No.744774

IS~歪みの世界の物語~

闇傷さん

12話目です!
更新遅くなってすみません……

2014-12-21 01:06:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1076   閲覧ユーザー数:1069

12.シグVS

 

「ありがとう、シグ」

 

 一回戦の二戦目、シグが戦いの準備をしていたら、隼人がお礼を言いに来た。

 

「……『月影』感じはどうだった?」

「最高っ!……って言いたいけど、あの能力が、少し使いずらいかなって」

「能力って……あの、射撃を跳ね返したやつの事か?」

「ああ。あれは僕には少し難易度が高いかな?だって剣で―――」

 

 隼人が言おうとしたのを、シグが手で制した。

 それを見た隼人は、思わず目を丸くする。

 

「すまないな、隼人。その能力に関しては俺も知らないんだ」

「え?何で?シグは……」

「『月影』の中には、お前がより戦いやすいようにサポートをするAIが入っているんだ。

その能力も含め、『月影』自身がお前に合った能力を付けたと考えているんだ」

 

 「一次移行」を行った直後、移動タイプの変更や能力。全て、隼人の短い戦闘から、ベストの能力を『月影が作った』のだ。初期ならばともかく、出力や旋回力、武器の長さまでも「月影」が細かく設定したはず。

 だから、今、隼人が持っている機体は、作ったシグでさえも基本的な情報以外何もわからない、別格の機体になっているのだ。

 隼人の戦いやすいように機体が変化するIS。本当の意味で、月影は隼人専用のISになっている。

 

「……………」

 

 隼人はシグの説明を聞き、不思議そうな目で月影……黒色のネックレスを見る。

 

「感謝の言葉、月影にも言っておけ。そいつは、お前の相棒なんだからさ」

「ああ………そうする」

 

 どこか嬉しそうな表情でネックレスを見たまま、隼人は控え室を出る。

 それを見ながら、シグも準備をする。と言っても、シールドエネルギーを代用してくれる、ペンダントをするだけだが。

 

「“拘束魔法解除1/4”」

 

 体が軽くなる感覚がし、力があふれ出てくる。

 ……そういえば、この世界に来て、楯無以外に戦闘見られるのは初めてだな。

 赤い棍棒の“煌煉”を具現化させながら、頭の片隅で思ったことにフッと笑い、シグはアリーナに足を運ぶ。

 

「さて……本気でかかってこいよ、一夏」

 

 生身とはいえ、シールドエネルギーもあり、手加減される理由が今は無い。

 もし、殺してしまうかも何ていう幻想を抱いていたら――――叩き潰す。

 

 

 

 

 

 

「…………なんのつもりだ、シグ」

 

 心配や、怒りが含んだ声がした。

 目の前の一夏だけではなく、アリーナ内に居る観客が全員、失笑や嘲るような笑いをしている。

 

「どうもこうも、生身で戦うって言っているんだが?」

「………それ、何か面白いオチでもあるのか?」

「残念。俺は本気だぞ、一夏。このペンダントとはシールドエネルギーを出してくれるし」

「そういう問題じゃないだろ、馬鹿言うな!こんなの、試合が始まるわけ」

「――――それはどうかな?」

 

 シグは、先生専用の観覧場を見る。

 正しくは、試合を始めるように事前に頼んでいた、楯無を見た。

 

 遠くで楯無が、「おねーさんに任せなさい」とでも言いたげに、胸をたたいた直後、試合開始のブザーが鳴り響く。

 もちろん、観客のざわめきは広がっていった。一夏も、信じられないような目で鐘がなったスピーカーを見ている。

 

「それじゃ、戦闘開始といきますか」

「ま、待てシグ!こんなの、意味わかっていのか!?このままじゃお前、死んでしま―――」

 

「………なぁ、一夏」

 

 一夏が言おうとしていた言葉を、シグが遮った。

 けして、必死にって言葉を発していた一夏よりも声が大きくなはずのシグの言葉は、一夏を黙らせた。

 同時に―――――シグの雰囲気が変わったことに、一夏は気づく。

 

 ダンッッ!

