No.745802

寂しがりやな覇王と御使いの兄33話

あなたまさん


2016/4/17 再編集完了

2014-12-25 12:36:52 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:10646   閲覧ユーザー数:7707

劉備が幽州から出陣し、一刀が清河で馬元義を破り補給拠点を奪取した同時刻、連合を組む残りの2勢力である曹操・袁術の軍が合流を果たす。軍を直接率いてやって来た美羽は曹操軍総大将である華琳に会う為に、曹操軍の陣を訪れていた

 

門番「これは袁術様に張勲様!お久しぶりでございます!」

 

美羽「ん、お主は妾と七乃の事を知ってるのかえ?」

 

門番を務めていた男は自分達の事を知っているが、自分達は目の前の門番に心当たりが無い。美羽と七乃は記憶を辿っていくと、七乃があ・・・と何かを思い出したようだ

 

七乃「もしかして…曹家の屋敷内で警備にあたっていた人ですか?」

 

門番「はい!洛陽の屋敷で警護をしておりました!思い出して頂いて光栄です。ただいま曹操様に取り次ぎますので、少々お待ちください」

 

七乃が思い出したことで少し気分が高揚した門番だったが、すぐに自分の役目を果たすために主である華琳の下へと向かった

 

美羽「よく思い出したの、妾ははっきりと思い出せなかったのじゃ」

 

七乃「たまたまですよ、美羽様。私も、もしかして?と思って発言したらたまたまあたっただけです」

 

美羽に思い出せて凄いと言われるも、七乃はたまたまだと言い張る

美羽は本当にたまたまかの?と疑問に思いつつも、確認に走っていた門番が戻ってきたため、深く追求せずにその話題は終了した

 

門番「お待たせいたしました、曹操様にお伝えしたところ、会いたいからすぐに連れて来なさい!と怒られてしまったので、すぐにご案内します」

 

門番は怒られたにも関わらず笑顔を浮かべていた。

決してこの門番が鍛えられた兵士だからっという理由では無く、洛陽で一刀と別れ以来塞ぎこんでしまった主が久々に見せた嬉しそうにする姿を見れて嬉しいのだ

 

華琳の下へ向かう途中、すれ違う兵士からも『曹操様をよろしくお願いします』と声をかけられることが1回や2回ではなかった

 

門番「曹操様、袁術様と張勲様を案内いたしました」

 

入りなさい

 

陣内に造られた幕舎の中から入室を許可する声が聞こえ、門番・美羽・七乃はゆっくりと幕舎に入っていく。

3人を出迎えたのは兄に甘え、元気にはしゃいでいた面影は一切なく、目にくまをつけ疲れきった表情の華琳だった

 

華琳「・・・久しぶりね、美羽に七乃。あなたもご苦労、持ち場に戻っていいわよ」

 

門番「っは!お帰りの際はまた申しつけ下さい」

 

門番は主や美羽達に一礼すると持ち場へと戻って行った。

美羽は幕舎に入ったらすぐに話しかけるつもりだったが、華琳の姿を見て言葉を失ってしまっていた。傍に控える七乃もなんと言えばいいか解らず、美羽同様に口を開く事が出来ない。そんな美羽と七乃の心境を察したのか、華琳から固まる2人に声をかけた

 

華琳「元気そうでよかったわ、美羽に七乃。私も見ての通り元気よ」

 

100人に聞いたら100人全員が元気じゃないと答えるであろう顔をしつつも、そう薄っすらと笑い元気だと答える声には自虐が含まれているのに2人は気がついた

 

美羽「華琳姉さま!明らか元気じゃないのに何を言ってるのじゃ!」

 

七乃「そうですよ華琳さん、少し休んでください。そんな顔で元気だと言われても説得力がありません」

 

美羽と七乃が心配する通り、華琳は疲れきっていた。最愛の兄と母を同時に失った悲しみ、曹家を率いる立場となった苦悩、兄や母を慕ってくれた民や兵士を守る為に寝る間を惜しんで政務に励んでいた。その結果、心身共に消耗しきってた。

 

自分の体調が悪い事は華琳自身が何より理解していた。それでも華琳は激務を続ける・・・『兄の代わりに曹家を護る』その一心で・・・

 

