No.736086

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-11-09 11:14:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:569   閲覧ユーザー数:555

 

 

 story43 招待した相手

 

 

 

 次の日――――

 

 

 

 

 学園のグラウンドにある倉庫で、着々と作業が行われている。

 

 

 弓道部の部員達はそれぞれ戦車関連の事を他のメンバーより教わっている。

 その近くで弓道部キツネチームが乗る自走砲が自動車部と整備部によって一徹でレストアの殆どを終了し、今は大幅な改装作業に入っている。

 

 

「・・・・・・」

 

 整備部によって整備されている五式を如月は少し離れた場所から見つめる。

 

 以前の試合での損傷は殆ど修復され、折れた砲身も交換されており、新品同様になっている。

 

(しかし、五式で何とかなるか)

 

 砲の威力は文句無いが、ドイツ戦車となれば話は別だ。それに正面からまともに戦える装甲などない。

 

(とは言えど、五式の強化プランなどないからな)

 

 一説には88ミリ砲へ換装するプランがあったらしいが、それを裏付ける証拠がなく、今は裏付ける証拠が無い限りその説は否定されている。

 何より換装後の五式への影響が大きいとされている。

 

 

 実際に計画されているものとすれば、五式中戦車の車体を用いて砲塔の代わりに戦闘室を搭載し、『試製十糎戦車砲(長)』を搭載した『試製新砲戦車(甲) ホリ』と呼ばれるものがある。

 しかしそれでは砲塔を失うので、今までの戦闘スタイルが使えない上に、砲弾重量が増えるので装填時間が増えてしまう。

 

 

 結果的に砲は今までのままになる。

 

 

(厳しいが、あいつには負けたくは無い)

 

 あいつとは言わずとも、斑鳩流の斑鳩焔である。

 

(まぁ、作戦次第だな)

 

 色々と考えるも、それはさて置きと棚上げし、西住の元に向かう。 

 

「西住」

 

「?は、はい」

 

 声を掛けられてすぐに西住は後ろを振り返る。

 

「どうかしましたか?」

 

「すまないが、今度の土曜は練習に来れそうに無い」

 

「え?どうしてですか?」

 

「ちょっとした用事が出来てな」

 

「用事、ですか?」

 

 

 

「珍しいですね。翔さんが用事で休むなんて」

 

 と、どこからか現れた武部が話に加わる。

 

「まぁ、相手が相手だがな」

 

「?」

 

 二人は首を傾げると、私はスカートのポケットより昨日届いていた封筒を取り出す。

 

「昨日これがポストに届いてな。送り主を見たら驚いたぞ」

 

「・・・・・・?」

 

 西住と武部は首を傾げながらも如月より封筒を受け取って裏を見ると、早乙女神楽の名前を見て目を見開く。

 

「さ、早乙女さんから!?」 

 

「どうしてあの人が翔さんに!?」

 

「私が知りたいぐらいだ。内容は私を家に招待したい、だそうだ」

 

「招待?」

 

「あぁ」と軽く返事をする。

 

「いよいよ分からなくなってきたですね。変な話罠って事は?」

 

「ドラマの見過ぎだ」

 

「うっ」

 

 

 

「まぁ何であれ、せっかく向こうが招待しているんだ。無碍には出来ん」

 

「・・・・・・」

 

「それに、招待した理由も聞いてみたいしな」

 

「翔さん」

 

「・・・・・・」

 

「そういう事だから、明日は休ませてもらう」

 

「・・・・分かりました」

 

 西住は不安げな表情を一瞬浮かべるも、頷く。

 

「それに、怪我の療養の為の休暇と思えば良い」

 

「そ、そういうものでしょうか?」

 

 武部は苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝に学園艦は大洗の港に寄港し、そこから三連休の間補給と整備を行う。

 

 

 如月は停泊から少しして港に降り、神楽が指定した場所へ向かう。

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 待ち合わせ場所であるアウトレットの前で周囲を見ながら待っていた。

 

 三連休とあって、アウトレットは賑わっている。

 

「・・・・・・」

 

 右ポケットよりスマホを取り出すと、時間を確認する。

 

(そろそろだな)

 

 指定された時間に近付き、周囲を再度確認する。

 

 

 

 すると如月の前に、一台の車が停車する。

 

 その見た目はなんとも古めかしい車であった。

 

(九五式小型乗用車?)

 

 通称『くろがね四起』と呼ばれる、旧日本陸軍が使用していた乗用車だったが、なぜにそんな車がここに来たのかが一瞬分からなかったが、次の瞬間にはピンと気付く。

 

 

 

「おまたせ」

 

 と、車の扉が開くと、中から予想だにしなかった人物が降りてきた。

 

 如月も何度も瞬きをするその人物と言うのは、スーツ姿の早乙女神楽であったからだ。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「驚いたな。まさかお前自らが迎えに来るとは」

 

 助手席に座り、如月は口を開く。

 

「あまり人に任せるのは好きじゃないのよ。出来る範囲であれば、自分でやる。そういう性分なの」

 

 くろがね四起を運転しながら神楽は返事を返す。

 

 

「しかし、気まぐれと言うやつか?」

 

「・・・・そうね。きまぐれと言えば、気まぐれ、かしら」

 

「・・・・・・」

 

 

「それにしても、随分と派手にやらかしたようね」

 

 まだ頭と左目の傷痕を一緒に包帯で巻かれている如月を一瞬横目で見て言う。

 

「この程度は問題無い。以前のあの時と比べればな」

 

「・・・・・・」

 

 信号が赤になり、神楽は車を止める。

 

