~クロスベル市 港湾区~
クロスベルタイムズの隣……そこにある一つのお店。総合雑貨店『セディティエスト』……リベール王国やレミフェリア公国で生産されているものを主に取り扱っており、他の街区と競合しない様にしつつも豊富な品揃えがあり、そこで土産物を買ったりする観光客も多くいたりする。アスベルとアリサ、レイアが中に入ると、一人の女性店員がレイアの姿に気づき、声をかけてきた。
「これは、レイア様。頼まれていた品の方が入ってきましたよ。」
「ありがとうございます。その件は後にして……戻ってきてますか?」
「夕方には戻ると伺ってますが、奥の方で待ちますか?丁度“オーナー”が来ていますので。」
「私はいいけれど、二人はどうする?」
「……ま、土産は後で適当に見繕うよ。アリサはどうする?」
「そうね、私はお土産を見てることにするわ。」
「解りました。私が案内させていただきますね。」
女性店員がアリサと一緒に向こうへ行くと、アスベルはレイアに問いかけた。
「……あの人、“関係者”か?ここに来るのは初めてだが……」
「そうだね。ここのオーナーもある意味知り合いかな。とりわけアスベルとシルフィには。」
その言葉に改めてこの店がどういうものなのかを推測したのだが……奥にいる“オーナー”と呼ばれる人物と出会い、アスベルはこの店の裏事情を改めて知ることとなる。何せ、そこにいたのは
「失礼します。」
「お、レイアか。それに……久しいな、アスベル。」
「久しぶりですね、マリクさん。聞いた話だと警察局長になったらしいですが、いいんですか?」
「あくまでも裏の便宜だ。表の方は別の人間が管理してるから問題は無い。ともかく、戻ってくるまで時間があるからコーヒーぐらいは淹れよう。ちょっとした茶菓子も用意してある。」
“驚天の旅人”マリク・スヴェンドであった。現在はクロスベル警察局長にして、裏では『セディティエスト』の経営を担っている。正規のルートでは帝国と共和国双方の妨害が酷いため、こうした形で店を切り盛りしては、裏ルートからの情報を仕入れている。まぁ、帝国の“かかし男”と共和国の“千里眼”……その二人相手となると骨は折れるが。ちなみに、この部屋は完全防音仕様となっており、盗聴や盗撮対策も完備している。
「さて、アスベル。先日の教団事件に関しては既に解決した。で、お前さんにはその絡みで手伝ってもらってしまったな。」
「あの二人が帝国に逃げたのは承知してましたから……まぁ、共和国の“あのロッジ”に逃げ込んだんでしょうけれど。」
「ああ……で、その繋がりで妙なことになってしまってな。」
マリクが口を噤む理由……だが、以前ルドガーから聞いた話……正直半信半疑ものだったのだが、アスベルは改めて尋ねた。
「……“生きている”んですね?彼が。しかも、俺や貴方、レイアと同じ存在――“転生者”が彼であることも。」
「!?……何故、そのことを?」
「ルドガーですよ。アイツから彼がそうであるという話は聞いていましたが……正直、デマか噂でも聞いてる気分でしたよ。よもや事実だとは……」
「あはは……その顛末も凄い様相だったけれどね。」
その詳細を知っているレイアが話し始めた。
太陽の砦―――クロスベル市北東にある古戦場跡にある砦の遺跡。教団事件の首謀者である“ヨアヒム・ギュンター”―――彼が『グノーシス』と呼ばれる薬を大量に摂取し、魔人化した……その虚を突いた攻撃によって、彼と戦っていたロイド達が危機に陥るも、途中で参戦したレンとレイア、そしてレンが操る<パテル=マテル>により、その危機を脱することに成功……魔人化したヨアヒムが再び眩い光に包まれると……そこには驚きの光景がロイド達を待っていた。
『―――なっ!?ば、馬鹿なっ!?僕の体が人形になっているだと!?』
「ん……ここは、太陽の砦!?って、ロイド・バニングスにエステル・ブライト!?何でなんだー!?」
「………」
一同唖然。これには流石のレンも何が起きたのか解らずに硬直していた。ヨアヒムらしき精神が入っている人形兵器は、ヨアヒムの肉体に目がけて突撃した。あまりの非常識な光景に出遅れたロイドたち……万事休すかと思ったが、
