(宇宙庭園)
ザッ
ミク達がたどり着いた場所は、綺麗に整備された洋風の庭園の一角を切り取ったような、綺麗な場所だった。緑が映える芝生、1本の大木とそこでさえずる小鳥、木製の丸テーブルに木製の椅子、宇宙のはずなのに日の光に溢れた場所・・・そして、天使の姿をしたミクに似た女性が一人・・・
ミク:な・・・なによ・・・ここ・・・
ハク:明らかに今までとは違う雰囲気ですね。時間停止なのに小鳥のさえずりが聞こえる・・・
ネル:なんというか、バトルとか殺伐とか嫌なシチュエーションとはかけ離れているよね・・・
すると、テーブルで何かを飲んでいた天使が話しかけてきた。
ミクに似た天使:ようこそ、宇宙庭園へ。まぁお疲れでしょうから、そこの椅子に座って、紅茶でもどうです?
ミク:残りのクリスタルが1個、既に時間停止空間だから、おまえが「ラスボス」ってわけだな?
ミクに似た天使:紅茶、いりませんか。残念です
ミク:私の質問に答えろ!
ミクに似た天使:・・・まぁクリスタル越しで話しかけましたから、答えましょうか。そう、私で最後です。名前は・・・紛らわしいですが、「miku」、とさせて頂きます
ジャキッ!
ミクは神威に変身して、mikuに向かって刀を抜いていた。
ミク:何故、私と同じ名前なんだ! それに悪魔の総大将なのに、何故「天使」の姿をしている!
パチンッ! シューーーン
mikuが右手の指でパチンと指を鳴らすと、ミクから神威の力が解除されて、学生服の姿に戻ってしまった。
ミク:! な・・・なんで・・・
miku:私はいつでもこうする能力があります。力を無駄に使うのはおやめなさい。貴方も私も聞きたいことがあるし、私も今は戦う気はありません。とにかく、向かいの椅子に座りなさい
ネル:ミク、今はそうした方がいいよ。戦闘するにしたって、あの力がある相手では不利すぎるよ
ミク:わ、わかったわ
ミクは渋々、丸いテーブルにあったmikuが座っている椅子の向かいの椅子に座ることにした。
(宇宙庭園・円卓にて)
ズズーーー
miku:あら? 紅茶飲んでくれるの?
ミク:あんな能力があるなら、紅茶に毒を入れるみたいな、姑息な手段を使う必要ないと思ったから。それに喉、渇いてたし
miku:のどが渇く・・・か。ここでは空腹にならないはずだけど、どうやら、“帰る時”のすぐ傍まで来ている、その影響かしらね
カチャ
ミクは紅茶のカップをテーブルに置き、一息ついて落ち着いたので、まず1つ1つ、聞いてみることにした。
ミク:さて。言ったからには、全部教えて貰うわよ。これまでの事とこれからの事、全部
miku:勿論。それ以外に、貴方のことも教えて貰うわよ。いいでしょ?
ミク:当然よ。あの能力を知っていて、無駄にNoは言えないわ
miku:ふふ、お利口さん♪
ミク:じゃあ、まず、ネルとかベルゼブブの話と重複するけど、なんで私をここに連れてきたのか、まずそこから
miku:あら? 私の名前の事かと思ったのに
ミク:これは感だけど、貴方の話を全部聞いた上で、最後に聞かないと混乱すると思ったから。どうかしら?
miku:ふふ、そーねー、その方がいいと思うわ。では、ここに連れてきた理由。まず、ネルは何て言ったの?
