第49話 ヨツンヘイム陥落
No Side
――ヨツンヘイム・ミズガルズ
「アレがフェンリルか、デカいな~…」
「スリュムやトールを軽く超えてるっすね…」
「……名は聞いていたが、私も見るのは初めてだ…」
「オーディンを殺す最強の怪物、狼達の王ですからね…」
「ロキんところの長男だろ?神話ってのは凄ぇよな…」
「ゲームのモンスターのはずなのに、AIってだけで威圧感が半端じゃねぇよ…」
ヨツンヘイムにある世界樹の根、その上にある街のミズガルズとその街の下である湖付近に防衛部隊が布陣している。
『神霆流』の武人にして『黒衣衆』、ギルド『アウトロード』の最精鋭、
ハクヤ、ルナリオ、ハジメ、ヴァル、シャイン、クーハの7人もそこに立つ。
彼らは敢えて街から出ず、広場で敵の到達を待ち構えていた。
「あの殺気、やっぱ
「……さて、姿は見えず、しかし身の覚えのある気配だからな。難しいところだ」
何かを勘ぐるように話しているハクヤとハジメ。
他のメンバーも高速でこの街に向かってくる〈
その巨体を駆り、もう間もなく到達するだろうそのボスに街の外の防衛部隊は大規模魔法とエクストラアタックの準備を整えており、
あとはタイミングだけというところだろう。
「全力で迎え撃つしかない、か……まぁやるしかないよな」
ハクヤはそう呟きながらも背中に背負っていた鎌を右手で構え、それに続くようにハジメは刀の柄に手を添え、
ヴァルは薙刀を、ルナリオはハンマーを、シャインは剣と盾を、クーハは小太刀を二振り構える。
ヨツンヘイム中央、ミズガルズの戦いも間もなく幕を開ける…。
ミズガルズで神霆流の一同が準備を整えているのと同じ時、
街の外の防衛部隊から少し離れたところに1人のプレイヤーがおり、その人物もフェンリルを見据えていた。
「フェンリルだけ、じゃない感じがするな…」
僅かに黒みが入った茶髪に緑の瞳を持ち、白のカッターシャツのような服と黒いズボン、
そして黒いロングコートに身を包み込んでいる
彼の名は『ディーン』という(『アルシャード・ガイア』のディーン・ランダムを参照)。
背中に2本の剣を背負い、右腰には鉄扇を、左腰には鞭を据え、手は僅かに爪が伸びるグローブを装着している。
「なにごともなく撃退できれば御の字だけど、とにかく戦うしかないか…」
ディーンもまた警戒していた。ハクヤ達が感じるような感覚ではなく、ほんの僅かな不安感や違和感のようなもの。
それでも拭うのではなく、敢えて心に留めておいているのはそうした方がいいと判断したからだ。
そして、そう考えている間にもフェンリルの接近は進み、間もなく部隊と戦闘を開始するだろうと考えた。
自身も部隊と合流しようと飛行していくと、メイジ部隊やソロプレイヤーが魔法やエクストラアタックを放った。
魔法攻撃などが直撃したフェンリルはダメージを受けるも動きを止めずに進む。
フェンリルが咢を開くとそこから何かが飛び出し、一発の弾丸のようにミズガルズに直進していった。
「なんだ、いまの……って、そんな場合じゃないかっ!」
ディーンは気を取り直してフェンリルとの戦闘に向かった。
メイジ部隊やプレイヤーの大規模魔法、単一種族や種族間によるエクストラアタックが放たれてフェンリルに直撃した。
ダメージを受けながらも進んでいたフェンリルの口が開き、そこから空中を最速で駆け抜ける漆黒の弾丸が殺気を持ち放たれる。
「っ、そこに居やがったのか……キリトォーッ!」
ハクヤの叫び、殺気ある弾丸の正体は彼らの仲間であり、友であるキリトだった。
だが、その顔にあるのは獰猛な笑みであり、それでいてその笑みにはなんの感情も籠められていない。
まるで感情の無い獣の様である。
ハクヤの持つ大鎌とキリトの持つ剣がぶつかり合い、衝撃波が街中に駆け巡った。
「ハクヤ、ハジメ、ヴァル、ルナリオ、シャイン、クーハ、お前らと全力で戦えるなんて、これほど嬉しいことはない」
