No.752256

ALO~妖精郷の黄昏~ 第57話 消えゆく太陽と月

本郷 刃さん

第57話です。
今回はアルン高原北部での戦いになります。

どうぞ・・・。

2015-01-18 15:56:55 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5595   閲覧ユーザー数:5218

 

 

第57話 消えゆく太陽と月

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グランド・クエスト[神々の黄昏]

『侵攻側クエスト[太陽と月を追う者達]:スコルとハティと共にソールとマーニを討て』

『防衛側クエスト[駆ける太陽と月]:ソールとマーニに協力してスコルとハティを討て』

 

 

 

 

 

No Side

 

――アルヴヘイム・アルン高原北部

 

央都アルンを囲むように存在する広大なアルン高原、その北部でオーディン軍とロキ軍の衝突が始まった。

 

オーディン軍を率いているのは〈Sol the Sun Goddess(ソール・ザ・サン・ゴッデス)〉と〈Mani the Moon God(マーニ・ザ・ムーン・ゴッド)〉の2柱。

ソールは太陽のように輝く髪と猛る炎のような色の瞳を持ち、赤く輝くドレスとローブに身を包んでいる。

彼女の馬車を引くのは“早起き”の意を持つ『アールヴァク』という馬である。

マーニは月のように輝く髪と澄んだ水のような色の瞳を持ち、青く輝く貴族服とローブに身を包む。

彼の馬車を引いているのは“快速”の意を持つ『アルスヴィズ』という馬だ。

2柱の後ろに居るエインフェリア達とワルキューレ達の数は相当な物であり、ゆうに1000は超えている。

さらにはプレイヤー達によるレイドが4つ、加えてレイドの中に居ない者達を含めれば250人を超える。

 

対し、ロキ軍を率いるのは〈Skoll the Solvarg Lord(スコル・ザ・ソルヴェルグ・ロード)〉と〈Hati the Managarmr Lord(ハティ・ザ・マーナガルム・ロード)〉の2体。

炎のように猛る紅い毛皮を纏い、瞳も赤く染めているスコル。

その名は“嘲る者”、“高笑い”、“騒音”、“まどわし”の意を持つ。

同じく炎のように猛る蒼い毛皮を纏い、青く染まる瞳を持つのはハティであり、その名は“憎しみ”や“敵”の意がある。

この2体の後ろに控えるのは相手方と同じく1000を超える狼型Mob。

こちらのプレイヤーはレイド数が2つと相手の半分であり、150人以下というところだろう。

 

数に大差は無く、戦いは拮抗するだろうと誰もが思い込んだ。

しかし、それは2柱と2体の会話の直後、簡単に崩れ去った。なぜなら、彼らが次の瞬間に駆け出したからだ。

 

「舞台はこのアルン高原全て。私達を呑み込むことが出来ればお前達の勝ちですよ」

「だが、我らが呑み込まれる前にお前達が倒れることになればお前達の負けだ」

「良いだろう、お前達に終焉をくれてやる!」

「我らの牙をその身に刻み込んでやるぞ!」

 

ソールとマーニがアールヴァクとアルスヴィズに馬車を引かせて駆け、スコルとハティがその後を追い駆ける。

この場で戦闘が行われると思っていたプレイヤー達は思わぬ出来事に呆然とした。

しかし、それに対して逸早く動き出したのはロキ軍の全プレイヤー達であった。

彼らは即座に翅を展開して飛び上がり、スコルとハティに加勢するべく一斉に追いかけていく。

 

オーディン軍の4人のレイドリーダーはすぐさま気を取り直し、

2つのレイドをこの場に残し、2つのレイドで追いかけることを決定した。

レイド外のプレイヤーは個人の判断で任され、結果的に半数ずつで別れるようになった。

 

ロキ軍は全てが狼型Mobで構成され、プレイヤー達は全員でソールとマーニの討伐に向かい、

オーディン軍のプレイヤー達は半数がスコルとハティの討伐に向かい、残り半数がNPC達と共にMobを迎え撃つこととなった。

 

 

 

 

ソールとマーニは馬車の手綱を片手で掴み、空いている手を後方に向けていた。

 

「「はぁっ!」」

 

