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模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第30話![]() コマネチさん 2014-12-24 22:29:24 投稿 / 全10ページ 総閲覧数:622 閲覧ユーザー数:595 |
その日、模型店ガリア大陸は妙な緊張感に包まれていた。本日7時に違法ビルダーが直接ガリア大陸に来る。その上でバトルをするからだ。
時刻は6時30分。7時で閉まるはずの店はほとんどの客はいないハズだった。
しかしその日に限り2階に数人の男女がいた。ナナ、ムツミ、コンドウ、ツチヤ、ソウイチ、ヨウコ、ゼデル、そしてヒロとマスミの9人だ。
「指定した時間まで後30分か」
ツチヤが携帯の時計を見ながらつぶやく。
「本当に来るんスかね?違法ビルダーって奴は」
「来るよ。アイツは、レムは勝負を投げるような奴じゃない」
「ですが……」
ソウイチの呟きにマスミが答える。だがレムの内面をよく知らないソウイチにとってはその答えも信用しきれなかった。
「かつての仲間が言ってるんだ。そうに違いないさ。ソウイチ」
コンドウがソウイチに言う。
「でもよ、肝心のアイちゃんもまだ来てないじゃねぇか。そっちを心配した方が……」
「大丈夫ですよゼデルさん。さっき連絡したらタカコと一緒に商店街走ってるって」
ゼデルの問いにナナがスマホの履歴を見せながら答える。外では雨の降っていた。アーケード街の為直接降ってはいなかったが音が静かな店内に木霊する。
――舞台は完全に整った……早く来い、ヤタテ!――
コンドウがテーブルの上に置かれたパーフェクトユニコーンを見ながら心で呟く。
Exsガンダムのバックパックを流用した背中が追加された、完全な形になったパーフェクトユニコーンがそこには置かれていた。
「ハッ!ハッ!」
暗くなった商店街をアイは息を切らせながら走っていた。
「思った以上に補習授業に時間を取られちゃったね~アイちゃん」
「お互い小テストでカワイイ点数を取ったからってこんな日に補修しなくても……、用事あるからって言ったのにギリギリまで帰してくれなかったし……」
「全く油断してたタイミングで来るなんて」とアイとタカコは、ナナ達や皆への申し訳なさを感じながら愚痴っていた。とその時だった。
「あっ!」
雨の為路面が濡れていたのが災いしたか、もしくは余計な小言を漏らしていたからだろうか、
ステンとアイはその場に足を滑らせて転んでしまった。その拍子に鞄の中もばらまいてしまう。
その時アイの胸ポケットから学生手帳が抜けて床に滑り落ちる。
「わっ!大丈夫アイちゃん?!」
「し!しまった!学生手帳!」
手帳のカバーの中にはガンプラバトルで使うカードが入っていたのだ。
ノートや教科書に目もくれず、慌てて探そうとするアイ、しかしかなり遠くへ滑ってしまった。
その上探そうにも薄暗い時間だ。視界が悪く周りは仕事や学校の帰りの人で多い、
ちょっと時間がかかるだろう。と、辺りを見回すと一人の少女がアイに向って歩いてくるのが見えた。
しかもその手にはアイの学生手帳を持って。
「これ、貴方の?」
少女はアイに箱を手渡す。アイはそれを受け取った。
「あ、はい。ありがとうございます……」
少し戸惑いながらも受け取ると同時にアイは中身を確認する。ちゃんとカードも入っており雨で塗れてもないようだ。確認と同時に安堵感が沸く、
「よかった~」
「うん、余計な時間取られなくてすんだよ」
「ガンプラバトルのカードが見えたけど……好きなんですね。いい顔をしています」
「あ……そう見えました?ちょっと恥ずかしいですかね……」
自分の状況が分かるとちょっと恥ずかしくなる。だがすぐさまアイは我に返るとタカコと落とした物をまとめ鞄に入れ始めた。先程の少女も手伝ってくれた。
「これでいい?」
「あ、はい。何から何までありがとうございます」
ここへきてようやくアイとタカコは少女の顔を見る。年齢は少し上位だろうか。透けるような白い肌、アイより二割は長い脚、
前髪は目を覆い尽くす長さだが目が隠れる量ではない。腰にまで届く艶やかな黒髪に堀の深い顔立ち、