「そりゃ、光栄な、ことで…!」
普段のキリトならば純粋に競い合う歓びが表情にも言葉にも乗るが、いまの彼にはそれさえも薄い。
VR世界でありながら背筋に寒気が奔るハクヤだが、それを抑えてキリトの攻撃を受け止めるも厳しい表情を浮かべる。
その時、キリトを取り囲むように一斉に全員が攻撃を仕掛けた。
それに対してキリトは背にあるもう1本の剣を取り出し、
二刀流の
「いまのキリトさんの様子は…」
「普通じゃない、っすね…」
「っていうか、本当にキリトさんなのかよ…」
ヴァル、ルナリオ、クーハも真剣な様子で話すがキリトから視線を逸らしはしない。
少しでも気を抜けばやられると感じているからだ。
「【覇王】というより、【魔王】とか【狂王】っぽいな…」
「……だが狂っている様子などは見られない…」
「どっちかっていうと、暴れたくて仕方が無いって感じか…」
ハクヤはキリトに対してそう評したが、ハジメとシャインは彼が狂気の中にあるとは思えないでいる。
「話し合いはここまでにしようぜ、ここからは
そこでいままでは殺気であったはずのキリトの気質が、闘気と『覇気』へと変化した。
表情にも変化が起こり、そこに闘いへの歓びを浮かべている。
そこには狂気の一片もない、純粋な闘争への歓喜、仲間であり友であり好敵手である者達との競い合い、
それへの歓びが見られる。
「なんだよ、能面かと思ったらいつも通り…いや、それ以上の戦闘モードになったり…」
「はは、悪いな。少しばかり気分が昂ぶるものだから、抑えるのに苦労しているんだ」
苦笑するハクヤだが同時に少しだけ悟った。
キリト自身に変化はないが、彼自身の状況が変わっていることに。
それを理解するためにも戦いが必要だろう、そう考えた。
「それじゃあ全員でだが、相手させてもらうぜ…」
地上に降りて武器を構え直したことでキリトもそれに倣って地に降り立ち、
『イノセントホープ』と『アビスディザイア』を構えた。
「行くぞ!」
「「「「「「来い!」」」」」」
そして彼らは街中での戦闘を始めた。
フェンリルが口を開いてキリトをミズガルズに向かわせた後、改めて戦闘が始まっていた。
フェンリルは主に咬み付き、ブレス、前脚の攻撃、後脚の攻撃、尾の叩きつけ、咆哮という攻撃パターンを行っていた。
これだけを見ればスコルとハティ、ガルムと大差なく思えるがそれは違う…フェンリルの毛は肌触りが良いものの防御力が高い。
その為、先述の3体とは違い与えることのできるダメージ量は少なく、加えて動きもさらに速い。
「くそ、攻撃が当たってもダメージが少ない! こういうのを剛毛っていうのかねぇ!」
「魔法も効きにくいですが、ダメージがあるだけマシでしょうね!」
「というかコイツ、こんな図体で動きも速いのかよ!?」
当然ながらプレイヤー一同はフェンリルの動きに翻弄されてしまう。
だが、それでも直接攻撃を与え、魔法と矢を命中させ、少しずつでもダメージを与えていく。
決定打に欠けるが負けてもいない、そこに彼が介入してきた。
「俺も混ぜてくれよ、悪名高き狼」
右手に聖属性を宿す
そのまま勢いづけながら左手で闇属性を宿す古代級武器の剣を抜き放って斬りかかる。
我流の二刀流、キリトのような形あるものにはなれないとは本人が一番良く解っているが、
その扱い難さとは裏腹に使い勝手は良く、戦場でも役に立つ。
だからこそ彼は我流の二刀流でフェンリルに闘いを挑んだ。
「(コイツ相手じゃ鉄扇も鞭もスピナーも役に立たない、対人戦向きの武器達だからな…)
ならここは、このまま押し切る!」
少し前に行われたALOのアップロードにより、武器の種類は増した。
スキルの系統はほぼ変化していないが彼の持つ鉄扇や鞭は片手棍に分類され、
スピナーは爪系(手袋系)に分類されることになった。
だがそれらの武器は対人戦やある程度大きさの知れたMobならばともかく、