「僕の人生を狂わしたのは……貴様のせいかーっ!!!」
『!?!?!?』
逆に懐に飛び込んで、ヨアヒムの精神が入った人形兵器に寸勁をかますヨアヒムの肉体。そこからマウントポジションで殴り続け……気が付くと、人形兵器はボロボロであった。
『フ、フフ………フハハハハハハハッ……』
もう笑うしかなく……流石に支援課との戦いで精神を使い果たしたせいで消え去ったヨアヒムの精神。そして、ヨアヒムの肉体は魔導杖を掲げ、こうつぶやいた。
『―――我は命ずる。本当の我を知る者以外の記憶を書き換えたまえ。』
そうして眩い光が立ち込め……そこからロイド達の記憶が書き換わったらしい。具体的には『ヨアヒムは別の幹部司祭の実験で本来の精神を封じられていた。そしてその幹部司祭のスケープゴートとして操られていた。ヨアヒム自体は教団とは何の関係もない一人の医学者である。』という扱いになった。例外は“転生者”だけである。
「……チートじゃね?それ。」
「でも、個人には一度だけしか使えないらしいよ。解りやすく言えば“絶対遵守の力”みたいなものだって聞いたから。」
「なので俺やレイア、シルフィアもその事実は消えていない。」
「問題はその範囲だが……“あの四人”は?」
「どうやら彼が記憶を書き換えた範囲に入っているようでな。“至宝”でも書き換えは出来ないようだ。」
要は、本来ならばヨアヒムに対する罪を同じ幹部司祭の人間による罪に書き換えたということだ。なので、ヨアヒムは現在でも普通に医者として働いているのだが、自分でしかできない仕事は片づけてから釣りに興じる姿は彼の研修医を驚かせるとともに、その喜びのあまりむせび泣いたらしい。ただ……二つの部門を一人の手には余るということで、院長にお願いをして新たな人材をレミフェリアから呼ぶらしい。神経科の方は彼女に任せ、薬学に絞って職を続ける……彼なりの気遣いでもあり、“転生前の彼”は専ら薬に関する知識が多いので、ある意味妥当なものであった。
「ま、そっちの方はどうにでもなるが……問題は二ヶ月後―――“通商会議”だ。」
「それなんだよねぇ……『赤い星座』が動いてるって話を聞いたの。共和国の方もきな臭い感じだからね。ちなみに、会議の時の護衛はアリオスさんに頼むようミシェルさんに直談判してるから。」
「とはいえ、戦力が少ない……(俺かルドガーあたりでも回った方がいいか?)」
“西ゼムリア通商会議”……各国の国家元首クラスが一堂に会する西ゼムリア初の国際会議。国家元首クラスが集まるのは一昨年秋の“不戦条約”以来となる。経済のみならず、安全保障も含めた議論がされることは明白であった。そして、先日の事件を取り上げ、帝国と共和国が軍を派遣して駐留するという事態も想定される。だが、それは不戦条約以前のクロスベルに戻るということに他ならない。シュトレオン(シオン)やクローディア王太女、オリヴァルト皇子もそれなりに強力な発言力を持っているが、それを黙らせるための切り札を用いてくることは明白。
「やらなきゃいけないことは大まかに三つ。導力ネット関係、テロ対策、そんで妨害工作への対応。一つ目は俺らでも対処は出来るが、そこは専門家―――“漆黒の輝星”に頼む。二つ目はどうとなるとして……三つ目が一番の大筋だな。」
「そうなると向こうにも誰かいた方がいいけれど……誰にする?」
「この場合、彼女が適任だろう。で、問題はどうするか……だ。」
一昨年の事を考えると、国際犯罪組織として認定した上で彼らの罪を問いただす。“不戦条約”の違反行為を咎める…過去に政府が関わった犯罪…それに、もう一手程強力な武器はないか……すると、マリクが笑みを零していることに気付く。
「その辺は心配するな。俺の“頼もしい部下”が共和国の“アキレス腱”を探っている。お前らの持ってる武器も合わせれば……確実に牙城は崩せる。」
「後は“身喰らう蛇”の動向次第だが、流石にこの状況で動くような真似は出来ないだろう。」
「そうだろうね。」
