No.747384

鬼の人と血と月と 外伝4話 「鬼匣月兎の思想感」

絶過現希さん

鬼の人と血と月と 外伝4話 です。

これにて、「鬼の人と血と月と」一連の物語はお終いとします。


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2014-12-31 21:07:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:420   閲覧ユーザー数:420

 

外伝4 「鬼匣月兎の思想感」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あー、あー、ゴホン、聞こえてる?ねぇこれちゃんと伝わってる?

…では失礼、仕切りなおしましょうか

 

…初めまして、いや こんにちはと言うべきかな?

え?誰だって?

ハハハ、霧(きり)海(うみ)統司(とうじ)の宿敵であった僕、「鬼匣(たかおり)月兎(つきと)」ですよ。

で、誰に向かって話しているかって?

それは勿論、これを聞いている…いや、“見ている”そこの“貴方”にですよ。

…と言うのは冗談です

ああスイマセン、口が過ぎました、以後気をつけます。

…今現在僕は、詩(し)月(づき)家に軟禁されています。

その理由はご存知の通り、身勝手な理由で世を乱したからです。

そして今行っているのは、何故そのような行動を起こしたのか説明するため、記録を取っている、…と言った所です。

…どうしてそんなに大人しく言うことを聞いているのかって?

それは勿論、僕の計画していた“目的は果たされた”からです。

…おっと、そんなに怖い顔を向けないでください、大丈夫です、もう何も危害を加える様な事はありませんから。

何故そんな簡単に口を割れるのか、それは今言ったこともそうですが、個人的には“本人の口から離した方が一番良い”からでしょう。

仮に天の神に心を読まれたとしても、本人の口から伝える方がよっぽど感情も伝わるだろうしね。

では早速、本題を伝えましょう

僕がこのような一連の行動を起こした理由、それは「僕の力を失う為」です。

皆さん怪訝な顔をしていますが、それが目的です、そこに嘘偽りはありません。

…そうしようとした経緯を、魔鬼の本質を説明しつつ、僕自身の出生から答えていきましょう。

まず僕の存在から、僕は神魅の鬼人ではありません、正確に言うと鬼人の血と魔鬼のハーフとなります。

父親に関して僕は見ていませんが鬼人の筈です、そして母親の方が魔鬼です。

何故そのようなことが分かるのか?それは魔鬼の血の性質です。

魔鬼そのものは、神魅の外部から来た存在、本来西洋にいるべき鬼です

魔鬼の力の大きな特徴、それは魔力や妖力といった特殊な気を操る術(すべ)を知る、と言うところです

しかしその力には、皆さんが知らないもう一つの性質が大きく関わります

それは、魔鬼の産む子には、親の知性・記憶・能力を受け継ぐという者です。

勿論僕にもその性質は受け継がれています、故に孤児でありながら自分の生まれを知っているという訳です。

そして一応余談ですが、…陽村(ひむら)緋乃女(ひのめ)、彼女も僕の母である魔鬼と同じ血が宿っています

フフ、皆さん驚いてますね、ですが貴方がたも陽村緋乃女の行動理由を知りたがっていたようですので、この場で補足しておこうと思います。

…皆さんは、「インキュバス」或いは「サキュバス」という悪魔を知っていますか?

夢魔とも呼ばれるこの悪魔は、夜な夜な異性の元にやってきては精力を奪うという特性です。

ですがこの2種の悪魔、実は一体の悪魔であるのです。

男性型のインキュバス、そして女性型のサキュバスは、状況に応じて異性の性別に姿を変えることができます。

…そう、魔鬼にも同様の性質を持っています、流石に名前は変わりませんがね

恐らくは先ほど言った魔鬼の継承する性質故、血筋を絶やさぬ為の能力でしょう。

ああそうそう、魔鬼は人間と同様の肉体の構成ですよ?