ソールの手からは炎と光の魔弾が無数に放たれていき、マーニの手からは氷と光の魔弾が放たれる。

放たれた魔弾は後方から追いかけてくるスコルとハティに雨の如く降り注いでダメージを与える。

 

「「カァッ!」」

 

それに対抗してスコルは口から炎を、ハティは氷を吐き出した。

吐き出された炎と氷はソールとマーニに襲い掛かりダメージを与える。

 

2柱と2体、彼らの移動速度は基本的に一定に保たれており、前を馬車で駆けるソールとマーニ、

後を自慢の脚で駆けるスコルとハティとなっている。

その状態で2柱は後方に向けて魔弾の連射や大き目の魔弾の放出を行い、2体の方はブレスが主な攻撃を行う。

時折2体の速度が上昇して2柱に追いすがると前脚の叩きつけ攻撃を仕掛ける様子もあるが、

それは一定間隔で行われることが察せられる。

当然ながらその一撃のダメージ量は大きく、一度の攻撃でHPゲージの4分の1は削れるほどだ。

 

だが、スコルとハティにはハンデというべきものがある、それは彼らのHPが減少していることだ。

2体共にHPは6本から4本になっている、対してソールとマーニは元の6本のままなのだから優位といえば優位である。

その時、彼らに追いすがる無数の影があった、先程彼らを追い駆け始めたロキ軍である。

 

「スコルとハティを掩護してソールとマーニを討つぞ!」

「ここからは飛行戦闘です! 離されず、落とされないように!」

「「「「「「「「「「おぉっ!」」」」」」」」」」

 

男女のレイドリーダーの言葉に応じて揃えた返事をするプレイヤー達。

彼らはスコルとハティを追い抜くとソールとマーニに向けて攻撃を開始した。

近接系の武器を持つ者達は自分に出せる限界の速度の飛行で接近しながら武器で攻撃し、

弓を持つ者やメイジは矢や魔法で攻撃を仕掛ける。

高速飛行戦闘ということもあり、攻撃の命中率はお世辞にも良いとは言えないが、

それでも徐々にだがダメージは与えることができる。

 

「喰らうでゴザル、忍!」

 

そこで1人のプレイヤーが小刀を用いてソールへ斬りかかり、ダメージを与えた。

彼の名は『コウシ』、種族はスプリガン、生憎と全身を黒ずくめの忍者装束で覆っている為に素顔は知ることが出来ない。

その手に持つ武器は『忍者刀・龍刃』という短剣系の武器である。

彼は『SAO生還者(SAOサバイバー)』であり、ギルド『風魔忍軍』の頭領(ギルマス)でもある人物だ。

 

巧みな刀捌きで三度の刃を当てることは出来たが、ソールが魔法を放ってきたのでそれを回避して距離を取った。

一方でマーニへ向けて剣を当てる者もいた。

 

「焦らず、落ち着いて、狙いを定めて……ふっ!」

 

マーニへと距離を詰め、心を落ち着かせながら精確な剣撃を敵へぶつけた青年。

彼は『クルト』、種族はスプリガン、肩につくくらいの黒髪を持つ、165cmほどの青年だ。

 

愛用の片手剣を手にし、連撃よりも確実な一撃を決めていく。

しかし、こちらもマーニが反撃とばかりの魔弾が放たれたこともあり、回避を優先して大きく距離を取る。

反撃を行うマーニとその近くを駆けるソールへ向けて、新たなプレイヤーが攻撃を仕掛けてきた。

 

「さぁ、どんどん攻めて行くぜ!」

 

槍よりも僅かに長い棒を振り回して2柱にダメージを与えた。

 

彼の名を『トーフ』、種族はノーム、中華服を身に纏っている。

武器は古代級武器(エンシェントウェポン)で槍と両手棍の派生武器である“棒”の『如意棒』だ。

 

扱い難い武器である棒を自在に操り、ソールとマーニに叩きつける。

2柱の間には距離があるが、彼は棒で打撃を与えた後に馬車を蹴ってもう片方へ接敵し、再び相手に叩きつける。

それを少し行ったところで勢いが削がれたので、勢いを取り戻す為に後退した。

 

