No.740912

「真・恋姫無双  君の隣に」 第37話

小次郎さん

漢帝国の終焉に己の無力を噛み締める愛紗。
夢を叶えられるものは前に進む者だけ。

2014-12-01 18:26:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:16688   閲覧ユーザー数:10146

「漢」という日が沈む時が来ました。

では新たに昇る日は何なのでしょうか。

洛陽の城壁には、十文字を背に華と描かれている旗が掲げられています。

御遣い様の国、「華」。

洛陽を離れたところから、愛紗さんと二人で見ています。

桃香様に并州を委ねて漢の援軍に赴いた愛紗さんですが、得たものは何もありませんでした。

洛陽に到着した時の民の冷たい視線。

宮廷に謁見を求めましても、官軍の指揮下に入れとの命令書だけ。

そして官軍の将である皇甫嵩・蘆植将軍から、降伏か退却するように言われました。

お二人は無駄な血を流さない為に将を引き受けただけで、戦う気は最初から無かったとの事でした。

劉弁陛下と妹君の劉協様のお命は、既に御遣い様と誼を通じていた方達が保障を頂いていたそうです。

桃香様の地位を上げようとした愛紗さんの目論見は徒労に、いえ、むしろ時勢を読めていない事を示してしまいました。

勅を受けた諸侯で参軍の意思を見せたものは愛紗さんだけという現実。

私は脱力している愛紗さんに進言して、急いで兵を洛陽から離しました。

桃香様や朱里ちゃんから愛紗さんの事を頼まれていましたし、これ以上、民の不評を買う訳にはいきません。

官軍が戦わずして降伏した事実が宮廷に伝わると、外戚や朝臣の人達は我先にと洛陽から逃げ出したそうです。

陛下を連れ出そうとした司徒の王允様は誅されたと聞きました。

御遣い様は、最早虚名でしかなかった漢帝国を大陸から消し去りました。

遂に漢帝国は滅んだのです。

何も喋らずに洛陽を凝視する愛紗さんに声をかけます。

「あ、愛紗さん、并州に帰りましょう」

「・・雛里、桃香様の夢は叶うのだろうか?」

その言葉には、愛紗さんの御遣い様への複雑な思いが隠れていました。

私は桃香様の夢は失われていないと思います。

ですが愛紗さんの夢、桃香様が大陸の王に成る事でしたら、叶わないと言わざる得ません。

御遣い様、袁紹軍、曹操軍に囲まれた并州は、守る事だけでも至難です。

それに、強行に出陣する愛紗さんに桃香様が言われた言葉。

「愛紗ちゃん。私は王になりたい訳じゃないけど、私なりに御遣い様に思いをぶつけたいと考えてるの。だから無理はしないで、無事に帰ってきてね」

おそらく桃香様は、軍事的に御遣い様へ敵対する意思は無いでしょう。

「いや、聞かなかった事にしてくれ。帰ろう」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第37話

 

 

一刀様と私を、洛陽の人達が歓声を挙げて迎え入れてくれます。

相国に任命されながら、復興どころか戦に巻き込んでしまった私なのに。

「凄い歓声ね。私には微妙な反応だけど」

「それは仕方ないさ。以前は敵だったんだから」

「わ、私は気にしてませんから。あの時の状況では仕方なかった事ですし」

馬を並べる曹操さんに慌てて声をかけます。

曹操さんが連合軍の一員だったのは私も知ってますが、その事を恨む気持ちはありません。

勅命を受けて逆らう方が本来ありえない事なんです。

「勿論よ。王允や董承に隙を見せた貴女が悪いのよ、今後は気をつけなさい」

「は、はい」

「・・あのなあ、華琳」

一刀様が曹操さんに謙虚の意味を話してますが、曹操さんは何処吹く風の様子です。

・・それにしても、仲が宜しいのですね。

私には曹操さんが一刀様に甘えているように見えます。

世間の評判でとても厳しい方と聞いていましたが、冷たい方ではなさそうです。

詠ちゃんや霞さんも厚遇を受けていると聞いてますし、少し安心しました。

「一刀、陛下はどう処する気?」

「命は取らないけど洛陽からは追放する。送り先はまだ未定だ」

「利用されるわよ」

「そうされない送り先を考えてはいるよ。でも大丈夫だろ、勅が出ていながら関羽しか救援に来なかった事実が既にあるから、漢帝国復興の大義名分は説得力が無い」

「その見極めが攻め込むまでの猶予期間だった訳ね。佞臣や奸臣の類も逃げたようだし」

「正直言って相手をしてられないしな。残っているのは真の忠臣か大陸の行く末を真面目に考えている人達だ。持ち去られた財なんかより大事な得難い人達だよ」

「前もって言ってた通り、私の陣営に来ると言う者は貰っていくわよ。勝手な真似はさせないけど、名家や豪族には利用価値があるわ。使える物は使わないとね」

何と言ったらいいんでしょうか、お二人とも流石と言いますか、私には全く思いも付かない考えです。

感心している私に、一刀様から笑顔で声を掛けられます。

「月、頑張って洛陽を賑やかにしよう」

「は、はい」

そうです、今度こそやってみせます。

ずっと心残りでした洛陽の復興、今度こそ遣り遂げて見せます。

 

