「そ、そんなことが認められるわけがないだろう!」
静まり返っていた議場にそう言う声が響きました。
声のした方を見ると、美しい黒髪を横で結んだ女性。おそらくは将軍の方が立ち上がり、こちらを睨んでいました。
「いくら有能な武将がいないといっても、魏は兵力も人材も豊富だ。それに、曹操がこうなることを予期していないとも言えまい!」
その方は言葉に怒気を含ませながらそう言いました。
(ま、負けちゃだめ・・・・)
そう心の中で思ってから、私は一度深呼吸をしてから話し始めました。
「・・・確かに、曹魏は兵力も人材も豊富です。それに曹操さんも常人離れした戦略眼をお持ちです。」
「ならばっ!魏との国境を守る兵は、平常通り必要だろう!!」
私がそこまで言うと、その方がそう言いました。
「いえ。今回の場合に限っては、その必要はありません。」
私は静かに首を振って、そう言いました。
「その理由は、三つあります。まず一つ目は、曹魏が仮に蜀に侵攻してきたとしても、曹操を倒してしまえば、その侵攻が意味をなさないことです。曹魏は我ら孫呉のように王に後継者がいるわけでも、蜀のように志のもとに人々が集っているわけでもありません。魏は曹操という個人のもとに人々が集っている国です。なので、曹操さえ倒してしまえば、魏は瓦解します。」
そこまで言ってから、私はひとつ息をつきました。
「二つ目は、今回の決戦に負けることは、それはすなわち孫呉・蜀の滅亡を意味するということです。今回の決戦で負けてしまえば、国力の差などから、呉も蜀も滅亡するのは確定します。そうなってしまってはもう遅いのです。」
その方の方を向き、私は出来るだけ静かにしゃべりました。
「三つ目は、北方の魏との国境は、非常に行軍が行い難いことです。仮に私たちの要求通り最低限の兵だけであったとしても、敵軍が進行する速度を遅らせることを目的として行動すれば、こちらの決戦が終わるまでは防衛することが可能でしょう。」
「しかし、そのように侵攻を遅らせてとしても、兵が少ないのであれば、我らが駆け付けるまでに、村や町が敵の侵攻にさらされてしまうではないか!」
私の言葉の切れ目で、その方がそう反論しました。
「そのことについても問題ありません。曹魏の兵は非常に厳しい軍規に従って行動しています。それは、曹魏軍の強さでもありますが、今回の場合は、村や町などに危害を加えないという利点になります。」
「・・・・・・・くっ」
私の言葉に納得してくれたのか、その方は少し悔しそうにうつむきました。
「愛紗よ。お前の負けだ。今回は呉の軍師殿の方が正しい。」
その方の隣に座っていらっしゃった白い服の女性がそう言いました。
「私は呉の軍師殿の意見が正しいと思えたが、我らが軍師殿たちはいかがかな?」
その方はつづけて、諸葛・龐両軍師に尋ねました。
「は、はわわ!わ、私も問題ないと思います。」
「あわわ・・・わ、私も問題ないと思いましゅ・・・・ぁぅ。噛んじゃいましたぁ・・・・。」
両軍師がそう答えたのを聞いて、私は思わず声を上げてしまいました。
「で、でわ!?」
私の声を受けて一刀様と劉備様が頷きました。
「今回の援軍には、我が軍のほぼ全勢力を持って当たるとしよう。桃香、それでいいね?」
「はい。それで行きましょう!曹操さんを止めない限り、私たちは生き残れません!」
お二人がそうおっしゃったのを聞いて、私は蓮華様の方を向きました。
すると蓮華様もとてもうれしそうなお顔をしていらっしゃったので、私は安心してしまい、少し気が抜けてしまいました。
クラッ
「お、おい。亞莎!大丈夫か!?」
気が抜けて足に力が入らなくなってしまい、倒れそうになった私を、蓮華様が受け止めてくれました。
「す、すみません。何だか気が抜けてしまって・・・」
私がそう言っていると、上座の方から人が歩いてくる足音が聞こえました。
その足音の方を見ると、一刀様がこちらに歩いてきていました。
「・・・・(///)!!」
私はその光景にびっくりして、きちんと立ち上がろうとしたのですが、足に力が入りませんでした。
(一刀様がこちらに・・・・は、早く立たないと・・・っ!)
