story45 6年ぶりの再会
「・・・・まぁ、あんたが誘われた理由は分かったけどさぁ」
呆れ顔で先ほど家政婦が持ってきた湯呑みに入ったお茶を飲むと彼女・・・・・・『中須賀エミ』は言葉を漏らす。
「私としては、色々と気になる事があるのだがな」
少し落ち着いてから、二人は話し合う。
「しかし、意外だったわね。まさか二人が知り合いだったなんて」
蚊帳の外だった神楽は湯飲みのお茶を一口飲むと、受け皿に置く。
「小学校の時に中須賀がドイツの学校から留学して来て――――」
「いざこざはあったけど、みほや翔達と友達になったんです。まぁ姉がドイツに帰らなければならなくなって、転校しましたけど」
「なるほど」
「・・・・にしても」
と、エミは如月の姿を見て目を細める。
「ひっどい有様ね」
「毒を吐くところは相変わらず変わらんな」
「そういうあんたも、無茶をするのも変わらないわね」
「・・・・・・」
「いや、無茶なやつはあんただけじゃないわね。あんたの仲間も無茶なやつが多いわね。九七式中戦車で私が乗っていたT28に突撃だなんて、無謀もいいところよ」
「お前、あのT28に乗っていたのか?」
「その操縦手を担っていたのよ」
役割は当時変わってないのだな。
「しかし、いつ日本に戻ってきたのだ?」
「去年の始め辺りよ。姉さんの戦車道の関係で再来日する事になって、少しの間日本に留まる事になってんの」
「なるほど」
「んで、神威女学園に編入した後、戦車道に参加したのよ」
「そうか。しかし去年か。だったら今年もそうだが、西住に会ってきたのか?」
「・・・・いやぁ、それは・・・・まだねぇ」
と、なぜか視線を逸らす。
「なぜ会って来ないのだ?西住はきっと喜ぶだろうに」
「そりゃそうだけど、やっぱ会いづらいってもんよ」
「そうか?」
「だ、だって、あんな見送りをされたら、ねぇ」
「・・・・・・」
まぁ、あれはあれで凄いものだったが・・・・
「・・・・みほは、元気?」
少ししてエミが口を開く。
「あぁ元気だ。多少まだ悩みを抱えているがな」
「そう。まぁ、当然か。あんな事があったら、ね」
事情を知っている為か、少し表情が暗い。
「・・・・・・」
「みほは決して間違ってない。私はそう思ってるよ」
「そうだな。私も同じ気持ちだ」
「・・・・・・」
「久々の再会で話したい事が多いでしょうが、こちらとしても蚊帳の外ってままなのはねぇ」
と、皮肉るように神楽が言葉を漏らす。
「す、すいません!早乙女さん!」
中須賀は慌てて頭を下げる。
「まぁ、せっかく再会したんだから、介入は野暮かしら」
「・・・・・・」
「で、お前達はどう言った上下関係だ?」
さっきから中須賀の態度が神楽の前と私の前とでは違う。
「上下関係って。まぁ間違ってないけど・・・・・・早乙女さんの補佐官よ」
「補佐官か」
「中須賀さんはかなり役になっているのよ。戦車道の管理は結構難しい所が多いけど、彼女に掛かればすぐに片付くわ」
「なるほど」
意外な役職だったな。
「さて、気分転換って言う感じで、少し外で歩きながらでも」
「そ、そうですね」
「悪くは無い」
そうして三人は立ち上がり、居間から出る。
―――――――――――――――――――――――――――――
外に出ると、純和風な庭を三人は歩いていた。
「本当に広いものだな」
見渡す限りでもかなり広い敷地なのだが、これでもほんの一部らしい。
「ん?」
ふと、如月はある物を庭で見つける。
それは屋根のある場所に、一輌の戦車が置かれていた。
それは戦後日本が初めて開発した初の国産戦車で、実戦を経験する事無く全てが退役した自衛隊の『61式戦車』であった。
「61式戦車。なぜこんな所に?」
退役しているとは言えど、自衛隊の戦車が個人の家にあるのは不思議だった。
「あれはおじいさまが実際に乗っていたものよ」
神楽は立ち止まり、61式戦車を見る。
「そうなんですか?」
怪訝な表情で中須賀が聞く。
「だが、いいのか?退役しているとは言えど、自衛隊の戦車だぞ?」