むう、何だ、このもやもやした感じは。

華琳様が北郷と楽しそうに話していて結構な事なのだが、何故か釈然とせん。

北郷も少しは私とも話をしたらどうなのだ。

「ちょっと、春蘭。華琳様と一刀の距離が近すぎるでしょうが。あなたも華琳様の護衛として来てるんだったらお護りしなさいよ」

何を言っているのだ、コイツは?

「桂花、お前は馬鹿か?楽しそうにお話されているだけだろう」

「これだから脳筋は。事の大事さが分からないの?華琳様が妊娠でもされたらどうするの、この世の終わりよっ!」

ふむ、どうやら疲れているようだな、心の広い私としては労わってやらねばなるまい。

「桂花、仕事は大事だが休む時も必要だぞ」

「何を見当違いな事を言ってるの。いいから一刀を引き離してきなさいよっ!」

「お前の言ってる事は訳が分からん。だったらお前が自分で行けばよかろう」

私の言葉に何故か桂花の顔が赤くなる。

「だ、だって、何て話しかけたらいいのか分からないし・・・」

段々と小声になっていく、こんな桂花は見た事が無いな。

「と、とにかく行きなさいよ」

桂花が私を無理やり押すが、桂花如きの力で姿勢を崩す私ではない。

だが、いきなり振り返った一刀の顔を直視してしまい、急激に顔が熱くなる。

一体どうしたのだ、私は。

「全く罪な御仁だな、我が主は」

「肌馬二頭、追加ですねー」

何時の間にか近くにいた趙雲と風が、意味不明な言葉を放つ。

趙雲の顔が何故に秋蘭の楽しそうな顔と重なるのだ。

 

 

一刀様、助けて下さい!

わ、私は、これ以上無い危機に瀕しています。

「ハァハァ、亞莎ちゃ~ん、どうして逃げるんですか~」

「の、穏様こそ、どうして私ににじり寄って来るんですか、華国の建国書について話をしているところですよ?」

息は乱れ、肌を上気されて、服も半脱ぎになっている穏様から、必死に距離をとります。

華国から送られてきました建国書は、国事に携わる者達の会話を全てさらい、議論の的になっています。

まともに読まずに一笑に付す者もいますが、常に手に持って興奮状態で話している人も居ます。

私も少しでも時間があれば読んで、私なりに考えた事を書き込んだり、蓮華様や明命に思春さんと互いの意見を交換し合ったりしてます。

普段は議論の場を避けられる小蓮様も参加されて、勉強よりも面白いからと自由な意見を出されています。

雪蓮様と冥琳様は特に言及されてません。

穏様は暫くお姿を見かけなくて、意見をお聞きしたいと思い、お部屋を訪問したら何故かこの現状です。

「ね~、亞莎ちゃ~ん、もっとお話しましょ~。ハァハァ、身体のほてりが止まらないんです~」

腰の抜けてしまった私は必死で後ろに下がりますが、部屋の広さは無限ではありません。

壁に追い詰められて逃げられない私に、

「うふふ~、さあ、私と一緒にお勉強しましょ~」

ひいっ、み、耳を舐められました。

胸を押し付けられて足をさすられて、だ、駄目です、私は一刀様以外の人とは、

 

ゴンッ!!

 

「そこまでだ。大丈夫か、亞莎」

「め、冥琳様」

私は涙目で救いの主にすがりつきます。

「穏には部屋で一人で読めと厳命していたのだが、お前にも一言言っておくべきだったな。亞莎、今日の事は忘れろ。但し、今後は書物を読んでいる穏を見かけたら速やかに離れるようにな」

よくは分かりませんが必死に首を縦に振ります。

「ひどいです~、冥琳様~」

「正気に戻ったか、ならば仕事だ、柴桑攻略の軍編成を任せる。亞莎、お前も穏を手伝え」

「はい」

いよいよ揚州攻略ですが、不安が拭えません。

今の孫家で、外征は正しい選択なのでしょうか。

「冥琳様~。外征に関して提案があるのですが」

「何だ、言ってみろ」

「出陣の時に許貢さんの首を刎ねちゃいましょう」

穏様!

「・・出来ると思うか?」

「はい~、国政に口出しの越権行為。勝手な税の搾取。敵である劉繇との内応。充分ではないでしょうか?」

劉繇との内応?そんな事実があったのですか!