脇の店の電灯に照らされ、見える目は二重瞼、ほんわかした印象を持った美少女だ。
「じゃあ私はこれで」
「はい、じゃ私も」
すぐさまアイはガリア大陸に行こうと走り始めた。だがすれ違う瞬間、少女はアイにだけ聞こえる声で言った。
「今日のガンプラバトル、精々頑張って下さい。ヤタテ・アイ」
「え……?!」
予期せぬ発言にアイは振り向く。しかしそこに少女の姿はなかった。
「今のって一体……」
「どうしたのアイちゃん、早く行こうよ」
「あ、うん、ゴメンねタカコちゃん」
2人がガリア大陸についた時にはもう7時にさしかかろうとしている時だった。
「ごめん!待たせちゃった!」
「アイ!遅いよ!」
謝りながらアイとタカコは店内の階段を駆け上がってきた。
「何かあったんスか?」
「途中でちょっとトラブっちゃってね。でも親切な人が助けてくれたからこの通り間に合ったよ」
「親切な人?」
ヒロが問うとアイはその人の特徴をジェスチャーと言葉で答える
「長い黒髪の綺麗な人でしたよ。でも私の名前や今日ガンプラバトルするの知ってたみたいで不思議な人でした」
「あれ?そうなの?知ってたんだ」と言うタカコ
「知ってるって事は案外今日戦う違法ビルダーじゃないの~?レムさんとは違う人とか?」
「そうかなぁ……」
「これから大事なバトルだってのに随分とゆるい空気ね?」
『!?』
全員が声のした方に目をやる。一人の女性が立っていた。たれ目とシャギーのかかったミディアムボブの茶髪にシャツワンピース。
ヒロ達には見慣れた女性だ。
「……レム」
「久しぶり皆。変わりはないみたいで安心したよ」
「レムさん……」
「久しぶりぃ?随分じゃねえか。ちょくちょくバトルで会ってんだろ?」
「顔を合わせてって事よゼデル。ガンプラ越しでだけだなんて寂しいでしょ」
気怠そうな態度で返すレム、前回とはまた違った雰囲気だ。彼女の中で何か心境の変化があったのだろうか。
「ねぇレム。あたし達もう大学生だよ?それがこんな節度も守れないバトルの勝ちかたして何が楽しいの?こっちと縁切ってまでそんな物手に入れて嬉しいの?!」
「又聞き程度の話だが同感だ。大体そんな物で勝ち続けたって所詮ははみ出し者だ。フェアが条件の場で、特別扱いされた力で勝ったって誇れる資格なんてない」
ヨウコの言葉にコンドウが続いた。その場にいた全員が違法ビルダーに賛同していなかった。
「でも、私がこうなる事は運命だった。折角手に入れた力なんだもの。有効に使わなきゃいけないじゃない?ねぇ、マスミ?」
「……」黙るマスミ
「無視するわけ?まぁいいよ。来て早々お説教なんてされたくない。早いところ始めよう?」
沈黙を保っていたヒロが口を開いた。
「わかったよ。フジミヤさん、君が反省も後悔もしないのならするまで相手するまでだ」
穏やかではあったが強い口調だ。二人の……否、バトルに出る四人の間に電撃が走っていた。
バトルに入り込んだ三機は宇宙に飛び出す。遠くではM字形の巨大な要塞が見える。
表示されたステージは『宇宙要塞アンバット宙域』だ。ガンダムAGEにおけるフリット編決戦の地で、
激戦の再現の為か幾つもの爆発のエフェクトが遠くで起こっていた。 作中では後に『コウモリ退治戦役』と呼ばれる戦いだ。
「コウモリ退治戦役のステージですか」
「まさに決戦といった趣だね。なんとしても今回で終わりにしなければ……」
「あぁ……」
ヒロが決意を固める。マスミも控えめだが同じ心境なのか言葉を返す。
と、その時敵機の反応が複数現れる。見ると機械化した四足歩行の竜の様な機体が数機、尻尾のビーム砲を向けながら飛んでくる。
AGE本編で登場したガフランやバクトだ。
「ガフラン!?あれが今回のレムさんの機体?!」
「違う!ヤタテさん!第三勢力扱いのNPCだ!」
ヒロが言うと同時にアイも理解した。今回はガンダムAGEのステージ、それも節目の決戦の場だ。再現として出てきてもおかしくはない。
「いわば防衛線ですか!」
「レム達は向こうにいるんだろう。ここで手こずるわけにはいかないな」
マスミが言うとエクシアリペアをGNソードを展開させる。そしてガフラン達の中へ突っ込んだ。