「早乙女家だから出来るのよ。早乙女家はそれなりの権力を持つのよ」
「そ、そうなのか?」
「えぇ。それに、今の戦車教導隊のバックアップを早乙女家が全面的に行っているから、そこそこコネが効くのよ」
「・・・・・・」
改めて如月は思い知った。早乙女家は予想以上に凄い家系なのかもしれない。
・・
「それに、今も動く状態で保存されているのは、恐らく日本何所を探してもこれだけね」
「なっ!?あの61式動くのか!?」
まさかの事実に如月は驚きを隠せれなかった。
「えぇ。まぁそれには理由があるのだけどね」
「と、言いますと?」
中須賀は怪訝な表情で聞く。
「おじいさまは戦車道の更なる発展を望んでいたのよ」
「戦車道の、更なる発展?」
「えぇ。現在は戦車道の試合で参加できるのは、戦車誕生から1945年8月15日までの物に限られている」
「・・・・・・」
「おじいさまは、更なる戦車道の発展と、戦略を生み出す為にも、戦後から二十年後の戦車も参加可能にして欲しいと連盟側に申請したのよ」
「戦後二十年後までの戦車の参加可能か。だが、それだと性能に差が現れるだろう?」
戦後直後ならば、さほど性能に差はないだろうが、それが十年やそれ以上となれば目立った性能の差が表れる。
「確かにね。でも、試合となれば、戦車の性能が戦力の決定的な差ではない。操る者次第では、一方的な展開もありうるのよ」
「・・・・・・」
神楽の言う事は事実で、噂では九七式中戦車でM26パーシングを撃破した強者が居たらしい。まぁ如月の場合三式中戦車でISを戦闘不能までに追い込んだ事はある。
「結局おじいさまの生きている間にその夢は実現することは無かったわ。でも、連盟側は今も参加範囲拡張は検討はしているらしい」
「そうか」
「・・・・・・」
「この61式はその実現を願って、特別に戦車道仕様に改装されているの」
「戦車道仕様にか」
「まぁ、実現しなければ、ただ動態保存されている61式戦車でしかないけど」
「・・・・・・」
61式が展示されている場所から少し歩き、三人は一つの建物の前に着く。
「ここは?」
「本来なら私以外に入れる事は無いけど、あなた達は特別よ」
と、扉の鍵を開けて中に入り、二人もその後に続く。
「これは・・・・!」
「すごっ!?」
中に入った二人は目を見開く。
建物の中には、多くの戦車が展示されていた。
「ここはおじいさまが個人で集めていた戦車のコレクションよ」
「個人でだと?」
「それで、この数って」
見渡す限り、綺麗に並べられた戦車がたくさんあった。
「まぁ、大半は日本戦車だけどね」
「・・・・・・」
見れば確かに日本戦車が多く展示されている。
八九式中戦車を始め、九五式軽戦車、九七式中戦車、九八式軽戦車、一式中戦車、三式中戦車、更には九五式重戦車に九八式中戦車、二式軽戦車、四式中戦車、三式軽戦車、四式軽戦車と、中には貴重な戦車も紛れている。
「あれはソ連のT-32にT-28、T-100にIS-6?何かレアな戦車があるわね」
「こっちはイギリスのヴァリアント歩兵戦車に、トータス重駆逐戦車、それにTOGⅡ?あんなものまであるぞ」
「あそこはドイツのⅣ号突撃戦車ブルムベアにシュタール・エミール、それにディッカー・マックスも」
「アメリカのM45重戦車に、M6重戦車にT32重戦車までも。正直戦車博物館としても言いぐらいレアな戦車ばかりじゃないの」
(秋山が見ればパンツァー・ハイどころで済まないだろうな」
頭の中で『ヒャッホォォォォォ!!最高だぜぇぇぇぇぇ!!』と興奮する秋山を思い浮かべる。
「しかし、よくこれだけの戦車を集めれましたね」
「そこは早乙女家が成せる業、って言う所かしら」
(どんだけ顔が広いんだ)
本当に早乙女家が恐ろしく思い始めた。
「ん?」
ふと、ある戦車が目に留まる。
奥の方に置かれている戦車で、一式中戦車であった。
しかし他の戦車は新品同様に綺麗だが、その一式だけは弾痕や抉られたように掠れた痕など、傷だらけであった。
「それはおじいさまが、戦時中に実際に乗っていた一式中戦車よ」
