No.741102

真・恋姫†無双~比翼の契り~ 二章第一話

九条さん

二章 群雄割拠編

 第一話「足跡」

2014-12-02 10:56:20 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1549   閲覧ユーザー数:1357

 現在、俺達は馬車の荷台で揺られている。最初こそ馬上よりもひどい揺れに不満を唱える者がいたが今は静かだ。

 

 事の発端は偶然おなじ宿に泊まっていた武器の売買を生業とする武器商人とウチの華煉が意気投合したことだ。

 洛陽を追われ俺の屋敷の二階(華煉の実験室)も無くなった華煉が、武器商人の持つ武器に目を付けたらしい。

 互いに意見を交換し合うこと数刻、そこには話の合間に酒を飲み飲まれた呑んだくれが二人出来上がっていた。

 

 そして今、洛陽近辺での商売を終え、故郷幽州へと武器の補充を向かうという武器商人のおっさんの好意で馬車を一台貸してもらえることになったのだ。

 対価は帰郷までの護衛のみ。

 タダ飯食らいが初めて役に立った瞬間だった。

 

 

 二月が経過しようやく俺達は洛陽のあった司州を抜け、その北方に位置する并州を抜け、ついに幽州へと入った。

 道中いくつもの邑や街を経過し、都度武器商人のおっさんの商人ネットワークに驚かされつつも、おかげで商人を介しての信憑性の高い情報が色々と手に入った。

 対価というわけではないが、華煉との武器に関した話はお互いに発見があるらしい。おっさんも元は武器を作る側だったそうで、話に華が咲くのは仕方のないことか。だが、年頃の女性がおっさんと武器の意匠や強度を上げるには~なんて話を楽しそうに話す姿はなんとも言えない気持ちになった。

 まぁ、華煉、だからなぁ。

 

 そう、商人達から得た情報だが、帝の死というのは大きな波紋を生んだ。

 傀儡だったとはいえ大陸を纏めていた存在が死んだことで諸侯の動きが活発になったそうだ。

 反董卓連合に参加した者達。見事洛陽へとたどり着いた彼女達だったが帝はすでに他界。次いで権力のある董卓は行方をくらまし生きているかも定かではない。十常侍はすでに袁紹が斬っており、恩賞を得られぬまま自国へと帰還した。

 劉備は公孫賛からの推薦もあり、平原の牧から徐州の州牧になった。青州ですでにかなりの徳を集めていた彼女は徐州の民達のもすぐに受け入れられたようだ。

 曹操は領土を広げることはせず武器と兵を集めているようだ。おそらく今の大陸の不安定さに気が付いているのだろう。

 

 大きな動きはそれぐらいだ。さすがに幽州近辺以外の情報は得られなかったが、それでも十分すぎるぐらいの情報量だと思う。

 俺達の旅には董卓連合に属した武将級の面子の他に名実ともに私兵と化した梟が二十人いるが、その梟でさえ上回る情報網に舌を巻く。もちろん周辺の地形などは梟が収集しているので役に立っていないわけではないが。

 

 

 早朝。予定していた幽州での最後の街から出発した俺達一行はおっさんの故郷に向かっていた。

 朝が早かったこともあり、荷台では皆が眠そうにしていた。

 華煉はこの揺れの中寝やすい場所を見つけたのか、隅のほうで横になり寝ている。詠は華煉の横で座り、対面には恋があぐらをかいてねねと月を抱くようにし、三人とも少々揺れに顔を顰めながらも寝入っていた。

 途中、恋のすぐ側に立てかけてあった方天戟が倒れ、月の頭上へ矛先が落ちるという凶事が起きたが立っていた華雄がファインプレーを見せ、どうにか流血沙汰にはならなかった。

 詠は恋を起こったが寝ぼけ眼で聞いていた恋に、果たしてちゃんと伝わったのかどうか。

 俺と茉莉は馬車を走らせる御者(ぎょしゃ)として荷台の前に座っていた。莉紗は茉莉の背中に全体重を預け抱きついたかと思えば、いつの間にか眠っていた。寝ぼけながらもお姉様と口走り不気味な笑みを浮かべるのは淑女として如何なものか。

 改めて思う。屋敷の居候にはろくな奴がいない。

 まぁ茉莉も嫌がっていないのだし莉紗については放置か。

 

 しばらく荷台に揺られ続け、昼頃になると休憩のため小休止に入った。道中少し気になったことがあったので、事前におっさんへ了承を得た上でこの小休止は普段よりも少し長めに取っ手もらっている。

 賊を見たわけではないが一つ気になったモノがあったのだ。

 茉莉と想愁を供に来た道を戻っていく。ソレを改めて確かめるためだ。

 

「確かここらへんに……」

 

「あれですかい?」

 

 想愁が指を指した先にソレはあった。

 

「……明らかに踏み固められたモノですね。それも十どころではありません」

 

