No.737842 IS×SEEDDESTINY~運命の少女と白き騎士の少年アインハルトさん 2014-11-17 21:55:31 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:2163 閲覧ユーザー数:2098 |
住み慣れた土地を追われ、彼らが目指した安住の地は、宇宙だった。のちにコーディネイターたちの本拠地となる『プラント』はC.E.50年代から着工し、エネルギー問題に悩む地球に、豊富な宇宙資源から得られたエネルギーと、無重力を生かした工業産 物を供給する役割を負っていた。その利益は一部の地球におけるオーナー国が独占し、彼らはプラントに武器と食糧の生産を禁じる事で、自らの支配を覚悟たるものとした。いわれのない支配と搾取。当然コーディネイターたちはそれに反発し、独立と対等貿易を地球側に求めた。繰り返し話し合いの場が持たれたが、そのたび決裂に終わり、両者の緊張は徐々に高まっていく。
そして━━C.E.70年、農業コロニー“ユニウスセブン“に核を撃ち込まれた事件、『血のバレンタイン』の悲劇によって、地球・プラント間の緊張は、一気に本格的武力衝突へと発展した。
それから早くも二年が経ち、C.E.71年9月27日、第二次ヤキン・ドゥーエの終戦を機に、一年後のC.E.72年3月10日、地球連合とプラント間に停戦条約としてユニウス条約が締結された。
しかし、それでも争いは終わらなかった。
ナチュラルとコーディネイターの間に生まれた溝は、停戦後も依然埋まることもなく、むしろ時間とともにより深さをましていっていた。
それからさらに二年経ち、
宇宙空間には、今日も星の光がたたえられている。
そもそも、そこは人の住む場所ではなく、また人の住める場所でもなかった。
呼吸に必要な空気もなく、太陽から放たれる宇宙放射線から身体を守ってくれるものも、食糧とするための農作物を育てる水も土もない。人が生きるには過酷すぎる極限の場所であった。だが、人類はそこに進出した。
広大無辺な宇宙の、ほんの爪先にも満たない一隅を間借りして、人工の大地を造り、生活空間を築いたのである。科学の力を駆使して。
コーディネイターとナチュラルの双方コロニーが併存している中立地帯、ラグランジェ4に建設途中のスペースコロニー“プラウド“も、そんな大地の一つだった。
プラウドは遠方から望むと、まるで苔玉から生えたキノコのような姿をしている。苔玉が巨大な資源衛生で、キノコが金属とカーボンで出来たコロニー部だ。キノコの笠は最近導入された太陽光発電部である。キノコの軸は、まだ大半が建造途中で、各所から多数の火花が散っていた。
『オーライ、オーライ!』
外装部。チューブ状の命綱を腰に装着した男性の振るう赤い灯による先導を受けながら、十八メートルにも及び人型兵器、モビルスーツの一機“ZGMF-1017 ジン“がその手に溶接銃を構えながら推進する。
元々はザフト軍が最初に開発した戦闘用モビルスーツだが、今ではこうした作業用としてジャンク屋や本来の形として傭兵らが独自のカスタマイズを加えて人間では不可能なことを可能にしてくれている。
コクピットの中では、一人の青年が慎重にマニュピレーターを操りながらぺろりと唇を舐める。青年は初めてのコロニー建設作業に緊張していたのだ。それも無理はない。彼はそもそもジャンク屋ギルドの一員ではあるが、モビルスーツの乗り方をマスターしたのはつい先日のことだ。ほんの少し溶接銃の扱いを間違えれば、目の前で先導してくれている男にあたってしまうのではないかと内心冷や冷やしてしまう。青年の名前は五反田弾。分け合って十八歳という若さで世界中を駆け回るジャンク屋として働くナチュラルだ。
『いいぞ。そのまま、そのまま』
誘導員をしてくれている作業員の声がヘルメットの通信スピーカーから聞こえてきて、弾はそれに従ってそろりそろりと慎重に溶接銃をあてがい、冷たい鋼鉄と鋼鉄とを溶かして繋げる。
『よーし、オーケーだ』
ぐるぐると誘導灯を回す先輩作業員の姿を見て、弾はほっと息を吐いた。
