~トリスタ駅~
アスベルとアリサがトリスタに着いたのは夕方……で、その二人だけではなかった。
「いやぁ、一昨年の時もそんな雰囲気は感じたけれど……まさか、あんたたちがね。ま、節度は守って頂戴よ。アタシも面倒事は嫌いだし。」
「うぅ……」
「と貴方の奥さんが言っておりますが?無論節度は守りますよ。」
「……サラ、今日の訓練は五倍増しだからな。」
「うぇいっ!?」
Ⅶ組の担任教官であるサラと、その副担任……スコール・S・アルゼイド教官。“光の剣匠”の息子であり、ラウラの兄にあたる。担当は数学や軍事学、自然科学と多岐にわたり……そして、信じられないことであるのだが、サラの旦那である。
「調子に乗って人の色恋沙汰に首を突っ込むな……そういえば、第三学生寮に管理人が来たそうだが?」
「あ、そうでした。料理の腕も保証できますよ。」
「へぇ~、酒のツマミでも作ってもらおうかしら?」
「あはは………」
話によると、先月の実習の関係でトヴァルに迷惑をかけた罰としてサラが働かされた…で、それをスコールが渋々手伝っていた…それが、用事の事実である。ともあれ、今日の夕飯に期待しつつ学生寮の中に入る四人。すると、新たな管理人である―――シャロンがお出迎えをした。
「お帰りなさいませ、アスベル様にお嬢様。その御様子ですと、今日は赤飯にした方がよろしかったでしょうか?」
「いきなり出合い頭に何言ってるのよ、シャロン!!」
「決まっているじゃないですか。お嬢様が愛する人に“捧げた”日なのですから、それをお祝いするのは“姉”として当然のことと思いますけれど?あぁ、正確には“一昨日”でしょうか。」
付いてきていないはずなのに、何でそこまで把握しているのかと言わんばかりの手際の良さ。もう、この人がニンジャと言われても信じちゃいそうなほどだ。声を荒げるアリサ、頭を抱えたくなったアスベル……一方、スコールとサラの方は驚いていた。
「あら……はじめまして。この度、第三学生寮の管理人を仰せつかりました、シャロン・クルーガーと申します。」
「これはご丁寧にどうも。一つ質問なんだけれど、“はじめまして”だったかしら?」
「ええ。そう存じ上げております。」
「……ま、そうだな。疑り深い担任教官だが、よろしく頼む。シャロンさん。」
「(………)宜しくお願いするわね、“シャロン・クルーガー”さん?」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。“スコール・S・アルゼイド”様に“サラ・バレスタイン”様。」
何かギスギスした関係……無理もない。約二年前の帝国で起きた“ある事件”……直接面識はないが、サラは遊撃士として……そして、シャロンは『執行者』としてあの場にいた。その後の顛末もマリクから聞いたが、そのことには苦笑を浮かべる他なかった。というか、この学生寮に三名の結社関係者(一人は元だが)……この街となると四名になるのだが。ふと、上の方が少し慌ただしい様子……見るからに、他の面々もいない。それと、食堂の方から漂ってくる複数の料理の匂い。
「そういえば、シャロン。美味しそうな匂いがするけれど……まさか。」
「違いますわ。実は、来週から新しいメンバーが増えるそうなのですが……その方々が今日引っ越してきたのです。」
「……教官たちはご存じで?」
「ええ。とは言っても、お楽しみにしてたんだけれどね。驚かそうと思ったのだけれど。」
「無理を言うな。」
しばらくして片付けが終わったみたいで……リィン達が下りてきた。そして、そこにいるのは二名の女子生徒……しかも、アスベルにとっては二人とも顔馴染のある人間であった。
「あれ?……アスベルさん!?」
「って、フォs」
「トワさんと同類かお前は!!」
「あうちっ!!」
片方はマリクとの話し合いで出てきた“漆黒の輝星”リーゼロッテ・ハーティリー。そして、たった今アスベルにデコピンされて涙目の女子は十代でありながら第七機甲師団の師団長にして第四位“那由多”付正騎士のセリカ・ヴァンダール。リーゼロッテのほうはともかく、軍の重鎮にいるセリカがこのような場所にいていいのかという疑問なのだが……ともあれ、全員集まっての歓迎会。この時ばかりはラウラとフィーも空気を読んで参加していた。
その後、アスベルの部屋には、その部屋の主であるアスベルとリーゼロッテ、そしてセリカとルドガーが集まっていた。
「で、だ。第七機甲師団はどうしたんだ?」
「それなんだけれど……父さんが復帰するって言いだして。で、私は師団長代理という形となって……父さんがヴァンダイク学院長と話して、こっちに入学するように計らってくれたんです。」
「私はラグナさんの勧めがあって……それに、その……ルドガーさんにも会いたかったですし。」