これほどの体躯の相手ではあまり大きな力を発揮できないでいる、使い所はこのあとになってくるだろう。
だからディーンは聖剣と魔剣を用いて、我流の二刀流で攻めることにした。
そんな彼に触発されたのか、それとも余計に火がついたのか、他のプレイヤー達も果敢に攻撃を行っていく。
メイジ達は攻撃魔法で攻め、
それは弓部隊も変わらず、プレイヤー達を援護するか敵に直接スキルなどで攻撃を行う。
勿論、Mobなどもポップしてくるので迎撃するのを忘れない。
「これでも喰らえっての!」
「ぐっ!?」
ディーンは聖剣と魔剣を振るい、フェンリルの眼を斬り裂いた。
剛毛が覆っていない箇所が弱点だろうと予想し、判断は正しくそこに攻撃を行った。
それに続くように他のプレイヤーも仕掛け、同時に他の箇所も攻撃してヘイトを稼ぐ。
ブレスのタイミングでは開いた口に向けて放たれた魔法でダメージが多かったことから、
メイジ部隊はブレス時の口内を標的にして魔法を放ち続けた。
これによって半分以上のダメージを与えられたこともあり、徐々にだが形勢は押していると考えられる。
だが、ディーンには不確定ながらも妙な感覚があった、このままHPを削って良いものかと。
確かにボスはHPを削れば行動パターンが変化し、特殊な攻撃を行うようにもなる。
しかし、今回に限ってはどうしようもない思いもあるが、かといってここでなにもしないわけにもいかないのだ。
「かぁっ!」
「なっ!?」
そこでフェンリルの攻撃が行われた、噛み付きだ。ディーンは飲みこまれてしまう形になった。
しかし、次の瞬間にはフェンリルの頭上に現れ、再び二振りの剣で彼の眼を斬り裂いた。
ディーンは事前にスプリガンお得意の幻惑魔法の系統である分身魔法を使い、移動するのみの分身を作り出していた。
さらに同系統の幻覚魔法を使い、自身の姿を一時的に隠して上空へ飛び、分身がやられた瞬間に降下を行い、攻撃を仕掛けた。
しかし、それだけでは終わらせずにディーンは魔法を仕掛ける。
スプリガンの幻惑魔法の特徴、それは攻撃力がほぼ皆無な代わりに特殊な能力を齎す。
隠蔽率の底上げやステータスに見合った魔物への変身、先程の分身の他にもダメージを与えない霧の爆発など、
目晦まし程度の魔法がほとんどだ。
それがスプリガンの人気が伸びない理由の1つなのだが、戦術として使いこなせればこれほど心強いものはない。
「ぜぇあっ!」
現にディーンはそれらの魔法を近接戦闘でありながら使用し、自身への攻撃を躱してダメージを与えていく。
このトリッキーな戦法こそ彼の持ち味である。
そして、HPゲージが僅かとなり、そのタイミングでフェンリルはブレスを吐こうとする。
「こいつを受けてみろ!」
「ぬぐぅっ!?」
ブレスが吐かれる直前、ディーンは口の上から二振りの剣で斬り放った。
下顎の内部から外へ向けて斬られ、大きなダメージとなったことでHPゲージが0となり、
フェンリルのHPは8本から7本へ減った。
「アレが【ミスト・ナイトメア】…」
「幻惑魔法の使い手としてなら、トップクラスの1人か…」
「まだ本領じゃないらしいけどな…」
【ミスト・ナイトメア】、“霧の悪夢”という意味のこの名こそ、彼の異名だ。
けれど、これが第一幕での最たる一撃となる。
「やはり黒き妖精の言う通りだった……妖精達はオレを楽しませてくれる!」
フェンリルがそう言い放つと彼の体から冷気が溢れだした、それは彼の息子であるハティ以上のものである。
冷気は波動となって駆け抜け、絶対零度の風が吹き抜け、
氷の剣が無数に現れては射出され、氷の狼が形成されれば円を描いて走り抜ける。
その攻撃によってミズガルズの防衛部隊はほぼ壊滅状態になった、
防御力が低い者達はHPが0になり、守りきれた者達もほとんどが氷漬け状態にされた。
その間にもフェンリルは歩きだし、ミズガルズの街に侵入した。