「ああ。行商が隊を組んで移動したのなら分かるが、それにしては車輪の跡がない」

 

 ソレというのは馬に踏み固められた土だ。

 この時代、綺麗に舗装された地面であっても所々凹凸というものは存在する。長い間荷台の中で揺られ続けたせいで得た感覚だと、舗装された路というのは時折大きく上下に揺られる。

 だが、ここを通ったときは何度も小刻みに揺れた。

 

「馬っていうなら公孫賛じゃないんですかい?」

 

「確かに公孫賛は馬を多く扱うと聞くけど、こんな辺境にまでそれほど少なくない兵を出すか?」

 

「そりゃあ賊が出て討伐とかすりゃあ……」

 

 賊の討伐という想愁の意見は確かにとも思える。ただ、賊が出たのなら周辺に噂程度は出回るはずだ。

 

「そのような話は先の街では聞きませんでしたが」

 

 バッサリと茉莉に切られていた。相変わらず俺以外には容赦がない。

 太守である公孫賛でないとすると誰の足跡なのか。

 

「考えられるとしたら袁紹じゃないですか?」

 

 いつの間にか莉紗が近くまで来ていた。それだけ言うと茉莉をお姉様と呼びながら引っ付いていたが。

 冀州にいるはずの袁紹が?

 

「だってここは国境付近に位置する場所ですし、何よりも公孫賛は汜水関で劉備を助けたことで少なからず痛手を被っていますから。それに烏桓(うがん)の動きも活発していて対応に追われているはずですから」

 

 確かに商人ネットワークの中に烏桓の動きが活発化しているためか、公孫賛が武器を買い集めているという情報があった。おっさんの知り合いの商人も何人かはそれで儲けていたようだし間違いないだろう。

 

「だとしても、公孫賛から何も無いのはおかしくないか?」

 

 通常、宣戦布告をしてから戦というものは行われる。戦が起きているのなら国境付近の兵がこれほど少ないというのはおかしい。

 

「それは……分かりませんけど。お姉様ー、隼さんがイジメてきますー!」

 

「ひでぇ言いがかりだ」

 

「甘んじて受けなさい莉紗」

 

「……はい、お姉様!」

 

 一瞬で桃色空間が出来上がっていた。もちろん茉莉にその気はないから莉紗の周りだけだが。

 背中から引き剥がされ正面を向いてキスが出来るほど顔を近づけて囁くように名前を呼ぶ。それを無意識でやっているんだから茉莉も大概質が悪い。概ねその被害は莉紗にだけ向いているのが幸いというかなんというか。兄としては改善して欲しい唯一の欠点だ。あれ以外は直接的な戦闘を除いて完璧なんだがなぁ。

 

「憶測の域はでないっすね」

 

 もう見慣れた光景すぎて想愁も平然としている。

 

「一応おっさんには報告だけしておこう。たぶん今よりも少し早く移動するだろうから皆にもそう伝えておいてくれ」

 

 おっさんの故郷はもう少し先にある。取り返しがつかなくなる前に帰ることが出来ればいいが。

 

 

 

 結果から言えばおっさんの故郷は無事だった。むしろ賊などは多少でたようだが至って平穏そのものだったそうだ。

 おっさんの自宅へ向かい近所に住む友人に挨拶とお礼をもらってから周辺で聞き込みを始めた。

 

 

「つまり……」

 

「ここの者達に近隣の街や邑が襲われているという認識は今のところは無いようです。常駐している兵の数も増えていないようですし、考えられないことではありませんが事態をまだ捉えていないのでは」

 

「だとしてボク達はどうするの?」

 

「おやっさんを見捨てるのは忍びねぇっすけど、何分相手が悪すぎるっすな」

 

「仮に助けるとして、公孫賛の所に行く頃には幽州の大半は奪取されるのがオチです。間に合ったとしても公孫賛が敵であった私達の言うことを信じるかも分からないですし」

 

「決断は早めに。逃げるなら今からでないと手遅れになる可能性も……」

 

 皆それぞれ意見を交換し合い、最終的には俺を見た。

 別に俺がこの集団をまとめると宣言したわけではないのだが、いつの間にかそういうポジションに落ち着いてしまった。

 さながら生徒会長が俺、副会長兼会計が茉莉、書記が莉紗と詠といったところか。ん、思考が脱線しているな。

 今後の動きについてだ。

 おっさんを見捨てるのは惜しいが、公孫賛を助ける理由もない。助けられるとも限らない。特に詠と月、華雄は助けることに反対しそうだしな。俺とおっさんで常駐の兵士に近隣の街で見てきた現状を知らせれば早馬を出してくれるかもしれない。旅人、商人の証言というのは思ったよりも強いものだからな。各地を回る行商なんてのは情報も取引の材料にしているし、その重要さに気が付いている者からすれば喉から手が出るものだろう。っと、また脱線していたか。