「本当にレムさんを止めるために必死なんですね」
「あぁ、元々責任感が強い奴だったからね」
――だが、本当にそれだけなんだろうか――ヒロは自分にそう問いかけながら、アイと共にエクシアリペアに続いた。
三機はそのまま強行突破をかける。アイのPユニコーンはダッシュしながら両肩のビームサーベルを使い、すれ違いざまにガフラン達を切り裂く。
「んっ!コンドウさんが作ってくれた追加のブースター、うまく機能してる」
アイは機体の推進力から確信する。完成したPユニコーンは背部にEXsガンダムのブースターを追加、
更に右背部にビームキャノン、左にはミサイルポッドを取り付けてある。
不釣り合いなほど大きなブースターだ。機体のバランスは悪くはなれど直進的な加速はユニコーンの能力に加え更に上がっていた。
(これはPユニコーンが元々マスミのデュラハンに対抗する為の機体だからだった)
そのおかげでガフラン達の迎撃も難なくかわし突破できる。他の二機も同様の勢いで敵機を蹴散らしていた。そのまま三機とも防衛線を突破し、合流する。
「三機とも無事だったみたいだな」
「この程度だったら軽いですよ」
「しかし……」
ヒロはジッと破壊したヴェイガン機の残骸を見る。いつもの改造ジェノアスの様に再生するんじゃないかと不安に思っていたからだ。アイ達二人も同じ心境だった。
「再生……しませんね」
「この後出てくるのか……それとも今回はそれが必要ないとでもいうのか?」
「教えてあげる!正解は後者!」
『!』
声がすると直後にビームが飛んできた。三機は散開しかわす。同時に前方を見る。一機の紺色の機体が見えた。
「レムか!」
「もう手駒も必要ないもの、私のこの機体があればね……」
「な!何だというんだ……?あのサイズは!?」
ヒロが……否、バトル参加不参加問わずその場にいた全員が絶句した。敵のサイズが異常なのだ。ゆうに百メートルはある程のサイズだ。
「下僕がいない分、大きさにデータを割いたということか?!」
「その通り、丁度虎の子、マステマガンダムが間に合ったの。強そうでしょ?」
上半身はスローネドライなのだが両腕は四本、外側の腕はクローを備え、下半身は肥大化、まさに異形という言葉に相応しい外見だ。
「数で押すだけでなくそんな大きさのまやかしに!まだ目を覚まさないんですか!?フジミヤさん!」
ヒロはマステマ目掛けてビームキャノン『アグニ』を撃つ。
「馬鹿な人」
マステマガンダムの全面に緑の泡のような物が現れる。それはアグニを弾いた、弾かれたそれはあたかもレムに向ってヒロが投げかけた言葉の様に……。
「!?」
「何度同じやりとりするの?」
そう言うとレムはマステマガンダムの両腕のビームキャノンにエネルギーを溜める。否、アグニを弾いた泡のようなビームがビームキャノン先端に収束する。
そして両腕のそれをストライクめがけて放った。ビーム砲を撃つというのにまるで剣を振るうかの様な腕の動きだ。
「ビーム砲もないのにビームを撃つ!?」
ヒロはソレをかわすが……巨大なビームはしなってストライクを襲う。直撃は避けられた物の背中のストライカーは破壊されてしまう。
それは巨大なビームの『剣』だった。
「うわぁっ!」
観戦モニターでそれを見ていたコンドウ達がどよめく。武装に何か見覚えがあるようだ。
「コンドウさん、あれは……」
「あぁ、Ifs(イフス)ユニットか……」
「何よ。そのIfsユニットって」
いつもの様にナナが疑問を投げかける。彼女としては初めて聞く単語だ。
「ビギニング系にだけ搭載された機構だ。機体各所に見える5角系状のパーツ、あれだ」
「あれはあのパーツごとにビームやエネルギーを蓄え、攻撃、防御、推進、全ての強化を図る事が出来るんだよ。
他にもIfsユニット同士でエネルギーを譲り渡す事が出来たり、他の機体の防御にも使えたりと何でもアリのシステムだね」
「ハジメさんも前にビギニング作ったでしょう?全身にある三角形のパーツ、あれもそうッス」
「あーアレね」
ナナは特徴的なビギニングの姿を思い出す。やたら三角形のパーツが多いのが記憶に残っていた。
「反面エネルギー効率が悪くなったり、しっかり作り込まないとまともに扱えないとか欠点もあるんだよ」