同時に、本日の終業を報せるメロディがヘルメットに届いた。それまで各所で散っていた火花が止み、作業員たちが競うように出入り口へと向かっていく。弾も、コクピットからは相手に見えないと知りつつも、先輩作業員に軽く手を振り、ジンを格納庫へと向けた。
二年前、弾は知人たちと共にプラウドの建造元であるオーブ連合首長国にて
そのため弾はどうしても連合軍が開発した“GAT-01 ストライクダガー“に乗るのを全力で拒否し、代わりにジンを選んで作業に入った。
「ふぅっ……」
ジンを降りてロッカールームでスーツから私服に着替える前にシャワーを浴びていると、無駄に神経を使いすぎて汗がすごいことになっているなと流れる温水で理解させられる。そりゃあそうだ。立場が上にある妹に叱られるのと、事故で人を怪我または死なせるなどというのは比べるまでもなく後者が恐ろしいに決まっている。戦争というものを直に見せつけられてしまっては、なおさらのことだと弾は思っている。
ふと、ロッカーに張っているジャンク屋結成当時の写真と、弾が眼鏡をかけた年上であろう女性と二人で並んでいる写真が飛び込んできた。
ジャンク屋を始めるきっかけとなったのは中学時代の悪友が一人、鳳鈴音の一言から始まった。元々活発な中国生まれの彼女は、この世界のことをよく知るべきだと言ってまっさきにモビルスーツの知識を学び始めた。それに釣られるようにして弾たちも知識を蓄えていき、一年後にはジャンク屋ギルドに加入した。
もう一枚の写真、弾がツーショットされているこれは弾の一つ年上にあたる更識刀奈と同い年のシャルロット・デュノアが忍者のごとく気配を殺して密かに撮ったものである。前者はとかく後者はフランス人のはずなのだがなぜに忍者のような動きをとれるのかいささか疑問に思っていた時期もあったが、この二年間でそれもなんとなくわかってきたため弾は思考するのをやめていた。
布仏虚。それが写真に写っている女性の名前であり、今では弾の恋人である。
恋人、といっても二ヶ月も前の話なのに未だにキスは告白の時の一回こっきり。二度目はおろか手をつなぐだけでも恥ずかしくて仕方がないのが二人の現状だと思うと、弾も虚も悲しくて悲しくてしょうがなかった。
ふと、弾は写真の中にいないとある人物について語り始めた。
「……ったく、みんな笑顔絞り出してるってのに、何処で何してやがんだよ一夏の奴は」
織斑一夏。鈴と同じく中学で出会った悪友であり、あっちの世界では世界唯一の人物として名を馳せた男だ。
といっても、本人が好き好んで得た代物ではないし、自身が起こした社会への影響に対する自覚もない。それまでごく普通の学生だったのだからそこは置いておくとするが……
同業者のラウラ・ボーデヴィッヒの話によると、確かに一夏の機体、白式の反応はコアなんたらで同じ世界にあることだけ把握しているらしい。ただ、エネルギーを切らしているのか通信を繋げられない状態で、しかもニュートロン・ジャマーの影響でレーダー機能がうまく稼動しないという。更に加えて異世界から来たショックなのか機体そのものに深刻なダメージを受けている模様で、この世界の技術を以てしても直すのには時間を要するらしい。
一夏はおそらく一人のはずだ。学園のほとんどは、ここに集まっているのだから、事情を知る者同士力を合わせる、なんてことはこちら以上に厳しいはずだし、生き残る手段も皆無に等しい。
仲間のうち何人かはすでに死んでしまっているのではないか?と受け止めようとしている者もいるが、弾たちは違っていた。
一夏は生きている。そして必ず再会を果たせる。確証も根拠もへったくれもない。ただ二年間で培った直感が、それ以前に悪友としての五反田弾がそう思った。
理由はそれだけで十分だった。
「お兄さん、水、買わないかい?」
水瓶を抱えている少年が、青年に声を掛けた。青年は水瓶の抱え方から、水がそれほど売れておらず、このまま帰れば雇い主から小言を言われるだろうと察し、さして喉が渇いていないにも関わらず水を購入する。
嬉しそうに青年の持つ水筒に水を汲みながら少年が言う。
「お兄さん、ここの人じゃないね」
「まあね」
「何処に住んでるの?」