「さすがはボス、厄介でゴザル」

「もう少しで高原西部ですからね、このまま押し削りたいところかな」

「まったくだ。乱戦になる前に出来るだけHPを…って、奴らが来たぞ!」

 

近くに居合わせた3人が言葉を交わしていた時、トーフがあることに気付いて声を上げた。

それはスコルとハティの後方からオーディン軍のプレイヤー達が接近していることを知らせるものだった。

大声で言ったこともあり、味方に伝えることは出来たので事前の打ち合わせ通り、

弓部隊とメイジ部隊がオーディン軍に向けて矢と魔法を放ち、近接武器持ちのプレイヤーが相手に向かっていく。

オーディン軍もそれに対抗して矢と魔法を放ち、近接武器を持つプレイヤーが一気に距離を詰めた。

 

ロキ軍とオーディン軍の交戦が始まり、互いに放った矢が突き刺さり、

魔法が入り乱れて爆発し、武器同士のぶつかり合う音が響いていく。

幾人かのオーディン軍のプレイヤーがロキ軍のプレイヤー達を掻い潜ることで突破し、スコルとハティに迫った。

 

「ハク! スコルに攻撃するから接近お願い!」

「ウォンッ!」

 

オーディン軍のプレイヤーでケットシーのリオと彼女の相棒である白き狼のハクだ。

上空でプレイヤー同士が戦闘を行う間、彼女はハクに乗って移動することで攻撃から除外されていた。

そのままハクに乗りながら接近し、ついには持っていた武器の斧槍を抜き放ち、振り回してスコルにダメージを与えていく。

リオが翅を使い飛行している間にハクは自慢の爪と牙を使いスコルに攻撃する。

とはいえ、スコルも尻尾を振り回してプレイヤーに攻撃するため、それを回避するように距離を取ってハクの背に戻る。

 

「ヨツンヘイムではいいようにやられたけど、今度はそうはいかないわよ!」

 

リオとハクが地上を行く時にその傍を低空飛行で移動していたスプリガンの女性、ライもハティへ攻撃を開始した。

短剣の一種であるソードブレイカーの『ギルティー・レイ』を振りかざし、ハティへ突きたてた。

さらに引き抜くと連続で斬り、突きを行うが、スコルと同様に尾を振るう反撃を行ってきた為に距離を取らざるを得なくなった。

 

「もう一度行ける、ハク?」

「ウォンッ!」

「なら行きましょう、リオちゃん、ハク……っ、はっ!」

「ライさん! きゃっ…!?」

「ウゥオンッ!」

 

2人と1匹でもう一度攻撃を仕掛けようとした時、彼女達の行く手を阻む者達が現れた。

ロキ軍プレイヤーのコウシ、トーフ、クルトの3人である。

 

「元オレンジのライ殿と見受けるでゴザル……お相手願えるでゴザルか?」

「っ!?……そう、知っているのね、私のことを…。良いわ、相手になってあげる」

 

真剣な様子でライに問いかけるコウシ、普段の彼の様子を知る者からすれば驚くのは間違いない。

そのことを知らないライは彼が自分のことを“元オレンジ”と呼んだことで、彼も“生還者”なのだと悟った。

その線で自分と語る必要があるのだとそう感じて、応じた。

 

「斧槍かぁ、俺があの子の相手をしてもいいかい?」

「お願いします。武器を考えても俺じゃ無理だと思うんで、狼は全力で迎え撃ちますけど」

「ハク…相手は強いと思うけど、頑張ろう」

「ウォンッ!」

 

トーフはリオを、クルトはハクを相手に定め、彼女達もそれに応じる姿勢を取る。

棒と斧槍という似た武器を持つ者同士が戦い、能力値的に大差が無い者同士が戦う。

さらには、逃げながら魔法を放つ2柱とそれを攻撃しながら追う2体にも続かなければならない。

 

特殊な戦闘となるため、かなりの注意が必要となるだろう。それらを理解したことで、戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

マーニとハティ側で戦うのはライとコウシ。

2人は空中戦でありながら素早い動きを以て、互いの武器であるギルティー・レイと忍者刀・龍刃が交わり合う。

 

