久しぶりの逢瀬を楽しんだ一刀たちは、翌朝起きてから今後の事について話し合われていた。
「まずこれからの事だが、北郷が言っていた物を作るにしても手持ちの金が足りない。北郷、お前に会わせたい人物がいる。一緒に来てくれるか」
「ああ、いいよ」
「私も一緒に行くわ!何よ、冥琳!勝手に二人っきりで包(ぱお、魯粛の真名)の所に行こうとしているのよ!」
冥琳の説明で察しが付いた雪蓮が声を上げる。だがそんな雪蓮を見て冥琳は敢えて反論する。
「私には雪蓮のように強引な事ができないからな。それにこれからは北郷に仕えるという形で雪蓮と対等な立場になったんだ。こういう機会を積極的に利用していこうと思ってな」
今まで二人は主従関係であったが、二人が一刀に仕えるという状態になった今、一応形式上が対等な立場になったので、冥琳は雪蓮に対してこう主張した。冥琳の主張を聞いて雪蓮も渋々認め
「……わかったわ。私も負けないから、それじゃ、行きましょう」
二人はお互い一刀の両腕を組みながら魯粛の屋敷に向ったが、その途中で民たちは驚いた表情をしながら一刀たちの方を見ていた。
なぜなら雪蓮や冥琳は町の顔役であるが、今まで対等に付き合う事ができる男を見たことが無く、ましては男とこうして腕を組んで歩いていることなどは周りから見たら驚くと共に一緒にいる一刀の姿(聖フランチェスカの学生服)が今まで見た事の無い服装であったので余計に目を引いた。
「おい、あの孫策様や周瑜様が男を連れて歩いているぞ…」
「でもいつもと何か違って幸せそうだぞ…」
「強い孫策様や周瑜様がああなるって、何者なのだ…あの男は」
「でもあの人、変わった服着ているけど男前よね~」
更に腕っぷしに定評がある雪蓮が一刀にじゃれているのを見て、民は一刀が只者ではないと感じ取っていた。
こうしているうちに三人は魯粛の店に到着して客間に通された。
しばらくすると魯粛が客間にやって来た。
「どうした、雪蓮と冥琳……?それで何だ、こいつは?」
包(魯粛の真名)は一刀の姿を見て怪訝な表情を浮かべながら、雪蓮たちに尋ねる。
「ちょっと~こいつと言い方は無いでしょう。これでも一刀は私たちの主なるのよ!」
「雪蓮…その言い方もどうかと思うぞ」
包の言い方に腹を立てた雪蓮が怒るものの、フォローになっていない怒り方に冥琳が呆れていた。
「ハハハ、それじゃ冥琳ここから説明お願いね」
「相変わらずだな……」
「もう慣れたよ…」
怒った雪蓮が一刀の事を説明すると思われたが、行き成り冥琳に丸投げしたので一刀や冥琳は呆れたが、雪蓮の性格上、何時もの事で仕方がないと諦めていた。
「はぁ……仕方がないな。では私から説明しよう」
「この者は北郷一刀、これから私たちが仕える主だ」
「へえ~今まで散々の諸侯に仕える事を渋っていたのにどう心変わりしたの?」
「ここから本題だが包、町で流れている噂は知っているか?」
「ええ知っているわ。『確か流星が黒天を切り裂き、天より御遣いが舞い降りる。御遣いは天の智武を以って世に太平を導かんとす』だったよね」
「それで明け方の流れ星は見たか?」
「見たけど、それが……もしかして!」
包は冥琳の説明を順序良く聞いて、そして一刀を見て話が一本に繋がった。
「先に言っておくわ。一刀が『天の御遣い』として偽物という話は無しよ。こう見えても一刀は私より腕は立つし、冥琳を唸らせた程の頭の持ち主なのだから」
雪蓮が先に一刀の有能な事を主張すると、包はあの雪蓮と冥琳がここまで言わせる一刀がどういう人物であるか興味を持った。
「それで……私に用というのは、これから立ち上がる為の軍資金を貸して欲しいという訳ね」
「流石だな。その通りだ」
包は冥琳の話を聞いて、今の三人に足りない物をズバリ言い当てた。
「話は分かったわ。でも、はいそうですかと簡単に貸す訳にはいかないわよ。何かそれに見合う代価が欲しいわ」
すると雪蓮と冥琳は包が代価を要求する事を分かっていたので、話に乗ってきた事に笑みを浮かべる二人。
そして一刀が包に未来の知識で、この世界でまず商品・製造化できる物を説明すると包はその話に引き込まれていく。
そして一通り話を終えると包は
