれない。

 ただ…

 

 「(もし本物なら回収しとかないとマズいよなぁ…)」

 

 爆発されたら困るし。

 幸いにもオークションとして出品される以上、俺が落札さえすれば他の人の手に渡る事は無く回収できる。

 だからこその参加だ。

 管理局で働いているので当然給料も貰っており、ミッド通貨の一部を昨日の内に日本円に換金してきた。

 こう見えても俺、佐官だし特別手当なんかもつくからそれなりの額が貰える。地上本部所属より厚待遇の本局所属のなのは達より貰ってると言える自信もあるし。

 ともあれ資金については問題無し。後は…

 

 「ねえ勇紀君。私達はオークションに参加出来ないのかな?」

 

 「入場券無いなら会場に入れないぞ。ホテルの外で待機するか?」

 

 「ちょ!?何とかしなさいよ!!」

 

 何とかしろと言われても…。

 

 「事前に調べる事ぐらいしとけよ…」

 

 少なくとも神無月辺りはちゃんと調べてると思ってたんだがなぁ。

 それか学園長、3人の入場券ぐらい用意しといてやれよ。

 いずれにせよ…

 

 「…俺の意思ではどうにも出来ん。入場券の当日販売は無かった筈だしな」

 

 「うぅ…なら私達は何すればいいの?」

 

 「自由行動という事で」

 

 さっき言った様にホテルの外、もしくは別の場所で待機。

 

 「何だったら『天使の涙』を落札しておこうか?」

 

 落札価格にもよるけど。

 

 「そ、そこまでして貰うのは悪いですよ。それに偽物だった場合はどうするんですか?お金の無駄使いだと思うんですけど」

 

 「別に問題無い。首飾りのデザインとしては良いと思うし」

 

 まあ俺が首飾りを落札しても身に着ける事は無いだろうけどな。

 誰かにプレゼントする事になるだろう。

 

 「まあアレだ。学園長が言ってた例の泥棒さんが来る事を前提に考えるなら、会場内にいるより会場の外にいた方が都合良いかもしれない訳だから大人しく外で待機しとけ、な?」

 

 もし泥棒さんが来なければ外で待ちぼうけな訳だが。

 

 「ぶーぶー…」

 

 ぶーたれるなや。

 何も出来ない、する事が無い3人は不満気な表情を浮かべたまま俺の後をついてくる。

 やがてホテル・ベイシティが見えてくる。

 俺達は正面玄関の扉を通り抜けると

 

 ダダダダダダダッ!!

 

 何か凄い勢いで走ってくる人がいるよ!?

 件の人物は俺達の目前で急停止し、顔を下に向けながら全力で走って来たせいと思われる荒い息遣いをゆっくり整え、やがて顔を上げて視線を俺に向ける。

 

 「は、ははは長谷川勇紀!!きょ、今日はここに何しに来たんですの!?」

 

 走って来た人物…その名は神宮寺くえす。

 

 「よく俺がここに来たって分かったなお前」

 

 「ホテルの窓から眼下を眺めてたら貴方がこのホテルの方に来る姿が見えたのでもしやと思いまして。それより私の質問に答えてませんわよ!!ここに何しに来たんですの!?(ゆ、ゆうちゃん…まさか私に会いに?)」

 

 「えと…これから行われるオークションに参加しに来たんです、ハイ」

 

 あまりの勢いと気迫で詰め寄って聞いて来たから敬語になってしまった。

 

 「………私に会いに来た訳ではありませんのね」

 

 今度はショボーンとしだした。

 

 「……よくよく思い出してみれば長谷川勇紀、貴方ほとんど私と会う事は無く、電話で会話する程度のコミュニケーションしか取りませんわね。もしかして私の事避けていますの?」

 

 …と思ったら次の瞬間には無表情になって俺に問うくえす。

 

 「そ、そんなこと…ナイデスヨ?」

 

 声が裏返っちゃった。

 …俺の知り合いの女の子って何でこう……瞳から光消して聞いてくるのが多いのかね?

