No.756334

KVP:9匹目

長く放置させてしまっているこの作品ですが、とりあえず前回の続きが発掘できたので、また無くさない内にあげておきます。
この続きは執筆予定中です。

さて、言い訳はこれくらいにしておき、どうぞ

2015-02-05 23:09:27 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:796   閲覧ユーザー数:724

 

:陳留:城門前

 あれからしばらくして、秋蘭達は陳留の街へと帰ってきていた。

 しかし何故か城門、どころか扉一つ、窓一つ開いておらず、呼びかけても誰一人出てこないので立

ち往生いていた。

 「夏侯淵様!」タタタッ

 「む・・・」

 そこへ先ほど放った部下が戻って来た。

 「戻ったか。それで?」

 「はっ。城外には非番や、偶然外に出ていた者ばかりで、城門が閉ざされてからは誰一人出てきて

いないようです。また城を一周してまいりましたが、どこも窓一つ開いていませんでいた。時折呼び

かけてもみましたが誰も出てきませんでした。ですが・・・これが」

 「これは?」

 部下は手に持っていた紙を秋蘭に渡した。

 「中からの矢文です。普段侍女たちのいる部屋付近から飛んできました」

 「ふむ・・・」パラッ

 秋蘭はとりあえず読んでみることにした。

 「これは・・・華琳様からだ」

 要点だけを取り出すと、次の事が書かれていた。

 城内で庭師が惨殺されたこと。

 その殺し方がとても奇妙で残忍だったため、犯人の逃亡と街への被害を防ぐために城門と、出入り

可能な箇所を全て塞いだこと。

 さらに侍女一人と兵士3人が殺されたこと。

 「華琳様、姉者・・・」

 「夏侯淵様、如何なされましたか?」

 「・・・いや、心配は無用だな。さて、ならばこちらは出来ることをしよう」

 秋蘭は兵達へ向き直り、

 「城内で緊急の事態が起きたため、しばらくは城門は開かない!疲れている所すまないが、もうひ

と働きしてくれ!1班から8班までは城壁を囲って城の監視!残りは城付近の住人達へ警告をし、有

事の際には避難するよう伝えろ!」

 「「「応!!」」」

 伝達し終えるとすぐさま兵達が散っていき、城を包囲していった。

 

『華琳様、姉者・・・』

 (ふむふむ・・・)

 そしてカズトは、陳留の街へと来ていた。

 

 カズトはあれからフェイスハガ―の跡を追って、華琳達が居た場所まで来ていた。

 しかし時すでに遅く、そこには誰も居なくなっており、遠くに秋蘭達一行の背が見えるだけだった。

 フェイスハガーの痕跡はそこから先がなく、恐らく秋蘭達の一行より早く帰った集団にまぎれて行

ったのだろうと、その場の跡から推理出来たので、カズトは気付かれないように秋蘭達の後をつけて

来たのであった。

 

 そして現在、城壁付近の酒屋の屋根の上から、ストーカーの上に手紙ののぞき見、もとい情報収集

を行っていた。

 城の方から吹いてきた風に乗った微かな血の匂いに、わずかに顔をしかめる。

 (くそ、遅かったか)

 カズトは、秋蘭が手に持つ手紙を読み終えると、マスクの視界の望遠モードを切り、立ち上がった。

 なお、森から付いてきて現在に至るまで、光学迷彩装置によるステルスモードは継続中であるため

、町人に見つかることはない。

 (城壁の高さ約20メートル、素材岩、城門、素材木と鉄・・・行けるか)

 前方に見える城壁を観察し終えると、7つほど屋根の上を伝って城壁から遠ざかり腰を落とすと、

 「・・・ふっ!!」ダンッッッ!

 凄まじい脚力で、スタートダッシュをきった!

 その踏み込みに耐えきれずに、石張りの屋根に亀裂が入る。

 一歩、二歩三歩と足を前へ出すにつれ、カズトはぐんぐんと速度を上げて行き、5つ目の屋根を過

ぎたときには、放たれた矢程の速さに達していた。

 そして、風を追い越すほどの速度に達し、最後の屋根の端に足がつき―――跳んだ。

 「―――だあっ!!」

 今度は本当に耐えきれなかったのか、ガラガラと音を立てて屋根が崩れていった。

 「うお!?」

 「あぶねぇ!?」

 いくつかの悲鳴が上がるが、当事者であるカズトには、怪我人が出ませんようにと祈ることしかで

きない。

 あっという間に最高点へ達し、空中から城壁を見下ろすカズト、だがその頬を汗が一筋垂れた。

 「あ、やべ・・・」

 後はボールのように斜め前へ落ちるだけ、しかし城壁はすでにカズトの下を抜け、目下には装飾の

施された建物の壁が映っていた。

 (あ!ああああああああああ―――!!!)

 口を突き破りそうな悲鳴を必死にこらえ、カズトはそうして落ちていった。

 

:広間

 華琳と春蘭は兵と文官達と共に、普段会議を行っている広間へと集まっていた。

 「―――静かにしなさい」

 華琳が口を開き凛とした声を発すると、ざわついていた場が一瞬にして静まり、視線は華琳の元へ

と集まる。

 「では始めましょう。春蘭」

 「は。それではまず、現在に至るまでに起こった事を順を追って説明します」

そうして秋蘭は、手元の集まった情報を書き記した書類をめくり、説明を始めた。

 「まず最初に、一刻(ここでは2時間とします)ほど前、中庭にて庭師の遺体を発見。死因は腹を

えぐられた傷が原因とされ、犯人の目撃情報も、痕跡も一切なく、殺したその手段や、城の警備を掻

い潜り進入したことなどを踏まえ、華琳様のとっさの判断により城門を閉鎖、城内に警戒網を引き、

侍女達は大部屋へ非難し、兵士はそれぞれ組を作り、城内を捜索して犯人の発見を試みましたが、未

だ発見にはいたっていません」

 一枚目を読み終わり、紙をめくると春蘭は一拍おいて、再び読み始める。

 「次に半刻ほど前、兵士の叫び声が聞こえ、その場へ向かうと、2名の兵士の遺体を発見。

 一人は庭師以上に腹を抉られ、もう一人は頭を貫かれていました。そして同じく、目迎情報、痕跡

なども一切ありませんでした。そしてさらにその後に、廊下、中庭で兵士が計4人殺害され現在に至

ります、以上です」

 春蘭の報告が終ると、その場にいる者はしばらく声を出せないでいた。

 役職柄、人の死はそう珍しくはなかったが、やはり場所が問題だった。

 百人あまりの兵士達が気を張って警備し、それを掻い潜って城内へ侵入した事だけでもあってはな

らないことなのに、庭師を殺し、さらに警備を厳しくして戦場であるかのような緊張を持った中で、

戦うために鍛えられた兵士を6人も殺したのだ。その上情報も一切ない。これではまるで

 「まるで化け物じゃな・・・」

 文官の一人が顔面を蒼白にし、苦虫でも噛み潰したような顔で呟いた。

 それを聞いた春蘭が激昂する。

 「下らん、化け物などいる筈が無いだろう!