「はぁ、はぁ……し、死ぬかと、思った…。スピナーが無けりゃ、氷漬けのままだった…」
ディーンは耐えきっていた。
正しくは剣を背中に仕舞い、グローブに武器として備わっている糸を操って自身を覆い、
盾として扱うことで完全な氷漬けを防いだのだ。
「防衛拠点狙いか、街がヤバい…!」
彼は即座に立ち上がると翅を使って飛び、街の中へと急いだ。
防衛部隊とディーンがフェンリルと戦闘を始めた頃、ハクヤ達もキリトと戦闘を開始していた。
街中には当然ながら他のプレイヤー達も居るが、彼らはその戦いを遠目に見ている。
いや、正しくは遠目に見守ることしか出来ないのだ。
「おいおい、ホントにアレが人間業なのかよ…」
「ゲームの中だからって、普通じゃねぇ…」
呆然と呟く者達、それも当然と言えよう。
彼らの見ている先で戦っている『アウトロード』の男性陣、その戦闘は凄まじいの一言以外に言い表しようがない。
なぜならそこは、衝撃波の嵐となっているからだ。
「クッハッハッハッハッ!」
高らかに笑い声を上げるのはキリト。普段の彼が見せることのない様にハクヤ達は戸惑い、けれど真剣に戦い続ける。
だが、普段と違うのはキリトだけではない、ハクヤ達も同じなのだ。
彼らは気付いていない、自分達が笑みを浮かべていることに。
「お前、気が狂ったのか正気なのかどっちだよ…!」
「そう言うなよ、お前達だって笑みを浮かべているぞ」
「え、マジっすか?」
キリトに指摘されて全員が武器や窓に映る自身を見て、笑みを浮かべていることに気付く。
こうして彼らは自身らも闘争の歓喜を受けていることに気付くと同時に力を高めた。
「……どうやら私達もお前につられたようだな」
「いいじゃないか、本気でやってくれ」
「それもそうですね……では、ギアを上げましょうか!」
そこから動きが速まる。
キリトの白剣『イノセントホープ』と黒剣『アビスディザイア』による二刀流の連撃。
それに追いすがるのはヴァルによる薙刀と神速、ハクヤによる鎌と乱舞、ハジメによる刀と剣速、
クーハによる小太刀二刀と連撃、ルナリオとシャインは徹底して4人に迫る攻撃を防ぐ。
ただその繰り返しであるはずなのだが、発生する衝撃波は街の窓ガラスを割り、建物を削り、街を破壊していく。
それは防衛拠点に与えられたHPを削るということでもあり、しかし他の者達ではこの戦いに介入できず、止められない。
むしろこの戦いに対して魔法を使用すれば余計に街を破壊してしまうだろうし、
なにより横やりなど入れようものならキリト達に八つ裂きにされてしまうかもしれない。
ここは街を敵から守りつつ、見守るしかないのだ。
「スターバースト・ストリーム!」
「ヴァンディエスト!」
「レイン・スクエア!」
キリトがOSSではなく、純粋な剣技として二刀流の16連撃技の《スターバースト・ストリーム》を実行。
それに対抗すべくハクヤが8連撃の《ヴァンディエスト》を、ヴァルが8連撃の《レイン・スクエア》を、
同じくソードスキルとしてではなく技として実行し、相殺させた。
「デプス・インパクト!」
「ヴァイク・インパクト!」
二刀流の5連撃技である《デプス・インパクト》に対し、
ルナリオが両手棍の派生であるハンマーの単発技の《ヴァイク・インパクト》がぶつかり合い、それだけで攻撃が相殺される。
「カウントレス・スパイク!」
「サベージ・フルクラム!」
二刀流4連撃技の《カウントレス・スパイク》には、シャインが片手剣のソードスキル《サベージ・フルクラム》で相殺させる。
「「デッド・インターセクション!」」
二刀流5連撃技の《デッド・インターセクション》に、
クーハもまたキリトから直接学んだ《デッド・インターセクション》で相殺する。
ここまでの剣技、全てがソードスキルではなく純粋な戦技なのだ。
彼らの凄まじい戦いぶりは異常だろうが、彼らにとってはこれほど心躍ることはない。
「いいぞ、これが戦いだ!
