キキSide
さて、一部の人たちにとってははハッピーエンド(?)な終わり方をしたアルビオンの旅。そんで今現在い、俺たちはラ・ロシェールへと帰港した。
「で、これからどうするんだ?」
「そうだな。とにかく
「…? 殿下をってどう言う事よ」
俺とリオンで王子のとこを話していたらルイズが聞いてきた。
「…はぁ、まったく。いいか? レコン・キスタの奴等が何処に潜んでいるかわからない現状、ウェールズがトリステインで目撃されてみろ。それこそトリステインの姫はウェールズを好いていて亡命させた。と、ゲルマニアに公表し、婚姻の阻害をしてくる」
「そうね。手紙だけなら言い訳出来ないこともないけど、本人が実際に居たんじゃ言い分けも出来ないから破綻は確実ね。まったくルイズったらそんな事もわからないの?」
「むぅ…なるほど。…ってキュルケ! またあんたはリオンにくっついてッ! 離れろッ!」
ルイズはルオンとキュルケの説明を受けて納得したと同時にリオンに引っ付くキュルケへと攻撃を開始した。いやぁ女三人集まって姦しいと言うが、この手の人種は1人でもうるさい。まあいいや。
「とりあえず、王子さんはコレ着てれば大丈夫でしょ」
「…これは、空賊の服。いつのまに」
「必要になると思って用意しておいただけですよ」
何故か敬語になってしまった。いや、まあ相手の方が年上だし王子だし普通のことだな。まあそんなことより俺は王子に空賊の服を渡し着替えさせる。
「じゃあ、一旦適当な宿に行って王子の迎えを待つか」
「…迎えだと? 何か当てがあるのか」
「ああ。多分この街に居ると思うんだけど。……居てくれてるよな?」
「なにそれ?」
俺の要領の得ない言葉にリオンとキュルケが怪訝な表情をする。いやぁ、俺だって確証ないし。実際ジンの奴、生きてるとは思うけど落ちた後どう行動するかなんて予想できないし。主にチトセが。まあいいや。
「とにかく王子と行く当てのない人たちは近くの宿に一旦向おう」
「……お金」
俺が無理矢理話しをまとめて宿へと促そうとしたらタバサが服を引っ張り言ってきた。宿代はどうするのか? と言う事だろう。
「大丈夫。全部ジンに払わせる」
『…………』
俺の言葉にタバサはもちろんのこと他の皆も冷めた目で見てくる。
「当てと言うのはジンのことだったんだね。と言うか、彼は生きているのかい!?」
「きっと生きてるんじゃないか?」
「ええ~」
ギーシュの問に対し俺なりの答えを返したら呆れた顔をされた。まあそんな事より、と適当に話しをはぐらかし、宿へと行く為に大樹を下りて広場へと出る。ここで一部の人たちとは分かれる。
王子…と言うかアルビオン王家に仕えていた人たちは最後に王子へとお礼や感謝の気持ちを込めて別れを言って去っていった。
そして別れも終わり、俺たちが移動しようとした時、
「あ! みなさーーーん!! ご無事でしたかッ!」
チトセが現れた。おおラッキーだ。ってかチトセを見てラッキーと思える日が来るとは思わなかった。まあいいや。チトセが居るってことはイコールでジンも居るってことだ。
「おう。チトセも元気でなにより。ところでジンはどこだ? ちょっと話したいことが有るんだけど」
「ジンさんでしたらこの先にある宿で飲んだくれてます。案内します?」
チトセが指を指しながらジンの居場所を教えてくれる。ってか何故に飲んだくれてるんだ? そんなに辛い事があったのか? あったんだろうなぁ。俺はのほほんとしているチトセを見る。普通にしてれば可愛いんだけどな~。まさに天使の皮を被った死神。
「頼む。んじゃ行こう」
俺はリオン達に声をかけてチトセの案内の元、宿屋へと向かった。
宿の扉を開けるとそこは他の宿と同じように一階は酒場となっており、様々な人が食事をしたり話しをしたりしていた。が、その酒場のとある隅っこの席。そこを中心に一定の範囲だけぽっかりと穴が開いているように人が寄り付いていなかった。
いや、正確には寄り付けないが正しい。その席の周りには散乱した酒瓶や料理が乗っていたであろう皿にこぼれた料理の残骸。さらには血痕らしき赤黒い染みまである。ハッキリ言ってドン引きである。他の皆もジンの有様に引いていた。
「酷い」
「船から落っこちてから私を殺そうとしたり、死にかけたり、急に泣き出したり、挙句の果てにここに戻ってきてからずっとお酒を飲んでは暴れてと、もう情緒不安定で…。一体なにがジンさんをああしてしまったのでしょうか?」
タバサの一言にチトセは可愛らしく首を傾げた。きっとあの船からの落下後に色々あって何か色んなものがプッツンしちゃったんだろうな~。俺のいた世界でも何人かの転生者があの世界に耐えられなくてああなってた。まあ、あそこまで酷くは無かったが。まあいいや。俺は空き瓶やら皿やらを避けながら近づき声をかける。