ネル:ミクの世界とクロスリンクしているこっちの世界を救って欲しいから。こっちを救うとミクの世界の対応する人物の問題も解決するから、利害は一致するだろう、と。ミクが選ばれたのは、問題になっている人物と密接に関係している人物だから。そして帰る手段は、こっちで家族に対応する人物に問題を与えている人物に力を与えている悪魔、もしくは問題を与えている悪魔そのものを全部退治して、クリスタルを全部発動させること。
miku:要するに、ミクの家族とクロスリンクしている人物の問題を解決して欲しいから、ここに呼んだわけよね。ミク自信にも密接に関係する事だし、ランダムに選ばれた“救世主”ってわけじゃないのよね
ミク:そして、何故連れてこなければいけない事態になったのか? これはネルの話であった“私が密接に関係している”からだし、ベルゼブブの話であった、“貴方自身が、クロスリンクしている私の世界に直接影響を与えられず、こっちの世界にも悪魔を配置する程度しか手を加えられない”からよね?
miku:情けないながら、理由はそう。悪魔を束ねている立場でありながら、貴方の世界の問題に干渉できず、こっちの世界にも悪魔を配置する、もしくは悪魔を誕生させる布石を置くことしかできないわ。
ミク:そしてベルゼブブの話では、悪魔を配置する理由は、私の世界の事情とクロスリンクさせるためだけでなく、私を成長させる試練でもある、そう言う“むちゃくちゃ”な理由よね?
miku:そう。こちらの世界と貴方の世界はクロスリンクしているから、向こうの事情とこちらの事情を合わせる必要がある。そしてその事は同時に、こちらの世界で活躍する、あなたと同じ境遇の人物を“成長”させるイベントでもあるわ
ミク:ちょっと待って! 何その“あなたと同じ境遇の人物”って! ま、まさか、コレと同じ事を、私と私の家族関係以外でもやっているっての!?
miku:当然です。貴方だけが“特別な人物”ってわけではない。だからこそ私の姿が今は“あなた”になっている理由です。あなたが今までやってきたような、“悪魔と戦って勝ち、クロスリンクしている自分の家族の問題を解決する”という試練を、ケースは少ないですが、他の皆さんにもやってきました
ミク:一応訊くけど、「成功した」、ヒトって、勿論いるんでしょうね?
miku:ええ、いますよ。その人達が元の世界に戻る時に残していった力が、貴方を助けている力であり、今のところそれだけしか成功者がいませんが
ミク:え?
miku:剣神・がくぽの力を残した「神威学歩」、女神・イシュタルの力を残した「勇気めぐみ」、魔神・バアルの力を残した「古河ミキ」、魔王・リリスの力を残した「リリィ」、それと・・・・ん? あなたが最後に貰った、破壊神・シヴァの力を持つ「アペンド」とか言う力だけは知りませんね。まぁいいでしょう。この世界の事です、新しく造成された力もあるでしょうから。ということで、4名だけが成功者です。クリスタルボードの5つ目には別の力を封入しておいたのですが、入れ替わったみたいですね。同じように、この4名の時も、クリスタルボードで足りない部分には、同じく別の力を封入して、使って貰っていました。
ミク:力の“補完”なんてどうでもいいわ・・・失敗した人たちは、どうなったわけ!?
miku:貴方も知っての通り、生き残れるのは勝者だけ。途中の悪魔との戦いや、「それぞれ自分の姿をした私」に倒されてしまい、志半ばで失敗した人たちは、私の手駒である“悪魔”になった。残念ながら帰ることは出来なかったわけだ。それぞれの元の世界では、今でも“行方不明者”という扱いになっている。クリアーしたそれぞれの関係者の問題はクリアーした分だけ、元の世界でもクリアーされているがな
ミク:・・・こんな事をしている貴方が、なんで「到達者の姿」であり「天使」の姿をしているか、何となくわかったわ
miku:・・・言ってみるがいい
ミク:最後に残された信じられる物『自尊心』ね
miku:そう、ここにたどり着いた人間には、己を信じる心『自尊心』しか“残っていない”から、私は、“自分の姿”であり、“天使”の姿をしているわけ。それでも、前の4名は私に勝ったけどね。勝つと言っても、私との対話で“言葉通り自分自信の怒りの心と戦って勝つ”事ができて、クリスタルを発動させて、生まれた力を残し、帰っていったんだけどね
ミク:それで、帰った4名はどうなったか、知っているわけ?
miku:さぁ。対象人物からはずれるわけだから、知らないわね
ミク:私は何となくわかるわ
miku:ほぉ、どうなっている、と?