俺がいつしか心の底から望んだ闘争だ!」
キリトは歓喜する、自身が望んでいた全力を出せる闘争に。
「はっ、否定したいところだけど、そうかもな!」
「……そうだな、闘争を望んでいたのはお前だけではない!」
「僕も、僕達もまたこの戦いを願っていたみたいですね!」
「表では平穏を、だけど裏では闘争を、表裏一体っすか!」
「守る為の力、だが傷つけるのも力だ!」
「生かすのも殺すのも力と人次第、決めるのもまた俺達!」
キリトの言葉に『神霆流』は肯定する、彼らもまた力を発揮することを、心の底で願っていた。
いつか、いつかしかはと、人を相手に全力と本気を揮いたいと。
ぶつかり合う力、だがそれもバランスが崩れていくことになる。
――ぐおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
その時、巨大な咆哮が響き渡った。フェンリルである、彼がミズガルズへと侵入を果たした。
街中に居た部隊は即座に迎撃に移り、キリト達を残すことになった。
そして、その一瞬の出来事にほんの少し、隙が出来てしまった。
「は…?」
「悪いな、クーハ。お前から離脱だ」
「一番弱いから仕方ない……また後で戦おう、キリトさん」
アビスディザイアがクーハの両腕を斬り落とし、心臓部位を貫いてHPを0にした。
彼はポリゴン片となって砕け散り、
その出来事は一時のこと、だが彼らを刺激し、怒らせるには十分なことだ。
「……《抜刀》!」
最速の剣速、抜き放たれた刀による一撃が閃光となり、キリトの胴を真っ二つにする……ことは出来なかった。
「……チッ、抜かったか…」
「あぁ、怒りで判断不足になったな、今は俺の勝ちだ」
「……言っていろ、決着はつけるぞ」
ハジメが刀を持つ右腕はキリトを捉える前に既に断ち斬られていた、よってキリトに届くことはなかった。
そのままイノセントホープに喉を貫かれ、首を袈裟斬ってHPを0にした。
この時、大振りなルナリオとハクヤの攻撃は避けており、シャインとヴァルの攻撃は黒剣で受けきってみせていた。
加えてキリトの動きは速く、大振りな攻撃の僅かな隙を既に突いており、
アビスディザイアを巧みに動かしてルナリオの脚を両方とも斬り飛ばした。
「速すぎっすよ…」
「すまないがこれも戦いだ」
「分かってるっすよ、でもこっちも負けっぱなしは無いっすからね」
アビスディザイアとイノセントホープが重なり、そのまま強烈な一撃となってルナリオの胸を貫き、HPを0にした。
続けざまに3人がやられ、怒りと困惑に精神が追いつかなくなったのはヴァルだった。
反射的にキリトへ薙刀を振るったが、反射的過ぎてその動きは単調であり、逆に大きな隙となってキリトに斬り伏せられた。
「僕は、また…」
「相変わらず怒りに敏感だな。それがお前の悪い所でもあり、良い所だけどな」
「ははは……反省、します…」
十字と斜め十字に斬り裂かれ、ヴァルは己の失態を恥じながら、
それでいてキリトの言葉を受け止めながらポリゴン片となり、リメインライトになる。
残されたハクヤとシャインは距離を取り、お陰で冷静に戻った。
「さすがに、ありえねぇわ…」
「今の動き……なるほど、お陰で色々と掴めたぜ…」
「それは良かった」
ハクヤとシャインに挟まれる形だが、キリトは堂々としている。
しかし、シャインも言葉にした通り、いまのキリトに関して気付くことが出来たのだ。
「とにかく来いよ、俺のことはユイにでも聞けば答え合わせが出来る」
「そうかい……なら、行くぜ!」
ハクヤとシャインは同時に駆け抜け、大鎌と剣で斬りかかる。
キリトは左右の剣で防ぎ、体を巧みに動かして空中に僅かに浮かびつつ、剣で2人の武器の軌道を変えた。
ハクヤの鎌はシャインの盾にぶつかり、シャインの剣は空を切り、
キリトは空中で体勢を変えて2本の剣でハクヤの両肩を直線に斬り裂いた。
「そういうことか、お前アミュスフィアは…」
「ああ、使っていない」
「通りで……あと、っていうか終わったら全部聞かせてもらうからな!」
