ある居酒屋にて…。
「はぁ、なんでみんな酔ってるのに私だけ酔えないんだろう」
と、料理を頬張りながらため息をついているのは鬼の女性、秋月 結。
彼女はたくさん飲んでも酔えない体質ゆえ、彼女と付き合っている周りの人ばかりが酔いつぶれ、
最後に彼女一人だけが残る…ということがしばしば起きているのだ。
「こんなんじゃお婿さんもらったときとか大変だよ…はぁ」
と、からし蓮根に手を出したそのときだった。
「相席、いいかしら?」
「あ、どうぞ…って市長!?」
テーブルの向かい側に腰掛けたのは現職の天空市市長、空戸 天音。
「あの、市長…この店よく来るんですか?」
「ええ、このお店はメニューも豊富でおいしいお酒も揃ってるし。それより何か浮かない顔してるけどどうしたの?」
「実はですね…」
結の話を一通り聞いた天音は、しばし考え込むと、ある提案を持ちかけた。
「よし!じゃあ今夜は一緒に飲みましょ」
「え、でも市長…」
「ふふ、天音さんでいいわよ」
「あ、はい…天音さんはお酒で酔ったりしないんですか?」
「そりゃ酔うけど…なかなか酔わなくてね。あなたと似たような体質なの。でもね」
「?」
天音はさらに続けた。
「…私はこの体質に生まれてよかったと思ってる。いろんなお酒が楽しめるし、それに…」
「それに?」
「…似たような体質の子となら話も弾むしねw」
「なるほど!ありがとうございます!」
と、二人は話して飲んだ。そして話して食べた。
…とか、なんとかやってるうちに閉店時間。
「ありゃ、閉店時間か…もっと飲みたかったのに」
「もう、天音さんってば」
「まあ、閉店じゃ仕方ないわね。時間的にももうアレだし…今日はこの辺にしましょうか。ところであなた、お家はどこかしら?」
「ええと…風神町5丁目の…」
「奇遇ね!私も同じ方向なのよ。さ、行きましょ」
居酒屋のすぐ近くにある電停にたどりついた二人。
天空市の市内交通の主役は路面電車の「天空電鉄」である。
市内を網の目のように張り巡らされた路線を、毎日毎日引きもきらずに電車が走るのだが、
二人もまた、この路面電車の利用客なのである。
「あの、天音さん」
「なあに?」
「今日は本当にありがとうございました…飲み代お支払いしますね」
「そんな、いいのよ。好きでおごってるんだし」
「あの!」
「?」
キョトンとしている天音に、結は少し恥ずかしげに口を開く。
「結です。秋月 結…これからもよろしくお願いします」
「うふふ、結ちゃんね。いい名前じゃない。…あ、電車来たわよ」
「あ、はいっ!」
二人は、足並みを揃えて電車に乗り込んだ。
帰りの電車の車内で、結は自分と同じ体質の人間もいるんだということにちょっとした安心感を覚えたのだった。
Tweet |
|
|
5
|
4
|
追加するフォルダを選択
お互い酔わない体質同士、話も弾みそう。
■出演
結:http://www.tinami.com/view/739287
天音:http://www.tinami.com/view/739281