 

 

 

美羽と七乃は華琳の体調を考慮し、連合としての進軍経路などを少し話し合って幕舎を後にした。話し合いは問題なく終る事が出来たが、華琳の体調が心配で美羽と七乃表情は暗い

 

美羽「のお七乃…もっと早く華琳ねえさまの下を訪れた方が・・・よかったかもしれないのじゃ」

 

家族を失った美羽にとって、一刀は兄代わりである大切な存在でもあった。そんな一刀を失った悲しみは美羽も同じだ。しかし、美羽には姉代わりである七乃、未熟な自分を時には厳しく、時には優しく包み込んでくれる紫苑が居る。美羽が悲しみに負けず、頑張ってこれたのは七乃と紫苑のお陰だ。

 

対する華琳の陣営に彼女を理解し、支えてくれる”年長者”が居ない・・・その差が今の華琳と美羽の状況を表していた

 

七乃「大丈夫ですよ美羽様、華琳さんは簡単に潰れたりしませんから」

 

不安がっていた美羽は、七乃の大丈夫との返答を聞いて明るさを取り戻す

七乃は何の根拠も無く美羽に言い放った訳ではない。七乃の脳裏にある1人の存在が浮かび上がっている

 

呂布奉先の兄として突如大陸の表舞台に出現した『呂珂玲綺』

この男の出現したのは一刀が討ち取られたと報が出回ってから1月後。あまりに時期が重なっている為にもしかしたら・・・と七乃は疑っている。もちろん自分の考えはあくまで”予測”

 

その予測を確かめられず、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていたが、その予測を確かめる事の出来る好機が舞い込んできた。その好機こそ黄巾党討伐で共に戦う手筈となっている『呂珂玲綺』との会談だ

 

小さい時から美羽を守る為に裏家業をしていた七乃は”嘘”を見抜く事に長けている。だからこそ、連合軍が集結し、直接話す機会が作れれば・・・七乃の”予測”が”正しかったか””間違っていたか”を確かめる事が出来る最大の好機なのだ

 

七乃(呂珂さん…あなたが一刀さんなのかどうか・・・必ず暴いてみせます。美羽様や華琳さんだけじゃなく・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私にとっても大切な人なんですから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

清河の黄巾党を打ち倒した一刀達は明命の情報を元に一刀、稟、風の3人で作戦を練り、各地で電撃戦を繰り広げ連戦連勝を飾っていたが、相手にしていたのは補給部隊や小部隊のみであり、大部隊を展開する地域には攻め入る事が出来ずにいた。

それに加え、これまでの活躍は黄巾党内でも広く知れ渡る事となり、夜襲・奇襲に備え厳重体制が敷かれる事となり、今までのような電撃戦は封じられてしまう。

これ以上単独で行動するのは困難であり、兼ねてより予定されていた劉備軍との合流を最優先の目的とし、お互いの位置を詳しく把握し、すれ違いを起こさないために、両軍を行き来する伝令の数を増やす。

その結果、劉備軍と合流するのは『趙』の地に決まった

 

劉備軍も各地で黄巾党の軍勢を打ち破り、趙の地に陣取っていたのもあり、すんなり合流する事が出来ていた。

お互い無事に合流する事が出来た事を祝って宴会が催されていた。

 

 

 

恋「・・来た」

 

凪「・・来ました」

 

明命「・・・・・きました!」

 

恋「明命・・・まだ遅い」

 

明命「あぅあぅ、まだ追いつけませんか。でも負けません!」

 

真桜「なぁ、3人らなにしてるん?」

 

沙和「そうなの~沙和達にも教えてほしいの!」

 

凪「なんだ、お前達はなにしてるかわからないのか」

 

恋、凪が同時に”来た”と発言してから少し遅れて、明命も同じように”来た”と発言する

この3人の隣に座っていた真桜と沙和は、何をしていたのか理解できず、何をしているのかと尋ねると、親友の凪から返ってきたのは、え?真桜と沙和は解らないの?との言葉と、驚きに染まった表情だった。

 

恋「にぃにが戻って来た」

 

凪「それ以外なにがあるんだ?」

 