そう思っている内に一刀様は私の所までいらっしゃいました。
「・・・・よく頑張ったね。」
一刀様はそう微笑みながら小さくつぶやくと、私をひょいっと抱き上げました。
「か、一刀様!?」
私は思わずそう声を上げてしまいました。
「今回の軍議の決は出た。皆、準備に取り掛かってくれ!」
「「「・・・「「「「はっ!」」」」・・・」」」
一刀様の声に、周りの諸官の方々がそう答えました。
「孫権さん。部屋に案内するから、ついて来て。」
一刀様はそう言うと、私を抱きかかえたまま歩きだしました。
~趙雲と劉備と関羽の会話~
星「さて、主も行ってしまったことだし、愛紗よ。行くぞ。」
愛「・・・どこに行くというのだ。」
星「桃香様のところだ。お前がそう落ち込んでいては次の戦いに響くのでな。」
‐星&愛紗移動中‐
星「桃香様。連れてまいりました。」
桃「うん。ありがとう星ちゃん。」
愛「・・・桃香様。」
桃「・・・・・愛紗ちゃん。いつまでご主人様への気持ち、しまっておくつもりなの?」
愛「なっ!?」
星「愛紗は隠していたつもりかもしれんが、我らから見れば一目瞭然だ。気づいていないのは主ぐらいのものだろう。」
桃「ご主人様はその辺に鈍いから、ちゃんと言わないと伝わらないよ?」
愛「・・・・・ですが、ご主人様には呂蒙殿が・・・・。」
星「お前はそうやって自分の気持ちに蓋をして、それでどうするつもりだ?」
愛「・・・・・」
桃「愛紗ちゃん。気持ちをずっと抑え込んでいても、それはいつかいっぱいになるよ?そうなったときには、もう止められないと思う。私はそんな愛紗ちゃんを見たくないの。」
星「・・・主に自分の気持ちを受け入れてもらえないことが怖いのか?」
愛「そんなことは怖くなどない!!・・・ただ・・・・」
桃「ただ?」
愛「・・・・・・ただ、怖いのは、その後なのです・・・・・。」
桃・星「「・・・・・」」
愛「私が・・・・・ご主人様に気持ちを伝えてしまったら、ご主人様はもう私に微笑んでくれないのではないかと・・・・私は、怖いのです・・・・」
桃・星「「・・・・・ふぅー。」」
愛「ふ、二人ともそんな呆れた顔をして、確かに自分でも情けないとは思いますが・・・・」
星「桃香様。こやつは本当に分かっていないようですな。」
桃「・・・そうだね、星ちゃん。全然わかってないね。」
愛「な、何を・・・・」
星「良いか、愛紗よ。主はどんなお人だと思う?」
愛「・・・・とても・・・・お優しいお方だ。」
桃「愛紗ちゃんは、ご主人様が人の気持ちをわかっていて、その上でその人が悲しむような事すると思う?」
愛「い、いえ。その様なことは・・・・・・」
星「では、よいではないか。さっさと主に気持ちを伝えてしまえ。」
愛「だ、だから先ほども言ったように・・・・」
桃「さっき愛紗ちゃん言ったよね。ご主人様は人を悲しませるようなことはしないって。」
愛「は、はい・・・・」
星「その主が、愛紗の気持ちを知った上で、お前を悲しませるようなことすると思うのか?」
愛「そ、それは・・・・」
桃「ご主人様は愛紗ちゃんの気持ちを受け止めて、ちゃんと返してくれると思うよ?」
愛「・・・・・・」
星「愛紗。もう一度聞こう。いつまで主への気持ちをしまっておくつもりなのだ?」
愛「・・・・・」
桃「愛紗ちゃん・・・・・」
愛「わ、私だけでは・・・・・」
星「ならば、我らも手伝えば出来るのだな?」
愛「・・・・い、いやそう言う訳では・・・」
桃「星ちゃん!」
星「おう!」
愛「なっ!ふ、二人とも。なぜ私の腕をつかむのですか!?」
星・桃「「作戦会議だよ(だ)!!」」