 きっと華琳様を良く思っていない輩が雇った殺し屋か何かの仕業であろう。ですよね華琳様!」

 「・・・そうねそう考えるのが自然だわ。

 相手はそれなりの手練れ、最低でも人数は2人以上・・・そうなると、城の中で戦を行う事になる

わね」

 そういうと華琳は椅子から立ち上がり、

 「皆の者、城内に忍び込んだネズミを駆除するわよ!

 ネズミを必ず見つけ、この城に入り込んだ事を後悔させてあげなさい!」

 犯人狩りの号令をかけると、それではまず兵士の配置を決めるわ、と話を進めていく。

 文官の数人は、侍女達のいる部屋へ連絡するために兵士を数人連れて部屋を出て行こうとする。

 しかし、

 「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 扉を開ける前に悲鳴は上がった。

 その場の全員が驚いて振り向くと、丁度華琳と文官たちの中間にいた小太りの文官が天井を支える

柱の一つを背にし、前かがみに立っているのが見えた。

 「おい、お前一体・・・・・ッ!?」

 近くにいた背の高い兵士が近づこうとするが、何かに気が付いたらしく、一歩足を踏み出したまま

すくんだ様にして立ち止まった。

 何だと思って見ていると、周りの者も徐々にその異変に気づき、驚愕の表情に顔を凍りつかせてい

く。

 「・・・なんだ、あれは・・・?」

 春蘭がかろうじて疑問の声を口から絞り出す。

 

 小太りの文官は前かがみになって立っていたのではなく、〝上から何かによって吊り下げられてい

た〟のだった。

 

 見ると小太りの文官の背から何か、黒く、太く、長い、サソリの尾のようなものが生えて、否、刺

さっていた。 

 それを視線でたどっていくと、

 「フシィィイイイイッ!」

 柱の影から、まるで地獄の闇から這い出てくるように、〝それ〟は現れた。

 四本の手足とサソリのような尾を持ち、頭部は前後に大きく突き出し、目や鼻といった感覚器官は

見当たらず、ぬらぬらとテカっており、威嚇しているのだろうか、むき出しにされた口からは鉄のよ

うな歯が見えた。

 全身はメタリックな黒で光沢を持ち、立ち上がると身長は成人男性より一回りほど大きいと思われ

る。

 「・・・ッ!?文官は下がれ!兵士は柱からある程度距離を保ちつつ囲みなさい!」

 「「「・・・応っ!」」」

 華琳の一喝により正気を取り戻した兵士達は、華琳の指示通り柱を囲み、春蘭はすでに自分の武器

を手に持ち、華琳一歩前で構えていた。

 兵士は皆槍を構え、猛獣のを捕らえる、もしくは殺すための檻を形成していた。

 「春蘭、あの生物を見た事は?」

 華琳はとっさに今まで見てきた生き物や、文献の記憶と照らし合わせたが、全く当てはまるものが

無く、自分の知識では足りぬと思い、春蘭と秋蘭に助けを求めた。

 「いえ、ありません。逆にあれは本当に生き物なのでしょうか?あれほど禍々しい・・・っ!華琳

様、来ます!」

 春蘭はいち早く化け物が動き出そうとする気配を察知し、警戒を促した。

 「いいか!今までの被害をかんがみるに、やつの力は人一人を一撃で破壊する程に強い!

 全員警戒を怠るな!」

 しかし、兵士達の顔には異形のものを見る恐怖の色が濃く、皆通常の半分も動けないだろうと春蘭

は察した。

 そして春蘭がいい終わるのが早いか、化け物は尻尾を振り回し、先端に刺さった文官を兵士の一人

へ投げ飛ばした!

 「え、うわ!」

 投げつけられた兵士は、とっさによける事も出来ず、その小太りの文官の体重を受けとも切れず、

巻き込まれて後ろへ倒れた。

 「キシャアアアアアアアアアア!!」

 化け物は柱から跳躍すると、自分を囲っていた最後列の兵士の一人へ飛び掛った。

 「ぐ、ぬあ!?」

 飛び掛られた兵士は、今度はとっさに槍を横に構え、化け物を受け止める事が出来た、が思ってい

たよりも化け物は重く、その驚異的な脚力も加算され、床に叩きつけられる。

 「く、離れろぉ!」

 覆いかぶさった化け物はその長い爪を使って、兵士を切り裂こうとする。

 「お、おい!」

 「ああ!」

 周りの兵士は助けようとかかって行くが、

 「キシャアアアアアアア!」ブンッ!

 「「「ぐあ!」」」ドンッ

 その長い尾に打ち据えられ、後方に飛ばされる。

 「ち、きしょう!」シュッ

 がむしゃらに暴れていたせいか、槍の穂先が化け物の顔をかすめ、小さな傷が付く。

 そして蛍光色の黄緑色の血(?)が一滴、下敷きになった兵士のほほに垂れた。すると、

 「っ?ぎ、ぎゃあああああああああああああ!!?」

 「「「・・・ッ!?」」」

 響き渡った絶叫に、やられたかと思い、その兵士を見ると、

 「「「な・・・っ!?」」」

 ジュウウウウウウ・・・

 兵士の顔が溶け始め、白く煙が少し上がっているではないか。

 その光景に全員が顔をしかめる。

 「ぐっ・・・!」

 「おえ!」

 何人か耐え切れず、吐いたようだ。

 「血が、強力な酸だというの!?」

 華琳は信じられないといった声を上げる

 「ちい・・・!!」

 「・・・な、春蘭!?」

 春蘭は次の瞬間飛び出していた。

 途中、兵士の槍を取り、

 「でええええええええい!」ドゴンッ!