 シグが強く、地面を蹴る。

 一直線に放たれた矢のように、素早く、一直線に。

 

 数メートルの距離があったにも関わらず、数秒の間にシグと一夏の距離がほぼ無くなる。

 その速さにざわめきが聞こえる中、シグは右手の平を一夏の胸にくっつけた。

 

「え………?」

「―――“零距離の衝撃波(ゼロ・インパクト)”」

 

 呆然としていた一夏の体が、大きく吹き飛ぶ。

 ざわめきがさらに大きく広がる。

 シグはそんな声が聞こえていないかのように、不思議そうに痛む胸を押さえている一夏を見ていた。

 

「殺す気で来い、一夏

―――――来ないなら、俺がお前を殺す」

 

 ポキッと手を鳴らしながら言う。

 けれど、一夏は、そんなシグの雰囲気を見ても、まだ悩んだ表情をしていた。

 俺を殺してしまうかも、という思考が頭の中にあるのだろうか?

 

 もしもそうなら―――――後悔させるだけだ。

 

「行くぞ」

 

 宣告をすると同時に、一夏に向けて言うと同時に走り出す。

一夏は苦虫を噛み潰したような顔で、武器を持たずに迎撃態勢を取る。

素手の格闘戦。どうせ、ISがあるから負けるはずないとか思っているんだろう。

 

「“金輪―――」

 

体を回転させ勢いをつかせたまま、一夏に向けて振るう。

それを一夏に向けてが、腕の装甲を使って防ぐ。―――その瞬間、防いだ装甲が、ベコベコに凹んだ。

 

「————えっ?」

 

 潰れた装甲を一瞬見た一夏だが、長くは気を取られず、煌煉を振り切って隙だらけの俺に掴みかかろうとする。

 けれど、シグは攻撃体制に入る前から、一夏が掴み赤ってくることを予想していた。

服を掴まれる前に、膝を折って低く屈む。

 

「がっ―――!?」

 

 真上で一夏の腕が空をきり、がら空きになった腹を思いっきり拳で殴る。

 攻撃は終わらない。殴られた衝撃でできた隙を見逃さず、更に畳み掛ける。

 もう一発腹に。更に棍棒を握って装甲を攻撃。一夏が突き出した拳を避け、カウンターに顎に向けて蹴りをお見舞いする。

 

「く……うぁぁぁぁ!」

 

 捨て身で、おそらく抱きつくように両手を広げて突進してきた。

 もう一度低く屈み右手を地面につけ、足払いをする。

 簡単に一夏が転び、隙だらけの状態になった。

 

「“金輪――――撃”!!」

 

 地面に背を付けている一夏に、今度は生身に煌煉を叩き込んだ。

“金輪撃”は、触れた物の『全体』に、衝撃を均等に与える。装甲が当たった個所以外にも凹んだのはそのためだった。

 つまり、一夏の体に打ち込めば―――。

 

「ぐっ…ぁぁっぁぁ!!?」

 

 一夏は鳩尾だけではなく、頭や顔などに衝撃が行きわたる。

 苦しむ一夏は本能的に、力のこもった拳が突き出した。

 だが、シグはそれも紙一重で避け、再び、右手のひらを一夏の胸に触れさせる。

 

「“―――零距離の」

「…………っ!!」

 

 一夏の体が強張ったのがわかる。何をする気なのか、予想がついたのだろう。

 けど、逃げようとしても、もう遅い!

 

「――――衝撃波”!」

 

 手のひらから、力を放出するイメージ。

 溜まった塊のようなものが手のひらから出ていくような感覚と共に、一夏のつけていたISにも変化が起こる。

 シールドエネルギーの残量を失って、光が失われる

 

―――――という事は、起きなかった。

 

 

「っっ!!?」

 

 一瞬にして、ISは機能を失うどころか、強い閃光を放った。突然の出来事に、光をまともに食らってしまう。

 ゾクッ 

 

 嫌な気配がした。

 本能に従って、即座に飛びあがるようにその場を離れようとする。

 

「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 閃光のせいで目が見えない中、一夏の大声が耳元から聞こえた。

 ――――そして、シグの横腹辺りに、剣が通った。

 

 シールドエネルギーが働く。だが、『特殊技』で作ったシールドエネルギーには「絶対防御」がなく、針で刺されたような痛みが横腹に広がる。

 痛みを感じながら、少しずつ目が慣れてくる。

 見えたのは、何か決意したかのように武器を構える、一夏の姿。

 