「そうだな、Ifsユニットをつければ強いというわけではない」
「……予定の出力が出てないじゃない?」
中波したストライク、その前でレムが愚痴る。
『ヒロ!(ヒロさん!)』
「だ!大丈夫!」
「まぁ、これでも十分かな?」
「そんな図体でよく言う!!」
接近戦ならとマスミはGNソードを展開、アイもビームサーベルを、ヒロも幸い壊れていなかった対艦刀を手に続いた。
「クッ!ちょっとサイズ大きすぎたかな!?」
レムは距離を取ろうと後方に下がる。大きすぎる故に接近戦の取り回しが悪くなってしまったのに今気付いたようだ。
「いきなり逃げ腰?!観念したか!?」
「違うよ!」
加速度が勝る為かPユニコーンがエクシアリペアより早くマステマに迫る。レムは叫ぶとマステマのクローを使いユニコーンの肩のビームサーベルを受け止めた。
機体のサイズが大型化してる為クローだけでも敵機の身長程もあるサイズだ。
「だったら実弾なら!」
「っ!」
ミサイルポッドを撃ちまくるアイ、
もう一方のクローでガードするレム、派手な爆発が起きるがあまり意に介してない。
「クッ!鬱陶しい!掴んで握りつぶして……」
「よそ見をしている場合じゃないぞ!フジミヤさん!!」
「なっ!」
相手はアイだけではない。ヒロもまた対艦刀で斬りかかる。それもまたクローで受け止める。
「これ位!」
「だったらこれでどうだ!」
マスミのエクシアリペアが突撃する。狙うはマステマの胸部コクピット。
「マスミ!?」
「再生するとはいえ少しは時間が稼げるだろう!!」
「ちっ!」
「それは必要ありませんよ?」
「!?」
その時だった。真上からマステマが撃ったのと同じビームがエクシアを襲った。ビームはエクシアを薙ぎ払い破壊する。
「ぐわぁっ!!」
「マスミ!」
吹き飛ぶエクシア。同様の攻撃がPユニコーンとストライクにも飛んでくる。
『!?』
後退しかわす二機、バトルが終わってないということはまだリーダー機であるマスミは沈んでない。
そう思いながらヒロは攻撃があった上を見た。撃ったであろう上空から一機のガンプラが降りてきた。
細長い体躯の機体、、『劇場版機動戦士ガンダム00』に登場したラファエルガンダムの改造機だ。
大きさは通常の物と同じだが右腕がクロー状になっており、その大きさは異常なほど大きかった。GNアーチャーという機体の下半身を改造した物だった。
こちらもやはり Ifsユニットがついている。
「新手……?」
「不甲斐ないですね。レムさん」
ラファエルの声が周囲に通信となって伝わる。女の声だ。
「アナタね。どういう事?Ifsユニットの出力が予定より低いじゃない」
「初テストも兼ねたバトルです。不足の事態は起こるというものですよ」
「テストもしてない!?聞いてないわよ!」
「言ってませんから」
「な!」
「援軍?それにしても何て余裕な……」
「あれ~あの声……?」
マステマガンダムの横に降り立つと同時に少女はレムと悠長に会話を始める。その光景にヒロ達は茫然としていた。
同時にアイとタカコははその声に聞き覚えがあった。
「まぁ私としても今回のあなたの不具合には申し訳ないと思ってはいます。お詫びとしてヤタテ・アイの相手は私がしましょう」
「よく言うわよ。自分からアイちゃんを倒してほしいって頼んだくせに!今回のバトルだってあなたは!」
「……私を?」
「それについては否定は……できませんね!」
改造ラファエルは凄い勢いでアイのユニコーンに突撃する。そして右腕のクローで薙ぎ払おうと襲いかかる。アイはクローをビームサーベルで受け止めた。
「やはり最も頼れるのは自分だけということでしょうか?」
「何者なんですか!?あなたは!人を倒したいとか言って!」
「何者?先程あったばかりじゃありませんか」
「まさか!!」
そう言うとモニターにラファエルのビルダーの顔が映し出される。見覚えのある顔……というかさっき会った顔だ。
「その顔……学生手帳落とした時の!」
さっき会った黒髪の美少女だった。首から下はパイロットスーツに着替えてはいるもののメットは被っていなかった。
「あなたのおかげでレム様からのクレームが多くて迷惑しています。彼女のご機嫌の為にも早々にやられて頂きたいのですが」