 刃ではなく、石突のほうで化け物を打ち上げた!

 「キシッ・・・・・・ッ!?」

 化け物は春蘭の強力に耐え切れず、壁まで飛ばされ壁に激突する。 

 「キシャアアアア!キシャアアアアアア!」ガサガサガサ・・・!

 床に倒れこんだ化け物はもがき、ダメージを負った事を教えてくる。

 「見ろ!切って駄目ならば、打ち据えればよかろう!

 しかも、奴もさすがに不死身という訳ではないようだ。殺せるぞ、全員さらに気を引き締め、かかれ

えええええい!」

 「「「応!」」」

 「ふふっ、一瞬で士気を取り戻したわね・・・!?春蘭!」

 一瞬。春蘭は兵士達に気を向け、その手応えから一瞬油断していた。きっと倒せるだろうと。

 その一瞬が命取りになった。

 「キシャアアアアアア!!!」

 「な・・・・・・!?」

 いつの間に復活したのだろうか、化け物は春蘭へと跳躍していた。

 「ちぃ・・・!?」ガッ・・・ミシミシ・・・バキンッ!

 春蘭は反射的に槍で受け止めるが、しかし先程の打撃で槍が既に限界に達していたのか、1秒も持た

ずに受け止めた所から亀裂が入り、粉々に砕け散る。

 もう駄目か、そう春蘭でさえも腹をくくった時―――

 フッ―――

 「?」

 窓の外が一瞬暗くなったと思った次の瞬間、

 ガシャアアアアアアアン!!

 窓が窓枠ごと壊され、何かが窓を突き破って飛び込んできた。

 「・・・な!?」

 華琳は驚き反射的に目を向けるが、顔を守るためか、顔の前で腕をクロスさせ、身を縮こまらせて

いたため、黒く、大きいものとしか捕らえられなかった。

 そしてそれは、丁度春蘭に飛び掛ろうとしていた化け物に突っ込んで行き、

 「キシャアアアアアア!?」

 「ぬん!」

 ぶつかり、化け物は飛ばされ、飛び込んできたそれはその場へひざを折り、跪いた体勢で衝撃を吸

収して着地した。

 「今度は・・・なんだ?」

 

城壁内:空中

 (―――ああああああああああああああああああ!!)

 落ちていく最中、カズトは落下地点を予測し、見た。そこは石造りの壁に点在する窓の一つであっ

た。きれいに掃除され、中の様子がはっきりと見えた。

 人影が約30人ほど、皆先ほどあった女の子達のような中華風で、兵士は歴史映画の衣装のような

鎧の格好であった。

 すると、カズトは一つの異常を見つけた。

 (まさか、もうか!?)

 四本の手足と長く強靭な尾を持ち、体は大きく、全身はメタリックな黒。今まさに少女に飛び掛ろ

うとしているそれは―――

 

 (エイリアン!しかもプレトリアンタイプだと!?)

 このタイプは、身体能力が非常に高く、しかもクイーンと呼ばれる女王的存在のエイリアンが存在

しない環境下だと、代わりにクイーンへ成長し、卵を産み、繁殖するのだ。

 カズトは沸き起こる怒りを抑えつつ、ゆっくりと立ち上がり、もがいているエイリアンを横目に現

状を把握しようとした。

 その際にマスクの目の部分が光る。

 それを見た文官、兵士は、

 「ひ、ひいいいいいいいいいいいい!!」

 「化け物!化け物がまた来たぞおーーーーー!」

 そう悲鳴をあげると、堰を切ったかのように広間の外へと駆け出した。

 (え?あ!やべっ、見えてる!?なんで・・・まさか)

 みると、左腕の二の腕に装着された光学迷彩装置が、バチバチと火花を散らしているではないか。

 (立て続けに予想外の出来事が起きたからな、ついに壊れたか)

 そう断じて諦めると、横から

 「おい、お前・・・」

 声をかけられた。

 まだ立ち上がらないエイリアンに気をつけながら、ゆっくりと目を向けると、そこには先ほどの、

エイリアンに飛び掛られそうになっていた少女が立っていた。

 長く伸びた黒髪を全て後ろへ垂らしておでこを強調し、人房だけぴょんと、前髪の中央からはね

させている。長身で、きりっとした顔立ちで、一言で言い表せば美人だった。

 しかし、エイリアンが跳ね上がるように立ち上がった事により、見とれている場合ではなくなっ

た。

 「お、おい!待て!そいつの血には――」

 

 カズトは追撃をかけようと瞬時に近寄り、顔を殴りつける。

 「キシィイイイイイイ!」

 2発目を殴りつけようと振りかぶると、さすがに馬鹿正直に殴らせてはくれない、エイリアンは尻

尾でカズトを刺そうとする、だがカズトはこれに反応し、体をそらして避ける。

 春蘭は目の前で繰り広げられる異形同士を、どこか夢心地で眺めていた。

 「・・蘭!春蘭!」

 「は、はい!」

 「大丈夫?どこか怪我をしたのかしら?」

 華琳が春蘭の顔を心配するように覗き込んでいた。

 どうやら名前を呼ばれていたにもかかわらず、気付かなかったようだ。

 「い、いえ、大丈夫です!なんともありません!」

 春蘭は無用の心配をさせてしまったと、あわてて謝った。

 「そう、なら良いのだけれど」

 「すみません。しかし華琳様、あれは一体?」

 「私も分からないわ。見たところ一応敵ではないみたいだけれど」

 そう言って二人は決断を後にし、二つの異形の戦いを見守る事にした。

 

 カズトは少々苦戦を強いられていた。

 別にこれがエイリアンとの初戦というわけではない。

 最初に戦ったのは成人の儀の時で、確かに重傷並みの傷を負わされたが勝った、しかもそれから何

年もたっているし、さらにその後数度はこの生物と戦ってきた。

 確かに地球での任務、墜落、フェイスハガー等の討伐などがたて続きにおき、疲労が溜まっている

のは事実だ。しかし獲物を狩るには十分な体力は残している。

 ではなぜか、それは、

 (飛び道具が使えない・・・)

 これだった。

 先ほどより人数は減ったものの、広間にはまだ十人ほどが残っていた。

 そのため、当たればいいがもし外れたり、弾かれたりしたら何処に飛んでいくか分からないのだ。

 エイリアンに蹴りを入れるとその反動でカズトは後ろへ下がる。

 (だけど、関係ない)

 そう結論付けると、カズトはシュリンッ!と右腕のガントレットに内蔵された両刃剣のようなブレ

ードを伸ばし、両腕を大きく広げて中腰に構える。

 じりっ、じりっ、とエイリアンも今までの荒々しさとは裏腹に、氷のような静かになり互いのタイ

ミングを探り合っている。

 じりっ、と次の瞬間、一人と一匹は弾かれたように跳躍した!