ですから、僕の親の魔鬼は、男性の姿を取り陽村緋乃女の母親と接触した後、また2年後に再び神魅町を訪れ、女性の姿を取り鬼人の男性と接触し、僕を産んだようです。

ですから僕と緋乃女は、同じ血を宿した姉弟ということになります。

因みに魔鬼が母体として子を産む場合、数日で出産まで母体で急速成長します。

…まぁ出産による継承は済んでしまったため、ここからは推測が交じりますが、僕の母はその後、日光を浴びて息絶えたと思います。

魔鬼は人ではありませんから、恐らく跡形も無く消失していると思います。

それは魔鬼の能力は暗闇になるほど強く、逆もしかりです。

ではなぜ日本の神魅町に来たのか、残念ながら今の僕にはその真意は分かりかねます、…ですが一つはっきりと分かる事があります

それは母体で子を産む方法を取るのは、自らの寿命が近づいていること悟っているからです。

人間と同様に、出産自体に相当体力を使います、そして子の成長も早いため相当な体力を失います、…寿命と言い換えても差し支えありません。

故に最終手段のようなもので、一種の転生の類と、僕はそう思います。

復唱しますがここに来た真意は分かりません、恐らくは何らかの理由で日本に来て、相応の時を過ごしていましたが予想外の負傷を受けた、そして付近で強く気が満ちていたこの神魅町に逃げ込んだのでしょう。

そして僕は産まれ、孤児院に引き取られ育っていきました。

…僕が力に目覚めるのは高校に入学する直前、産まれてから16年後くらいでしょうか、それまでは至って穏やかに過ごしていたはずです、それはお世話になった孤児院の方々に聞いて頂ければ明白でしょう。