「!あなたも違法ビルダー!?」
「まだ名前は申し上げてませんでしたね?『リンネ』と申します。そしてこの機体は『ネフィリムガンダム』以後お見知りおきを」
Gポッド内で恭しくお辞儀をするリンネと名乗る少女。
直後ネフィリムの右腕に光が収束される。さっきの攻撃が来る!そうアイは判断し回避しようとバックステップをかける。
直後、Ifsユニットで作られたビームが放たれる。マステマガンダムが放ったものと同様のビームだ。
ある程度距離を取っていた為かすめたがアイは回避出来た。
「くっ!」
「おしいおしい、それよりも違法ビルダーなどと差別的な物言いですね?新世代ビルダーと私たちは名乗ってますのに」
なおも右腕のIfsユニットを収束させようとするネフィリム。その隙を逃さずアイはPユニコーンの全身からをありったけ火器を撃ち込んだ。
「新世代!?ガンプラである意味もない様な物を作っておいて何を!」
「何も理解してないのですね」
リンネは収束中のネフィリムの右腕をかざす。収束されたIfsユニットは全ビームを弾き、本体にダメージは一切通らなかった。
「効いてない!?」
「私たちは理想系のガンプラバトルを目指しているのですよ?作品の上手い下手にとらわれないガンプラバトルを」
「何を!?」
「考えても見てください。ガンプラ製作は上手い人もいれば下手な人も必ずいる。うまい人は環境や工具をきちんと用意します。
ですがそれには相応のお金やスペースが必要になります。子供や貧しい人では用意したくてもできません」
言ってる事はある程度は理解できた。だが聞いてられるかといわんがばかりにビームサーベルで斬りかかるPユニコーン、
その攻撃もネフィリムは右腕から発するIfsユニットで防いだ。
「それだけではありません、あまりにもうまい作品は経験の少ない、下手な人のプライドを砕き、作る意欲もそぎ落とす事もあります。格差社会なんですよ、今のガンプラバトルは、
ですが私達の商品を使えばそんなのは関係ありません。ひとつのデータを買えばそれで済む。自分の物の完成度を気にする必要もない」
「さっきから屁理屈をつらつらと!!環境や工具がないなら無いなりに工夫したりアイディア出したりするのがガンプラの醍醐味でしょう!?
出来上がったデータだけで何が楽しいっていうの?!」
お互いの戦いはこう着したまま続く、撃ち合い、斬り合い、そして言い合う。
「そう思えるのは私達新世代ビルダーの絶対数が少ないからに過ぎません。それが当たり前になる程増えれば文句なんて誰も言いませんよ?
例えば私達が使ってるIfsユニット、イレイ・ハルが卑怯な手でガンプラマイスターになった方法と同様です」
ニヤッとリンネの口元が笑った。
「!!!!!!!」
淡々とした口調、しかしイレイ・ハルの部分だけ、さも馬鹿にしたような言い方だった。
「ハル君が卑怯!?ハル君と何の関係があるっていうんですか!!!!」
「えぇ卑怯ですよ。偶然手にした。当時一体しかいないビギニングガンダムという怪しい機体に乗り、他の機体を自分だけが持っていたIfsユニットで蹂躙した。
初心者であるにも関わらずIfsユニットの性能で百戦錬磨のガンプラマイスター、ボリス・シャウアーとも渡り合い、
そして一年でガンプラマイスターの座に上り詰めた。
でもそれは当時一人だけ持っていたIfsユニットの恩恵にすぎません。これが卑怯じゃなくてなんだと言うんですか?」
その言葉にアイは抑えようのない怒りが一気に溢れ出す。
「それ以上!!!侮辱するなぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
怒りに任せアイはPユニコーンの全火力をネフィリムに発射する。しかしIfsユニットにはなす術もなく防がれる。
「ですが彼を非難する人間はいない、いえ、いるでしょうが目立たない、何故だかわかります?ビギニング30が一般販売され、
誰でもIfsユニットが扱えるようになったからですよ?」
「なっ!」
防がれたのを見てアイが我に返るもネフィリムは右腕から収束させたビームを放つ。回避の一瞬遅れたPユニコーンは直撃は免れたものの食らってしまう。
「うぁぁっ!!!」