 「キシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 二つの咆哮は広間をビリビリと震わせる。

 「「ッ!?」」

 華琳と春蘭はとっさに耳を押さえる。

 石床にヒビを入れるほどの脚力で跳んだ二つの異形は、一瞬で交差する。

 顔面を狙ったエイリアンの爪による刺突を、首をひねって余裕でかわす。

 一方、カズトの一閃は

 「!?」

 カズトは見た。

 逆の左爪がこちらが狙った首の前へ、移動しているのを。

 (まさか!)

 爪は難なくブレードに切り落とされるが、ほんの少し首への到達時間を遅らされる。

 結果、完全に避け切れなかったは首を3分の1を切り裂くが、致命傷には至らない。

 エイリアンはカズトの後ろにいた、華琳と春蘭の元へ―――

 「キシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 「華琳様!」ダッ!!

 春蘭はとっさに大剣を抜き放ち、華琳をかばう為前へ跳び出るが、

 「シィィイイイイイイイイイイイ!!」

 「く!・・・ぐあ!」キインッ!

 繰り出された右爪による刺突を大剣の腹で受け、一瞬耐える。しかし次の瞬間続いて体当たりを受

け、牛の突進を食らったような衝撃を受けた春蘭は、その衝撃に耐え切れず、後ろへ吹き飛ばされて

しまう。

 「春蘭!この化け物が!」シュンッ!

 華琳は臆することなく手に持った大鎌を振り下ろす。

 「シャアアアア!」ブンッ!

 「なっ・・・!?」ガキィン!

 だがその刃は、エイリアンの背後から繰り出された尻尾によって砕かれてしまった。

 「キシィイイイイイイ!!」ビュッ!

 そしてその尖った尾は、華琳を殺すため真っ直ぐ放たれる。

 「・・・ッ!!」

 (こんなところで)

 華琳はひたすらに悔しかった。

 こんな訳の分からない生物に殺される事が。

 手も足も出ない事が。

 何より・・・覇道を成し遂げる事が出来ない事が。

 眼前に尾の先端が迫る中、華琳は見た

 

 エイリアンの背後に、黒く、疾風のような速さで迫る――鬼――

 

 ドン、と突き飛ばされた華琳は床を転がり、すぐにうつ伏せの格好で止まった。

 痛みを堪え顔を上げると、先ほどの鬼の背中が見えた。

 そしてその背中から、先ほどまで自分の眼前に迫っていたものが生えているのも。

 「キシャアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 エイリアンは邪魔をされたのが腹立たしいのか(この生物に感情があるのかどうかは知らないが)

、暴れだす。

 「ぐ・・・っ!」

 カズトは痛みを堪え、エイリアンを見据える。

 (止まれ!)

 「シャ・・・・・・ッ!?」

 すると、一瞬その動きが止まったように見えた。

 カズトはその隙を見逃さず、ガシッと腹に刺さった尾をつかむと、

 「・・・ッ!!!」シュインッ!シュインッ!

 ブレードを二閃。

 1つは尾。そして2つ目は、

 「・・・・・・」カパッ・・・ドサッ

 前に伸びていた頭を、首の付け根から切り落とした。

 「・・・・・・」ズッ・・・ドスッ

 カズトは腹から垂れ下がった尾を引き抜き、倒れたエイリアンの死体の近くへ放ると、ジュウウウ

ウ、と床を溶かす音と白煙が揚がる。

 「・・・・・・」

 「・・・?」スッ・・・

 突っ立ったままでいるカズトを疑問に思い、華琳は立ち上がり、恐る恐る手を伸ばすと・・・

 「・・・・・・」フラッ・・・ドサッ

 「!?ちょ、ちょっと!・・・っ!?」

  倒れたカズトに驚く華琳だったが、その下に広がる鮮血の海を見て頭を切り替える。

 辺りを見回すと、周りの兵達は全て失神していた。

 「誰か!誰かおらぬか!」

 華琳は廊下まで響くように叫ぶ。

 「ぐっ・・・か、華琳様?」

 「春蘭!動いて平気なの?」

 「は、はい。まだ少しふらつきますが。

 それより華琳様、こいつは?」

 「ええ、私をかばって怪我をしてしまって危険な状態のようだわ。春蘭、私はここでとりあえず応急

処置をするから、誰か医師を呼んできてちょうだい」

 「で、ですがこのようなわけも分からない、」

 「早く!」

 「は、はい!」

 春蘭は、華琳が訳も分からない者と残して大丈夫かどうか心配して少し躊躇していたが、催促を受け

、駆けて廊下へ飛び出していった。

 「・・・ふう、それじゃあ・・・」ぐっ

 華琳は袖を捲くり上げ、応急処置に取り掛かった。

 

???:???

 『シュッケツタリョウ。セイメイカツドテイカ。ヒーリングモードヘイコウ、チリョウカイシ・・』

 

 『・・・こっちよ!早く!』

 『華琳様こちらへ・・・』

 『これはひどい、急いで医務室へ運ぼう』

 

 『とりあえずこの妙な面から・・・』

 『・・・!?人間!?』

 『どうやら見た目ではそのようだな』

 『なら手っ取り早いじゃない、・・・、死なせ内で頂戴』

 『もちろんだ。しかし、だんだん傷がひとりでに塞がってきているような・・・まあいい。

 いくぞ!一鍼胴体(いっしんどうたい)!全力全快!必察―――・・・』

 

 『それにしても妙な格好ですね。この防具や武器なども・・・』

 『そうね。それにしてもなかなか起きないわね』

 『あのやぶ医者!まさか死んでいるなんて事は―――』

 『安心しろ姉者。あやつの話だと明日には―――・・・』

 

 

 『カズト大丈夫カ?ソレニシテモヨクヤッタナ、コレデ本当ノ意味デ我々ノ一員ダ』

 『コレカラモ日々修練ヲ心掛ケ、慢心スルナヨ!』

 『・・・ヨカッタ、コレデヤットオマエヲ息子ト―――・・・』

 

 

 『シュウフクカンリョウ。サイキドウノジュンビニウツル』

 

???:???