「穏、内応の証拠は何処にある?何より許貢も部下も黙っては居まい」

「証拠は作ればいいだけですよ~。それに黙ってて貰っては困りますね~、醜い口上を述べさせて求心力を失って頂くのですから」

笑顔で恐ろしい事を言われる穏様ですが、冥琳様も特に表情を変えられません。

「乱暴な話だな。柴桑攻略どころか内乱に発展しかねん」

「今のままでは遠からずそうなりますから。下手に領土が広がってからの方が収拾がつかなくなります~」

 

涼しい顔で謀略を語る孫家の懐刀。

穏、お前の危惧している事は分かっている。

雪蓮と蓮華様で割れてしまった孫家で、外征などしている場合ではないという事は。

だが、我等に時間は残されていないのだ。

御遣いに抗するには、江南の地を掌握して長江を防衛線にするしかない。

華は内政も軍備も全く隙が無く、此方から華に攻めるは自殺行為だ。

洛陽に攻め込みながらも寿春に充分な守備兵力を残し、江陵には水軍も配備されている。

それだけでは無く、私には華の、御遣いの意図が見えないんだ。

華国水軍の都督に、祭殿が任命された。

実力や実績でいえば当然の人事だが、御遣いは埋伏を承知している。

読めない、御遣いは何を考えている?

考え悩んでいた私に、祭殿から新しい言伝があった。

「冥琳、一刀を見定めようとするなら軍師ではなく人として見よ」と。

私には祭殿の言葉の真意が掴めない、だが、

「め、冥琳様、わ、私は此度の外征に反対です。急いて事を起こすのは自らの足場を崩す事に繋がり、領土を得れましても、得難い将兵を多く失います。何より私達は、絆を失ってしまいます」

「亞莎ちゃんの言う通りです~。華は一刀さんの下で一枚岩だからこそ強いんですから、私達も原点に戻るべきです」

御遣いを慕う二人には、分かっているのだろうか。

 

冥琳様のお気持ちは分かります。

私も一刀さんに直接お会いしてなかったら同じ気持ちでしたでしょう。

軍師の視点で一刀さんを量りましたら矛盾ばかりですから~。

一刀さんの行いは、もっと効率的で、もっと実用的で、もっと利益を得れる方法が幾らでも浮かべられますのに、結果はそういった考えの予想を超えたものになります。

今の私には理由が分かります、一刀さんが人を好きだからです。

敵味方や損得で人と接さない考えや行いが周りに伝わるから、一緒に頑張りたい気持ちになって想定以上の成果が得られるんですよ。

こんな荒れた時代に正面から向き合いながらも、優しい心を失わない一刀さんを好きになるんです。

だからこそ敵としてだけで一刀さんを見たら、矛盾点が不可解で平静ではいられませんよね~。

冥琳様は正に其の状態です。

とはいえ、こればかりは口で説明しきれるものではありませんから~。

それに、今の孫軍の在り様も必然なんです。

私達は一度に二人の王を持ってしまいましたから。

蓮華様のご成長は私達が心から望んでいた事ですが、余りにも早すぎました。

小覇王と称される雪蓮様は、先代孫堅様と同じで戦では絶大な信を得られますが、政には不向きです。

蓮華様は如何なる分野においても優秀で、性格も統治者向きです。

何より臣を信頼し任せるという事を身に付けられました、王としてとても大事な事をです。

孫家が天下に威を示す形は、雪蓮様が領土を広げ蓮華様が引き継ぎ治める、この形が理想でした。

現段階で秀逸で異なる王が二人もいれば、国が二分するのは当然です。

蓮華様は王妹で孫家に欠かせないお方です、排斥など論外ですが、許貢の進言は一理がありますから賛同する者も出ますよ。

「穏、亞莎。お前達の言い分は分かる。しかし王である雪蓮の決定を早々に撤回しては不信に繋がる。雪蓮寄りの者で編成をして、蓮華様寄りの者は留守の形で組み上げてくれ」

「分かりました~」

そうですね、既に遅いのかもしれません。

亞莎ちゃん、貴女に重いものを背負わせてしまう事になりそうです。

 

 

蒲公英から密かに届いた書簡に目を通す。

涼州軍閥が、翠を大将として長安に攻め込む準備を始めてるとある。

春を迎えたら西涼で集結して進軍する予定、か。

そうなると、猶予は二ヶ月。

各地の守備に兵力を分散すると此方は八万、涼州軍は約十万。

籠城なら十分だが、俺にも考えがある。

涼州軍閥、この戦いで完全に潰す。

 

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あとがき

小次郎です。

また読んでいただけて嬉しく思います。

寒さも厳しくなってきまして、こたつむりになる時期の到来です。

年末が近づくにつれて仕事が山積みで、やっと休みが貰えても眠りましたら半日過ぎてる11月でした。

今年中にあと二話は書きたかったのですが予定を見ると厳しいです。

下手すれば一話も危ないです。

すいません、言い訳してます。

頑張って書こうとは思ってますので、次話でもよろしくお願いします。


 
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