ミク:怒らなければ行けない時のココロすらうち砕かれて、つまり、“最後の自尊心”すらうち砕かれて、廃人になっていると思うわ。貴方の言葉なら“自分を犠牲にして家族の問題を解決した英雄”とでも言うのかしら?
miku:それが的確なのでは? 廃人になっていようと、帰してやったわけだ。私に勝って帰った後のアフターフォローまでは出来かねるわね
ミク:・・・負けると悪魔になって帰れない。オールクリアーしても、人によっては廃人になってしまうかもしれない。そんな物を“利害が一致している家族の問題を解決する試練”なんて、私は呼ばない。呼んでは行けない・・・
miku:では、“何”だと?
ミク:お前の『暇つぶし』だ!!!!!
ザッ!
ミクは学生服の状態で、拳を構えていた。睨み付けている目はmikuを捉えていた。
miku:・・・世の中は厳しいのだ。その厳しい中で、元の世界では解決しにくい、受けた物も家族に言えない、そして皆が目を背けるような問題を、この世界でクロスリンクさせて、解決するチャンスを与えている、その事が、この私の『暇つぶし』だと?
ミク:『暇つぶし』で悪ければ、『余計なお世話』だ!! 確かに、これまで私の家族に対応する人物が受けてきた問題は、現実世界では解決しにくいものばかりだ。しかし、『本当の試練』とは、“それぞれの世界でそう言うことを、自分自身だけでなく、その世界の皆で解決すること“であり、お前の介入など必要ない!!!
miku:・・・お前は悪魔に成るべき存在だったのかもな。お前の言葉の意味することは、『こっちの世界の事など、知ったことではない』ということだぞ?
ミク:いや、違う。『ある事』が無くなれば、こっちの世界の問題は、自分自身だけでなく皆でも解決していく方向に迎えるはず
miku:ある事?
ミク:お前がいなくなって、クロスリンクの名目で、この世界に悪魔を介入させる事が無くなればいい。“悪魔”等という、その存在自体“可哀想”で、そしてそういうコッチの人間では解決できない物をわざわざ介入する事がなくなれば、こっちの人間同士の問題は消えないかも知れないけど、“自助努力で、もしくは皆で助け合って解決する”余地が生まれる。そういう自然発生的に生まれた“問題”で、クロスリンクしている状態になるのが、本来のこの世界の“ありよう”だ!!!!
miku:・・・つまり、私は必要ない・・・と?
ミク:簡単に言えば、そう言うことだ。悪魔というお前の“僕(しもべ)”自体が生まれる事は、お前がいなくなれば消滅するだろうさ。こっちの人間も悪行が溜まることもあるだろう。でも、その結果、“悪魔のような人間”になる事があっても、“悪魔”になることはない!
miku:私の最後の助け船、勝てば受けられる“慈悲”は、必要ない・・・と?
ミク:何が慈悲だ! “「相互解決できる」という餌で人間を釣り、「悪魔」をコレクションするための遊び”そのものだ! そんな物、決して慈悲でもなんでもないわ!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
地鳴りと共に、綺麗な庭園は姿を消し、わずかに残った石造りの円形の地面が残り、そういう地面が存在する宇宙空間の背景に変わっていた。そして、天使の姿をしたmikuの姿が、徐々に天使から別の何かに・・・ミクの顔すらなくなり・・・人間型でもなくなり・・・そして最終的には、巨大な目玉に変身したのだった。
ミク:それが本当の姿だったのね。当然名前もあるわけだ
目玉:・・・我はこの世界の秩序と混乱を管理するために生まれた存在。最初に付けられた名前は、『ガーディアン』(監視者)。それからは、挑戦者の姿と名前に変わっていくことになったため、この名前は封印された。まさか、幾星霜の刻(とき)の果てに、再び、この姿と名前に戻るとは、思わなかった
ミク:醜いお前にはぴったりの姿だ
ガーディアン:お前は、私が天使の姿だったときに使った能力を、この姿になっても使える事を解った上で、喧嘩を売った事は、自覚しているのだな?