 正直怖くてたまらないのだが…。

 

 クイクイ

 

 「ん?」

 

 誰かが俺の服の裾を軽く引っ張るので、くえすの視線から逃げる様に服の裾を引っ張られた方向に振り向く。

 

 「ねぇねぇ、その子は誰なのかな?」

 

 まあ…予想通り遥だった。

 もっとも、遥の一歩後ろにいる神無月、葉月も遥の言った言葉と同様の思いを込めた視線を俺に向けてきている。

 

 「???長谷川勇紀、何ですのこの3人は?」

 

 くえすも遥の言葉に反応し、俺に聞いてくる。あ、瞳に光が戻った。

 

 「…そういや、お互い初対面だったっけ」

 

 鬼斬り役云々の関係者を除いてくえすの事知ってるのはアリサ、すずか、テレサにアミタとキリエぐらいか。

 俺がくえすと遥達の間に割って入り、お互いに紹介する。

 片やクラスメイト、片や親同士が勝手に決めた許嫁……の候補。

 

 「その事ですが長谷川勇紀。貴方は正式に私のい、いい、許嫁に決まりましたわ////」

 

 「はい!!?」

 

 俺は凄い勢いで反応した。

 そこにはモジモジしたくえすの姿が。

 てか正式に決まった!?俺聞いてないよ!?

 どういう事さ!?どういう事なのさ!!?

 

 「勇紀く~ん……言ってる事が違うけどどういう事かな?どういう事かなぁ?」(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…)

 

 「意見が食い違ってるみたいですけど、どちらの言い分が正しいんですか?」(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…)

 

 「ふしゃーーー!!」(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…)

 

 ツインエンジェル組から凄まじいプレッシャーが!!?

 

 「天河優人の光渡しも確かに魅力的なものであり、本人に鬼斬り役としての才能があるのは認めますが…天河優人が成長するまでまだ時間がかかりそうですし」

 

 「そりゃしょうがないっしょ。今まで裏の世界とは無縁の生活送ってたんだし」

 

 ツインエンジェル組の方は向かない様にし、くえすとの会話に集中する。

 背後から背中に突き刺さる様な視線を感じるが気にしない気にしない。

 

 「それを差し引いても彼が一人前になるにはまだまだ時間が掛かりますわ。逆に貴方はブラドを倒したという実績がある以上実力は申し分無いと判断出来ます」

 

 「ブラド倒した実績だけで決めるのは早急だと思うけど…」

 

 「何言ってますの?元イ・ウーのナンバー2を1人で倒すなんて芸当、余程の実力者でなければ無理ですわよ(私だって出来るかどうか…)」

 

 正攻法というよりかは宝具(ゲイ・ボウ)っていう裏ワザ使ったから簡単に倒せたんだけどねぇ。正攻法でいくなら魔臓4ヶ所を同時に潰さなきゃならんし。

 まあそれも貫通に特化させたアルテミスを4発放てば出来ただろうけど。

 ご自慢の再生が出来ないという現実を叩き込むには宝具(ゲイ・ボウ)の方が都合が良かっただけだ。

 

 「むぅ…何の話をしてるのか訳分かんないよ」

 

 「てか私達の事無視なんて良い度胸じゃない」

 

 「うふふ…」

 

 先程よりちょぴっとばかしプレッシャーの収まった3人。あくまでちょぴっとだけである。

 

 「胸の薄い一般人2号3号は黙ってなさい」

 

 「「んなっ!!?」」

 

 くえすの奴、言うねぇ。

 胸が薄いと言うのは間違い無く遥と葉月の事だ。ちなみに1号はこの場にいない九崎の事だと思われる。

 逆に…

 

 「私は胸ありますよ」

 

 神無月はバインバインである。

 謙介の見立てでは『月村さんについていける唯一のクラスメイトだね』との事で、すずかと神無月が我がクラスのワン、ツーを争っているらしい。

 

 「……………………(わ、私より大きいですわ)」

 

 くえすは神無月……の胸を見て固まる。

 

 「ふっふーん♪葵ちゃんの大きさには勝てないよね?」

 

 「ざまぁないわね。お姉様の方が凄いんだから♪」

 

 自分が勝った訳でも無いのに我が事の様に嬉しそうな口調の遥と葉月。

 

 「お…大きければ良いってものでもないですわ!!」

 

 声が震えてますぜくえすさんや。

 

 「そもそも貴女達が勝った訳でも無いのに何で勝ち誇ってますの!?」

 

 「私は葵ちゃんのパートナーだからね」

 

 「葵お姉様は私の敬愛するお姉様なのよ]

 

 …それで?