「さすがは生還者でゴザルな」

「貴方こそ、まさかあの『風魔忍軍』のギルマスだとは思わなかったわ」

「拙者らの情報はあまり利用しなかったでゴザルかな?」

「ええ、私は情報を集めて提供する側だったから…」

「なるほど、そうでゴザルな…」

 

当初とは目的を変えて情報収集や提供を主に行い、一部の攻略組や中層プレイヤーと多く接してきた風魔忍軍。

一方、攻略組のサポートをメインに手助けを行ってきたライ。

助けていた相手や方法は僅かに違うけれど、攻略組の手助けという同じ目的で戦ってきた2人。

両者は武器も同じ短剣系統であり、まったく同じではないが戦い方も似てくる。

ライは武器破壊をメインとしたソードブレイカーによる攻撃、コウシは先制攻撃を含めた速度による連撃。

どちらも武器が軽いこともあり、連続攻撃が主となってくるのだ。

 

そこでコウシが魔法の詠唱を行った。

 

「では、これならどうでゴザル? 分身の術!」

「くっ……分身の術って、幻影魔法系の分身魔法じゃない…!」

 

ライのツッコミの通りに実際は分身魔法なのだが、幾つも生み出された分身に紛れた本体の奇襲は厄介である。

追撃とばかりに分身を囮にし、さらなる連撃を加えていく。

決定打とはならないものの、ライのHPは次々と削られていく。

 

「(この人、やっぱり実力は上位ね…! でも、私だって…!)やぁっ!」

「むっ、ぐぅっ…!」

 

だが彼女も実力はそれなりに高く、お返しと言わんばかりに攻め返す。

速さではコウシの方が上なのだろう、しかし威力ではライの方が勝っており、繋げていく連撃で彼を押していく。

ついにはダメージを与え返すこともでき、自身と同じほどのHPになった。

 

「ねぇ、どうして貴方ほどのプレイヤーがロキ軍に付いているの? ううん、貴方だけじゃない、キリトさんや他の人達だって…」

 

刃を交えて戦いながらもライはコウシに気になっていたことを問いかけた。

SAOクリアの為に奔走した彼らが、何故ALOを滅茶苦茶にしているロキ軍に付いているのか、彼女には分からなかった。

いや、これは彼女だけが疑問に思っていることではないかもしれない。

特にキリトやアスナのことを知り、SAOを生き延びた者達ならば特にそう思うはず。

 

「我が風魔忍軍はギルドの構成上スプリガンが大半であり、領主のグランディ殿にも贔屓にしてもらっているでゴザル。

 キリト殿にはSAOの恩があるでゴザルから、恩返しということでゴザル。

 同時に、真実(・・・)なるものを聞かせてもらい、協力を決めたでゴザル」

「真実、ですって…? それは一体…」

「申し訳ないが話すことは出来ないでゴザル。

 まぁ実際のところは知っても知らなくても、このALOは救われるということでゴザル。

 頭の片隅にでも、眼に見えなくとも大切なことがあると、覚えていれば良いでゴザル」

 

ライとしては益々意味が分からなくなったが、

少なくともキリトや彼らが無意味な破壊をしているわけではないと、それは理解することができた。

自分にも何かできればと彼女は思ったが、こうなってしまった以上は仕方が無いと思うことにした。

その時、刃をぶつけている最中にコウシが真剣な声で聴いてきた。

 

「拙者もライ殿に聴いておきたいことがあるのでゴザルよ」

「何を?って、言わなくても解るわ……どうして“元オレンジ”だったのか、よね…?」

「如何にも。【友殺し】と自称したそうでゴザルが、拙者が知りたいのは“真実”にゴザル。

 何事も“真実”を知らねば、見落としてしまうことがあるでゴザル。

 だからこそ聴きたい、何故そのようなことになったでゴザル?」

 

コウシとは刃を交え合いながらもなんとか応戦するが、ライはかなり動揺していた。

何故なら、なにか理由があると見透かされたからである。

だが、SAOを生き残った者ならば少しは引っ掛かるものだ、

【友殺し】などという不名誉極まりない通り名を態々自分から名乗ることがおかしい。

特にSAOでは本当に事故でオレンジになった者も少なくはない、それを彼は察したわけだ。

ライもまた、相手がそう思ったことをなんとなく察し、自嘲気味に呟いた。

 