「へぇ?」
「おやぁ?」
「そ、その、単純に会いたかったってことだよな?」
「どうでしょう?それは、ルドガーさんが気付いてくださいね。」
セリカのほうは親が学院の卒業生……実は、母親のカレンもそうだったらしい。それは理解できたが……リーゼロッテのほうは、何とルドガーに対しての恋慕を垣間見せていた。これでⅦ組は計14名。ふと、中間試験の事についても尋ねてみると、編入試験代わりとして受験したとのことだ。
「難しくはありませんでしたよ。レンちゃんぐらいなら解けちゃうと思いますし。」
「……そりゃあ、“子供達”のNo.2を務めてたぐらいだものな。」
忘れがちになるが、リーゼロッテは元“鉄血の子供達<アイアンブリード>”の一人。歳不相応ともいえる卓越した戦略眼は革新派の原動力とも言われていた。“氷の乙女”の頭脳も大したものなのだが、その根本が違う。“氷の乙女”は大まかな部分までは対処できるものの、その詳細や常識外の部分には対応できない。一方、リーゼロッテはというと……戦略はおろか、予測しうるすべての要素……その為に必要な“戦術”まで見出す能力を備えているのだ。
彼女のもう一つの異名は“万里眼<ビジョングラスパー>”……これに、“尖兵”ラグナと“水の叡智”リノア・リーヴェルトの能力が組み合わさり、完璧な作戦の立案を可能にしてきた。現在となっては、彼等の抜けた“子供達”のその辺りは不明であるが……
「そういえば、リノアさんは何してるんだ?」
「マクダエル議長の秘書をやってるよ。この前、手紙でそう言ってたから。」
「……帝国政府っつーか、“鉄血宰相”に対しての皮肉じゃねえか?それ。」
「ははは……」
実は、リーゼロッテ……彼女も“転生者”だったのだ。それを知ったのはつい最近の事。何せ、軌跡シリーズのことを知らない珍しい転生者だったので、秘匿していたそうだが……それは置いといて、話に挙がったリノアもといリノア・リーヴェルト……クレア・リーヴェルト鉄道憲兵隊大尉の妹にあたり、かつては“水の叡智”と呼ばれていた。その曲者ぶりは“かかし男”以上であり、“鉄血宰相”ですら彼女に直接命令は出来ず……命令できるのはラグナとリーゼロッテの二人だけである。
“曲者”である自分の元部下がクロスベルの良識派である現議長の秘書……『余計な干渉(命令)をしたら、どうなるのか?』ということを突き付けているようなものだ。彼女の本心を知るのは……彼氏であるラグナにしか知り得ないことであるが。
そして、三日後…リーゼロッテとセリカが転入して二日後…全校生徒が固唾を呑んで、それを食い入るように見ていたのは、廊下に張り出された紙―――そう、中間試験の結果である。
「……がんばった。ぶい。」
「フィーにしちゃ上出来じゃないか。上を目指したらどうだ?レイアみたいな女性になるんだろ?」
「……膂力は真似できないけどね。」
「あと、真っ当に育ってくれ。」
「???」
36位 フィー・クラウゼル(1-Ⅶ:803点)
「よ、よかったぁ……そんなに悪い点数じゃなくて。」
「よかったですね、エリオット。」
30位 エリオット・クレイグ(1-Ⅶ:815点)
とまぁ、ここまではある程度の人間が予測できていたことだ。フィーに関しては向こうにいた時に学識をしっかり叩き込まれたことが大きな要因だろう。
「入学試験の時よりも点数が上がったな。」
「私の方も、どうやらそのようだな……セリカ、次は負けぬぞ。」
「あはは……程々にお願いしますよ。」
16位 ガイウス・ウォーゼル(1-Ⅶ:900点)
14位 ラウラ・S・アルゼイド(1-Ⅶ:902点)
13位 セリカ・ヴァンダール(1-Ⅶ:905点)
丁度ガイウスからが各教科平均点90点以上のメンバー……なのだが、現時点で発表したⅦ組メンバーは5人。残るは9人……その点数はというと、
9位 アリサ・ラインフォルト(1-Ⅶ:960点)
「け、結構頑張ったんだけれど……これで9位って」
「でも、良い点じゃないか。」
「う~ん、確かにそうなんだけれど……」
8位 リーゼロッテ・ハーティリー(1-Ⅶ:963点)
7位 ユーシス・アルバレア(1-Ⅶ:965点)
6位 ステラ・レンハイム(1-Ⅶ:968点)
5位 リィン・シュバルツァー(1-Ⅶ:972点)
「まぁ、こんなところか。にしても、やるなリィン。」
「はは、アスベル達のお蔭かな。」
「すごいね、リィンさん達。」
「これに食い込んでくるリーゼロッテさんも凄いですよ……」
そうやって互いに褒め称えあっていた四人……一方、入学試験では首席と次席であった二人―――マキアスとエマは揃って愕然とした表情を浮かべていた。
3位 マキアス・レーグニッツ(1-Ⅶ:978点)