明命「私でも察知できましたよ?」

 

何をしていたか教えられるが、そんな事普通は出来るかー!と、真桜と沙和の叫び声が周囲に響き渡る。

そんな一連のやり取りを、間近で見ていた劉備陣営の将からも、本当に一刀が戻ってきたのか懐疑的だったが、3人が盛り上がる光景を見て、本当かも知れないと思うようになっていた。

 

そんな時、タイミング良く伝令がやって来た

 

伝令「申し上げます!呂珂様及び、郭嘉様・程昱様がお戻りになられました!」

 

張飛「あのお姉ちゃん達凄いのだ!」

 

恋、凪、明命が言った通り、一刀達が戻って来たとの報告を受け、その場に居た将達は驚き、当の3人は真桜と沙和に向かって、ほら言った通りでしょ?とドヤ顔をしながら無言の視線を送っていた

 

一刀「みんなただいま、いま戻って来たよ」

 

凪「隊長!私達を褒めてください!」

 

一刀「え?凪、いきなりどうしたの?」

 

戻ってくるなり一刀は凪、恋、明命に褒めて褒めてと迫られる。

宴会で何が行われていたか知らない一刀は、どうしたもんかと困惑しつつも、凪達の髪を梳かしながらゆっくり撫でる。それだけで先ほどまではしゃいでいた凪達は借りてきた猫のように大人しくなり、ふにゃ~と完全に一刀に手櫛で癒されていた。ちゃっかり風が混ざって撫でられていたのは・・・ご愛嬌である

 

 

ようやく3人+風が大人しくなってから、一刀は自分達が戻ってくる前に何があったのかを事情を聞くと、伝令が知らせに来る前に、自分の帰りを感じとったのだと教えられた

 

一刀「俺に懐いてくれてるのは知っているが、俺の居場所まで探知できるようになったのか」

 

孔明「懐くの範疇を確実に超えてると思うのですが・・・」

 

劉備「だね、私もちょっとそこまでされるのは怖いかな。慕ってくれるのは嬉しいんだけど…」

 

改めて今起きた事を説明すると、嬉しいような・・・怖いような、複雑な心境になってしまった。

劉備の言う通り、自分を慕ってくれるのは確かに嬉しい事だが、若干怖いと思うのもまた事実である。一刀は思わず”ヤンデレ”になったりしないよな・・・大丈夫、大丈夫と口走ってしまっている

 

真桜「それはそうと隊長、その3人はだれなん?」

 

沙和「沙和もずっと気になってたけど、話の流れで突っ込めなかったの。真桜ちゃんグッジョブなの!」

 

 

一刀と共に帰還してきたのは、風・稟を含めた3人だけではなく、もう3人一緒だった。

 

1人目は中年?で細身の男

2人目は子供?と疑いたくなるほど小さい男

3人目は肥えた腹がボンと出ている男

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある意味、一刀に衝撃を与えた男達。

通称”ヒゲ””チビ””デク”が幕舎の入り口に佇んでいた。

 

一刀「まぁ、色々あったんだよ。昔の顔見知りで、黄巾党の騒ぎを聞きつけて参戦しに来てくれたんだよ」

 

真桜「隊長に”男”の知り合いなんておったん?」

 

沙和「真桜ちゃんと同じ事思ったの!隊長には女の子の知り合いしかいないと思ってたの!」

 

一刀「お前達が俺の事どう見てるのかよく解ったよ!」

 

一刀を中心に、この日最大の笑いが周囲を包む。一刀とヒゲ・デク・チビの再会は少し前に起きた

 

 

 

 

 

 

 

劉備軍との宴会が盛り上がりを見せた頃、一刀は風と稟を伴って一旦退出し、酔いを醒ますために周囲を散歩していた。

 

一刀「この辺りだっけか?風と稟が立て篭もってたとかって砦のあった場所」

 

稟「正確にはここからもう少し南の場所ですが、大まかに言えばこの辺りで間違ってないですね」

 

風「懐かしいですねぇ。まさか、星ちゃんが賊から助けたお兄さんと再会するなんて思ってもなかったです」

 