ミク:当然のことだと思っている。さっさとやればいい
ガーディアン:ふっ、どこから生まれてくる“自信”なのかわからんが、まずそうさせてもらうぞ
パチッ!パチッ!パチッ!
ガーディアンは3回、瞬きをした。すると、ミクの体に残っていた“力”3つが、ミクの体から離れていき、ミクの頭上で消滅してしまった。
ガーディアン:これで、お前の体に残ったのは、私が生み出してなかった、破壊神・シヴァの力を持つ“アペンド”だけだ。お前自身も1回も使ったことがない力、それもたった1つだけ残った程度だ。ソレくらい、“ハンデ”と思ってやるわ
ミク:それはどうも
ガーディアン:それと一応教えて置いてやるが、前の天使の時に私に勝った人物に与えていた力、つまり“帰還”の力は、全て同じで、大天使・ルシフェルの力。変身する必要がないので、対応する人物の名前はない。そして、その力と交換に、先ほど消滅した力をここに残していったのだ
ミク:お前を倒して、奪い取ればいい。“最後の力の受諾者”になるけどね
ガーディアン:ふはは! 相変わらず空元気だけはあるようだな。では更に教えてやる。確かに私を消滅させれば、その力を最後に受け取る人物はお前になり、元の世界に帰還できる。しかし、等価交換の原則が働き、私の消滅の変わりに、今まで解決してきた問題は未解決の状態に戻り、お前が元の世界に戻っても、お前の世界の問題も全て未解決のままになる。こっちで全ての問題を知っているお前が、その責め苦に耐えられるとは、到底思えない。死ぬまで苦しみ続ければいい!
ミク:・・・人間はそんな弱い生き物じゃない
ガーディアン:ああ?
ミク:それに、むしろ礼を言わなければ行けない。“問題を知っている”状態で帰還できることに、な
ガーディアン:何が言いたい?
ミク:「私がその問題を切り出すことが出来る」機会を与えてくれたことだ。問題でも、“知っている”のと“知らない”のでは、大きく違う。私自らが、今度は現実世界でその問題を、悪魔との戦いとかじゃない方法で、解決してみせるわ!
ガーディアン:ほぉ。“今までの苦労はなくなってもいい“、か。良い度胸だ。そうでなくては面白くない。その”志“を抱いたまま、私に殺されるお前を見るのが楽しみになってきた!
ミク:お前を倒し、その志を現実の物にしてみせる!
ガーディアン:そんな学生服で、得体の知れない力1つしかない、そんな無力なお前に何が出来る!
ミク:この残された“アペンド”の力。お父さんの分身の問題を解決したときに貰った力。私にも解らない力だけど、お前にも解らない力。この力は、私たち家族だけでない、ここで散っていった人たち、元の世界に戻っても廃人になってしまった人たち、この世界の人たち、私の世界の人たち、全員の“ココロ”を託した力。使いこなして、貴方を倒す!!!!
ガーディアン:来るが良い! 無能な小娘が!!!
こうして、宇宙を舞台にした庭園で、ラストバトルは始まったのだった。
(続く)
CAST
ミク:初音ミク
神威学歩:神威がくぽ
勇気めぐみ:GUMI
古河ミキ:miki
リリィ:Lily
妖精ネル:亞北ネル
妖精ハク:弱音ハク
妖精テト:重音テト
その他:エキストラの皆さん
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☆皆さん、めっきり寒くなりましたね。風邪などひかないように、ご自愛くださいませ
☆まぁ、これからは暖房をつけて、部屋におられる機会も多くなりますので、ボカロ小説でも、どうですか?
☆最近は、GBF関連のガンプラ小説も書いてますけどね♪
○ボーカロイド小説シリーズ第13作目の” クロスリンク・プロブレム ミクの試練!“シリーズの第9話です。
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