「……という事です。わかりましたか~。一刀さん?」
「ああ、寡兵で倍以上の精兵に立ち向かう時は。臆病風に吹かれぬ様、
味方を鼓舞し士気を高める事が重要であり、それが勝利の鍵だろう?」
「確かに。士気が低い部隊など赤子の手を捻る様なものだからのう~」
「はい、その通りですよ~」
一刀さんに内政、軍事の基礎、応用を御教えしてから早数刻、楽しいと時が経つのは早いですね~。
一刀さんは素直で飲み込みが良いので、その聡明さに舌を巻いてしまいます。
まさに、優秀な生徒さんの鑑ですね。
………でもでも~。
「祭様~。同席は許可しましたが杯を片手に嗜まないで下さいよ~」
「別に、迷惑を掛けてる訳じゃないから良いではないか」
そう言うと、祭様は杯を呷り気持ち良さそうに息を吐く。
そして、頬杖を付いて目を細め、楽しげにこちらを窺う。
「こうして、二人を眺めて呑むのが今日一番の酒の友じゃ。
と言う訳で北郷、酌をせい」
「やれやれ、これで何度目だよ。祭さん」
言葉では軽く悪態口を吐きながら、仕方がないと苦笑を漏らしお酒をお酌する一刀さん。
注ぎ終えると私にお顔を向け同調を促す様に困り顔で首を傾げる。
流石にこのままではいけません~。
「祭様。これ以上邪魔を致しますと、退席して貰いますよ。
時は限られていますから」
少し怒気を孕み祭様を注意する。祭様はまたもや、お酒を口にして一息つくと…
「わかった、わかった。そう邪険に扱うではない。もう酌は頼まん。
御主等は存分に軍法戦術の真髄に近付くが良い」
効果がありましたでしょうか?ともあれ祭様は邪魔をしないと約束してくれました。
これで集中して一刀さんと有意義な時を過ごせます~。
「では、一刀さん。再開致しましょう。何処まで話しましたでしょうか~。
そうそう、寡兵での重要な事でしたね~」
「ああ、引き続き宜しく頼むよ」
「はい~」
一刀さんは筆を取り、準備万端、何時でもどうぞと言った具合にやる気に満ち溢れている御様子。
その証拠に、机の上においてある竹簡を御自身で用意し、重要な部分を書き写しております~。
何時もは竹簡など用意しませんのに~。
けれど、あの覚悟、決意表明を聞きましたら納得せずに入られませんよ。
『…今まで、俺は教わる事に恐怖を抱いていた。軍師の知識を得るという事は、
自らの采配で人の命を刈り取る。俺の世界ではその行為は殺人教唆であり禁忌なんだ。
頭では覚悟していた。けど、いざ戦場で采配を奮い策を駆使し、目の前の惨劇を目の当たりすると
心の均衡が保てなくなった。それから、情けない事にその光景が何度も夢に出てきてその都度魘された。
そして、夢の中で這い寄る無数の手が四肢に纏わり付き、耳元で囁くんだ』
『痛い身体が痛い!!貴様がいなければ、我は死なずにすんだ。
この怨み晴らすべからず…!!』
『って、さ』
『一刀さん。辛いならお辞めになってもいいのですよ。
誰も貴方を責めたりは致しません』
『少なからず、そう思っていたよ。辛かったし、逃げ出したいって。
でも、そんな時、俺を救ってくれたのが国だった。
こんなどうし様のない俺を募ってくれる兵の皆、隣で励ましてくれ切磋琢磨して強くなろうと誓った将の皆。
大した事もしていないのに、感謝し優しくしてくれた民の皆。この皆の其々の温かさにが
腐乱しそうな心に光を与えてくれた。それからだよ、あの悪夢に魘されなくなったのは』
『……………』
『国在っての人ではなく、人在っての国。なら俺は感謝の印として
守るべき力を身に付けないとって思ったんだ。それが、皆の恩義に報いる唯一の方法だし、
愛して止まない孫呉を守りたい、って言う俺の意志でもあるから』
『…立派な心掛けです一刀さん。やはり、貴方は、天の御使いですね』
『はは、止してくれ。俺は只の弱っちい人間だよ。
本来なら天の御使いなんて大それた名に相応しくない。それに、本音は名なんて捨てたい位だよ』