「なんてことはないわ…。MPKにあって、ソードスキルで応戦して、飛ばされたあの子に当たって…。

 それだけよ、だから“友殺し”、私が犯した罪だけど、あの子の為にも私は生きなきゃならないの…!」

 

――生きて、あたしの分も…

 

親友の遺言、彼女の為にも自分は彼女の分まで精一杯生きなくてはならない。

だからこそ、負けられない、負けたくない……それがライの原動力となっていた…。

 

「なるほど……そのMPKをしたプレイヤー、確か水色の髪をした女でゴザルかな?」

「知って、いるの…?」

「まさしく、その女はMPKの常連……それ故に、『嘆きの狩人』に処刑されたと、聞き及んでいるでゴザル」

「な、嘆きの狩人って……うそ、実在したの…?」

 

その言葉にライは戦慄した。SAOにおいて存在したPKK(プレイヤー・キル・キラー)集団の『嘆きの狩人』。

攻略組や最前線組、中層の一部のプレイヤーが知るPK殺しの集団にして、“必要悪”の存在。

だが所詮は噂だと思っていたが、まさか本当に存在しているなど思いもしなかった。

彼女が同時に思い至ったのは、仇という存在の有無だった。

 

「結果として仇は討たれているということでゴザル」

「そう……ふふ、それならもう良いわ…。仇が居ないのなら、その恨みも全部前に進む為のエネルギーに変えられる!」

「ぬっ、これは…!」

 

直後、ライの動きが格段に変化した。威力と鋭さが増し、コウシを攻め立てる。

後顧の憂い、いや自分の根底にあった黒い物を別の思いに変えられるようになり、

精神に掛けていた手加減を外す事ができたのだ。

SAOで友を殺めてしまって以来、ALOでも対人戦では無意識に手加減をしてしまったのを、解き放つことができた。

 

「ここからが、本番でゴザルな!」

「ええ、楽しんでいきましょう!」

 

ライとコウシが笑みを浮かべながら、ギルティー・レイと忍者刀・龍刃を幾度となく交え合った。

 

 

 

 

一方、スコルとソール側ではリオとハクがトーフとクルトを相手に戦っていた。

 

「せぇい、やぁっ!」

「よっと、あらよっ!」

 

リオが小柄な体を精一杯動かすことで斧槍を振るい、その攻撃によってかなりの衝撃も生まれる。

対するトーフは古代級武器の棒『如意棒』を巧みに動かして斧槍の攻撃を受け流していく。

勿論、ただ受け流すのではなく、棒の長所である功夫と連撃を行って反撃をする。

 

「中々やるねぇ、お嬢ちゃん」

「嘗めないで、ください!」

「おっと…!」

 

パワーで押す攻撃型のリオと功夫によるテクニックを中心とした回避&防御型のトーフ。

リオがパワーで押せどもトーフが受け流しと防御で的確に捌き、

彼も反撃として連撃を行うが威力が劣る為に彼女の強力な一撃で押し返され、弾き返される。

剛と柔、攻撃と防御、相反し合う戦い方であるが互いに実力が離れすぎているわけでもないため、

こちらも決定打とならずに拮抗する。

 

その2人から然程も離れていない場所ではクルトがハクと戦っていた。

ハクはスピードを重視して爪と牙で攻撃を仕掛けるが、クルトはそれに翻弄されることなく冷静に対処していく。

速さに惑わされることなく、爪によるひっかき攻撃が来れば片手剣で防ぎ、

牙を用いた噛み付き攻撃が来れば受け止めた後に受け流す。

 

「動きが速いですが……このまま何事にも落ち着いて対処すれば時間は稼げそうですね」

「ウォン…?」

 

クルトの言葉が分からないからかハクは首を傾げ、その様子にクルトは苦笑する。

一部のテイムモンスターが本物の生き物さながらの行動をするとは聞いていたが、実際に目にすると中々に面白い。

科学の結晶である世界のはずだが、こういった不思議な事が起こるからVRMMOはやめられないのだ。

 

「気にしなくていいよ。キミは傷つけたくないし、倒さなくても足止めさえできれば良いからね。さぁ、続けよう」

「ウォンッ!」

 