斬り下ろしから即座に斬り上げ、ハクヤのHPが0になる。
彼はキリトに文句を言いつつ、なんだかんだで笑みを浮かべながらリメインライトになった。
残されたシャインは笑みを浮かべながらも、行き着いた考えに冷や汗を流していた。
今のキリトの状態を考えるに、彼を止められることが出来るのかと、思い至ったからだ。
「よし、考えるのは後回し! もう一回行くぞ!」
剣と盾を構えながらシャインは突き進み、キリトも応えるように2本の剣で迎え撃つ。
拮抗しているように見える戦いだが、シャインは得意のカウンターを決められずに防戦一方となり、徐々にダメージを受けていく。
縦横無尽かつ自由自在な動きにシャインは翻弄され、鎧の隙間や生身の箇所を狙われてダメージも大きくなる。
「スーパー・ノヴァ!」
「げっ!?」
二刀流の32連撃技である《スーパー・ノヴァ》、それをOSSではなく剣技として使用してきた。
シャインは剣と盾による二重の防御を行うが、掻い潜られた剣が体を抉り、大ダメージになる。
「キリト、お前………
「……ああ。だからこそ、この状態なんだよ…」
「先に言えよ、このバカ弟……絶対なんとかしてやる…!」
「すまない……ありがとう…」
シャインの言葉にすまなそうな様子を見せるキリト。
リメインライトになる直前、シャインは苦笑を浮かべてから、「気にすんな」と言葉を残して灯火になった。
全員のリメインライトが消滅した頃、フェンリルが街の防衛部隊を完全に破り、街中に侵入した。
「終わったようだな、キリト」
「ああ。ここを落とそう……他の階段は全て陥落済みのようだしな」
フェンリルが飛んで近づいたキリトに声を掛け、キリトは四方の階段を見渡した。
各所から煙が上がり、巨体を持つボス達が侵攻しているのを見て苦笑する。
ヨツンヘイム中にムスペルの火が起こっており、時が経てばヨツンヘイムを焼き尽くすことも解っているから。
自身の行いに意味がある、だが愚かに思えて仕方が無いとも考えている。
「キリト、俺の背に乗れ。そうすれば安全は保障する」
「分かった」
その言葉に従い、キリトはフェンリルの背に乗る。
「《ニブルヘイム・フィンブルヴェト》」
フェンリルの足元から順に冷気が溢れだし、暴風と氷の剣と氷の狼を形成した。
それらはフェンリルを渦巻くように駆け抜けていき、ミズガルズの街を飲みこんだ。
街は凍りつき、すぐさまに砕け散ってしまう。
さらに氷と冷気は世界樹の根にも及び、根を凍らせてから砕いた。
四方階段と中央の陥落、これによりヨツンヘイムは完全に破壊され、ロキ軍の手に落ちた。
――アースガルズ
「ヨツンヘイムが陥落したか……意外と早い展開だな」
アースガルズに並び立ち言葉を発したのは以前にキリトに接触し、
アスナに『神杖ケリュケイオン』を授けた北欧神話の最高神『オーディン』である。
「さぁ、我らも出陣と行こう」
オーディンの言葉についに神々が頷きを返した。
神々が動き出すことでなにが起こるのか、それは第二幕の開幕により、明かされていく。
No Side Out
To be continued……
あとがき
遅くなりましたがなんとか日曜日中に投稿できました・・・遅れてしまい申し訳ないです。
ともあれ、今回でヨツンヘイムでの戦闘は終了となり、次回でアルヴヘイムに戻ります。
ハーフタイム的な話しになると思いますが、戦闘もあるかもしれません・・・多分。
さて、今回の話でキリトの様子がおかしいことはみなさん分かったと思いますし、シャインも指摘しましたね。
次回ではそこも簡単にですが説明しようと思います。
そしてアニメ『ソードアート・オンライン』の最新話、
一応10月22日(いい夫婦の日)の放送でしたがキリアス要素が無い…と、思いきやキリトさんが旦那の貫録を見せつけましたねw
キリトさんマジカッケェっす!
それではこの辺で・・・。
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第49話です。
今回でヨツンヘイムが陥落します、果たしてどうなるのか・・・。
どうぞ・・・。