仕える主を捜す旅の途中だった風達は、黄巾党と思われる賊から一刀を助けた。

その後、星は公孫讃の下に身を寄せ、風と稟は護衛役の星が居なくなり、これ以上の旅を危険だと判断した2人は、この付近の砦の責任者となっていた。

 

一刀が散歩に風と稟を連れて出てきたのは、この思い出話をする為でもあった

 

 

一刀「・・・・ん?」

 

風「お兄さんどうしましたか?」

 

一刀「いや……稟と風、あそこの3人組に見覚えないか?」

 

一刀が何者かに気がつき、その方向を指差す。

2人は一刀の指差す方に視線を移すと、一刀同様に見覚えのある3人が視界に入り込んだ。

その3人こそ、思い出話に出てきた三人組だった。

 

風「あ~懐かしいですね~」

 

稟「一刀殿を襲っていた賊ですか。ここでも黄巾党・・・ではなさそうですね。うろうろと、行動がおかしいですし」

 

風「風の頭の中で行った方が良いと、ピコーン!と鳴り響いたのです。」

 

一刀「電波キャラは相変らずですね、風さん。」

 

風は一刀の裾を引っ張り、早く早くと催促を続け、稟に風を止めてもらうとするも、稟も意外とあの3人の事が気になっているのか、眼鏡をくいっと直しながら、『何ぐずぐずしてるんですか、一刀殿。早く来てください』と言葉にはしていないが訴えている。

 

風と稟が行く気満々なのを、一刀が留められるハズも無く、大人しく付いて行くしか選択肢は残されてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チビ「兄貴、これからどうしやしょう」

 

デク「誰も話を聞いてくれないんだなあ」

 

ヒゲ「ったく、なんなんだ。俺達だけなのか?この黄巾党がおかしいと感じてるの」

 

彼ら3人は黄巾党が台頭したての頃に加入しており、黄巾党内でも顔が知れ渡る程の知名度がある。それゆえに、古参の幹部として部下を率いる立場として過ごしていた。その日々が一変したのは、今まで限られた人物しか知る事がなかった黄巾党のトップの名前を聞いた時からだ。

現在の黄巾党を率いる総大将の名は『管亥』

 

『管亥』の名を聞いた瞬間から、3人は属する黄巾党に小さな違和感を感じていたが、その違和感の正体が解らない。その違和感を突き止めるために、幹部という立場を利用して黄巾党の内部を調べ始める。

調べれば調べる程、実態の掴めない黄巾党内部の事や、なぜか頭を過ぎる張角・張宝・張梁の名前。

組織が大きくなり、自分達を討伐しようとやってくる官軍

 

ここで遂に、3人が感じていた違和感の正体が判明した

 

 

 

 

 

 

 

この黄巾党は

 

 

 

 

 

自分達が”以前”属していた黄巾党とは全くの別物だと

 

 

 

 

なぜ自分達だけにこういった感情や記憶があるのかは解らないが、思い出した以上、得体の知れない黄巾党に長居する気はなかった。すぐに幹部の座を辞し、放浪する事を選択。それに対し、幹部組は内部情報を知る3人を捕縛するために兵を動員。なんとか幹部組からの追跡を逃れ、ここまで逃げ伸びていたのだ。

 

逃げ延び、これからどうするか思想している3人に一刀達はゆっくり近づく

 

 

一刀「お前達チビ・デク・ヒゲか?」

 

ヒゲ「なんで知ってるんだ!」

 

名前・・・通称を言い当てられ、ヒゲが臨戦態勢を取るが、自分に敵意はないと一刀が示した事で、なんとか話し合いに応じる姿勢を見せた

 

一刀「この顔見ても思い出さないかな?やっぱり解らないか」

 

一刀が自分に見覚えがないかとの問いに、ヒゲ・チビ・デクの3人は見覚えが無さそうな素振りを見せる。

やっぱり覚えてないかな?と諦めつつも、一刀が言い放った『白くきらきらした服を着た俺を、荒野で襲ってた時に、槍を持った女の子に蹴散らされてただろ?』に反応を示した

 

チビ「兄貴、もしかしたらあの時の坊主じゃ!」

 