何処に住んでいるか、そう聞かれてしまうとなんと答えればいいかわからなくなる。まさか異世界だなんて言えるはずもないし、この世界の日本は青年の故郷ではない。
「……何処でもない、かな。世界中を旅して回っているんだ」
この子たちとね。と付け加えながら青年の陰に隠れる二人の少女を撫でた。
どちらもフードを深く被っており、少年からは素顔を拝むことは叶わないだろう。
「じゃあ、宇宙に行ったことある?」
「何度かはね」
仕事の関係で何度かは上がったことはあった。プラントに行ったり、ユニウスセブンを通過したり、コーディネイター絡みばかりではあったが……
「学校の先生から聞いたことがある。宇宙は環境が過酷だから、そこにいる人たちは手に手を取り合って、助け合いながら生きているって」
「うん、そうだな。その通りだ……」
憂いを帯びた顔で青年が言葉を続ける。
「けれど、そうじゃないところもある。宇宙も、地球も」
「どういうこと?」
きょとんと疑問符を浮かべながら尋ねてくる少年に苦笑いを浮かべながら言葉を重ねた。
「ナチュラルとコーディネイター、この二つの人種は、何一つ変わっちゃいないって事だよ」
そう、なにも変わってなんかいない。
ナチュラルを見下すコーディネイターも、コーディネイターを化け物呼ばわりするナチュラルも。
まるで二年前の大戦から学ぼうとする気さえ無いかのように睨み合いを続け、一部の地域では未だに争いをやめられずにいる。
しかし、世界がコーディネイターとナチュラルで互いにいがみ合って生じている小規模な戦闘などという光景図は、なにも今に始まったことではない。かつて遺伝子操作という技術さえもなかったナチュラルのみが存在していた時代で、宗教や文化の違いを理由に戦争が勃発したときと同じように、人類は未だに争いなしでは生きては行けない存在なのだと本当の意味で理解しているのは、一体世界にどれぐらいいるのだろうか?
「それって、どういう……」
その疑問には答えず、青年は言い値よりも多い金額を少年に渡して、傍らに停めていたジープに乗って走り去った。
車を走らせていると、ふと二年前の出来事に思い耽た。
あの時は何が何だか訳が分からなかった。それまで異性ばかりなこと以外なんの不自由もなかった学園のふかふかのベッドで寝ていたはずが、目を覚ましたら見知らぬ市街地に横になっていて、さらに見たこともない巨大なロボットが暴れまわる光景を見せ付けられて、そして肉塊にされた市民であろうソレらにおぞましい現実を見せつけられた。
青年が異世界に来たのだと理解したのは、それから一週間が経過した頃だった。
この世界に来たのは自分だけなのか、それとも誰か他にもこの世界の何処かで生き延びているのか、すでに青年の疑問を解消してくれるであろう愛機がバッテリーを切らしている以上、それを知る術は今青年には無かった。
三時間ほど走り続けたところで、ジープが一際高い丘に到着する。
丘からは、荒れ果てた土地と無限に広がる砂漠地帯がその全景を見せつけている。
ここはかつて青年が目覚めた街、そのなれの果て。
二年前の地球連合軍とザフト軍との戦争による傷跡は、修復しようと働きかける者がいないのか、眼下に広がる景色はあの日から何一つ変わっていなかった。
憎しみから始まった二年前の大戦から、世界は変革しようとせずに逆にさらなる歪みを生み出していた。
二年間の旅の中で、青年はそのことを痛烈に感じていた。
だからこそ、ここに来たのだ。
自分という人間が、冷たい現実というものを理解し、変わり始めた場所に。
そのルーツに。
「……あの戦争は、まだ終わってなんかいないんだ……」
青年が呟く。
青年は世界見つめ続けていた。
それは、青年が世界と対峙することを決意する瞬間だった━━━。
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プロローグ3 男たちの向ける瞳
今回は二人しかいない男子にスポットライトを当ててみました。
ちなみに現在の機体選択肢は
エクシア(C.E.レベルにダウン)
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