たまには思い出して
急に雲が厚くなり、低い灰色の空から滴がポツリポツリと肌を打つ。
※※は薄着で出掛けたことを後悔しながら、恨めしそうに気分屋の空を見上げた。
雨か、と胸の前で手を広げてみると、肌に落ちたのは白く硬い小さな粒。
「雪だ!」
雪となれば話は変わって、テンションが上がってくる。
遠くで、同じようにはしゃぐ子供が歓声を上げた。
とは言っても、テンションが上がろうが寒いことには変わりなく――
「ふぇ‥‥クシュンッ!!」
思いっきり鼻を鳴らす。
ブルブルッと肩に悪寒が走った。
予想以上に大きなくしゃみを誤魔化すように鼻を擦ってみたが、周りにこれと言って人影は無かった。
ホッとした途端、アハハハと哂う声が頭の上から聞こえてきた。
聞き覚えのある声だった。
気配がした屋根の上には、カラカラと哂うカカシの姿があった。
機嫌良さげに、指に挟んだ文庫本を振っている。
「いやー、漫画のワンシーンみたいだったよ」
「生理現象だから仕方ないだろー」
と言った※※がスンと鼻をすすると、視界からカカシが消えた。
そして背中に硬いものが覆いかぶさる。
フゥ、と吐きかけられた熱い息が※※の冷えた耳たぶを掠めた。
「ひぁッ!ちょ、カカシ、やめろってば!」
絶妙な息遣いに、思わず悲鳴めいた声が出る。
「あ~ぁ、こんなに体冷やしちゃって。俺が温めてあげようか?」
「いい、いらない!」
人気(ひとけ)はなくても、天下の公道で密着されるのは気恥ずかしい。
※※は赤面しながら、カカシの腕のなかで抵抗した。
「でも、風邪引いちゃったら看病するの俺デショ?任務に差し支えるんだけど」
「そ、そうなのか?」
「う・そ・♪」
「ーーーーー!!」
※※は肘で思いっきりカカシの脇腹を小突いた――が、当たった感触はなく。
「そんな素人攻撃を、上忍に当てられると思う?」
と、※※の正面に回りこんで余裕綽々のカカシが、おかしそうに笑いながら※※の髪をかき混ぜた。
※※は不機嫌な手つきで、クシャクシャにされた髪を撫で付ける。
「で、その上忍がこんなところで何してるの?サボリ?」
「うぅん、今日は早上がり。空を見たら雪が降りそうだったから、そこで待ってた‥‥」
銀糸の間から見える右目が遠くなる。
急に置きざりにされた※※は、所在無さげに前髪をいじった。
カカシは※※をペットのように可愛がったり構うくせに、時々スッと周りに壁を作って独りになる。
そういう時の※※は、どう対応していいのか分からず、カカシと一緒に黙ることにしていた。
「※※」
口を開けたカカシは妙に優しい声で、ニィッと笑いながら※※の顔を覗きこんだ。
何か企んでいるな、と察知した※※が素っ気なく「何?」と聞き返す。
「雪、好き?」
「うん‥‥どちらかと言うと好き」
「なんで?」
「珍しいし、雪が降った後に雪だるま作ったり雪合戦したりできるし‥‥」
「ふ~ん、色気がないねェ」
カカシはわざと“ガッカリ”した顔を作って見せる。
それを見て※※が、ムスッと口を曲げる。
「じゃあ、カカシはなんで雪が降るのを待ってたんだよ?」
カカシの期待通りにつっかかって来た※※を見て、可愛いとカカシが笑う。
「寒そうだけど‥‥ちょっと付き合って?※※にも見せてあげるよ」
何を、と聞く間もなく、カカシが※※の手を引いて抱きかかえる。
あとは屋根の上までほんの一瞬だった。
衝撃も無く音も無く、屋根に降り立ったカカシはやはりスゴイ忍者なんだろう。
屋根の上は風を防ぐものもなく、寒さが一層肌を刺す。
※※を抱いたままで、カカシはまた黙ってしまい、遠くの空を見つめた。
肌を合わせるほどなのに、何故か感じる距離感。
※※はささやかな自己主張の意味も込めて、頭をカカシの胸に預けた。
すると、ようやくカカシの視線が※※に戻る。
※※が寂しいのを察したのか、カカシは優しく髪にマスク越しのキスを落とす。
「俺が雪を好きな理由はね、この町が静かになるからだ」
カカシの視線が、再び遠くに戻される。
「雪が降り出すと、町が灰色に曇っていく。それから急に静かになって‥‥人が居るのが嘘みたいだ」
風に消え入りそうな静かな声だけが聞こえてくる。
「あぁ、俺は独りなんだなぁ‥‥って思い出せる」
いや、消えてしまいそうなカカシだ。
‥‥なんて焦った※※が「カカシ」と不安で名前を呼んでしまう。
「オレのこと、たまには思い出してよ?今だって一緒に居るだろ?」
不安いっぱいの目が向けられているのを、カカシがあやすように語りかける。
「たまになんかじゃない。いつも、その後決まって※※のことを考えてる。※※の声が聞きたいなぁってね」
冷えた※※の体をぎゅぅっと抱きしめる。
※※の存在を確かめるように。
カカシの冷えた指へ※※の体温が染みこんでいく。
「――今は独りになるのが怖いよ。※※と※※の体温(からだ)を知ったから」
芝居掛かった台詞も、カカシが言うと妙にさまになった。
※※も顔を赤くしながら、素直にカカシの言葉を受け止める。
「なんで、まだ雪が降るところ見てるの?」
「あの頃の独りの町に戻るのは嫌だから‥‥※※をどれほど愛してるのか再確認するんだよ」
「愛してる」にはさすがの※※も反応せざるを得ない。
バカ、と小さく反論して俯いて、カカシの熱っぽい視線から逃げてしまった。
「ホント、色気がない子だなぁ、※※は~」
「色気がなくて悪かったな!」
「悪いとは言ってないよ。教え甲斐があるじゃない、色々と♪」
ユサッと体を振られて、カカシの腕に抱え直されると、先ほどより一層二人の顔が近づいた。
そして、マスクをずらし、※※の鼻先にちゅっと音を立ててキスをした。
「寒い?」
「うん」
カカシの綺麗な顔と、優しい声と、鼓動。
そして、良からぬことを企んでいる目。
「じゃ、帰りましょうか」
「うん」
「※※の体で温めてね♪」
「嫌だ」
「そこは素直に『うん』って言ってよね」
雪の粒が窓を叩く頃、カカシはしっかり※※の体で温めてもらいましたとさ。
END
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NARUTO夢小説/カカシ×夢主/雪が降る町。優しくても遠くばかりを見る目に寂しさを感じる。
これを書いている時に、ちょうど雪が降っているのが見えました。
すごくノリノリで書いた覚えがあります。