「ヤタテ・アイ……、所詮ハルも道具に頼るしかない、その程度の男でしかなかったんですよ……」
そのままガッとネフィリムはPユニコーンの顔面をクローでつまむように掴む。直撃には至らないものの、さっきの一撃で左腕と左足はごっそり持っていかれた。
「すぐには倒しませんよ。営業を妨害したあなたには私達との実力差を見せつける必要がありますからね」
「くっ……」
満足げに語るリンネの前髪が影になる。髪の隙間から除く目は、影の中で瞳だけが光り不気味な二つの光点となっていた。
少し離れた場所でレムと戦っていたヒロもそれは見えた、
「ヤタテさん!」
「よそ見をするなんて余裕があるのね!」
隙をついたマステマのクローがストライクを掴む、そのまま握りつぶそうと力を込めた。
「フェイズシフト装甲はガンプラバトルではない。仮にあったとしてもどこまで持つかしらね!?」
「ぐ……ぅわああああ!!!」
ヒロの絶叫と共にギシギシとストライクのボディが軋む。レムは自分達の勝利は確定していた
「もう……いいだろ……」
「?」
レムに通信が入る。通信を入れてきたのはマスミだった。彼のエクシアも半壊し、動く事もままならない様子だった。
「マスミ?」
「もういいだろ!?お前はもう昔と同じ自信を取り戻せた!これ以上お前は何を望むんだ!もうやめろ!」
「……ダメだよ。元のガンプラでやってみてもスランプはそのままだったもの、折角楽に勝てる方法を見つけたのよ?飽きるまで味わっていたいわ」
「テメェと言う奴は!マスミがどんな気持ちでお前止めようとしていたのか、わかんねぇのか!?」
観戦モニターからバトルを見ていたゼデルが叫ぶ。よく通る声はGポッドにも届く。
「マスミはなぁ!今でもお前が元に戻ってくれるって信じてるんだよ!コイツの想い!しらねぇとはいわさねぇぞ!!」
「想い?……フフッ」
嘲笑するような笑い、ゼデルには不快に思えた。
「何がおかしい!」
「想いなんて思われてるんだマスミ、じゃあゼデル何にも知らないんだね」
「どういう事よ!?」
哀れむかのように笑うレム、その態度にヨウコも疑問に思った。
「マスミが動いてるのは想いなんかじゃないよ!自分のメンツを守りたいだけ!だってコイツは……」
「!や・やめろ!やめてくれ!!」
突如マスミが慌てだす
「その慌てよう、やっぱり皆に言ってないんだ。昔っからそうだよね。自分の間違いは認めないところあったもん。
わたしに違法ビルダーのデータを渡したのはねぇ!マスミなんだよ!!」
『……っ!!』
その場にいた全員に言葉にならない衝撃が全員に走った。
「嘘……」
ヨウコの口から唖然とした声が漏れる。ゼデルも声に出ない衝撃がある様だ。
「本当ですよ?マスミさんからは以前新世代ビルダーのデータをお買い上げ頂きましたから」
「そう、スランプになったわたしに違法ビルダーのデータを渡したんだよ。これを使えば勝てるって」
「違う……違うんだ!ボクは!」
「フン!」
言い訳しようとするマスミ、だがもう片方のクローがマスミのエクシアリペアを掴みあげる。
「マスミ!」
「なんで自分のせいでこうなったって皆に言わなかったの?結局守りたかったのは自分のプライドだけでしょ?早いうちに処理しておけばバレないかもってさ!」
「ち……違う……!違うんだ!」
「違わないよ!それでわたしの想い?この甘ったれ!!」
そのままクローに力を込めエクシアリペアを砕こうとする。
「うわぁあああああ!!!」
マスミが絶叫する中、アイが沈黙する。
観戦していた全員も茫然としていた。最も違法ビルダーを憎んでいたマスミが……、レムが違法ビルダーになるきっかけを作ったのがマスミ自身だということに。
流れは完全に向こうに傾いた。もう駄目なのかとバトルを見る全員が思った時……
「……じないぞ……」
ヒロが呟く。Gポッドの中、体はワナワナと震えていた。
「ヒロ?」
「僕は信じないぞ!マスミがそんな物の為に戦っていたなんて僕は信じない!!」
「何の根拠もなしに何を言ってるの? 」
「僕はリーダーと一緒にフジミヤさんを止めようと何度も戦ってきた!何も話さなかったリーダーの真意は僕にだってわからなかった!だけどフジミヤさん!いやレム!