ヒゲ「なんか意味が解らない言葉を口にしていた、あの時の坊主か!」

 

確かに、あの時は外史に飛ばされたばかりで、映画の撮影とか色々口走ってたな~と、一刀は感慨深いとその当時を静かに思い出していた。

 

ヒゲ「坊主もしぶとく生き残ってたか。俺が言うのもなんだが、元気そうで何よりだ」

 

一刀「色々ありましたけどね。貴方達はいま何をしてるんだ?いまだに天和達のおっかけで黄巾党に入ってるのか?」

 

天和の名前を一刀が言った瞬間、ヒゲ・チビ・デクの3人の表情が強張る。

黄巾党を脱した後、ずっと自分達同様に、何か覚えている人がいないかを捜し求めていた3人の目の前に、ようやくその人が現れたのだ

 

ヒゲ「坊主!お前、天和ちゃんの事知ってるのか!?」

 

自分の肩を掴み、天和を知っているかと聞いてくるヒゲの勢いに押され、知っていると素直に口に出す。それを聞いたヒゲは地和、人和の名前を続けて出し、天和同様に知っているかを問う。結果はヒゲ達にとって喜ばしい内容だった

 

チビ「兄貴・・・やっといやしたね」

 

デク「覚えてるのがおいら達だけじゃなくて安心したんだな」

 

肩を強く掴んだと思えば、今度はその場に座り込んで喜ぶ3人。

事情が読み込めない一刀達は、ヒゲ達から黄巾党内部の事や、自分達に起きた事情を聞きだす事が出来た

 

一刀「そうか、お前達も記憶が戻ったのか」

 

ヒゲ「最初は小さな違和感だったんだけどな、それがいつの間にかって感じだ。坊主の所にも天和ちゃん達は居ないのか」

 

一刀「残念ながら・・・な。俺も必死に探してはいるんだが、足取りが全く掴めないんだ」

 

足取りが掴めない

この言葉を聞いて、ヒゲは心の中で一つの決意を固めた

 

ヒゲ「坊主・・・話だけ聞いてくれないか」

 

一刀「聞こう。なんだ?」

 

ヒゲ「俺達を仲間にしてくれ!」

 

一刀「どういうことだ?」

 

 

いきなり自分達を仲間に加えてくれとの懇願に、一刀のみならず、冷静沈着の稟も驚愕している。マイペースの風ですら、眠そうな表情からキリっとした軍師の顔に変わっていた

 

ヒゲ「俺達は天和ちゃん達の歌に惹かれ集まった。天和ちゃん達の望みで戦いを興した。その結果、謝罪だけじゃすまない程の罪を犯したことは自覚している。坊主が俺達の首を獲るというのならば素直に従う。だが、一目でいいから天和ちゃん達に会わせてくれ!」

 

一刀「…………その言葉に嘘偽りはないか」

 

ヒゲ「本心だ」

 

デク「おらもなんだな」

 

チビ「俺もでさ」

 

ヒゲの言葉に嘘偽りはないと、チビ・デクが言葉を紡ぐ。一刀は何も言わず、じっと3人を見つめたまま動かない。傍に控える風と稟も口を挟む事はしない、口を挟んではいけない場面だと解っているためだ

 

 

 

一刀「お前達の気持ちは解った。天和達を見つけ、会わせた後の処遇は俺が決める。それでもいいか」

 

ヒゲ「あぁ・・・あぁ!それでいい!頼む!」

 

かつて乱暴を働いた自分の提案を聞き入れてくれた。それだけで今のヒゲには充分な言葉だった

 

一刀「そういえば、ヒゲ達の名前知らなかったな。教えてくれるか?」

 

ヒゲ「俺の名前は程遠志だ、よろしくな坊主」

 

デク「おらは鄧茂なんだな」

 

チビ「俺は波才だ」

 

 

一刀は3人の名前を聞いて驚く。意外とこの3人って黄巾党の中でも大物だったんだな・・・と

その後、一刀は新しく加わった3人を引き連れ陣へと戻る。その途中、一刀の名前を聞いて、ヒゲ達が仰天したのは言うまでもなく、土下座で命だけは~と懇願する3人を見て、苦笑いの一刀であった