 

 「「葵ちゃん(お姉様)の勝利は私の勝利だよ(勝利なのよ)」」

 

 いや、その理屈はどうなのよ?完全に他力本願だし。

 

 「……胸が薄い分際で」

 

 胸は関係ねえっすよくえすさん。

 てか、話が少しずつズレていってね?

 俺が正式に許嫁になったなんて言うが、当の本人である俺が知らないってどういう事なのさ………。

 

 

 

 オークション会場内…。

 

 「ふーん…つまり野井原との私闘に負けて優人との許嫁候補を解消されたと?」

 

 「まあ…そういう事ですわ」

 

 くえすが負けたのかぁ。

 俺はくえすの実力をこの目で見た事無いから正確な戦闘力は把握してないけど、そこらの妖程度なら軽く屠れる程の腕前らしい。

 てか野井原が戦ってるのも見た事ねえわ。

 結局2人の実力ってどの程度なんだろうか?俺達魔導師ランクで見たらオーバーSぐらいあると思った方が良いのかな?

 

 「もっともただ負けた訳ではありませんわよ。猫の得物は綺麗な炭に変えちゃいましたもの(実際には天河家との許嫁候補の関係を切るためにワザと負けたわけですけど)」

 

 「あぁ…道理で野井原が持ってる刀が変わってた訳だ」

 

 以前持ってた日本刀と違ってたから気になってたんだよな。

 

 「とは言え、あの刀……『安綱』を失った猫の戦闘力がかなり落ちたのは確実ですわね。他の得物では丹念に手入れをしてもすぐにガタがくるでしょうし」

 

 「ふむふむ」

 

 そりゃ大変だ。優人の家には野井原だけじゃなく静水久も住んでるとはいえ、戦力が低下すれば優人の身に危険が迫った時、護る事が出来なくなる可能性が高くなる。

 せめて優人が海鳴市内に住んでいたら複数人の鬼斬り役や那美さん辺りが駆け付けやすいんだが。

 俺だったら転移魔法使えばすぐに行けるけど、転移先に一般人がいたら面倒な事になるし。

 

 「ま、これは丁度良い機会でもありますの。私の今の実力(レベル)を測る為にちょっとした魔術を行使してみようと思いまして」

 

 「魔術?どんな?」

 

 「それはヒ・ミ・ツ♪ですわ」

 

 パチリとウインクして言うくえす。

 

 「そうか……ところでさ、くえす」

 

 「何ですの?」

 

 「何でお前もオークション会場にいんの?」

 

 君、参加するための入場券持ってなかったよね?

 遥達は結局入れないので今は一緒にいない。

 

 「それは今回のオークション主催者を洗脳して許可を出させましたわ」

 

 うおおおおぉぉぉぉぉぉいいいいいぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!!!?

 

 「アカンやん!!そんな事したらアカンやん!!!」

 

 「勿論冗談ですわよ」

 

 な、何だ冗談なのか。

 

 「この一万円札を入場券に見える様、誤認させただけですから」

 

 「いやダメじゃん!」

 

 それって俺達が使う認識阻害と同系統の魔術って認識で良いよね?

 けどやっぱアカンて。それだと入場券ちゃんと買った俺や他のオークション参加者は何だったのかって事になるんやで。

 

 「バレても貴方に迷惑は掛けませんからご安心なさい」

 

 掛けない様に配慮するぐらいならわざわざ着いて来なくても良いでしょうに。

 隣に座るくえすと喋りながら次々に出品される品物を見送る。

 と言っても既に本命であるレリックは落札した。一番最初に出て来た出品物であり、ほとんどの人が興味を示さなかったので入札開始額50万円に対し、10万円上乗せた60万円で落札出来た。

 無駄に金使わずに済んでラッキー。

 で、次は『天使の涙』なんだが…

 

 「えー…次の出品物『天使の涙』なのですが、当方の諸事情により出品を取り止めさせていただきました」

 

 司会の人が『天使の涙』の出品取り止めを宣告していた。

 一部の客からは不満気な声が飛び、取り止めになった理由を言えと投げかけていた。

 

 ヴー…ヴー…

 

 む?