『…申し訳ございません、一刀さん』
『謝らないでくれ。天の御使いを演じると決めたのは他でもない、俺自身。
全て覚悟の上だし、天下泰平を迎えるなら、思う存分、利用して欲しい。
これも、また、俺の本心さ』
『…はい』
『と言う事で今日もご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いします。穏先生』
『ふふ、では一刀さんの申し出通りビシバシと容赦なくお教え致しますね~』
『…やっぱり、お手柔らかに頼むよ』
『駄目ですよ~』
『冗談だよ。うし!!気合をいれ頑張りますか!!』
「…穏?どうかした?急にボーっとして」
「あ、いえ、何でもありません。どうかお気になさらず~」
いけませんね~。私がこの様な調子では。お教えする身ですからしっかりしないと~。
「北郷。穏は御主の男っぷりに見惚れていたのじゃ。
それ位察するべきじゃぞ」
「いやいや、見惚れるなんて。そんな様相、何処にもなかったでしょ」
「……いえ、祭様の仰ってる事はあながち間違ってないかもしれません~」
「えっ!!!!」
ほんの少しだけ、からかおうと思ったが故にでた軽口。
一刀さんは戸惑い。照れている御様子。思わず笑みが零れてしまいます~。
「ほほう、穏も中々言うではないか。これは、宣戦布告と受け取ったほうが良いかのぅ?」
「…私は最初から一刀さんを気に入っておりましたから~
今更、その様に受けとられても~」
「ふむ。まあ、そういう事にしておこうかのう」
「はい~。さてさて、一刀さん。何時までも照れていないで再開しますよ~
目指すは古の将軍、韓信です」
「国士無双ときたか!!それは良い!!北郷しっかりと学に励むのだぞ!!」
「…やれやれ、二人の期待が大きいな。でも頑張るしかないか。
それこそ、背水の陣で臨む様に」
「はっは。上手い事言いおって」
「ふふ、そうですね~。それでは一刀さん。決意を新たに頑張りましょう~」
一刀さんとの思い出、一度も四季が移り変わっていないのに、
何故か遠い日の思い出となった如く、懐かしく捉えてしまう。
目の前に居らっしゃる祭様も同じ気持ちでいるだろう。
だが、祭様に注視していると、ある違和感に気が付いた。
懐かしさの中に哀愁を漂わせる雰囲気を纏っている、私の目にはそう見えた。
「…祭様。一刀さんは………」
「その先は言うでない。今は世迷言に現を抜かすのではなく、
目の前の現実、戦に勝利する事だけを考えよ」
「…世迷言、ですか」
「………そうじゃ、世迷言じゃ」
また、愁いを帯びた瞳。やはり、私の…私と祭様の疑念は――――
「…穏!!儂は弓兵部隊と連携し一当て、突撃を決行する。
御主は援護を頼む。それと今は、妄執にとらわれるのてはならん。
聡い御主なら北郷の為に、今、成すべき事がわかっている筈、
よいな、我らもまた、北郷の様に孫呉の道標となるのじゃ!!何があろうとも!!!!」
そう言うと、祭様は急ぎ早に、乗馬し弓兵隊に命令を下して精鋭騎兵と共に、
曹軍目がけ突撃していった。祭様の叱咤激励、一刀さんの孫呉への想い。
…わかりました。私も、屈強なる意志で孫呉の勝利に導きます。
そして、この後待ち受けている未来が、残酷なものだとしても、
私は、孫呉の為に惜しみなく力を出し続けるのを約束致しましょう。
「………もう、迷わない。迷いはしません――――!!」
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こちらは真・恋姫†無双の二次創作でございます。
早めに投稿できました。・・・zzZZZ
稚拙な文章、口調がおかしい所があるかもしれません。
それでも、暇な時間に読んで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします。