~カルバード共和国 首都パルフィランス~
首都のとある場所……その路地裏に佇むのは、気怠そうな表情を浮かべる男性。その足元に転がっているのは数人の男性。そのいずれもが銃を持ちつつも気絶していた。だが……立っている男性は何の武器も持っていない。男は身に着けていた手袋を脱いでズボンのポケットにしまい込むと、懐から煙草とライターを取出し、その場で一服した。そこに姿を見せたのは金髪を持つ一人の女性。その惨状を見やり、ため息を吐いた。
「まったく、貴方はつくづく巻き込まれる体質のようですね。」
「……全くだ。俺としちゃあ悠々自適に暮らしてぇだけなんだが……あのジジイどもは俺をそこまでしてでも連れ戻してぇようだな。……野心の強い“
「―――“団長”からの指示です。ここでの一件が片付き次第、クロスベルに向かうようにとのことです。」
「クク……ってことは、俺のダチとも会えそうだな。ただ、命の保障は出来ねぇが。」
女性からの言葉を聞き、嬉しそうな表情を浮かべつつ……吸っていた煙草の後始末をして、身なりを整える。かつていた場所のように好き勝手なことはできないにしろ、行動の自由を与えられていることからすれば今の生活の方がまだマシとでも言いたげであった。
「相変わらずの好戦家ですね。私には理解できませんよ。」
「……お前さんがそれを言っても説得力ねぇんだがな。」
「何か?」
「いや、何でもねぇよ。」
女性の言葉に対して男性の方は何か言いたげであったが、女性の強気な問いかけに対して押し黙った。というのもこの女性…先程の言葉に出てきた“団長”に次ぐ地位である“副団長”の人間。入団テストということで男性が挑んだのだが……為す術もなく、敗北した。だが、団長と呼ばれる男性は、彼の入団を決めた。
『初見とはいえ、1分はもったんだ。資質はある。』
という言葉に挑んだ側は最初納得がいかなかったが……その団長の部下と関わっていく中で、彼女の実力の凄さを改めて知ることとなった。他の部下たちでも最大数分……それを初見で1分持たせただけでも上出来なレベル。その女性に勝てるのは、団長と呼ばれる男性と双十字槍を得物とする少女の二人だけだ。
そんな彼女なのだが、前線には立たずに参謀的役割として団長を支えている。曰く『命の恩人』らしいのだが……彼女も含め、色んな曲者たちを取りまとめる団長を直に見て、男性はここを自分の生の置く場所と決めた。本当ならば二年前の時点で喪った筈の命。だからこそ……残る生の全てを己の本能が叫ぶがままに。
「“紅炎竜”…“白蘭竜”と並ぶとも言われるその力、見せていただきます。」
「……ちなみに、戦うのはいいが……“事故”になってしまっても問題は無いのだろう?」
「あくまでも内密に、です。」
「ククク……了解した。」
女性が呟いたその異名―――“紅炎竜”。それは、一昨年のロレント侵攻の際、シルフィア・セルナートと戦い、死んだはずの人間、ライガ・ローウェンの異名。……実は、シルフィアとライガが戦った際、彼女は巧妙に法術の結界を展開し、“幻”を見せていたのだ。あの場に残っていたのはシルフィアを含めて三人……結界を展開するにはさほどの負担にもならない程度の人数。その幻でてっきり死んだと思ったライガが次に目を覚ました場所は、どこかの建物であった。ここを死に場所を決めていた彼にとって、その展開自体読めなかったものであり……このまま戻ったとしても“裏切者”として処刑されるのが関の山だと判断し、団長と呼ばれた人物の誘いを受け……今は一人の猟兵としてその生を使っていた。
~クロスベル自治州 ベルガード門~
「………」
その頃、クロスベル警備隊の司令であるレヴァイスはベルガード門の屋上からガレリア要塞の方向を見つめていた。彼の脳裏に広がるのは昨年の戦い……レヴァイスと“闘神”バルデル・オルランドの一騎打ちであった。勝負自体は三日三晩続いた……そして、四日目の夜明けと同時に……決着がついた。だが、それは……レヴァイスにとって一番納得できない決着だった。