ともあれ、この状況で揃えれるだけのカードは揃った。細かい話は直前で詰めることにしてマリクと別れ、店の方に戻ると……アリサとリベールのB級正遊撃士であるアネラス、そしてアスベルにとってはこの世界で初めて、というか再会した人間。
「久しぶり、シルフィ。元気そうだな。」
「うん……アスベルも、元気そうで何よりよ。」
「ああ。で、アネラスは相も変わらずか……」
「変わったら、それは天変地異どころか女神様が降臨レベルだと思うな。」
「大げさ、とは言えねぇんだよなぁ……」
買ったであろうと思しきぬいぐるみを抱えてトリップしているアネラス……それを見て慌てているアリサ……何と言うか、平常運転を言うべきか……とはいえ、このままでは店の迷惑になるので、
「レイア、ごー!」
「いよっしゃあ!!」
「え、ってレイア=サン!?一体どこに!?」
「ここではないどこかへと旅立たせてあげるね。I can sky!」
「た、タスケテー!!!」
夕日の中へと消えていくように走って行ったレイアとアネラス…英語の文法が間違っているのは、ご愛嬌…あの後、ちゃんと彼女の借家に帰らせた(物理)……だそうだ。で、実際にその知り合いというかヨアヒムと合わせて五人で龍老飯店にて夕飯と相成った。互いに自己紹介した後、実際はどういう生活をしているのか聞いてみると……
「他にもイケメンの医者はいるっていうのに、僕ばかり構ってくることが多いんだよ…リットン君だって十分イケメンなのに…この前なんか、三人に押し倒されて“喪い”ました。羨ましいとか言う奴は一度経験するといいんじゃないかな!」
「……そ、壮絶ね。」
「あはは……でも、嫌いじゃないんでしょ?」
「そりゃあね……僕のような釣り好きのどこがいいんだか理解に苦しむよ。そりゃ、困ったときはちょっとフォローするぐらいだろうけれど。」
そう言っているヨアヒム……転生前の名は“東雲徹也”。転生前のアスベルのご近所さんで、医大生だった。その名前の補正なのか、医者と言う高収入の職業の玉の輿狙いなのか……聞くところによると教団事件後、六人の女性看護師と強制的に関係を持ったらしい。何の関係かって?……ここから先は『キラキラシール事項』のため、詳細はカット。
ヨアヒムの話を聞いている限りだとその六人、玉の輿というよりはガチで惚れているようだが…でなけりゃ、女性から襲われるだなんて事態にはならないわけで。きっかけは暇なときに彼女らの仕事を手伝った程度なのだが……ヨアヒムというか、徹也は天然ジゴロなのだ。解りやすく言うと攻略王とか不埒な人と同類。本人としては仕事を円滑に行うためにも必要なことだと割り切っていたが、彼女たちはそうでなかったようだ。
その中にセシルは含まれていない。彼の言動を聞いて『ガイさんと似てるわね』と思ったことは何度もあったとか。それからというものの、ヨアヒムに暇な時間があると……ということであり、釣りにもロクに行けていないらしい。ひょっとして『グノーシス』効果……いや、それ以上はいけない。
「しかも、全員セシルさんを目指して努力してるみたいでね……その六人も結構なものだし、下手すると窒息死も免れないかな。かくいうアスベルは、強制的に迫られたりしないのかな?」
「理解のある人で助かってる。」
「昔も今もそういうところは芯が強いよね、アスベルは。でも、男だけでなく女も狼って言うからね……気を付けなよ?」
死ぬよりも辛い人生を送っているのではないかと思うヨアヒムの言葉に、妙な説得力を感じてしまった。……この後、病院に帰ったヨアヒムがまた六人の女性看護師のうち一人に襲われたのは、ここだけの話だ。
というワケで、この人の登場なのですが……ナース絡みは零でのランディの台詞から推測したもので、六人の女性看護師は全員オリキャラ扱いです。あのドジっ子ナースも加えようかと思いましたが、医者の方が死んじゃう(何 と言う理由で除外。
まぁ、とある部分の努力云々は……クロスベルという特異点補正と言うことで(オイ
……まさか、このようなところに“巫女補正”が働いているということかっ(マテ
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第41話 とある医師の受難