 マナーモードにしていた携帯が俺のポケットの中で震える。

 着信の相手は……神無月か。

 

 「もしもし?」

 

 『長谷川君ですか?私です』

 

 「どしたん?」

 

 『ゴメンなさい。『天使の涙』を盗んだ人達を見付けたんですが逃げられてしまって』

 

 あー…既に盗まれた後かぁ。

 ならリスティさんは今頃コッチに向かってる頃だろうなぁ。

 

 「犯人の顔とか見た?」

 

 『いえ、後ろ姿しか見ませんでした。ただ身体つきからして女性の2人組かと…』

 

 女性の2人組…。

 真っ先に思い当たるのはツインファントム。

 

 「犯人の追跡は出来そうか?」

 

 『…ゴメンなさい』

 

 力の無い声で神無月が謝ってくる。こりゃ完全に見失ったか。

 

 「気にすんなって。それより一旦合流しようか。『天使の涙』が無いならオークションに参加する理由も無いしな」

 

 レリックは確保したし。

 俺は神無月との通話を終えると静かに席を立ち、オークション会場を抜け出した。

 くえすも俺の後を付いて来る。

 

 「もうよろしいんですの?」

 

 「『天使の涙』無いみたいだし、これをゲット出来ただけでも充分充分」

 

 俺が片手に持つトランクを見せる。中にはレリック保管中だ。

 

 「…出品された時から気になっていたのですがその宝石、大きな力を内包してますわね」

 

 へぇ……。

 流石くえすだ。早速レリックのエネルギーに気付いたか。

 

 「もしかして貴方がソレを落札したのは宝石の中にある力が目的ですの?」

 

 「正~解♪」

 

 「ちなみにその宝石の力で何をするのか聞いても?」

 

 「それは…企業秘密です」

 

 流石に別世界の組織に持っていくなんて言えないし。

 実際はレリックのエネルギーが暴発しない様、封印するだけだし。

 丁度ホテルのロビーに来た所で、休日出勤返上のリスティさんと鉢合わせする。

 

 「はっはっは。やっぱりこうなったよ勇紀」

 

 「お疲れ様っす。もっとも泥棒はもう逃走してるでしょうけど」

 

 「いやいや、ボクは寧ろ泥棒に感謝してるぐらいさ」

 

 「???」

 

 休日出勤返上だというのにやけに嬉しそうだなリスティさん。

 もうアレか?開き直って無理矢理テンション上げるために嬉しいと思い込んでるとか。

 リスティさんを眺めながら思っていた俺にリスティさんは答えてくれる。

 

 「……今日の晩ご飯、愛が作ってしまって……ね」

 

 「あ……」

 

 その一言で全てを察した俺。

 なら今頃さざなみ寮にいる面々は…。

 

 「……皆、良い連中だったなぁ」

 

 遠い目をして語るリスティさん。

 俺は静かに目を閉じ、さざなみ寮にいる面々の胃袋に黙祷を捧げる。

 久遠、大丈夫かなぁ…。

 必要なら修正天使(アップデイト)の使用も辞さないつもりだ。

 

 「……長谷川勇紀、この女は誰ですの?」

 

 リスティさんを睨みながら俺に聞いてくるくえす。

 

 「……ボクも気になってたなぁ。勇紀、その子誰だ?」

 

 リスティさんもくえすの視線を受け止めながら俺経由で聞く。

 

 「くえす、この人はリスティ・槙原さん。職業は刑事」

 

 「…よろしく」

 

 「で、リスティさん。こちらは神宮寺くえす」

 

 「…よろしくお願いしますわ」

 

 お互いに一歩前へ出て握手を交わす……が、どちらも相手を睨みつける事は止めない。

 

 「(どうしてゆうちゃんの周りには女が群がってくるんですの?不愉快ですわ)」

 

 「(神宮寺……あの神宮寺家の跡取りか。そう言えば勇紀が昔ファーストキスを奪われたと言ってたのも…つまりこの子が…ねぇ)」

 

 初対面なのにどうしてこの人達は敵対的な雰囲気なの?