 「ん・・・・・むう」

 目が覚めた。

 硬いところで寝ていたらしく、床と接しているところが特に痛く、冷たかった。

 だんだんと頭の霧が晴れてきた。

 「・・・・・・。・・・っ!?」バッ!

 (思い出した、俺確か刺されて)

 急いで服を脱いで確認しようとするが、そこで違和感に気付く。

 (・・・なんで俺、服を。というか装備も、マスクも無い!)

 体を確認すると、見覚えの無い藍色の浴衣以外身に着けてはいなかった。

 部屋を見回してみるが3方は石の壁、窓も無く、もう1面は鉄格子ときている。

 床はこれまた石床で、物は今自分が寝ていた簡易ベットと、桶。

 光は格子の外にある通路の壁にある蝋燭3本のみと薄暗いが、カズトにとっては十分な明るさだっ

た。

 (どうする?鉄格子を壊して逃げる事も可能だけど・・・)

 鉄格子に近づいて、その中の一本を握ってギギギ、と少しだけ力を入れて僅かに曲げて耐久力を確

認してみる。

 カズトが本気を出せば、人一人分の空間を開ける事など造作も無いが、

 (・・・やめとこ。ろくに武器も無いし、情報は無いし、おなかも空いてるし、治療もして貰った

様だし、何より・・・)

  包帯が巻かれて、恐らく糸で縫って、恐らくすでに〝傷口も消えているだろう腹を〟ポンポンと

軽く叩いて確認し、廊下の外を見る。

 (何より、そこの見張り番の人に迷惑がかかるだろうから・・・)

 そこには質素な木のテーブルと2脚の椅子があり、その1脚にはどこかで見覚えのある、黒髪の少

女が、

 「がーーーー・・・がーーーー・・・」ZZZ・・・

 座りながら大きないびきをかいていた。

 腕を組み、おまけに口からよだれを垂らし、美人な顔が台無しである。

 よっぽど深く眠っているのか、カズトがこうして牢屋内を出歩いても一向に起きる様子が無い。

 まるでどこぞの門番である。

 このまま寝かしてあげたいのは山々だが、それではこちらの埒が明かないので。

 (と、とりあえず)

 「あ、あのー」

 声をかけるが、

 「がーーーー・・・がーーーー・・・」ZZZ・・・

 「・・・・・・」

 リズムを変えることなく、寝続ける少女。

 「おーーーーい」

 少し声を大きくして、呼んでみるが、

 「ごーーーー!ごーーーー!」ZZZ・・・

 「・・・・・・」

 心なしか、いびきが大きくなったように聞こえるのは気のせいであろうか。

 「・・・下着見えてるぞー」

 「がーーーー・・・がーーーー・・・」ZZZ・・・

 ギャグでは無いらしい。

 「・・・・・・」スタスタスタ・・・スッ

 少しイラッと来たカズトは、牢屋内にあった桶を持ち上げ、

 「セイッ!」ビュッ・・・カコーン!

 壁に当たり、非常に気持ちのいい音を響かせる桶。

 「・・・はっ!」

 その音で少女はやっと起きた。

 「むむむ・・・。くああああ・・・・・・む?」

 ゴシゴシと目をこすり、背伸びをして頭を切り替えようとした少女と目が合う。

 少しの間、少女は腕を大きく上に伸ばした背伸びの体勢で固まる。

 しかし、だんだんと頭が回ってきたのか、カズトが「や、やあ」と、なるべく気さくに挨拶をした

瞬間

 「あーーーーーーーーーーーーー!」ガタッ!

 「!?」ビクゥッ!

 立った反動で椅子を倒し、こちらを指差して驚きの声をあげる少女。

 「き、ききき貴様!いつの間に・・・!」

 「え?今さっきだけど・・・」

 「しまった・・・。私とあろうものが・・・」

 「・・・だ、大丈夫?」

 寝てしまった事を悔やんでいるのか、頭をかかえてしゃがみ込む少女だったが、

 「・・・ッ!おい、貴様!」キッ

 「はい?」

 スクッと立ち上がったと思ったら、こちらを睨んできた。

 「言うなよ・・・」ぐぐぐ

 「・・・え?」

 「私はこれから貴様が意識を取り戻した事を華琳様に報告してくる。

 恐らく、そうすれば華琳様はすぐにでも此処に来るだろう・・・だから!」ガシッ

 少女はガッと鉄格子をつかみ、こちらへ顔をめり込ませんばかりに、こちらを睨んでくる

 「絶対に・・・私が寝ていた事を言・う・な・よ・・・」

 「・・・はい」こくっ

 何かに圧倒され、頷くことしか出来ないカズトであった。

 「・・・ではな」スタスタスタ

 そして外へ出て行こうとする少女だが、

 「あ、それと!」

 「・・・む?」

 カズトに呼び止められ、振り向く。

 カズトはスッと自分の口を指差し、

 「よだれ、拭いていったほうがいいぞ?」

 「な・・・っ!?」

 一瞬で顔が真っ赤になり、顔中をグシャグシャとこするとまた静かになる少女。

 「お、おい・・・?」

 「・・・す・・・」

 「え?」

 呟きを聞き取る事が出来ず、聞きなおすカズト。

 スウッと息を吸い、頬を染めたままの顔をばっとあげ、言った。

 「貴様・・・後で、後で絶対殺す!」ダダダダッ!