 かと言って俺達に行く宛はない。青州はまだ大きな勢力は見られないが袁紹が幽州を起点に河北四州の制定を行う可能性は高い。例え青州に逃げたとしてもすぐに追われるか。

 ここは青州のさらに南、徐州の劉備を頼ってみるか。史実ではあの呂布でさえ一度は内に受け入れた大徳だ。後に呂布の裏切りを挙げて曹操の迷いを断ち切ったらしいが。ここにいる呂布――恋を見て……裏切りなんて出来そうに見えないな。静かだと思ったらセキトを抱いて寝てるし。

 よし! 決めた。

 

「俺達は徐州に向かい劉備を頼る――」

 

「そうですか」

 

「おやっさんはどうなるんで!」

 

 茉莉の首肯と正反対の反応を見せる想愁。ほんと仲間に恵まれてる気がするよ。

 

「だが最低限できることはやる。まずは愛李、おっさんを呼んできてくれ」

 

「あい」

 

 返事とともに一瞬で姿を消した。すぐにおっさんも来るだろう。

 

「次に茉莉は公孫賛宛の文を一筆してくれ。同じ内容のものを二通で」

 

「文面は袁紹への注意のみで?」

 

「ああ、それだけでいい」

 

「御意」

 

「茉莉が書き終えたら梟から二人、公孫賛への使者を出す。早馬が出るなら一通をそちらに渡すが、出ないようなら二人別々の道を使い公孫賛に書簡を届けること。多少手荒でも構わん」

 

 ふぅ。久々に上からの指示を出すと緊張するな。

 あ、忘れてた。

 

「っと、勝手に決めたがこれで良いか?」

 

 目線は月と詠と、ついでに音々に向けた。

 彼女達は正確には俺に付いてくる必要はない。もはや自由の身だからな。意志確認を取る前に行動を決めてしまったが、彼女達にも選ぶ権利はある。

 付いて来るか、残るか、だ。

 

「そんなの……今更ですよ」

 

「ふん! 月がついていくっていうのならボクも付いていくしかないじゃない!」

 

「恋も……ついてく」

 

「恋殿の行くところならねねはどこへでもついていきますぞー!」

 

 月の笑顔を皮切りに追従する意志を見せてくれた。

 わずかに感じていた不安も払拭されたしホント月は出来た子だよ。

 

「ちょっ! 月に変な目を向けないでよね! 分かったのならさっさと商人と話を合わせておきなさい!」

 

 そんなに変な目で見たわけではないんだが。どちらかというと父親的な目というかなんというか。……ああ、これ以上はダメだな、うん。

 

「詠ちゃん、し、隼さんに失礼だよ……」

 

 ありがとう月。そうやって詠を諌めてくれるのも助かる。

 

「ははっ。じゃあ、ちょっと一仕事してきますか」

 

 結局、最後まで一言も話さず成り行きを見守っていた華雄。正直かなり気になったが、茉莉が書簡を書き上げるとほぼ同時におっさんも来たし後でそれとなく聞いてみるか。

 

 その日。おっさんの故郷から二つの影が出て行った。

 

【あとがき】

 

 皆様、はろはろーです。

 九条です。

 

 今話を書いたとき前話をやっぱり第一話にしようとめちゃくちゃ悩みましたが、そのままでいくことにしました。

 なんとなく前話は反董卓連合のその後みたいな書き方で、今回は土地も変わりましたし……。

 閑話扱いにでもすればよかったかな?

 

 それと、二章のタイトルをしばらく『??』でいこうかとも思ってました。

 なんとなく良いタイトルが思い浮かばなかったのと、盛大にネタバレしそうだったので。

 時代的には反董卓連合後は群雄割拠の時代じゃないか! ということでそのまま引用しました。

 

 烏桓とか御者とか最初読めませんでした、ええ。

 ルビが振ってあるのは自分が読めなかった、もしくは、こう読んでもらいたいものに振っています。

 烏桓はうがんで良いのか怪しいですが……。

 

 

 序章一話を読み返すと、その頃とは違った書き方になってるなと。

 多分にその時読んでいるweb小説の影響でしょう。

 とあるツイートで拝見したものですが

 

『模倣から始めて、オリジナルから徐々に生まれてくる誤差こそが個性』

 

 素晴らしい言葉だと思います。

 一から全て出来る人などいませんから。最初は模倣から、次第に自分なりのやり方などを見つけ、それが個性となる。といったところでしょうか。

 絵描きのセンスや語彙力など一朝一夕では身につかない物だと思います。これからも頑張りたいですね。

 

 

 それでは皆様、次回もお楽しみに!

 (#゚Д゚)ノ[再見!]

 

 

 

 

 P.S

 地味にお気に入りが増えたり減ったりしていて戦々恐々。

 年末年始は休みなしの超多忙な職場ですが、どうにか最低でも一週一話の更新をしたいところ……。

 くたばらないよう頑張ります。

 

 それにしても林冲やんかわ。焔ちゃんは今から攻略してきます(ぁ


 
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