~亞莎視線~
一刀様は私を抱きかかえたまま、蓮華様を部屋に案内すると、そのまま蓮華様の隣の部屋に入りました。
「か、一刀様?もう、だ、大丈夫・・・・です・・・・」
私は恥ずかしさのあまり、顔を赤くしながらそう言いました。
「そう?・・・わかった。」
優しくそう言うと、一刀様はそっと私を寝台の上に降ろしました。
「・・・・(////)」
一刀様のお顔が近づいて、私は恥ずかしくなりました。
「・・・久しぶり、亞莎。少し見なかった間に、本当に綺麗になったね。」
そう微笑む一刀様は、そっと寝台に腰かけました。
「それに、さっきの論議もすごかったよ。本当に・・・・」
そう言いながら一刀様は私の頭をやさしく撫でました。
(・・・あったかい。)
久しぶりに撫でていただいた一刀様の手は、とても暖かくて、大きくて、本当に幸せな気持ちになりました。
「あ、あの一刀様・・・」
私が恥ずかしさからそう声をあげると、一刀様は少しいたずらっぽい笑顔になりました。
「あぁ、ごめんね。あんまりにも嬉しくて・・・・」
その笑顔をまた近くで見られたことが本当にうれしくなりました。
「い、いえ。謝っていただくほどでは・・・。」
そう言いかけて、私はお母さんから預かったお手紙のことを思い出しました。
「こ、これ。お母さんから手紙を預かってきました。」
私は袖の中に入れていた手紙を一刀様に渡しました。
「・・・・・・」
手紙を受け取ると、一刀様はすぐにその手紙を読みはじめました。
「・・・お母さんも元気そうでよかった。『亞莎さんのことをよろしくお願いします』だってさ。」
一刀様はそう言いながら笑いました。
「・・・・(///)」
私は少し恥ずかしくなって、顔を隠しました。
「・・・・もう少し・・・、これで曹魏を破ることが出来れば、きっとこの大陸は平和になる・・・。」
一刀様の落ち着いた声が聞こえたので、腕を下げると、一刀様が真剣な表情で話していました。
「そうなったら・・・・平和になったら。亞莎とお母さんの所に帰るから・・・・。それまで・・・、それまで頑張ろうな。」
「・・・・・はい。」
一刀様の言葉に、私はそう静かに答えました。
すると一刀様はやさしく微笑んで、私の頭をまた撫でました。
「・・・(///)」
私は恥ずかしさを感じながらも、しばらくその心地良さに身を任せていました。
その後、蜀の皆さんは現在動ける兵で編成した先遣隊と、国境の兵たちを集めてから移動する本隊の二つに分けて、呉へと援軍を送ることになりました。
曹魏との決戦は、もうすぐ目前まで近づいていました。
あとがき
どうもkomanariです。
今回は少し投稿が遅れてしまいましたorz
さて、直接対決となった亞莎と愛紗でしたが、結果が一方的に・・・
愛紗ファンの方々には申し訳なく思いますが、亞莎がヒロインなので許していただけると嬉しいです。
そう言えば、亞莎の服の裾ってすっごい短いから、不用意に抱き上げたり(お姫様だっこ)なんてしたら・・・・・見えてしますね。
今さら気が付きました。今さらなので修正もしません。
その辺も許して頂けると嬉しいですorz
いよいよクライマックスに近づいてきました。
僕の中では次ぐらいが最後になる予定です。
そんな感じですが、今回も読んで頂きありがとうございました!
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少し遅くなりました。
8話目です。
亞莎の活躍の続き?です。
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