 そのまま走り去ってしまう少女。

 一人残されたカズトは

 「・・・ええええ・・・?」

 疑問と驚きが入り混じったような声を上げるしかなかった。

 (・・・ちょっと可愛かったな・・・)

 とか考えながら。

 

:牢屋

 数十分後。

 カズトは3人の美少女と対面していた。

 こちらはベットに腰掛け、あちらは金髪の少女(凛とした顔立ちで、3人の中で特に輝いて見える

)と、短髪の少女(こちらはクールビューティーといった印象で、ほか二人に劣らず美人だ)は椅子

に着き、短髪の少女は書記役なのか、ふるめかしい筆を握っている。

 そしてもう一人は先ほどの黒髪の少女は護衛役なのか、金髪の子の後ろにいる。。

 こんな状況でカズトはもう内心ルンルン・・・ではなかった。

 なぜなら、黒髪の少女が、ゴゴゴゴゴゴゴとオノマトペが付きそうなほど、こちらを睨み、無言で

怒気を発しているからだ。

 そんな中、取調べは始まった。

 「それでは、まずは自己紹介の前にお礼を言わせて頂戴。

 あの時は、我々の命を助けてくれてありがとう。本当、感謝しても仕切れないくらいだわ」

 そう言って金髪の少女は椅子から立ち上がって頭を下げる。

 「あの時?お礼?・・・あ、そうか君はあの時の・・・ええと」

 「忘れられてたのね・・・まあ、いいわ、私の名前は曹孟得、この街陳留の刺史。彼女等は夏侯淵

と夏侯惇よ」

 「・・・・・・」

 「ふんっ」

 「ああ、よろし・・・く?」

 「どうかしたの?」

 金髪の少女――曹孟得がなにか疑問が?と言った表情で聞いてくる。

 「ええと、それは本名なの・・・?コードネームとか偽名ではなく」

 「何を馬鹿な事を。それとも貴様、私が父母からいただいた大切な名前を愚弄するつもりか?」

 「え、いやそんなつもりじゃなくて・・・」

 「じゃあどういうつもりで聞いたのだ!」バンッ!

 「春蘭落ち着きなさい。・・・で?何故そう思ったのかしら?」

 孟得は夏侯惇を落ち着かせ、質問をふった。

 「・・・ごめん、ちょっと質問。この街の名前は?」

 「陳留よ」

 「皇帝の名前は?」

 「確か今は・・・劉宏様のはずよ。殺されてなかったらね」

 「・・・・・・」

 再び沈黙するカズト。

 たらり、と汗が1滴たれる。

 「おい貴様、黙ってないで何とか言ったらどうだ?」

 「ええっと、もう一回確認するけど、君が曹孟得で、それと夏侯惇と夏侯淵、でいいんだよね?」

 「そうよ」

 「何度もそう言っているだろう?」

 「ああ」

 「・・・マジか」

 「うん?」

 ぽつりとそうもらし、ふうとため息をつくとカズトは話始めた。

 「えー、今の会話で確認できた事が幾つかあるので言わせてもらうと、まず俺はこの時代、いや世界

の人間ではない」

 「・・・は?」

 「それはどういうことなのかしら?」

 「言葉通りだよ。俺は2000年以上後の、さらに別の世界、つまり未来から来たらしい」

 「・・・なんですって?」

 「・・・?」

 「なんと・・・」

 さすがに不審に思ったようで、曹操は少しいぶかしげに俺を見る。

 夏侯惇は・・・少し理解が出来ていないようだった。

 「・・・証拠はあるの?」

 「うーん・・・俺の装備品を見せるのが一番いいんだけれど・・・まさか捨てちゃった?」

 「いえ、ちゃんと保管してあるわ。取って来させましょうか?」

 「お願いできるかな?そうだな、さすがに武器は危ないから・・・じゃあ俺が左腕に着けていたやつ

で」

 「分かったわ。それじゃあ春蘭」

 「分かりました」

 そう命じると、夏侯惇は部屋を出て行く。

 「後、質問なんだけどさ」

 「なに?」

 「君たちが呼び合ってるその名前って、あだ名か何かなの?」

 「違うわ。これは真名といって自分の親しい人、信頼した人にしか教えず、また知っていても、相手

に許可されていなければ決して呼べないものよ」

 「へえ、じゃあ呼んだらどうなるの?」

 「首を落とされても文句は言えないわね」

 「・・・・・・」

 カズトは、うっかりそれを呼んでしまわなかったことを幸運に思った。

 