「だが、さすがにあいつから説教を受けたよ」

 

「そりゃそうでしょうね」

 

 皮肉げに呟くと信号が青になり、車を走らせる。

 

 

「だが、一体なぜ私を招待したのだ?」

 

「理由は付いてからのお楽しみ、ってことで」

 

「・・・・・・」

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 しばらくして車は大洗町の隅辺りにある屋敷の門前に到着する。

 

(本当に来てしまったのか)

 

 出生の関係でここに来る事は一生無いと思っていたのだが、世の中何が起こるか分からないものと感じた。

 

 

「屋敷に入る前に、これを」

 

 と、神楽は手にしている帽子とメガネを渡す。

 

「これは?」

 

「変装よ。少なくともあなたの顔を知っている者が居るかもしれないから」

 

「かと言って、帽子とメガネだけでそう変わるのか」

 

「無いよりマシよ」

 

「・・・・・・」

 

 とりあえず如月は神楽より受け取り、メガネを掛けて帽子を深々と被ると、神楽と共に車を降りる。

 

 

 

「おかえりなさいませ」

 

 と、門の前には家政婦が待っていて、頭を下げる。

 

「車を車庫に戻しておいて」

 

「かしこまりました」

 

 家政婦は変装した如月を見ると笑みを浮かべて頭を下げ、車に乗り込むと車庫に向かう。

 

 

 

「一応言っておくけど、家政婦は知っているわよ」

 

「そうなのか?」

 

「一人でも多い方が、こっちとしては合わせ易いから」

 

「・・・・・・」

 

 いよいよ分からなくなってきたと、内心で呟き、門を潜る。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 如月は神楽に案内され、広い居間の中央に置かれている机の前に敷かれている座布団に正座して座っている。

 

「・・・・・・」

 

 純和風な部屋で、地味ではあるが豪華な意匠がいくつか見て取れる。

 更に戦車を描いたと思われる水墨画が壁に掛けられている。

 

「・・・・・・」

 

 如月は家政婦が持ってきたお茶が入った湯呑を手にして一口飲む。

 

「さて、そろそろ本題に入りたいな」

 

 湯呑を受け皿に置く。

 

「今回なぜ私があなたを招待したか、でしょ?」

 

「・・・・・・」

 

 

「その前に、お祝いをね。決勝進出おめでとう」

 

「・・・・・・」

 

 一瞬如月は唖然となる。

 

「なに意外そうな顔しているの?」

 

「い、いや、それはだな」

 

 まさかの相手から言われたので、戸惑うのは当然。

 

「こう見えても、祝う事になれば、ちゃんと祝うのよ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・まぁそれは良いとして。あんな状態から逆転するなんて、西住みほの作戦と指揮もあるけど、あなたの突撃精神にも驚いたものだわ」

 

「あれ以外に方法が無かったからな」

 

「そうかしら」

 

 と、湯呑を持って静かに一口飲む。

 

 

「それで、どうなのだ」

 

「・・・・・・」

 

 神楽は受け皿に湯呑を置く。

 

 

「ただ単に、あなたと話がしたかったのよ」

 

「・・・・・・?」

 

「早乙女家当主、そして早乙女流師範としてではなく、早乙女神楽個人として、あなたと話がしたい。それだけよ」

 

「個人として・・・・」

 

 意外な言葉に如月は少し戸惑っていた。

 

 

 

「意外かもしれないけど、私はあなたの事をよく見ていたのよ」

 

「なに?」

 

 怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。

 

「実際の所、私は血筋の事はあまり気にしていないの。当主がこんな事を言うのもなんだけど」

 

「・・・・・・」

 

「よく突っ撥ねているようにしていたけど、内心はあなたの事を妹のように思っていたのよ」

 

「じょ、冗談だろ?」

 

 如月は少し動揺し、声が震える。

 

「本気よ」

 

 その目と声から、本気だと如月は察した。

 

「それに、あなたの母親は私のお母様の妹だから、義妹である事に変わりは無いわ」

 

「・・・・・・」

 

 

「まぁ、今まであなたを忌み嫌ってきた家だからこそ、こう言われるのには慣れてないのかしら」

 

「・・・・ま、まぁ、そうだな」

 

 いつもとは違う雰囲気と態度に、如月はただ戸惑いを隠せれなかった。

 

 厳格な雰囲気とは違い、柔らかで、優しい雰囲気だった。

 恐らくこれが、本来の彼女なのだろう。自分と変わらない年頃の女子であると・・・・

 

 

「一つ、聞いてもいいか」

 

「・・・・・・?」

 

「別にそこまで聴く必要は無いと思っていたが、この際聞いてみるのも悪くは無いな」

 

「・・・・・・」

 

「お前は・・・・・・なぜ早乙女家の当主となって、師範になったのだ」

 

「・・・・・・」

 

 神楽は少し暗い表情になる。

 

(やはり、何か訳ありがありそうだな。まぁ当然か)

 

 この年で家の当主となり、更には家元の師範となっているのだ。それなりに何かわけがありそうだ。

 

「・・・・・・」

 

 神楽はしばらく黙り込むも、しばらくしうて口を開く。

 

 

「私だって、どうしてこうしているのかって、よく思う事だってあるわ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・本来なら、私には当主はおろか、師範を受け継ぐ資格なんて、無いのよ」

 

「?どういう事だ?」

 

 神楽の言い方に少し引っ掛かる。

 

「・・・・私は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――早乙女家から一度から勘当されているのよ」

 

「・・・・なん、だと?」

 

 その言葉に、如月は驚きを隠せれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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