 

 

 

 

 

 

桂花「華琳様、春蘭・孫策の働きで、黄巾党の攻勢を退ける事が出来ました」

 

華琳「そう…被害の状況はどうなっている」

 

桂花「死傷者の数はそれほど出ていませんが、連日の猛攻で兵達の疲れが溜まってきています」

 

曹操・袁術両軍は劉備、呂珂連合軍より先に合流地点となっている『魏』の地に到着し、現地の黄巾党と交戦を繰り広げていた。

魏の地を占拠している黄巾党の軍勢は士気高く、装備などは地方で戦っていた黄巾党の軍勢とは桁違いであり、曹操・袁術軍は苦戦を強いられていた。

 

華琳「この地の黄巾党がここまで強いとは予想外だったわね」

 

黄巾党本隊の強さが、ここまでとは思っていなかった華琳は、思わず頭を抱える。

頭を抱えるのは華琳だけじゃなく、桂花も同様だった。以前の外史で完膚なきまで叩き潰した黄巾党が、まさかここまでの強さを持っているとは思っていなかった。

これは記憶を持っているゆえに、大した情報を仕入れていなかった桂花の汚点。その事を自分でも自覚しているが、今はすべき事は後悔や反省では無く、状況を打開する事

 

桂花「我等の軍の『猪』と、袁術軍の『虎』の働きでなんとか戦線を保っていますが……このままでは押し切られてしまいます」

 

桂花は知らない事だが、現在曹操・袁術軍が相手しているのは、正史で曹操の魏建国に大きく貢献した『鉄の団結と死をも恐れぬ強固な信仰を持つ』最強の軍団『青州黄巾党』なのだ

 

華琳「賊兵と侮ったのがそもそもの失策ね。兄さんから”敵を侮るな、戦場での最大の敵は己の油断と慢心と知れ”って口を酸っぱくして言われてたのにね……兄さんがこの状況を見たら・・・呆れて、失望するよね」

 

自虐で呟く主君を見て、桂花は思わず”あのバカはそんな事で失望したりしません!”と大声で言いたい衝動を寸前の所で堪える。すべて障害を排除し、一刀と華琳を再び会わせるまではボロを出す事は出来ないのだ。

 

 

 

伝令「も、も、も、申し上げます!」

 

傷心の華琳、毒を吐く桂花の前に姿を現したのは1人の伝令だった。よほど慌てて走ってきたのか、伝令から汗が滝のように流れていた

 

伝令「突如黄巾党の大部隊が我等の後方に出現!猛攻撃を開始しました!」

 

先ほど、やっとの思いで追い返した部隊はあくまで”囮”。本命はこちらと知った時には既に遅い。完全に対応が後手、後手に回ってしまっている

 

華琳「動ける者をすぐに編成し、春蘭、秋蘭、星に出撃命令を伝えなさい!それと、袁術の軍も襲われているかも調べなさい」

 

伝令は主の命を伝えるべく、将への下へと走る。

自軍が襲撃を受けているのならば、共闘している袁術軍も攻撃を受けているかもしれない。幼き時より交流があり、自分の事を姉と慕ってくれる美羽は無事でいて……

 

 

しかし、そんな華琳の願いは、慌てて駆け込んで来た一人の伝令の報告によって・・・打ち砕かれる事となる

 

 

伝令「申し上げます!黄巾党の軍勢は袁術軍にも襲撃を開始!袁術様自らこれを迎撃に向かわれました!

 

黄忠や呂蒙、それに客将の孫策と、袁術軍にも将が居ないわけではないが、黄忠・孫策はまだ先の戦いから陣に戻って来ておらず、呂蒙が何かの理由で動けないために、美羽自ら軍を率いて戦わないいけない状況に追い込まれているのだ。

 

この報告は華琳にかなりの衝撃を与え、言葉を発する事が出来ない。

桂花もこの報告には華琳同様に言葉が出ない。それどころか、どこが王佐の才よ・・・全然華琳様のお力になれてないじゃない・・・と唇を強く噛んで悔しさを必死に耐えていた

 

華琳「・・・・私が美羽救援にいくわ」

 