 しばらく待っていると、握手していた手を離して敵対的な気配も収めてくれる。

 よかった。理由(ワケ)も分からず、喧嘩とか始まらなくてマジでよかった。

 

 「さて…長話は出来ない立場だし、ボクは現場に行くよ。あぁ…それと勇紀」

 

 「はい?」

 

 「ボクとしては色々聞きたい事が出来たから、今度さざなみ寮に出頭(・・)するように」

 

 「出頭!?遊びに来いじゃなくて出頭ッスか!?」

 

 「んむ。事情聴取を行うからな」

 

 言うだけ言ってリスティさんは去って行く。

 俺、何聞かれるんだろ?

 

 「長谷川勇紀、私も貴方に確認したい事があります」

 

 「…何でしょうか?」

 

 「貴方の交友関係、それを隠す事無く全て吐きなさい」

 

 交友関係とな?

 それって学校の友達って事?

 

 「友達以外にもです」

 

 友達以外といやぁ、家族もって事か。

 ウチの家族と言えば未だにシュテル達とくえすって顔合わせしてないよな。

 当人達がミッドにいるから仕方ないんだけどさ。

 

 「ここでは何ですから今から私の部屋に来なさい。そこでじっっっっっっっっっくりと聞かせて貰いますから!!!!」

 

 「今から!?それは困るって」

 

 さっきの俺の電話中の会話隣で聞いてたでしょ?遥達と合流しなくちゃいけないんですよ。

 

 「……………………」

 

 頬膨らまして睨まないで下さい。

 不機嫌なくえすを宥め、軽く別れの挨拶を済ませてから遥達のいる場所に向かう。

 3人は現在臨海公園にいるとの事で、身体強化魔法を使って急いで公園にやってきたのだが…

 

 「「「ショボーン…」」」

 

 明らかに落ち込んでますねハイ。

 力無く肩を落として項垂れて……神無月のアホ毛も垂れ下がっている。

 どんよりしてる3人に俺は声を掛ける。

 

 「なぁ…元気出せよ」

 

 「「「ふぇ!?」」」

 

 俺が声を掛けてようやく反応し、顔を上げる3人。

 

 「電話で神無月から軽く聞いたけど、相手はそんなに足速かったのか?」

 

 「家の屋根から屋根へとピョンピョン飛んでいっちゃったんだよ」

 

 「…てかよく見たら3人共私服のままじゃん。何でツインエンジェルに変身してないのさ?」

 

 「変身する時間無かったんだからしょうがないじゃない!」

 

 「…無かったん?」

 

 俺は神無月に尋ねる。

 

 「遥さんも言った様に、屋根の上を跳び越えていくので見失わない様に追うのが精一杯だったんです。……結局見失っちゃったんですけど…」

 

 『私が走るの苦手なせいで2人にも迷惑掛けて…』と神無月は自分で自分を責めている。

 徐々に落ち込み具合が上がっていくなぁ。

 

 「…走りながら変身とか出来ない訳?」

 

 「「「出来ないよ…(出来ません…)(出来たらやってるわよ!)」」」

 

 あぁ……変身もののお約束というか何というか…。

 その手の作品って変身中は一切手を出さない、どんな状況でも相手は待ってくれるというお約束があるが、それはあくまで二次元の世界。

 俺達は二次元ではなく三次元の存在。故にそんなお約束が守られる訳も無し。

 相手もわざわざ待つ必要無いしね。

 

 「とはいえ、立ち止まらないと変身できないというのは問題だな」

 

 俺達魔導師なら走ってる最中でも即座にバリアジャケットを纏う事が出来る。

 ツインエンジェル達も俺達と同じ魔導師(本人達は魔導師の自覚無し)だけど、変身の際に用いる『ポケてん』はデバイスではなく聖杯の欠片の力が宿った携帯端末だしなぁ。

 この辺、弄って改良できないかどうか検討の余地ありだ。

 

 「「「はぁ…」」」

 

 「…まぁ、今日はもう解散しよう。盗まれた『天使の涙』が偽物だったのが不幸中の幸いって事で納得して、な?」

 

 「「「うん…(はい…)(そうね…)………………偽物?」」」

 

 「あぁ。オークションに出品される予定だった『天使の涙』は偽物だったから」

 

 「本当?」

 

 「うむ」

 

 「本当に本当?」

 

 「マジです」

 

 「本当の本当の本当?」

 

 「えらい確認してくるんですね!?」

 

 遥さんや、アンタ心配性過ぎ。

 後、ズイッと近寄り過ぎ。

 

 「とにかく、アレは偽物だから。本物じゃないから安心しろ」

 

 そう言うとどんよりした雰囲気が多少薄らいだ。3人の表情も和らいで良かった良かった。

 

 「若干元気も取り戻したみたいだし、とっとと解散するぞ解散」

 

 空も暗く染まり、夜というのに相応しい。

 

 「ほれ、海鳴駅まで送ってやるから立って歩けー」

 

 「あ、大丈夫ですよ。平之丞に連絡して迎えに来てもらいますから」

 

 「ん?そうなのか?なr「もう到着しておりますぞ」…うおっ!?」

 

 俺の言葉を遮って現れたのは神無月家に仕える執事の平之丞さん。

 相変わらず神出鬼没だぜ。気配もまるで読めなかったし。

 

 「公園前に車の方を停めてあります。お嬢様方、どうぞ」

 

 「相変わらず平之丞さんは手際が良いね」

 

 「ありがとう平之丞」

 

 「いえいえ。神無月家に仕える者として当然の事をしてるだけですぞ。長谷川様もお乗りになられますか?家まで送迎させていただきますが?」

 

 「あ、大丈夫ッス。歩いて帰れる距離なんで」

 

 椅子から立ち上がった3人は公園の出口へ歩いていく。

 

 「じゃーねー勇紀君!また学校でねー!!」

 

 「はいはい。じゃーな」

 

 ブンブンと手を振る遥が車に乗り込み、それに続いて神無月、葉月と乗って最後に運転席に平之丞さんが座って、発進する車を見送ってから俺は再び周囲に人気が無いのを確認する。

 

 「さてと…」

 

 家に帰る前に少し寄り道していきますかね………。

 

 

 

 ~~ナイン視点~~

 

 オークションが行われている会場からかなり離れ、今は人気の無い住宅街に私と姉さんはいた。

 

 「ここまで来れば大丈夫かしら。なっちゃん、『天使の涙』はちゃんと持ってる?」

 

 「ん」

 

 姉さんに尋ねられ、小さく頷いた私は『天使の涙』が保管されている小箱を取り出す。

 箱のフタを開けると、以前手に入れた偽物の『天使の涙』と全く同じ装飾が施された二対の首飾りがある。

 

 「今度こそ、本物だと良いわね」

 

 「うん」

 

 今まで手に入れた『天使の涙』は全て偽物だった。

 今度こそ本物だと良いな。

 そう思い、箱のフタを閉めた時だった。

 

 「動くな」

 

 「「っ!!?」

 

 背後から第三者の声が私達の耳に届いたのは。

 同時に背中に何かを押し当てられ、カチャリという音が2つ程聞こえた。

 2つという事は隣にいる姉さんも私と同じ様な状況になっているという事だろう。

 これは…もしかして銃?

 

 「現金又は金目の物を出せ」

 

 声色からすると私達の背後にいるのは男。

 どこかで聞いた様な声色だけど、今はそれを詮索するヒマは無い。

 『現金又は金目の物を出せ』と言った言葉から察するに金品を強奪する強盗かと思う。

 でもただの強盗じゃないと私は理解した。

 こう見えて私と姉さんはツインファントムとして活動するため、普通の学生がする事の無い様な訓練を行い、自分達の力を高めてきたのだ。

 それに加え、常に周囲を警戒するという意味も込め、気配には敏感に察知出来る。

 その私と姉さんが一切気配を察知する事無く背後を取られたのだ。

 こんな事、ただの強盗が出来る筈がない。

 隣にいる姉さんに視線を向けると姉さんも私の方を向き、お互い小さく頷く。

 私達がツインファントムとして行動する際に変身した時の服は特殊なもので生地の薄さとは裏腹に銃弾程度じゃあ貫く事は出来ない。

 流石に肌が露出してる部分だと怪我するけど、今銃口が押し当てられているのは服の上からだ。故に引き金が引かれても致命傷になったりはしないから安心出来る。

 私と姉さんはすぐさま振り向く。

 背後の男もいきり振り向いてくるなんて思わないだろう。

 けど振り向いた瞬間

 

 ビチャッ×2

 

 「「うぷっ!?」」

 

 顔に何か液体を掛けられた。

 

 「あはははは!!」

 

 液体を掛けたと思われる男が笑い出す。

 …やっぱりどこかで聞いた声色。

 

 「冗談はここまでにしとくかな」

 

 そう言って顔に何か押し当てられた。

 

 「動かないでくれよ。顔に掛けた水拭き取るから」

 

 どうやら顔に掛かった謎の液体はただの水らしい。

 

 「んー……よし、終了」

 

 どうやら拭き終えた様で私は目を開ける。そこにいたのは…

 

 「…長谷川?」

 

 私と姉さんのクラスメイトだった。

 

 「よぅテスラ、ナイン。さっきは驚いた?ちょっとばかし悪戯心が沸き上がったので脅かしてみた」

 

 笑顔で答える長谷川。

 さっき背中に当ててたのはただの水鉄砲らしかった。

 彼が持っているのが武器じゃないと分かったのは良いけど

 

 「「……………………」」

 

 私と姉さんは警戒を解かずにいた。

 理由は当然私達に気配を悟られる事無く背後を取った事。普通の学生に出来る事じゃない。

 それに私達姉妹の事をハッキリと名前で呼んだ。

 変身してる時は人前に出ても私達だと認識するのは出来ない筈。

 どういう理由で認識出来ないのかは謎だけど、私も姉さんもこの効果には助けられている。

 なのに何故彼は私達を正確に認識出来るのだろうか?

 

 「む?警戒されてる?…ひょっとしてさっきの悪戯に対して怒ってます?」

 

 やや困惑した感じで聞いてくる長谷川の言葉にも反応せず、私は

 

 「っ!!」

 

 一瞬で自らの武器である剣を鞘から抜き出し、彼の首筋に添える。

 

 「なっちゃん!!?」

 

 姉さんが驚愕した表情を浮かべ、コチラを見るが私は彼から目を逸らさない。

 首筋に剣を添えられている長谷川は

 

 「メッチャ怒ってるや~ん…」

 

 ションボリと肩を落としていた。

 けど、そんな彼の姿を気にせず私は彼に聞く。

 

 「…貴方は何者?」

 

 「何者って…」

 

 「普通の学生が気配を完全に殺して私と姉さんに近寄れるなんて有り得ない。だからもう一度聞く。貴方は何者?」

 

 「そうだねぇ…」

 

 今度は『う~ん…』と何か悩む仕草を見せる。

 

 「とりあえず、ただの学生じゃないというのは正解と言っとく。で、何者かと言われてもねぇ……ちょっと特殊な力を持つ人間としか言い様がないなぁ」

 

 「特殊な力……HGS患者ですか?それとも超能力を使う武偵……超偵ですか?」

 

 彼の答えに対し、聞き返す姉さん。

 

 「それに関しては答えはNO。俺はHGSを患ってないし、超偵どころか武偵ですらない」

 

 『俺の持ってる力は超能力ですらないし』と本人は言う。

 じゃあ本当に何者?

 

 「ま、俺の事は追々分かるかもしれないとだけ言っておく。それより今は君等ツインファントム(・・・・・・・・)にお願いがあるんだけど」

 

 「「っ!!」」

 

 私と姉さんがツインファントムである事も知ってる!?

 驚愕する私と姉さんを余所に彼は言葉を続ける。

 

 「『天使の涙』を俺に譲ってくれないかな?」

 

 『天使の涙』の事まで!?