「おーいジン」
「ヴぁッ?」
色々アカン眼をしていた。こう言ってはなんだがクスリをやってるんじゃないかと思わせる眼だ。
「びゃんだヴぇるね! ぎぎふぁヴぉっるうッ!?」
「…………」
最早人語すらままならなくなっているジンに対し俺は静かに、
「おう。そうなんだ。アレが……そう、それ」
と、俺はジンと会話しているように喋り、それに合わせてジンを動かす。なんて面倒臭いことをさせるんだ。最初に考えていた報酬の量をさらに上げて請求しようと心に決めて俺は演技を終わらせる。最後にジンを背負い皆のところまで戻る。
「……そいつは大丈夫なのか?」
あまりにものジンの醜態にリオンでさえ心配してきた。俺だって本当はこんな状態の生き物とは関わりたくないが、金の為だ。我慢すればなんとでもなる。忍びとは耐え忍ぶものなのだから。
「ああ、少し泥酔していたけど話しは通じた」
「それってホントに通じてるの?」
うっさい。余計な事言うなピンクチビ
「まあ、とにかく。今日はここで一泊してから明日、改めて話し合うって言って寝ちまったんだ。とりあえずリオン達は皆の部屋をとってくれ。俺はジンを運ぶからさ。チトセ、部屋の場所教えてくれ」
「あ、はい」
とチトセに案内を頼み、俺はジンを部屋へポイするためにチトセの後を追った。
リオンSide
「あ、リオン。おはよう」
「ああ」
昨日、僕たちはとりあえず部屋を取った後、各自休憩なり街へと出かけるなりして一日を過ごした。
「…………お゛は…よう゛」
「おはようございます。ルイズさん、リオンさん」
2階から1階の酒場まで降りるとぐったりとしたジンと食事をしているチトセが居た。
「おはよう2人ともっ……てジン、大丈夫なの? 顔色すっごく酷いけど…」
ルイズがジンを心配して話しかけるとジンは死んだ魚のような眼と表情でコクリと小さく頷いた。…それは大丈夫ということだろうか? ハッキリ言ってその表情と行動を見ると到底大丈夫だとは思えないのだが。
「……だぁ…やす………ヴぁ~。………ダム……ら…………ぃ~」
「…え?」
「あー、えっとですね。ルイズさん、ジンさんは『大丈夫。皆が起きて集まってくるまでには喋れるようになっているから』っておっしゃっているんです」
「そ、そうなんだ」
ルイズが戸惑い気味にチトセの言葉を聞いて頷く。しかし、よく今の言葉を翻訳できたな。何を言ってるのかまったく理解できなかったぞ。
「ダーリンおはよう」
「…おはよう」
「おは」
そうこうしている内にキュルケ、タバサ、キキが2階から下りてきた。その後直ぐにウェールズや他に泊まった者達も集まり、それぞれ朝食を取り始めた。
「え~。とりあえず、ウェールズ殿下と他の皆さんには行方不明となった、と言う事にして自分の領地へときていだだき、身を隠してもらおうと思います」
「ふむ、なるほど。しかし良いのかい? 私たちを匿う事を君1人で決めて?」
「大丈夫です。体面上、領主は父となっていますが実質領内の事を取り仕切っているのは自分ですのでちょっとした無茶ぐらいは平気で出来ます」
と、朝食もそこそこに、ジンも回復した様で今後について話し始めた。ウェールズはジンの提案に一つ一つ質問や確認をして行き、そして彼等の今後の動向とそれに|伴《ともな》った情報操作、つまりは噂を流していく事が
「ではミスタ・アルベルト。しばらくの間私達一同お世話になるよ」
「いえ、こちらこそ。たいしたもてなしもできませんが」
話し合いが終わり、ウェールズとジンは互いに笑顔で握手をした。
「では僕達の方は今回の事を報告するためにトリステインの城へと向かう。すまないがまたシルフィードで運んでもらって構わないか?」
「かまわない」
僕は席から立ち、タバサへと頼みを言うと小さく頷き了承してくれた。。
「あ、ミス・ヴァリエール。実は頼みごとがあるんだがいいかい?」
「何でしょう殿下」
「これを…、仕方ないとは言え彼女を
僕達が宿から出て行こうとしたらウェールズがルイズを呼び止め、指にはめていた指輪を引き抜きルイズへと手渡した。
「殿下。…分かりました。必ず姫様にお渡しします」
ルイズは手渡された指輪をしっかりと握りしめウェールズへ返事をした。
そして数時間後……
「杖を捨てろ!」
僕たちを乗せたシルフィードをトリステインの王宮の中庭へと着地させ、その背から地面へと僕達が降りると警備をしていた兵士たちが僕たちを包囲し、その中の隊長と思わしき人物がそう叫んできた。まあ、当たり前だろう。レコン・キスタによって戦争が起きようとしている中、いきなり城の上空から侵入してきたんだからな。