桂花「ダメです!こちらの総大将二人が同じ箇所に行けば、集中攻撃を受けてしまいます!」

 

華琳「でも・・・美羽を失うわけにはいかないの!」

 

洛陽で母、兄を失った華琳は、親しい人を失う事を誰よりも怖がっている。それゆえに、戦略上は下策と解っていながらも、美羽救援を決断した華琳を桂花がなんとか諌める。春蘭、秋蘭、星が美羽の救援に向かえれば一番なのだが、袁術軍の黄忠等同様に動く事が出来ない。

 

今にも飛び出しそうな華琳の説得が続くなか、2人の男が華琳と桂花の前に姿を現す

 

???「曹操様、私達に袁術様の救援を行かせていただけませんか」

 

???「曹操様が動けないのであれば、我らにお任せください」

 

華琳「貴方達は・・・親衛隊の」

 

満寵「お久しぶりです、曹操様。私の名は満寵、こちらは牛金でございます。我々は曹操様と袁術様が幼い時からお守りしてきました。このような所で死なせるわけにはいきません。我々に出陣させてください」

 

名乗りを挙げたのは曹家に仕え、一刀が鍛えあげた親衛隊を率いる満寵と牛金だった。

満寵と牛金は一刀の腹心であり、一刀の生存を知っている事もあり、桂花同様に再会させるまでは絶対に守り通す。親衛隊はどんな敵からも華琳、美羽を守りぬく為に存在してると言っても過言ではない。

 

そんな鉄の掟を持つ親衛隊の実力を華琳も信頼しており、兄さんの側で力を振るった親衛隊達なら任せられる・・・と美羽救援を親衛隊に託した

 

華琳「満寵と牛金は親衛隊すべてを率いて救援に行きなさい。必ず・・・美羽を連れ戻してきて」

 

満寵・牛金「御意!」

 

華琳に美羽救援を託された満寵と牛金は、すぐさま親衛隊の面子が控える場所へと急行する

親衛隊の人数は500名程度と数こそ少ないが、その実力はずば抜けており、倍近くの軍勢でも負かす程だ

 

牛金「袁術様救援の任か。満寵よ、腕がなるな」

 

満寵「敵軍の数はわかりませんが、厳しい戦いになりそうですね」

 

牛金「親衛隊筆頭の満寵が怖気ついたのか?」

 

満寵「まさか。曹操様と袁術様を無事再会させるまで死ねませんよ」

 

牛金「おうよ!俺達親衛隊の力、躾のなってない賊共に見せ付けてやるぜ!」

 

満寵「貴方達もいけますね?」

 

満寵の問いに対し、その場に集結した親衛隊員からは『愚問だ』と声が各地であがる

隊員全員の言いたい事は、すべて満寵と牛金の会話に集約されていた。

 

躾のなってない賊を滅ぼし、主(一刀)の宝である『華琳』と『美羽』を護る。

親衛隊隊員は闘争心を高め、今にも戦場に駆け出しそうになっていた

 

牛金「曹仁様が戻られるまで、お前ら!死ぬんじゃねえぞ!」

 

満寵「牛金の言う通り、一人も欠けてはいけません。必ず生き延びるのです!」

 

牛金「親衛隊、出撃だ!」

 

親衛隊「「「「「「「おっしゃーーーーー!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

桂花「凄い士気の高さですね」

 

華琳「兄さんを失っても健在ね」

 

親衛隊の出陣を見送った華琳と桂花は、親衛隊の士気の高さ、1人1人からあふれ出す闘気に圧倒されていた。

曹仁を失ったあの日から・・・曹家の面々は沈みがち。暗い雰囲気が曹家を支配するなか、親衛隊だけは衰える事はなかった。

 

そんな親衛隊を目の当たりにし、華琳は『私は親衛隊みたく強くなれない・・・』と小声で洩らしていた

その声は隣にいた桂花もはっきりとは聞き取れず、何か言ったかと華琳に問うも、なんでもないわとはぐらかされてしまう。

 

思わず出てしまった言葉でも、自分を信じて仕えてくれる家臣の前で弱音を聞かせたくなかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(満寵、牛金頼むわね。必ず美羽を連れて帰ってきて)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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