クルトは優柔な笑みを浮かべたままに今度は自分から剣を振るって攻めた。

先程までとは違い、冷静ながらも的確な斬りや突きを行ってハクの動きを封じていく。

時折にハクがスピードによる強襲を行うが、それもしっかりと防いでおく。

ハクのスピード重視の攻め、対するクルトの冷静な見極めによるバランス重視の攻撃と防御、

こちらも中々に決定打にはならない。

 

その時、クルトはハクから距離を取ってトーフの許に並び立った。

 

支援魔法(パフ)をお願いします。前衛は任せてください」

「頼むぜ。ついでだ、補助も任せろ」

 

トーフが詠唱を始め、手早く詠唱を終わらせると自身とクルトに強化魔法が与えられた、

攻撃力と防御力が上昇するタイプの魔法を使用したのだ。

2人が態勢を完全にする前に叩くべきだと判断したリオはハクと共に攻撃を仕掛けにいく。

斧槍で真正面から攻めてくるリオに対し、クルトは一度受け止めるとそのまま流れるように勢いを下に受け流す。

 

「ウォンッ!?」

「ハ、ハク、大丈夫!?」

「上手くいったね……それじゃあ反撃だ」

「応とも!」

 

勢いを流された斧槍は彼らの下を通過してトーフに攻撃しようとしていたハクの前にいき、ハクはそのまま斧槍に激突した。

クルトは笑みを浮かべたまま後ろで支援魔法の底上げを行ったトーフに声を掛け、彼も応じる。

さらにトーフはリオとハクに向けて妨害魔法(デバフ)を使用し、攻撃力低下効果の魔法を掛けた。

 

「攻撃が下げられちゃったけど、まだまだ行くよ!」

「ウォォォンッ!」

「お、やる気十分みたいだな!」

「このまま安定して行きましょう!」

 

リオとハクは退くことを考えずに敢えて攻め手を緩めず、トーフとクルトもそれに応える。

コンビネーションでは相手がリオとハクが上だが、防御戦闘スタイルのトーフとクルトを崩すのは骨が折れるだろう。

こちらの戦いも激しさを増していく。

 

 

 

 

それからの数十分間、ソールとマーニはスコルとハティとロキ軍の攻撃を受けながら逃げ続け、

スコルとハティはオーディン軍の攻撃を受けながらもロキ軍の掩護もあって2柱への攻撃を続けた。

アルン高原を走りながら行われたこの戦闘は5周するようになり、

その途中でロキ軍は目の前の敵よりもボスであるソールとマーニに対して攻撃を行った。

勿論、ソールとマーニも逃げながらの反撃は行い、結果として2柱と2体のHPゲージは1本だけとなっている。

そのHPもかなり削れており、どちらも倒れるのは時間の問題だろう。

 

「燃え尽きろぉぉぉっ!」

「凍てつけぇぇぇっ!」

 

スコルは全身を炎の装甲で包み、ハティは氷の装甲で全身を包んでいる、形態変化だ。

スコルは燃える前脚を使い、ハティは氷を纏う爪を使い、接近して攻撃を仕掛ける。

ソールもマーニもダメージを負う。だが、それに甘んじることなく2柱も反撃を実行する。

 

「吹き飛びなさい!」

「倒れ伏しろ!」

 

ソールは炎をドレスの上から纏い、マーニは冷気を貴族服の上から纏う、こちらも形態変化だ。

ソールは炎と光の合わさった巨大な魔弾を生成し、マーニは氷と光の合わさった巨大な魔弾を生成した。

2柱を掩護するようにオーディン軍のプレイヤー達が魔法や矢を放ち、2体にダメージを与える。

そして、生成された2つの大きな魔弾が放たれ、スコルとハティに直撃した。

爆発により周囲は煙が充満し、視界が悪くなる。

オーディン軍のプレイヤー達はいまのでHPゲージが削り切れただろうと思った……が、

煙の中から巨大な影が進み出て、僅かなHPを表示していた。

スコルとハティも爆発に巻き込まれたものの無事だった。

 

「「幕引きだ!」」

「「あっ…」」

 