「ははっ。ようやくやる気を出したか。一夏!」

「………死んでも化けて出てくるなよ、シグ!」

 

 隼人の時と同じように『一次移行』を終えた一夏の機体は、偶然か、『月影』を白くしたような感じのISだった。一夏の手には大型の太刀があり、不思議と、異質な輝きを持っているように見えた。

 

「……あの太刀、なにかあるのか?」

 

何か、不思議な感覚を持つ武器から目が離せない。

もちろん、攻撃を食らうつもりなんかないが……あの武器の攻撃には、一層警戒が必要かも。

 

迷いを振り払ったのか、一夏が真剣な表情で向かってくる。

 ゾクゾクッと、武者震いがする。

 

 一夏が太刀を思いっきり振る。ISの力もあってか、二度目の斬撃もあまり時間がかかることなく襲ってくる。

 二つの斬撃を難なく避け、一夏の右腕に煌煉を全力で叩き込む。腕が痺れたのか、一夏の腕の動きが僅かに鈍くなる。

 そのまま体を回転させ、今度は左腕を攻撃する。

――――だが、ここで、シグの予想外の事が起きる。

 

 ガキィィィィンッッッ!!

 

 煌煉と、一夏の全力の拳がぶつかり合った音。一夏は拳を煌煉に当てることによって、攻撃を止めのだ。

予期せぬ防御法にもだが、僅かに手が痺れた。完全に、攻撃の勢いを殺されたのだ。

 

「くそっ―――――ガッ!!?」

 

 一瞬の隙が、一夏にチャンスを与えた。手の痺れに気を取られたシグの横腹に、一夏の蹴りが入る。ISの力のせいか、大きく吹き飛んだ。

 空中で身を動かし、地面に接触すると同時に態勢を立て直す。

 

(………思っていたよりもやるな)

 

 気づかれないように、腰につけている機械魔法を起動させ、横腹を治癒する。応急処置程度の物だが、これくらいなら戦闘に支障は出ない。

 一夏が武器を構えながら接近し、大きく薙ぎ払ってきた。剣を避け、隙ができたところに左足を振る。

 けれど、まるでその攻撃を予測していたかのように、一夏は、左足の進行先に右手を置いていた。このままいけば、掴まれる。

 

「よし、かかったな、シグ!」

「どっちがかな?」

「――――!!?」

 

 左足の勢いを止め、真下に下す。そして、その足を軸としての右足の、渾身の蹴りを叩き込む。ノーマークだった場所に入れられたせいか、一夏が吹き飛んだ。

 

「痛っ~……!シグ、読んでいたのか……?」

「何となく」

「ただの勘かよ!?」

 

 一夏がショックを受けたように叫ぶが、シグも内心ドキドキしてた。

 

(さっきも攻撃読まれて攻撃を防がれたからフェイント入れてみたけど……まさか、本当に攻撃対策をしていたなんて思わなかったな………)

 

 避けたらすぐに攻撃することを学んだのだろうか?攻撃をされるとわかれば、いくらでも対策は練れる……けど、それが実際にうまくいくかどうかは別問題なのだが……。素質は十二分、ってことか。

 

「…………いろいろ見れたし、この辺りにしておくか」

 

 小さく呟き、シグは、機械魔法を起動させる。

 魔法を発動した機械魔法は、その場で大量の水蒸気を出し始める。

 

 

 

 

 

 

「わ、え……煙?」

「…………なるほどね」

 

 急に出現した煙―――水蒸気である、霧が出てきて、シグ君と一夏君の姿が綺麗に隠れる。

 私がシグ君の目的を理解していると、結羽ちゃんが焦った様子で話しかけてくる。

 

「た、楯無先輩……このままじゃ、負けてしまうんじゃないんですか………?」

「うん、確かに。一夏君が負けてしまうね」

「…………え?」

 

 結羽ちゃんの眼が点になった。でも、その気持ちもわかる。

 

「だ、だって……普通の戦いならともかくですが、煙で姿を隠してもISにはそんなの関係ないですし……むしろ、シグ君の方にデメリットが」

「うん。確かに、普通なら、シグ君の方が負けるね。

―――――でも、この霧『一夏君に対して使ったわけじゃない』としたら?」

 

 そう私が言った直後。試合終了のブザーが鳴った。

 シグ・シリオンが勝利したという事で、試合が終わった。

 


 
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