産まれてからの僕は、非常に大人しく、団体に馴染むことなく単独で日々を過ごしていました

まぁ力が目覚めていないのは当然で、人としての振る舞い、集団に馴染む方法を身につけるためにも、人間観察を行う為です。

しかし子供ほど気に敏感です、魔鬼の気配を無意識に感じ取っていたのでしょう、あまり僕に関わろうと言う子はいませんでした。

…恐らく陽村緋乃女も同様の生き方でしょう、まぁ観察するには非常に有難い状況だったのではないかと思います。

おかげで忌み嫌われる様な関係性も無くここまで生きられましたとも、ええ。

そして僕は高校入学の直前に、恐らく魔鬼の性質としてでしょう、新月の夜に覚醒しました。

魔力を操る術、知性、一部の記憶、そして魔鬼が何を成そうとしていたのか

そして僕は目覚めた力に興奮しつつ、恐怖心を覚えました。

…魔鬼が成す野望、それは世界を血に、焔に、全てを紅く染めることです。

フフフ、ありきたりな悪魔の考えることでしょう?でも本当です。

稀有な感情に赴くまま、僕はすぐに頭を働かせて方法を探りました

幸いにも僕の知性は本能に遮られること無く、僕の思い通りに動いてくれました。

そして記憶の中にある全て、そして多くの人の行動を予測して、僕はある方法に当たりました、それが最も被害の少ない方法であると確信して。

…霧海家の子、巫鬼の血を宿した外部の人間の少年、“霧(きり)海(うみ)統司(とうじ)”を利用しようとね

無論、自信はありましたが確証もありません、何にせよどんなに計算しても物事には全て運命…確率といった要素が関わってきます。

ですから、とにかく事象の確認と情報収集を努めました、そして勿論魔鬼の性質をしてね。

予測通り、霧海統司は引越してきました。

何故霧海統司を選んだのか、巫鬼の血や巫女の力の持ち主は他にもいる筈…。

もう一度言いましょう、どんなに計算したところで、全ては確率が関わる

北空(きたぞら)恵(めぐみ)にしろ 陽村緋乃女にしろ、目覚める確率は比較して低かった

そしてなにより、より攻撃的で効果的な静めの性質“浄化の力”に目覚める最も高い存在が霧海統司だったからです。

他の者たちは、どうあっても抑制する程度の能力しか持ち合わせません、特に篠(しの)森(もり)月裏(つくり)にしては鬼に近くなっていますからね

…ああいえ、嫌味とか責めている訳ではありません、僕が生まれる前の事象はどうにもできませんし、これも計算に入れるだけです。

ではどうしてその要である霧海統司を襲ったのか

…本当は答えるまでも無いのですが、一応説明しましょう、“成長の為の苦難”を与える為です。

今の長老は好都合にも優しい性格です、被害や悲劇を少なく収めようとする良い御方です。

そしてやがて、育つ未来は子供に任せるべきだと思う筈です

…図星ですか、フフフ

まぁそうなれば、事情を全て知っている長老が、霧海統司を鬼焚部に入れる事は高確率です。

そうなれば後は予め計画した手筈通りに進めば、目的は達成できるということです。

…そうですか、まだ襲う理由が納得できませんか、…確かにごもっとも、まだこちらの計算の一つをお話していませんね。

先ほど言った通り、長老は人が良い方です、だからまだ成人していない子供を、決して大人が一方的に抑えつけて処罰するということを実行しません。

…確かに、この閉鎖された田舎の地域とすれば、以前の長老の様に風習として片づけられるでしょう。

ですが長老は未来を見据えて考える為、その方法は子供にとってあまり良い結果を与えないと考えたと思います。

僕自身、その方法は最悪のケースとして考えていました。

僕が霧海統司の手で、力としての浄化をされる事、それが最良でした。

…それが調度良いのです。

自ら懇願して、浄化されたとしても中途半端に終わるだけです、いずれ魔鬼の血が活性化して、今度こそ本能に支配される可能性がかなり高まります。

何故なら、彼が無意識に手加減をしてしまう事と、こちらに心の余裕が出来てしまう事です。

ある程度 命の危機で無いと、心(しん)の根から浄化されないと僕は判断しました

仮に大人相手に事を起こしてしまった場合、長老の制止が効かずに大人たちが一方的に行動したとすると、相手は容赦なく僕の命を奪ってくる、そうなると僕自身、魔鬼の力を全力で出してしまうことでしょう、そこに僕の意識は恐らくありません。

ですから、それが最悪のケース、神魅町は血に染まり崩壊を起こします。

…理解できましたか?僕もその状況を本意と思いませんでした。

それと、鬼焚部の部員を全員巻き込んだのは、飽くまでついでと言った所です

この神魅町に過ごすうえで未来を任せるには、少しばかり成長していただかないと安心できないと思ったからですよ。

…フフッ。

嗚呼失礼、今の笑いに大した意図はありません。

ただ…、今思えばその行動に至った起因に、魔鬼の血とは別のもう一つの血、この神魅町を愛する“鬼”と“人”の血に感化されたのでしょうか…ね。

…こうして僕の目的通り、やってきた霧海統司は覚醒し、僕の魔鬼の血の多くの性質、能力の大半は失う事が出来ました。

…確かに、力の全てではありません、ですが安心して下さい。

僕が願い、彼の手によって消し去ったのは、争いを望む原因である部分です。

それ以外まで消してしまうのは、貴方達に協力するうえで有益な部分を損なう筈です。

…え?そのつもりがあったのか…と?

何を言いますか、大人しく従い、今こうして語っているのは全てその為です。

何より、僕が行動を起こした原因を考えれば分かる事です。

話は少し戻りますが、僕にも魔鬼の性質が受け継がれていると言いました

ですが目的を成し遂げた今としては、前言撤回させて貰います。

正確にいえば、魔鬼の性質が“受け継がれていた”と言い直しましょう。

嗚呼そうだ、陽村緋乃女に関して言い忘れていたことがありました、彼女のためにもまた補足させて下さい。

彼女の血は、鬼と人と巫と魔鬼のクォーターですから、多少生き方や魔鬼の血の力に戸惑っていたとしても、僕の様な行動は取る事は無いでしょう

…既に覚醒は終え、僕の計算としても その不安定さによる峠は越えています安心して下さい。

何故なら、彼女の孤独さは僕も良く理解しています、ですから同じ思いを抱えた“仲間”として関わり、“人間としての生き方”をしたことで不安定さは無くなりました。

 

…以上ですかね、僕から話すべき、事の真意は。

流石に、今まで隠していた自身の本音をさらけ出すのは、少々気恥ずかしい、おかげで疲れてしまいました。

…そうですか、これで記録は終わりでよろしいですか。

 

…では最後に一言。

これでこの騒動は全て終結といたします。

もしもまた出会える機会があれば、またよろしくお願いします。

それではまた会える時を願って、次は仲間として会いましょう。

…なんてね。

 

 

 

鬼の人と血と月と 外伝4  終

 

 

 

 

 

鬼の人と血と月と   完結

 

 

 
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