声を上げる間もなく、ソールとマーニはそれぞれスコルとハティに呑み込まれ、HPが0になった。

2体の口からはポリゴン片が漏れ出しており、その姿を見た一部のプレイヤーは怯えてもいた。

さて、何故この2体が生き残れたのか、それは巨大な魔弾が2体に直撃したのではなく、あくまでも爆発のダメージを負ったからだ。

直撃であれば間違いなく今頃は消滅していたが、

直撃を防いだのはロキ軍のプレイヤーが体を張って庇い、魔弾に直撃したのである。

とはいえ、どちらも残る一撃でやられるという状況であり、それを狙って2つの影が接近し、攻撃を加えた。

 

「しっ、やぁっ!」

「グアァァァァァッ!?」

 

ライがハティの背中に向けて空中から降下し、短剣の9連撃ソードスキル《アクセル・レイド》を使用した。

HPが0になり、ハティは大地に倒れ伏した。

 

「でぇぇぇやぁぁぁっ!」

「グオォォォォォッ!?」

 

リオもスコルの背中に向けて降下しながら、斧の7連撃ソードスキル《クレセント・アバランシュ》を発動した。

スコルもHPが0になり、ハティの横に倒れた。

 

「我らは、ここまでの……ようだ、な…」

「妖精、達よ……貴様らの、力…見せて、もらった…」

「え…?」

「クゥン…」

「貴方達は…」

 

スコルとハティの言葉にリオは驚き、ハクは小さな声で鳴き、ライはどういうことかと思った。

 

「「父フェンリルよ……先に、逝きます…」」

 

2体はその言葉の後にポリゴン片となって消滅していった。

そこにコウシ、トーフ、クルトも到着したが、既に2体が消滅したことを悟る。

 

「どうやら拙者らは撤退時のようでゴザル」

「だな……ま、正しくは撤退じゃないけどな」

「急ぎましょう。ここは北部の傍ですから、すぐに北へ向かうべきです」

 

3人は言葉を交わし、すぐにレイドリーダーへ伝えると撤退を始めた。

 

「では、また後で刃をぶつけるでゴザル」

「楽しみにしているぜ」

「それまで生き残ってくださいね」

 

そのように言葉を残し、彼らは去って言った。

ロキ軍が撤退したことにオーディン軍は怪しんだが、今はそれどころではない。

 

「これより北部の防衛に戻るぞ!」

「急いでください!」

 

2人のレイドリーダーの指示に従い、オーディン軍もアルン高原北部の自分達の戦場に戻っていった。

到着後、既に狼型Mobは全滅しており、エインフェリアとワルキューレもほとんどやられてしまったが、

北部戦は結果的に勝利という形になった。

 

クエストはロキ軍の勝利、北部戦はオーディン軍の勝利である。

同時に、夜でありながらも空にあった太陽と月、その2つはソールとマーニの死と共に姿を消した。

 

『侵攻側クエスト[太陽と月を追う者達]:スコルとハティと共にソールとマーニを討て』クエスト・クリア

『防衛側クエスト[駆ける太陽と月]:ソールとマーニに協力してスコルとハティを討て』クエスト・フェイリュア

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

未だに体調が不完全な刃でございますが、今回はなんとか投稿が間に合いました。

 

どうやら自分は症状の軽いインフルエンザだったようです、熱や腹痛や嘔吐感ありませんでしたが、

それ以外の症状がインフルエンザとまったく同じということに一昨日気が付きましたw

 

まぁ今は喉がいまいちなのと咳が出るくらいですので、この調子で治したいと思います。

 

さて、今回はアルン高原に舞台が変わりましたね、みなさんのアバターも活躍させました。

 

少しばかりドラマ感を出しつつ、移動型戦闘という特殊なものにしました、前回は知略戦でしたので。

 

クエストは先にソールとマーニが敗れたのでロキ軍がクリア、

北部戦は元から放棄していたのでオーディン軍が制圧してクリアという形ですね。

 

どちらもボスが倒れたこともあり、北部はこれで落ち着くことになりますが撤退したロキ軍は何処へ行ったのか?

 

それは今後で明らかになります、みなさんも予想してくださいね。

 

次回もアルン高原の戦闘です、何処の戦闘でどんな風になるのか・・・頑張って書きます!

 

それではまた・・・。


 
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