「凄いわね…貴方。一つ聞きたい事があるけど、貴方、商人や商いの事をどう思っているの?」
包の質問に一刀は何らかの意図を感じ、言葉を選んで説明する。
「確かに商人というのは身分が低く見られているよね。商人というだけで嫌われていることさえある。だけど商人が居なければ、世の中の多くは立ち行かなくなる」
「だけど、商人に権力を持たせ、それが国家権力と絡んだ場合、いい方向に行けば別だけど、悪い方になれば国家が傾くという悪例もあるから難しい話だけどね」
「商いについては商いが盛んになれば、お金や物が動き、経済が活発になり、雇用が増える。それが民の暮らしに良い方向に繋がるのであれば積極的にやればいいと思っている」
包は一刀の話を聞いて目から鱗が落ちる感じであった。ここまで会った人物でこれほど簡略な説明でありながら、商人や商いについて分かっている者が居なかったからだ。
各諸侯はお金の重要性を認識はしているものの、それは殆ど土地から上がる農民の収穫物を基準にしか考えておらずその結果、お金が足りなくなれば農民への税を上げるという事しか考えなかった。だから税が上がり農民が離散すれば収穫が減り、またお金が足りなくなれば税が上がり、そして盗賊等が発生するという負の連鎖が続いている状態でもあった。
こう見えても包は、義に厚い面があり財産の一部を割いて困った者に施しを与えてきたが、それは結果的に焼け石に水であり、こういった閉塞感を打ち破るには何らかの荒療治が必要だと思っていたが、その方法が分からないまま今日まで云っていた。
それにこのままお金を持ったまま終わる人生をしても面白くない。この漢の初代皇帝の劉邦も今こそ皇帝の血筋と言っているが、元々は侠客の出。それよりも才覚があり、あの天真爛漫の雪蓮や自信家の冥琳が主と慕う北郷一刀の人柄、それなら酔狂でも構わないから一刀を主として一旗揚げた方が面白いかもしれない……。
そう結論付けた包は、この場において急に臣下の礼を取った。
「北郷一刀様、我が身を貴方様に捧げたいと思っています。そして私の財産も好きな様にお使い下さい」
三人は包が命より次に大事な財産を一刀に提供して家臣になると聞いて驚きを隠せなかった。
「いいのかい?俺には君に与えられる物など何も無いし、下手をすれば今まで築き上げた財産を失うかもしれないんだよ」
「構わないわ。このまま財を持っていても精々知れたもの、それに私には大事を遂げる才能が足りない。それなら寧ろ貴方の思う道に付いて行き、更に財を増やせる可能性を賭けたいの」
一刀の言葉に包は商人らしくかつ博打的な感覚で一刀に賭けるのであった。
「わかった。改めて名乗るよ。俺は姓が北郷、名が一刀だ。異国の出身だから字も真名も無いよ。だから好きに呼んでくれたらいいよ」
「わかりました。では、一刀様と呼ばせていただきますわ。我が姓は魯、名が粛、字を子敬、真名は包(ぱお)と申します」
「包・・・いい真名だね。それと俺、堅苦しいのは嫌いだから気楽にね。これからよろしく頼むよ。包」
「はい!」
「包、いい度胸しているわね、貴女。でも…そういうの嫌いじゃないわよ、私」
「ああ、そうだな。だが心配しなくてもいいさ。確かに一時的に財産は減るかもしれないが、直ぐに利子を付けて返せるさ。なあ北郷……いやこれから主となるから一刀と呼んだ方がいいか。なあ一刀」
「冥琳に改めて一刀と呼ばれると、何か新鮮だけど…嬉しい様な恥ずかしい様な…」
「そ、そうか…それなら言った甲斐があったな」
冥琳からそう言われると一刀と冥琳は多少照れた顔をしながら見つめ合っていたが
「何、二人でいい雰囲気を作っているのよ!」
「ハハハ!あの雪蓮がこうも女らしく拗ねるとはな、これは良いものが見れた。ハハハ!」
今まで見た事がない雪蓮の拗ねる姿を見て包は笑いを隠さなかった。
そして小さな勢力がこうして産声を上げたのであった。
あとがき
現在、桃香の扱いに思案中です。
お手数ですが、どんな桃香がいいのか提案よろしくお願いします。
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どうも新外史伝の方の筆が進まないので、こちらの方の更新が先になりました。
では第5話どうぞ。