 

 「その『天使の涙』は偽物だから、そのまま持って帰っても役に立つとは思わんよ。だから俺に譲ってくれない?」

 

 「……解せませんね。偽物だと分かっているのなら何故求めるんですか?寧ろ本物の『天使の涙』を手に入れるために『それ、偽物だから』と言ってる様にしか思えませんけど」

 

 「それはソチラの主観だろう。俺からすれば偽物であっても手に入れる価値が多少はあるんだよ」

 

 「……………………」

 

 姉さんはジッと長谷川の方を見ながら何か考え込んでいる様だ。彼の発言が真実かどうか、他にどの様な意図があるのか読み解こうとしている。

 しばらく姉さんは思案する事に集中し、私も彼から目を逸らさず、剣を首筋に添えた体勢を維持していた。

 静まり返った夜の住宅街…。

 やがてこの沈黙を破ったのは姉さんだった。

 

 「……長谷川君の言う価値が何なのか分かりませんが、やはり渡す訳にはいきません。これが偽物だという確実な証拠が無いですから」

 

 姉さんの言う通りだ。

 家に戻ってちゃんと調べないと本物か偽物か分からないもの。

 

 「そっか…じゃあしょうがない、諦めるわ」

 

 「「えっ!?」」

 

 「…何だその意外そうな顔は?」

 

 だって、そんなにあっさり引き下がるとは思ってなかったから。

 

 「あのなぁ…俺は偽物の『天使の涙』に対して『多少』価値があるって言ったろ?つまり『絶対』に必要って訳じゃないんだ。あくまで貰えたらラッキーって言う程度の軽い気持ちだよ」

 

 そういえば言ってたね。

 

 「つー事で貰えないなら俺は素直に引き下がるんで。あと、いつまでこの剣は突き付けられたままなんですかね?」

 

 『別に襲いかかったりしないって』と本人は言っている。

 

 「なっちゃん」

 

 「ん」

 

 姉さんの言葉に短く返事をし、私は剣を鞘に納める。

 それでも警戒はまだするが。

 

 「さてさて…俺の首も無事に解放された事だし、時間も時間だからとっとと帰る事にするわ」

 

 そう言って彼は無防備にも私と姉さんに背を向ける。

 けど、数歩歩いた所で彼は足を止める。

 

 「そうそう…1つ言い忘れてた事があった」

 

 「「???」」

 

 「11年前、お前等の実父であるオスカー・ヴァイオレットが亡くなった原因の火災事故を引き起こしたのはツインエンジェルじゃない。とある組織に所属している奴が介入したせいで起きたんだ」

 

 「「なっ!!?」」

 

 彼の発言はとても聞き逃せるものじゃなかった。何故なら私と姉さんのお父様…血の繋がった本当のお父様の名を出し、しかも火災事故の事まで口にしたからだ。

 彼はすぐ側の曲がり角を曲がる。

 反射的に私と姉さんは彼の背中を追っていた。けど…

 

 「「いない!?」」

 

 曲がり角を曲がった筈の彼の姿はどこにも無かった。

 

 「(どういう事!!?)」

 

 彼は私達がツインファントムである事を知っているだけでなく、私達の本当のお父様の名前まで出した。しかも実父と言ってまで。

 それは私達の本当の姓が『取田』ではなく『ヴァイオレット』だというのを知っているという事になる。

 更には火災事故の事…そしてその犯人が『ツインエンジェルではない』とまで言い切った事…。

 

 「(長谷川勇紀、貴方は一体何を知っているというの!!?)」

 

 夜の冷たい風が私の頬を撫でる中、私と姉さんはしばらくの間、その場に立ち尽くしたままだった………。

 

 

 

 ~~ナイン視点終了~~

 

 ~~あとがき~~

 

 1ヶ月も間を空けての更新。

 遅れてマジすいませんでした。

 仕事で片付けなきゃいけない問題が山のように出てきて毎日遅くまで残業に追われ、執筆する余裕も中々とれませんでした。

 今もまだ問題は残っているのですが多少落ち着いてきたので何とか執筆する時間が取れ始めています。

 なので今後はイレギュラーな事態が起こって対処に回らない限り、ここまで間が開く事は無いと思います。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
15
8

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択