「実際に戦時中に乗っていたって・・・・?」
「そういえば、昔は男の戦車道もあったそうだな」
「えぇ。男性の戦車道は乙女の嗜みであった女性の戦車道と違って、戦う為の武道。第二次大戦中が最も全盛期だったの。
まぁ戦後戦う機会が無くなった男性の戦車道は廃れて行って形骸化し、今では一部の者しか知られないようになって、実質上無いも等しいわね」
「・・・・・・」
「おじいさまは戦時中この一式中戦車に乗り、様々な戦場を駆け巡ったみたい。記録では二十輌以上も戦車を撃破したそうよ」
「すっご・・・・」
「それは勲章物だな」
「・・・・まぁ戦争が終わった後、日本は所有兵器を全て連合軍に接収されたけど、おじいさまは陸軍のお偉いさんと降伏前にいくつか戦車を隠したのよ。ここにある日本戦車は、そのほとんど」
「そうか」
「その後、おじいさまは一度は戦車から身を引かなければならなかったのよ」
「・・・・・・」
戦車が無い以上、どうする事もできないな。
「でも、その後日本に警備隊が設立され、戦車運用が必要になってくると戦車を動かす為の乗員育成の為に、おじいさまが特例として教官として復帰したのよ」
当時としては、かなり特例中の特例だったかもしれない。
「そしておじいさまが現役引退するまでに、早乙女家が設立し、バックアップをしている戦車教導隊として戦車乗員の育成に努めたのよ。あの61式戦車も、現役時代実際に使っていたものなのよ」
「なるほど」
「予想以上に、凄いお方だったんですね」
中須賀は唖然としていた。
「そうね。だからこそ、その大変さも、受け継いだ後に身に染みる」
「・・・・・・」
今の如月は、彼女の気持ちが理解出来た。そう感じた・・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃大洗では―――――
「・・・・・・」
戦車道の練習も終わり、鈴野は一旦マンションへと戻っていた。
「・・・・・・」
少し雲がかった空を見上げ、目を細める。
(あれから、もう九年も経つのね)
「はぁ・・・・」と深くため息を付く。
「悩み事っすか?」
「・・・・・・?」
と、後ろから声を掛けられて振り向くと、相変わらず特攻服の様な格好の中島が立っていた。
「・・・・いえ。そういうものでは」
「ふーん。情報屋の目から見りゃ、そうには見えないっすけどね」
「・・・・・・」
「・・・・昔の事でも思い出したんすか?」
「・・・・・・」
「図星っすね」
ほんの僅かな反応を、中島は見逃さなかった。
「・・・・・・」
「話してみたらどうっすか?少しは楽になるかもしれないっすよ」
「・・・・・・」
その後二人は近くの喫茶店に入り、飲み物をそれぞれ注文する。
「・・・・あれは、もう九年も前になります」
鈴野は静かに語り始めた。
「私の父は警察官でした。でも、私や母さんには言えない秘密が多かったんですが、私には自慢できる父親でした」
「なるほど」
「・・・・その父から、色々と教わりました。それがサンダースやプラウダでの偵察に大きく役に立ちました」
「捜査系の仕事だったんすかね?」
「分かりません。結局何も言いませんでしたから」
「そっか」
「・・・・でも、休日は家族と過ごして、よく遊んでくれました」
その時の事を思い出したのか、鈴野の顔に喜色が浮かぶ。
「いい父親じゃないっすか。まぁ私のパパも凄い人っすけどね」
「・・・・・・?」
「うちのパパは孤児だった私と、血は繋がってないけど、私と同じ孤児だった上の姉一人と下の妹二人を引き取ってくれたんすよ」
「孤児、だったんですか?」
「まぁね」
ニッと笑みを浮かべる。
「まぁ今更実の親の顔なんて、見たいとは思わないっすけどね」
「・・・・・・」
「あっ、話がずれたっすね」
「そうですね」
と、注文していた飲み物が運ばれてきて、鈴野と中島は受け取る。
「でも、そんなある日、ある事件が起きました」
頼んだジュースを一口飲み、テーブルに静かに置く。
「・・・・・・」