『……!?バルデル!!』
『フッ………じゃあな、レヴァイス……楽しかった、ぜ………』
戦闘での衝撃の影響で、脆くなっていた地盤……互いが止めと決めたその一撃で強く駆けだした瞬間に崖の一部が崩れ……バルデルは崩れた地盤と共に深い谷の底へとその身を投じていった。限界に近い状態のレヴァイスには、その光景が余りにも衝撃的であり……こんな形での決着は認められないと、手を伸ばすほどの気力さえ残っていなかったことに……自分自身に腹が立った。その後、その手合いを聞いたマリクの誘いに乗り、クロスベルの治安を担うための組織に潜り込みつつ、己のリハビリだけでなく実力を更に磨くための努力を惜しまなかった。すると、レヴァイスの隣にいつの間にかいた女性が彼に対して話しかけた。
「……考え事、ですか?」
「アリスか。何、納得がいかなかった過去を引きずってるだけだ……軽蔑するか?」
「いえ。寧ろ人間らしくていいと思います。このところの貴方は、何か急いでいるような感じでしたから。」
「急いでいる、か……間違ってはいないか。」
何事も一朝一夕では片付かない……解ってはいても、納得できなかったことは否定しない。あの勝負だって解ってはいた結果の一つではある。だが、自分の手で決着できなかったことは……それが、レヴァイスにとって納得できなかったことだった。
「けれど、そんなもんで悩んでたらバルデルが地獄の底から這ってでもぶん殴りに来そうだ……」
「あながち冗談に聞こえないというのが何とも……それを言ったら、私も同じようなものです。」
「……俺だけが特別だというのは間違った認識だったな。」
人間というものは、生きながらにして何かしらを抱えている生物だ。アリスの言葉を聞き、レヴァイスは微笑み……彼女の肩に手を置き、静かに傍へと抱き寄せた。そして……改めて決意する。彼だけの……レヴァイス・クラウゼルという人間のありようを。
~マクダエル家 書斎~
その頃、マクダエル家の一室……私室にて自らの職務である書類と向き合う高齢の男性。しかし、その眼差しは若い人間たちと遜色ないどころか、この地で長く政治に関わってきた経験が見せる歴戦のような印象を感じさせる人物。彼の名はヘンリー・マクダエル。エリィ・マクダエルの祖父であり、現在はクロスベル自治州の議会議長にして共同代表の一人である。本来ならば庁舎を使うべきなのだが、来月に新庁舎が完成する関係でその公務を自室でこなしていた。そこまでする理由は今月の下旬にある夏至祭に関係すること……すると、私服姿の女性が扉を開き、その場に姿を見せた。
「失礼します―――って、まだ起きてらしたのですか?」
「おお、リノア君か。なに、今月の末にある夏至祭に関わる資料の作成でな。」
「それぐらいでしたら手伝いますのに。……やはり、気が引けますか?」
「いや、そんなことはない。ただ、今後の若い者たちのためにも、出来ることはやっておきたいだけなのだよ。」
クロスベル自治州の歴史は自らの人生と共にある……古くからこの地に関わり続けてきた彼だからこその決意が込められた言葉に、女性―――リノア・リーヴェルトは、持っていたドリンクを差し出した。これにはヘンリーも目を見開いた。
「ドリンクスタンドのお姉さんからの差し入れですよ。にがトマトの濃縮ドリンク。」
「これは、気を遣わせてしまったようだな。」
「お気になさらず。今の私はマクダエル議長の専属秘書ですので。姉は向こうの立場であろうとも……私はこちらの立場で頑張ると決めました。議長から解雇を言われない限りはずっとそのつもりですので。」
「……フフ、私のような老い耄れに付き従ってくれる人間がいるだけでも、十分幸せ者だよ。」
リノア・リーヴェルト……元“子供達”の一人で、“