3位 エマ・ミルスティン(1-Ⅶ:978点)
「委員長と同順か。すごいな、マキアスは。」
「あ、ああ……流石だなエマ君。」
「それもそうですけれど……何より一番驚いたのは……」
そう言ってマキアスとエマの視線は二人の人物―――アスベルとルドガーに向けられた。さて、この二人はというと……
1位 アスベル・フォストレイト(1-Ⅶ)
1位 ルドガー・ローゼスレイヴ(1-Ⅶ)
そして、驚くべきはその点数。1000点満点中……“988点”。双方共に6教科満点ということだった。
「(彼氏としての)面目は保ったな。」
「ああ。(パトリックには)負けられなかったからな。」
「面目を保ったとか、負けられなかったとかって言うレベルじゃないんだが……君たち、そんなにできたのか!?」
「自慢してもいいことないからな……余計なトラブルは起こしたくないし。」
「右に同じ。」
「あはは……本当にすごいですね……」
そもそもマキアスらと共に勉強を見る側にいたのだから当然の結果なのだが……ここまでとはマキアスはおろか、エマですら想定外だったようだ。まぁ、無理もない話だ。で、順位がこうまで偏ると、クラスごとの平均点にも反映されるわけで……
1位 1-Ⅶ(934点)
2位 1-Ⅰ(843点)
3位 1-Ⅲ(770点)
4位 1-Ⅱ(735点)
5位 1-Ⅵ(675点)
6位 1-Ⅴ(650点)
2位のⅠ組とは91点差という大差……転入生というハンデどころかアドバンテージを貰った形となり、これにはⅦ組の面々も喜んでいた。何せ、1学年中唯一の900点越えという快挙だ。
「わあっ……!」
「ほう、我らⅦ組が首位か。」
エリオットが喜びの声を上げ、ラウラは感心したようにその順位表を見つめる。
「皆さんで頑張った甲斐がありましたね。」
「私とリーゼは疎外感です。」
「でも、嬉しいことには変わりないですよ。」
続いたのはステラ、セリカ、リーゼロッテ。転入生ということで直接中間試験を受けていない二人だったが、リーゼロッテのほうは喜んでいたようでなにより、とセリカは笑みを零した。
「ふふっ、1位から9位までいるし、ちょっと予想はしてたけど……次は、負けないからね。」
「……程々にしてくれると、俺も幾分楽なんだが。」
「確かになぁ……」
アリサの言葉にアスベルは冷や汗をかきながら呟き、ルドガーは苦笑を浮かべた。
「フン、俺や俺の信頼する者が属するクラスが、負けることなどあり得んがな。」
「だから、君は何でそんなにも偉そうなんだ……」
「クスクス……」
ユーシスの自慢げな言葉にマキアスがその根拠が解らずも呟き、エマは笑みを零していた。
「……いや。実際みんな頑張っただろう。入学の時よりも点数が上がっていることが何よりの証拠だと思う。」
「ああ、このことは誇ってもいいと思う。」
「V(ブイ)、だね。」
この結果でⅦ組に一層結束力が深まればいいのだが……そうやって喜んでいる人間がいれば、悔しそうにそれを見つめる者がいるのが競争の常……その人間というのは、貴族クラス―――1年Ⅰ組の面々であった。
「クッ、何という屈辱だ……!」
「帝国貴族の誇りをあんな寄せ集めどもに……!」
「そ、それに……アリサさんのあの家名は……」
「………」
純粋な貴族出身者のクラスが平民・貴族の混成クラス(正確に言うと、平民・貴族・王族・皇族の混成クラス)に負けたという事実……同じ貴族ならまだしも、貴族クラスの連中は『平民風情』に負けた事が気に入らなかったようだ。その一方、フェリスは同じ部に所属しているアリサの名字―――“ラインフォルト”の名を見て驚きを隠せず……そして、パトリック・T・ハイアームズは怒りの表情を浮かべながらⅦ組の面々を見ていた。
そもそもの話……Ⅶ組はいわば“寄せ集め”―――よく言えば“選抜チーム”ともいえるのだ。別に負けることは恥ではないとはいえ、彼等の貴族としてのプライドがそれを許さなかったようだ……そのプライドを守るための行動が、彼等に対して“結果”を突き付けられることになろうとは、そこにいたⅠ組の面々の誰もが理解していなかったのは言うまでもない。
というわけで、『前作』からの新メンバー三名に中間試験結果です。リーゼロッテのほうはアレですがセリカの方はって?……決まってるじゃないですか(遠い目)一言いうと、アスベルじゃありません。
で、中間試験はフィーにブーストがかかり、リィンにもブーストがかかり……全員ブーストかかった結果がコレだよ。
次回?………まぁ、ネタバレはしません。結果なんて見え透いているようなものですし(何
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第44話 周囲に対する影響