ここは風天区にある、天空電鉄の風天車庫…。
本社ビルのすぐ隣にあるこの塀で囲まれた空間の中に、新旧とりどりの路面電車が何両も押し込められているのだ。
もちろん、車庫というからには運用を終えた電車がここに入り、一方で次の運用に入る電車が次々に出て行く。
そしてその電車を担当していた乗務員が、わずかばかりの休憩時間に語らう場でもあるのだ。
…ある日の昼下がり。車庫に1両の電車が入ってきた。
やってきたのは750形。もと東京都電5000形を改造した電車である。
年季の入ったクリームとグリーンの車体がその動きを止めると、最前部のドアが開き、中から一人の男が降りてきた。
オオカミ形セリアンスロゥピィの今河和雪だ。
「カズちゃんお疲れ様~」
「おう、明日華さんはこれから乗務かい、ご苦労様」
声をかけてきたのは等身大フィギュアに取り付いた付喪神とでも言おうか、ドールゴーレムの雑司ヶ谷明日華。
彼女は次の乗務に備え、2300形…もと札幌市電A820形の窓ガラスを拭いているところだった。
「乗務までにはまだ時間あるだろ?ちょっとここらで飯にしないかい」
「そうだねー。じゃあお言葉に甘えてっと」
同僚同士の、ささやかな昼食が始まった。
「お、明日華さんは親子丼かww」
「そうなのー。これがまた一度作り出すとハマっちゃってさ。凝っちゃうんだよねどうしてもw」
と、アルミ製の弁当箱に詰められた親子丼を頬張る明日華。
「じゃあ俺もこれを…っと」
和雪も弁当箱を開ける。中に入っていたのは赤いケチャップライスの上に乗せられた薄焼きのオムレツ…。
「わぁ!オムライス弁当だw」
「へへへー、美歩が作ってくれたんだぜーw」
そう、和雪の弁当は彼の妻である美歩が作ったオムライス弁当だった。
「愛されてるんだねぇ…美歩ちゃんも忙しいのによくやるわw」
「いやぁ、やっぱりさ。電車の運転って結構エネルギー使うじゃん。そういうときに美歩の弁当があるとやっぱり気合が入るって言うか、なんていうかさ」
「?」
「こう、ホッとするんだよね」
「いいなぁ…私もお婿さん見つけなきゃな!…でも美歩さんホント忙しいのにカズちゃんと二人分の弁当まで作っちゃうなんて大変でしょうに」
「いやいや、あいつの分は俺が作ってるんだよw」
「え…?」
さて、その頃の天空新聞社では。
「…ふふ、今日はカツ丼作ってくれたのねwカッちゃんってばw」
と、和雪が腕によりをこめて作ったカツ丼弁当を美味しそうに頬張っている美歩の姿があったのだった。
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電鉄関連のエピソードと、愛妻弁当ネタ。
■出演
和雪:http://www.tinami.com/view/743828
美歩:http://www.tinami.com/view/746224
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