中島はジンジャーエールを一口飲んでから、耳を立てる。
「その日、父と母は二人で出掛けたんです。久々のデートって感じで」
「・・・・・・」
「・・・・そんな時に、近くのコンビニで強盗をした犯人が二人が居た公園を通って行ったんです。父は逮捕より住民の避難を最優先にしました」
「・・・・・・」
「でも、犯人の前に一人の子供が居て、犯人は子供に手にしていた拳銃を向けて、発砲した」
「・・・・・・」
「父はとっさに子供を突き飛ばしましたが、代わりに銃弾は父に・・・・」
グッと鈴野は両手を握り締める。
(九年前のコンビニ強盗による警察官射殺事件・・・・。鈴野の父親だったんすね)
情報屋として、過去の事件の事も調べていたので、すぐに該当事件が頭に浮かぶ。
「強盗はそのまま逃げ、父はすぐに病院に運ばれましたが、しばらくして亡くなりました」
「・・・・・・」
「父が撃たれる瞬間を目撃した母は、ショックのあまり精神崩壊寸前まで追いやられたんです」
「・・・・・・」
「母はそのまま入院して、治療を受けました。私はその間親戚のおばさんのところに預けられました」
「そうっすか」
「地道な事でしたが、母は精神状態が回復しつつあって、事件発生から四年後には、ほぼ回復した状態になりました」
「・・・・・・」
「ある日、私は母を連れて出掛けました。気分転換として」
「・・・・・・」
「でも、立ち寄ったコンビニに拳銃を持った強盗が入ったんです」
鈴野の表情に影が差す。
「私はすぐに母を守ろうと隅に寄って庇っていました」
「・・・・・・」
「強盗はお金を手に入れると出て行こうとしましたが、どういう事か私達の所にやって来たんです」
「・・・・・・」
「強盗はどういうわけか、母を強引に連れ出そうとしていました。私は考えるより先に、強盗に跳び付いて母から引き剥がそうとしました」
「・・・・・・」
「でも、強盗に無理矢理振り払われて、本棚の角に頭を打ち付けました」
と、鈴野は左の方の額の上に掛かっている髪を退かすと、薄っすらと傷痕らしきものが残っている。
「でも、跳び付いた際に、強盗から拳銃を奪う事に成功しましたが、強盗もすぐに拳銃を奪い返そうと私に襲い掛かってきたんです」
「・・・・・・」
「それがあまりにも恐ろしくて・・・・・・思わず拳銃の引き金を・・・・・・引いてしまったんです」
「・・・・・・」
中島は驚きを見せず、ただ静かに聴いた。
(五年前のあの事件。やっぱり・・・・鈴野だったんだな)
すぐにその時の事件の記事を思い出す。
コンビニで強盗事件が発生し、その時周囲に居た人からの証言に寄れば、強盗が拳銃を奪った少女に襲い掛かろうとした所拳銃が発砲され、強盗が死亡した事件。
「その後警察がやって来て、私を含め、その場に居た店員や客は事情聴取を受けました」
「・・・・・・」
「皮肉にも、その強盗と言うのが・・・・・・父を射殺した強盗だったんです」
(本当に皮肉なもんだな)
内心で中島は呟く。
知らぬ間に、仇を討っていたのだから・・・・
「私は周囲の証言もあり、正当防衛が認められて、当時はまだ年が年だったので、色々とありまして罪に問われることはありませんでした。ですが、母はその事件で精神状態が悪化して、今も病院に入院中です」
「・・・・そういう事、か」
中島はジンジャーエールを一気に飲み干す。
「いやぁ人って言うのは、色々と居るもんっすね」
「そうですね。むしろ私の周りには、そういう人ばかりです」
「違いない。私の周りもそうっすよ」
ニッと中島が笑うと、鈴野も釣られて笑みを浮かべる。
「・・・・なんだか、少しだけ気が楽になりました」
「そりゃ良かったな」
それからしばらく二人は色々と話して時間を過ごした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃――――
とある演習場。
「よーし!一旦休憩!」
と、シャーマンから身体を出したケイは無線で全戦車に伝えると、集合場所に集まって停車する。