君を止められないたびにマスミは悲しそうな顔をしていた!ヨウコに何を言われてもただ耐えていた!
僕はそんなマスミをずっと見て来たんだ!だから僕は思う!いや!分かるんだ!
仮に邪な気持ちがあったとしても!マスミは君を止めたいという純粋な気持ちだってあったはずだ!」
「そんな事!言ってもないのにわかるわけないじゃない!自分勝手に言った事でそんな自信満々に言わないでよ!」
レムがストライクを掴んだクローに最大の力を込める。このままストライクを押しつぶす気だ。だがストライクは潰れなかった。
「こ……のぉぉぉ!!!!」
ヒロはありったけの力を込め手足を拡げる。なんとストライクは押しつぶそうとしたマステマのクローをギギギ……と音を立て押し出していた。
「嘘!?握りつぶせない!?」
「自分勝手に言ってるのは……君だろうが!!僕は今までの経験を……心で感じた事を信じる!それを否定したら……今までの自分まで否定する事になるだろうがぁぁ!!」
「!……ヒロさん」
「ヒ……ヒロ……」
「こ・この……!」
アイとマスミが呟く中、レムはヒロのストライクを完全に破壊しようとマステマ内側の腕、手のひらのビームマシンガンをストライクに向けた。
「ヒロさん!」
アイは叫ぶとネフィリム腹部に向け膝を曲げる。そして膝のバーニアを吹かすと膝アーマーを腹部目掛けて切り離し飛ばした。
「な!?」
意表をつかれたリンネはバックステップを取る、有効打にはならないもののユニコーンの脱出には繋がった。
その隙をついてアイはPユニコーンのビームマグナムとビームキャノンをマステマ目掛けて撃った。
「くっ!」
一方でマステマにやられるのかと一瞬思案するヒロ、だがその直前に別の方向から飛んできたビームがストライクをエクシアリペア、
両方のクローのIfsユニットのない部分に命中、そのままビームは貫通しクローは破壊された。レムは意識がヒロのストライクに集中していた為防御が出来なかったのだ。
「!?」
驚愕するヒロ、だがすぐアイが撃ったのだと理解する。
「ヤタテさん!」
「まだ歯向かうというのですか!」
リンネはネフィリムのクローで襲いかかる。だがアイは左肩のビームサーベルで受け止めた。
「!?」
「今気付いたよ……私も、ハル君に憧れたのはただ強いからじゃない……!心で感じたから!心から楽しいって思えるバトルを見せてくれたから!!だから私はそれを!」
そのまま薙ぎ払う動作でネフィリムを弾く。
「信じる!」
「くっ!」
「今の私のきっかけを作ってくれた想いを!あなたの言葉一つで否定させるもんですか!」
「なんでよ……」
ギリッ……と音を立ててリンネは歯を食いしばる。
「なんでよッッッッッ!!!!」
リンネの端正な顔が歪む。そして怒号と同時にネフィリムの背中のコンテナが展開、
そしてGNミサイルが一斉に発射され、一斉にPユニコーンに向かう。
「っ!?」
リンネの絶叫を表したかのようなGNミサイルの雨、
アイは全火力を持ってGNミサイルを迎撃、密集に近かったミサイルはひとつ爆発すると連続で周囲のミサイルを巻き込み爆発した。
その爆風を突き破りネフィリムのIfsユニットのビーム……巨大なビームサーベルがアイに振り下ろされる。
「クッ!」
アイはビームの横を通りミサイルを撃ちかえす。
実弾の方がIfsユニットには効果があるからだ。ミサイルはネフィリムに続けざまに命中する。
「?!避けない!」
回避動作を行わずネフィリムはミサイルを受ける。命中したミサイルは爆発しネフィリムのボディを削る。
が、例によって再生される。
「なんでアナタだけ絶望しないの……?」
「?」
「なんでアナタはイレイ・ハルのバトルを見て救われたの?おかしいでしょ?私は……あの人は救われなかったのに……
あなたがそうやって笑顔でいるのを見る度に、憎い……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
――な、何を言ってるの?――
ブツブツと焦点のあってない目でアイの恨みを呟くリンネ、
当然アイはアイはその言葉の意味を理解出来なかった。そして彼女に薄ら寒いものを感じていた。
「だから……」
ギロッ……とアイを見ると、再生途中のネフィリムは再び全身のIfsユニットに光を灯し、右腕を掲げる。