彼女の扱う得物の導力弓の命中精度は、100m先の的でも2mm程度の誤差しか生じさせないほどだ。導力銃にいたっては0.5mmという驚異的な命中精度を叩き出す。しかも、誘導用レーザーなしでも、スコープのみで狙った目標を狙撃できるほどの腕前を持つ。そういった武術的な腕前もさることながら、それ以上に凄いのは“戦術予測”の能力。何せ、今月末の夏至祭に関しては限られた情報だけで大まかな事態の予測を既に立てていて、そのための必要なことをマリク・スヴェンドやレヴァイス・クラウゼル、そしてアスベル・フォストレイトとカシウス・ブライトに伝えている。ただ、それを姉には伝えていない。それぐらいの予測位は姉でもできるだろうというのがリノアの弁であった。
“情報探知”に長けているラグナ、“戦術予測”のリノア、そして“戦術・戦略構築”のリーゼロッテ。この三人一組の力が鉄血宰相の大きな武器となっていた。だが、彼等は8年前に袂を別っている。『ジュライ特区』の件……それによる疑問を抱いた彼等はカシウス・ブライトの推薦もあり、遊撃士として働きはじめ……そして、現在は士官学院の教官と生徒、クロスベル自治州議長秘書という場所にいる。その真意を知るのは、本人たちだけでもある。
「手伝いますよ。私もドリンクを呑んだら、逆に目が冴えてしまいまして。」
「そうか。なら、こちらの方を頼めるか?」
「承知しました、“先生”。」
~カルバード共和国 アルタイル市郊外~
所変わって、クロスベル自治州に最も近い都市である共和国西端の都市、アルタイル市。その郊外で特別な法服に身を包み、腰に提げているのは星杯の紋章のメダル。その人物で特徴的なのは、重力に逆らう様に伸びた緑髪の青年。すると、そこに姿を見せたのは緋色の髪を持った女性の姿であった。
「予定より20分早いって……ま、遅刻されるよかマシやな。」
「それを遅刻常習犯のケビンが言えた台詞ですか?」
「うぐ……って、そないなためにオレを呼んだわけやないんやろ?第七位“銀隼の射手”シルフィア・セルナート。」
青年―――
「知り合いから得た情報ですが……執行者No.0“道化師”……それと、使徒第六柱“博士”がローゼンベルク工房にいたそうです。」
「知り合いって……アイツやな。」
「ええ、第九位“蒼の聖典”からです。……“道化師”が姿を見せましたが、他の使徒や執行者が姿を見せる可能性があります。」
「そうやな。かといってオレらも表立って動けへんし……エレボニアには、第二、三、四、六、それに十二位まで投入しとる状況やから。」
クロスベルとエレボニアだけで半数以上の七人を投入している現状では、下手に手出しができない。ただでさえ、クロスベル大聖堂を取り仕切っているエラルダ大司教が星杯騎士のクロスベル入りを拒否しているような状況だ。なので、全員が全員身分を偽ってクロスベルにいるような状態だ。
「で、オレは何をすればええんか?さっき総長から『シルフィアの頼みを聞いてやれ』とか言うだけ言って切られたんやけれど。」
「すみません、姉には後で言っておきます。頼みたいのは……です。」
「成程やな。こっちも仕事があるから、それが済み次第取り掛かるわ。」
「お願いします。」
シルフィアがケビンに対しての頼み事。これは、後々に大きな力となることとなるのは、頼んだ方と頼まれた方の両方ともに予測していなかったこととなるのであった。
ちょっとした救済というか、あれだけのために死なせるのは勿体無いと思った末の措置です。第四章と第五章はオリキャラが本気で暴れます。ただし、暴れるのはアスベルとルドガー以外がメインですが(何
そして、原作キャラというか空組も登場しますので……テロリストが哀れです。特に二か所。その意味は原作をやっている人ならば解るでしょう。だって、オリビエとミュラーだけでも、あっ(察し)の状態ですからね。殺しはしませんが……死ぬより辛いことになるかもしれません(予定)
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幕間~決意の言霊~