「じゃぁ十分の休憩。その後演習再開よ」
『yes ma`am!!』
メンバーは敬礼をし、それぞれ休憩に入る。
「しかし、なぜ今になって演習を?」
と、M4A1から降りてケイのM4にやって来たアリサが怪訝な表情を浮かべて聞いてくる。
「一回目の試合に敗北したからって、そのままにしては置けないでしょ」
「それは、そうですが・・・・。それに、よく演習場を借りれましたね」
普通であれば演習場を借りるのはかなり難しいし、何より試合開催中は他校との練習試合はできないので、演習場を借りる必要性は殆ど無い。
「これも彼女のお陰よ」
「・・・・早乙女神楽ですか」
アリサはすぐに誰かであるかを察する。
去年の全国大会の二回戦目にて、当時まだ副隊長であったケイは神威女学園と対決し、激戦の末に神威女学園側の戦車がサンダースのフラッグ車へカミカゼアタックをして横転させたと言う仰天な撃破をしてみせた。
それを機会に、ケイはまだ早乙女家から勘当中であった神楽と親しくなり、よくこうして早乙女家が個人所有する演習場を借りている。
「それにしても、みほは凄いわね。去年の優勝校のプラウダを破って、決勝戦に行くんだから」
「そう、ですね」
どうもあの時の敗北が悔しいのか、未だに腑に落ちないで居た。
「やっぱ神楽を倒しただけはあるわね」
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
ふと、ケイはある事に気付く。
今回演習に使ったのはM4とM4A1他イージーエイト、ジャンボ、ファイアフライと、第一試合での構成に加えて、M26パーシングを二輌加えた構成にて演習を行っていた。
しかし、今この場に一輌だけ足りなかった。
「おかしいわね。パーシングが一輌足りないわよ」
「え?そういえば・・・・」
アリサもパーシングが一輌足りない事に気付く。
すると遠くよりパーシングがこちらへと走行してきていた。
「噂をすれば来ましたよ」
「そう。ならいいんだけど――――」
と、ケイはこちらに向かってくるパーシングに違和感を覚える。
妙に速度が速く、減速する様子も見せない。
「アリサ。あのパーシングに無線を繋いで」
「え?どうしてですか?」
「いいから早く!」
「は、はい!」
アリサはすぐにシャーマンの車体をよじ登って車内に入り、無線を向かってくるパーシングへ繋げると、登ってきたケイに無線機を渡す。
「パーシング二号車。応答しなさい」
しかしケイの応答に返事は返ってこない。
「二号車。応答しなさい!」
声を上げて言うが、返事は返ってこない。
「返事が無いわね」
「無線機の故障、ではないです」
「じゃぁ、一体・・・・」
するとパーシングが走ってきた方向上にある林より、発煙筒の煙が上がる。
(発煙筒・・・・?)
この場にはサンダースの生徒と演習場の管理者以外にはいないはず。ましても戦車道の演習場に、生身の人が居る事事態無い。
「・・・・・・」
ケイは悩むも、その直後にパーシングの砲塔が旋回し、砲がこちらに向く。
「っ!まずっ!アリサ!」
「え・・・・?」
するとケイはアリサをシャーマンの車内に押し込むとすぐに自分も中に入る。
次の瞬間、パーシングの主砲より火が噴き、砲弾は一直線にケイとアリサが乗り込んだシャーマンの車体側面に着弾し、砲塔より白旗が揚がる。
「くっ!」
「撃って来た!?」
アリサは状況が飲み込めず混乱し、ケイはすぐにハッチを開けて外に出る。
先ほど砲撃したパーシングは他のシャーマンも撃破し、そのまま演習場の出口へと向かっていく。
「一体何が起きているんですか!?」
「分からないわよ!だけど、分かるとすれば・・・・」
パーシングが走ってきた方向を見ると、数人のサンダースのパンツァージャケットを着た生徒が慌しい様子で走ってきていた。
「・・・・少なからず、悪い事が起こってそうね」
ケイの予想は後に当たる事になる。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。