右腕から再び泡をまとったような巨大なビームサーベルが出現した。
「私に狩られろ」
そしてアイのユニコーンに振り下ろした。
「ヤ……ヤバイよあの人!イっちゃってるよぉ!!」
「言わなくても解ってるよタカコ!」
顔を青ざめたタカコが叫ぶ。それにツッコミを入れるムツミ、そこにいた全員がリンネという少女の異常性を感じていた。
「それ以外でもヤベェぞ、戦力的にもこっちのダメージも酷い、巻き返せるのか?」
「だったらこっちも相応の方法を使うわよ!」
ゼデルの疑問にヨウコが答える。何か秘策があると言った感じだ。
「どうするんだい?」
「実はもう一機持ってきたマスミのガンプラがあるの、マスミ本人は使い慣れた方を選んだけどね。昨日のアイちゃん同様乗り換えさせれば……」
「ちょっと待てよ」
ゼデルがヨウコを止める。何か引っかかった様な顔つきだ
「ゼデル?」
「お前はレムにマスミが違法ビルダーのデータ渡したの、何とも思わねぇのか?」
「……騙されたって言いたいの?」
「……そうじゃねぇよ、ただ……」
「ゼデル……アンタの言いたい事はわかるよ。でも今は優先順位を間違えるわけにはいかないの」
「……」
「ちょっと!二人して話し合ってる所悪いけど早い所結論だしてよ!!」
ナナの慌てた声で二人はハッとする。見ると損傷したマステマガンダムのクローは再生の途中だった。
「強気だね……!でもね、わたし達が優勢なのは変わりないんだから!」
ベキベキと音を立ててクローを再生させながらレムはGポッドの中でモニター上のエクシアとストライクを見下ろしていた。
「クッ!」
「マスミ!聞こえる!?」
マスミのGポッドにヨウコの声が響く、通信ではなく直にGポッドの外から話しかけてきてるのだ。
「ヨウコ?!」
「今ゼデルがアンタのもう一機を空いてるGポッドに入れたわ!それから乗り換えて!」
「アレを出したのか!」
「……アタシにはさ……アンタが何を思ってたかなんて分からない。でも……今まで一緒にやってきたんだもん。信じさせてよ……」
「……すまない……」
マスミがエクシアのGポッドから出るとゼデルが立っていた。ゼデルは真剣な顔でマスミの肩に手を置いた。
「エクシアには俺が乗る。マスミ……今は何も言わねェ、だが……勝てよ」
「ゼデル……」
「今のあなた達!再生しきったとはいえチャージで一発で十分だわ!」
マステマガンダムの腹部ビームキャノンがチャージが行われる。大口径のビームキャノンはエクシアとストライクを狙っていた。
「クソッ!」
ヒロは射線から離れようと必死にレバーを動かす。だがさっきので無理が祟ったのかもしれない。避けようにも機体が思う様に動かないのだ。
そして放たれるビームキャノン、もうダメかとヒロは思ったその時、
ストライクの横を大型のビームが走る。それはマステマのビームに直撃、ビームは相殺された。
「何!?」
「な、なんだ?今の!?」
二人とも状況が全く理解できないようだ。
「レム!お前を違法ビルダーにしてしまったのはボクの責任だ!」
「その声!マスミ!?」
レムは撃たれた方向を見た。そこにいたのは黒いユニコーンガンダム、ユニコーン二号機、バンシィだ。
背中にマガノイクタチという畳んだ翼の様な装備を背負ったその機体は先ほど撃ったであろうハイパー・メガ・ライフルを構えていた。
「だからボクはお前が違法ビルダーをやめるまで追い続ける!ボクを信じてくれた仲間の為にも!このデュラハン!デストロイモードで!!」
その叫びに呼応するかのようにバンシィのサイコフレームが音を響かせ、赤く輝く。それはまるで友への懺悔の叫びのようだった…
これにて30話終了です。アイ因縁の敵「リンネ」初登場となります。
このあたりに登場する改造機は奇をてらいすぎて時間がかかりすぎたという問題点がありました。
今後はもっとシンプルかつインパクトのあるのを目指したいですね。では皆様
メぇぇぇ~~リぃぃぃぃクリっスマぁぁぁーーースぅ ひゃぁーーはっはっはっはっはぁ ーーー
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第30話「ビルダーの意地と誇り(前編)」
パーフェクトユニコーンの製作はコンドウに託し、アイは十分な休息を取った。そして決戦の日…