 しばらくすると、夏侯惇が布に包まれたガントレットを持ってきた。

 「で?それは何をする道具なの?」

 「まあ見てなさい・・・」カチャッ

 カズトはガントレットを腕に装着すると、タタタッ、とタッチパネルを操作し、

 ブウンという音とともに、それを空中に映し出した。

 「・・・ッ!?」

 「く・・・っ!?」

 「む・・・!?」

 今度は、華琳達が驚く番だった。

 それは、

 「これは・・・この街の、城下?」

 それは陳留の街だった。

 「その通り。まあ、所々抜けてるけどね。なにせ俺がこの街に侵入してから、城に突っ込むまでの光

景をマスクのカメラで撮影して、ブレを自動修正して、それを3D加工してつなぎ合わせたものだから

。」

 「・・・これは妖術か何かなのかしら?」

 さすがあの曹孟得というべきか、華琳は動揺をほとんど隠しながら質問した。

 「いや、これは科学の技術だよ」

 「かがく・・・?」

 「えーっと、要するに学問の一つだよ」

 「・・・なるほどね。これがあなたなりの証拠でいいのかしら?」

 「そうだけど・・・あれ、まさか不十分だったかな?」

 カズトがそう、まるで最後の判決を待つような気分で聞くと・・・

 「いいえ、逆に十分すぎたわ・・・で?」

 「で、とは?」

 華琳は、そうして本題へと切り出した。

 「あなたは、そこまで進歩した技術を持っているあなたは、一体どこの誰なの?」

 その質問にカズトは

 「えーっと、私ハ東京ノアサクサ?ニ住ンデイル、ホ、北郷一刀、です。はい」

 「「「・・・・・・」」」

 「・・・あれ?」

 そう答えた。最初の地球での任務の際に師匠に、「モシ事故ナドデ住所ヤ、名前ヲトワレタラコウイ

ウノダゾ」と、教えられた事を。

 訪れた沈黙に、カズトは戸惑った。

 「・・・春蘭、秋蘭」

 「・・・御意」シュリンッ

 「はっ」チャッ

 「だー!待って待って!言う!本当のこと言いますから!」

 「はあ、もう一度だけ聞くわ。・・・名は?」

 この人に嘘をついてはいけない。本能的にカズトにそう思わせるほどの気を発っしていた。

 そんな華琳の質問にカズトは即答した。

 「カズトです。あ、ちなみに正確に漢字で書くと、姓の北郷がついて、名前のカズトは一刀って書く

んだけど」

 「では北郷一刀、あなたの生国は?」

 「わからない、けど育ちは惑星名エアーボート。この星から3万光年ぐらい外れたところだよ」

 「わくせい?こうねん・・・?貴様ぁ、さっきからワケ分からんことばかり・・・!」

 「落ち着きなさい春蘭。でも一刀、私も分からないわ、もう少し私たちにも分かるように説明して頂

戴。あと分からないってどういう事なのかしら?」

 「ええとつまり、この星からすっごく離れた大陸から来た・・・って理解してもらいたいんだけど」

 「ふむ、まあ理解できなくは無いわね。秋蘭はどう?」

 「・・・ある程度は。しかし、にわかには信じられない話ですな」

 「・・・ふむ」

 「お前、分かってないだろう」

 「文句あるか・・・」

 「うーん・・・」

 「春蘭、色々難しい事をいったけれど・・・この北郷一刀は、天の国から来た遣いなのだそうよ」

 「なんと・・・、こんな得体の知れないやつが、天の遣いなのですか?」

 「おいおい、何をいきなり」

 夏侯惇はそれで納得しちゃったらしいが。

 「あなたも、五胡の妖術使いや未来から来たなんていう突拍子も無い話をして、いちいち不審がられ

るのも面倒でしょ?こっちもそう説明された方が分かりやすくて済むのよ。

 あなたも、これから自分のことを説明するときはそうしなさい」

 「いやいや・・・何をいきなり」

 「あら、僕は五胡の妖術使いです、なんていったら城の兵士に槍で突き殺されるわよ?

 それで良いならいいけど」

 「・・・天の遣いでお願いします」

 「結構。話の途中で悪かったわね、続けて頂戴」

 「あ、ああ。

 えっと、分からないっていうのは。俺の母さんが俺を身に宿したのは地球、この星だったんだけど、

誰かの選定を間違えたらしくて、戦士の一人として選ばれてしまったんだ」

 「選ばれた?戦士って事は、兵士か何かの?」

 「ううん。狩の獲物として」

 「「「な・・・っ!?」」」

 その言葉に目を見開き、耳を疑う華琳達。

 「人間を、狩るというのか・・・?」

 秋蘭が信じられない、といったふうに聞くが

 「そうだよ。俺達一部のプレデターはたまに、強い人間を選び、ある星に放って狩をするんだ。

 普通、そこには病気を持っている人や、妊娠中の人なんかは絶対に呼ばない、呼んではだめなんだけ

ど、何故かそこに俺の母さんは呼ばれてしまった。そして狩は始まり、母さんはもう少しで終わるとい

う所で致命傷を負ったんだ」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 華琳達はそれを黙って聞いている。

 「そんな中、なんと陣痛が始まって、何とか俺を生んだんだけど、そこは何処とも分からない森の中

、しかも自分を狙っている者までいる。母さんの命どころか、俺の命も危なくなったとき、なんと助け

てくれた人がいたんだ」

 ごく、と誰かが息を呑んだ音が響く。

 「それは、いままで他の参加者を殺し、母さんをも狙っていたプレデター、狩人達の当時まだ奴隷だ

ったプレデター、俺の師匠だった。

 師匠は当時から大の人間好きでね、間違いに気付いた師匠は俺の母さんを助けてくれようとした。

 けど既に血は大量に流れ出て、もう時間の問題だったそうだよ。

 そんな時、母さんは最後の頼みだといって、師匠に俺を託した。

 しかし師匠はまだ奴隷だった。そこで師匠は一つの計画を思いついた。

 それは、他のプレデターを殺し、自分の元の部族に帰るというものだった。

 そしてそれは成功し、俺は今日まで師匠に息子として、一人の狩人として育てられたんだ。

 っと、これが俺の知る俺の全てだよ」

 しばらくの間、沈黙が流れた。

 「それじゃあなたは・・・」

 「うん?」

 「あなたは人間なのよね?」

 「もちろんだよ」

 「ふむ・・・一刀、あなた行くあてはあるの?」

 「ない。宇宙船も爆発させてしまったし、しょうがないからしばらくの間野生にでも帰って、帰る算

段をたてようと考えていたんだけれど」

 それを聞くと、華琳は少しの間なにやら考え込んでいたが、ふと顔を挙げると

 「それでは北郷一刀、貴方しばらく此処にいない?」

 「・・・へ?」

 「か、華琳様!?」

 「・・・・・・」

 そんな華琳の発言に、一刀と春蘭は驚きの声を上げる。

 「もちろん、ちゃんとした部屋を与えるし、食事も出すわ」

 「・・・いいの?」

 「ええ。貴方は私達どころか、下手をすればこの街の民全ての命を救ったわけだし」

 「・・・・・・」

 そこまで聞くと、一刀は正直甘えたくなる、が

 「・・・ごめん。とってもいい条件だけど、俺にはそれを受ける資格は無い」

 「なぜ?」

 「それは・・・」

 一刀は一拍開け、改めて話し始めた。

 「なぜなら、アレをこの星に持ち込んだのは・・・俺だからだ」

 「・・・・・・」

 「な、なんだと!?」バッ!