「…ッ」
「ルイズ、僕達は無断で王宮に入ったんだ。おとなしく従え」
高圧的な相手の態度にむっとした表情をしたルイズを
「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ。ふれを知らんのか?」
隊長の男が杖を向けながら僕らを不審げな眼で見ながらそう言った。なるほど、厳戒令が出ていたのか。どおりで王宮にに近づいた時、騎士達が殺気立って叫んできたわけだ。
「わたしはラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しいものじゃありません。姫殿下に取り次ぎ願いたいわ」
「ラ・ヴァリエール公爵様の三女とな?」
僕が騎士達にどう説明しようか思案していたらルイズは隊長の前へ出て自身の身分を言った。しかしだ。例え公爵家の人間だと言われても普通すぐには信じないものだ。
実際、隊長の男も杖は下したものの口髭をいじりながらルイズの顔を不審げな眼で見続けていた。
「ふむ。確かに目元が母君に似ておる。とりあえず謁見の要件を伺おう」
どうやら隊長の男はこちらの話しを聞いてどう対処するかを決めようと考えたようでルイズへと謁見の概要を質問してきた。
「それは言えません。密命なのです」
「では殿下に取り次ぐわけにはいかぬ。要件もわからぬままに通したのであればこちらの首が飛んでしまうからな」
「密命だもの。言えないのはしかたないでしょう」
「では他に何か証を…、例えば殿下が
これはどちらの言い分も正しい。密命として任務を任せれている以上その内容を言うわけにも行かず、かと言って相手の方も王宮の警護を任せれている以上、そうですかと身の潔白を証明しきれぬ|輩《やから》を王宮内へと入れる訳にもいかない。
しかし証か……。
「……ルイズ。指輪を見せてはどうだ?」
「え? あッ! 指輪!」
証というのであればアンリエッタが所持していた指輪である水のルビーは十分な証として機能するはずだ。しかもこの指輪はウェールズ曰くトリステイン王家の秘宝でもあるそうだ。
そうなるとあの指輪が国の秘宝だとあの女は知らなかったのだろうか? いや、知っていたらルイズへと渡した時に困ったら売って旅費にしろなどと言うまい。たぶんアレの中では親から送られた数ある装飾品の一つとしてしか認識していなかったのだろうな。まったく、ほとほと呆れる。
「むう。確かに姫殿下がいつも付けておられた指輪に似ておる。……
「ええ。それを姫殿下へと見せればわたしたちの事をわかってもらえるはずよ」
ルイズが隊長の男へと指輪を渡すと男はそれを持って王宮内へと入っていった。おそらくアンリエッタへと指輪を見せに行ったのだろう。
そしてしばらく待っていると……
「ルイズ!」
「姫さま!」
アンリエッタがルイズの名を呼びながら駆け寄り、ルイズもアンリエッタの姿を見ると先ほどまでのむすっとした表情から笑顔になった。
「ああ、無事に帰ってきたのね。うれしいわ。ルイズ、ルイズ・フランボワーズ……」
「姫さま……」
二人はお互い感極まったと言うように目を潤ませ強く抱擁を交わした。
しかし、予想はしていたがこの二人は会う度にいちいちこんな三文芝居のような事をしないと気がすまないのだろうか?
そして二人は満足したのか抱擁を解くと、ルイズは懐から例の手紙を取り出しアンリエッタへと手渡した。
「やはり、あなたはわたくしの一番のおともだちですわ」
「もったいないお言葉です。姫さま」
またそれか。僕は小さくため息をついて二人の様子を見る。アンリエッタは手紙を大事に抱くと僕たちの方を見て顔を曇らせた。
「……ウェールズさまは、やはり父王に殉じたのですね」
「……姫さま。それは…」
ルイズは一瞬何か言おうとするがすぐに口をつぐみ俯く。それをアンリエッタは肯定と受け取ったようでさらにその表情を曇らせた。
「……いいのです。わかっていたことですから。そういえばワルド子爵の姿が見えないようですが?」
「その事でも含めて詳しい報告をしたい。内容が内容故にできれば人目の無い場所が好ましいのだが?」
ワルドの不在に疑問をもったアンリエッタへ僕は言う。さすがに衛士隊の隊長という地位の人間が裏切り者だったなど、こんなに人が多いところで言うわけにもいくまい。
「そうですね。わたくしの部屋へと行きましょう。他の方々には別室を用意しますのでそこでお休みになってください」
アンリエッタはそう言うと王宮へと歩きだし、僕とルイズはその後について行った。
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原作の3巻へと突入。
始祖の祈祷書編その1です