 「姉者!」ガタッ

 「離せ秋蘭!」

 激昂し、思わず剣を振り上げた春蘭を、秋蘭は抑える。

 「気持ちは分かる、だが・・・」

 秋蘭は、一刀が告白すると同時に、苦しそうに顔を歪めたのを見ていた。

 春蘭もそれに気が付くと

 「・・・くっ!」

 剣を下ろし、華琳の後ろへ戻った。

 「・・・どうしてそんな事をしたのかしら?」

 「・・・まず、ここに来る前の事から話すよ」

 そうして一刀は再び語り始めた。

 任務の帰り、あるお使いを頼まれたこと。

 その内容がエイリアンの卵を運ぶ事だったこと。

 そしてその途中原因不明の事故にあい、この星に落ちたこと。

 落ちた際に3匹のチェストバスターが逃げ出したが、2匹は既に始末し、残りの1匹も殺し、もう心

配はいらないこと・・・など。

 「だから、俺にはそれを受ける資格はない」

 「「・・・・・・」」

 その告白を受け、春蘭と秋蘭の二人は黙る。

 「でも、」

 だが華琳はそれに反論した。

 「でも貴方はその責任を取ったじゃない」

 「・・・え?」

 予想もしなかった言葉に、一刀は思わず聞き返す。

 「貴方はそのまま放って置くのを良しとせず、この街まで来て、被害を最小限に抑えたじゃない。

 まあ確かに、全部の責任を取れた訳じゃないけど?」

 「・・・・・・」 

 「それでも貴方は良くやったと思うわよ?」

 「それでも・・・甘えるわけには行かないよ」

 「・・・ふう、分かったわ。では交渉しましょう」

 「交渉?」

 「そう。私は貴方に、貴方は認めないけど命を救われ、そのお礼をしたい。

 しかし、貴方はそれを受けいれず、責任を取りたいと言う。

 なら、対等な立場になって、交渉するしかないじゃない?」

 「・・・なら曹操、君は俺に何を求める?何をして欲しい?」

 華琳は少し考え、

 「貴方の持つ天の知識、それと力。この2つよ。

 対価として、こちらは住処と食事、それと身分と働きに応じて給金を支払うわ」

 「ふむ・・・」

 「な・・・っ!?」

 華琳は立ち上がり、

 「北郷一刀、私の覇道に協力しなさい」

 そう言い放った。

 「・・・目指すのは?」

 「天下泰平の世」

 一刀の質問に、間髪いれず華琳はそう答えた。

 「・・・ふう」

 (さて、どうしようか)

 一刀は悩んでいた。

 正直、飛び上がりたいほど嬉しい。

 しかし、一刀の部族には必要以上人間に関わってはいけないという掟があるのだ。

 (師匠・・・俺は、どうしたらいい?)

 『カズトヨ、我々プレデターニハ部族ニヨッテ差異ガアルモノノ、掟トイウモノガアル。

 ソレハケッシテ破ッテハイケナイモノダ』

 一刀の脳裏に師匠の言葉が思い出される。

 (そう、掟は絶対・・・)

 『ダガナ、』

 (?何だっけ・・・?)

 『モシドウシテモ、ヤラナケレバナラナイコトヤ、命ニカエテモ叶エタイネガイガアッテ、掟ガ邪魔

ニナッタラナ・・・ヤブッチマエバ良インダヨ!(ドヤ顔)』

 (・・・ふっ)

 「どうしたの?そんなに迷うようだったら、しばらく待つけど?」

 「いや、是非・・・是非お願いしたい」

 一刀はそう答えた。

 「いいのね?」

 「ああ、よろしく頼む!」

 そう言って一刀は頭を下げた。

 「顔を上げなさい北郷一刀。私達は今のところはだけど、対等なのだから」

 「うん」

 「春蘭、鍵を」

 「はっ。貴様、ありがたく思えよ!」

 「ははは、本当にな」

 そうして一刀は、無事牢屋を出る事が出来た。

 そして一刀と華琳は向き合う。

 「改めて、私の名は曹孟得、この街陳留で刺史をしているわ。そして真名は、華琳よ」

 「か、華琳さま!?」

 「華琳様、よろしいので?」

 「いいのか?自分で言うのもなんだけど、こんな胡散臭いやつに」

 「ええ、だって嘘は付いてないのでしょう?」

 「ま、まあな・・・」

 「だったら、今のところは信頼してあげるわ」

 「春蘭と秋蘭も、良いわね?」

 「ぐぐ・・・。華琳様の、決めた事ならば、それに従うまでです・・・」

 春蘭はとても悔しそうに頷いた。

 秋蘭も

 「ふむ・・・承知いたしましたとお答えしましょう」

 「そうか。じゃあ俺も改めて、俺の名前は北郷一刀、人間だ。あと・・・えーっと、ごめん俺真名

っていうのないんだ。強いて言えば、一刀っていうのがそれにあたるんだろうけど・・・」

 「・・・っ!?」

 「な、なんと・・・」

 「むう・・・」

 「え、なに・・・?」

 華琳達の意外な反応に、戸惑う一刀。

 「いや。少々、予想外だったものでな・・・」

 「ならば貴様は初対面で、しかも自分を独房にぶち込んだ我々に、いきなり真名を許していたとい

うのか?」

 「え?・・・あー、まあそっちの流儀に合わせればそうなる・・・のかなぁ?」

 「むむむ・・・」

 「そうなのか・・・」

 「ではやはり、真名を預けて正解だったわね」

 「そうなのか?」

 「ええ。それとも何?やっぱり嘘だというの?」

 「いや。俺の名前は北郷一刀、親と師匠からもらった大切な名前だ」

 「結構」

 「それでは私も。私の名は夏侯淵、華琳様の補佐をしている。真名は秋蘭だ。よろしく頼む」

 「ああ、よろしく」

 秋蘭と挨拶を交わし、そして握手をした。

 「姉者はどうする?」

 そう言って夏侯惇の方へ振り向くと、

 「むむぅ・・・・・・」

 頭を抱えて、すごく葛藤しているようだった。

 「いや、そこまで嫌なんだったら別にいいぞ?」

 (軽く傷付くけれども・・・)

 「い、いやそういうわけではないのだ!ただ・・・その」

 「・・・?」

 「・・・ええい!・・・ほ、北郷一刀!」

 「はい!?」

 いきなり叫ぶように呼ばれたので、思わず声が上ずってしまった。

 「その・・・だな・・・」

 「お、おう・・・」

 「あ、あの時は、その・・・・・・助けてくれて、ありがとう、感謝する・・・」

 「・・・え?」

 「・・・っ!だから、感謝をしてやったのだ!ありがたく思え!」

 「え?あ、ああ。ははは、そうだな。どういたしまして」

 「・・・っ!」

 何故か顔を真っ赤にして俯いてしまう夏侯惇。

 「ふふっ。ほら春蘭、結局どうするの?」

 見ると、華琳は笑いをこらえ、秋蘭は何故かふやけた顔をしていた。

 (秋蘭、少し鼻血出てないか・・・?)

 「え・・・あ!・・・ごほん!」

 と、わざとらしい咳払いをそして、姿勢を正し、

 「私の名は夏侯惇。ここにいる秋蘭の姉で、同じく華琳様の補佐をしている。

 と、特別に私の真名を許してやる!光栄に思えよ!」

 「ああ。春蘭もよろしく」

 「では全員、一刀が仲間に入る事に異論は無いわね?」

 「「はい」」

 「それでは一刀、今後の貴方の活躍に期待するわ。よろしく」

 そうして俺は曹操――華琳から差し出された手を握って握手を交わし、三国志の世界での不思議な生

活を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 
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