第壱章~新たな物語の紡ぎ・後編~
「すいません、これはここでいいんですか?」
「ああ、それはそこじゃなくて向こうの棚の引出しに入れて下さい」
「はい、分かりました」
そう言われて、俺は指で示された棚に向かった。
ここは聖フランチェスカ学園の敷地内に建つ「歴史資料館」、去年の夏休みに
建てられた外見も中身も学校の施設とは思えないほど、立派な建物だ。その時、
資料館を見学して、その感想文を書くという宿題が出された事もあった。及川が
それなんてエロゲー的発言をしていたような気がする・・・。
今俺は、ここの展示品や資料などといったものの整理・処分を手伝っていた。
先言おう、俺はこの資料館の関係者ではない。そもそもこの作業は、生徒会で
するべき事。つまり、俺が手伝う理由はどこにもない。では何故、ここにいるのか?
それは今日の昼休みにさかのぼる・・・。
「だが断る」
「ちょ、かずピ~、まだ何も言ってないやんか~。」
「お前からの頼みなんてどうせ面倒の押し付けだろ、違うか?」
「いや、そんな事あらへんって、ただ今日の放課後にある歴史資料館
の大掃除にうちに代わって出て欲しいだけやって。」
「やっぱり面倒の押し付けじゃないか!!」
「だって、しゃ~ないやんか、生徒会長ってイロイロと忙しいんやからさ!」
「その生徒会長の仕事を何で俺がしなくちゃならないんだ!?」
「そら・・・、親友やないか♪」
「親友なら、何でもありのか?、そもそも忙しいって何が忙しいんだよ!」
「そらもちろん・・・、かわい娘ちゃんと仲良くする事や。」
「それ会長の仕事じゃないよな、きっと・・・なぁ、そうだような、きっと!」
「まあ・・・、かずピーがうちの代理で来るってすでに皆に言っちゃてるからな。
行ってもらわなぁ、あかんのよ、これが。」
「なッ、勝手なことを!!」
「という訳だから、よろしゅう頼むで~、ほなさいなら♪」
「待て、おい待ちやがれ、及川ーーー・・・・・・!!!」
という茶番劇を繰り広げた後、奴を捕まえようとしたが、逃げ足だけは速い及川。
結局捕まえられず、今に至る・・・。作業から早1時間、流石は資料館・・・その資料
の量ははんぱじゃあなかった。まだ全体の3分の1しか終わっていない。このままでは
寮に帰るのは夜になりそうだ。くそ・・・、及川め、後で覚えてろよ!
「・・・ん、あれ何だこれ?」
資料品の中から一つの品物に目が止まった。
「銅鏡・・・?」
そう・・・銅鏡、たくさんある資料の中に埋もれたていたそれを偶然にも見つけることが出来た。
ただの銅鏡なら歴史資料館では決して珍しいものではないだろうが、どうしてか・・・その銅鏡
に不思議な感覚を覚える。
(こんな銅鏡、ここにあったっけか?)
自慢ではないが、俺はよくこの資料館に来て、展示物を見てきた。それは、俺が単に歴史マニア
なだけでなく、彼女達とほんの少しでも感じたい、触れたい・・・そんな幻想事のような想いに
駆られたからなのが一番の理由なのかもしれない。幸いにもこの資料館、後漢時代に関する資料が
多く展示されていた。だからこそ、言える。こんな銅鏡はここに展示されていたことなど一度もない
、と。
「北郷先輩、どうしましたか?」
「え・・・、あ、いや・・・、何でもないよ、ちょっと疲れてしまっただけだ。」
生徒会の後輩に呼ばれ、我に帰る。気になりはしたものの、とりあえず先に目の前の作業を片づける
事にした。
それからさらに2時間が過ぎた。ようやく作業のほぼすべてを片づけ、あと少しの所まで来た。
他の皆にも疲れいるのが見て分かる・・・。ふと、あの銅鏡の事を思い出す。辺りを見渡したが、
その姿、影が無い。整理してる際、誰かが移動させてしまったのだろうか?全作業を終え、解散
した頃にはもう日は落ち、外は街灯の光のみが輝いていた。作業に参加していた生徒たちは皆、
帰宅すべくその場を後にする。俺も後は寮に帰るだけだが、念のためあの銅鏡について資料館の
責任者に聞いてみた。
「え・・・そうなんですか?」
責任者の人から意外な回答。
俺が見たというあの銅鏡は、この資料館にはないのだそうだ。
ちゃんと細かい特徴までちゃんと説明した・・・、だが、その回答が変わる事は無かった。
疲れていて見間違えたのか?、そんなはずはない、あれは確かに存在していたはずなんだ。
その疑問に答えてくれる人は誰もいないわけで・・・、結局分からないまま帰ることになった。
街灯の灯りもなく、ただ暗いだけで何もない林道を一人歩く・・・。
林道の先には、俺が普段利用している寮がある。最も、寮と言っても2階建てのプレハブ小屋
なのだが。あの資料館を建てるだけの金があるのなら、男子寮も女子寮並みに作り替えば
良かったのに・・・。男女平等の世の中じゃないのかよ!そんな事を考えあぐねいていた。
「・・・ん?」
気付かなかった・・・、一体いつから居たのだろう・・・。俺の目の前に、人が立っていた。
フードを深く被っているため、男か女かは分からなかったが、たぶん男だろうと思った。
「あの・・・、俺に何か用でも?」
「・・・・・・。」
(やばい、こういう時は無視してさっさと行くべきだった。)
とはいえ、これ以上得体の知れない奴に関わる必要はない。返答する気が無いようだし、無視
して早く帰ろう。そして、そのままそのフードを被った奴の傍を通り過ぎた。
「北郷・・・一刀」
足を止め、後ろを振り返る。
「何で俺の名前を知っているんだ?」
「・・・・・・。」
また沈黙する・・・。何だこいつ?俺の事を知ってるって事は、この学園の関係者か?
「用が無いなら、俺は帰るぞ。じゃあな。」
そう言い終え、振り返した体を戻す。
「な・・・!?」
目の前には、奴が居た。いつの前に?
「北郷一刀・・・、あの外史の発端。」
「ガイシ・・・、発端・・・?何の事だ?」
「あの終端を迎えようとする外史に、再び意味を与える事が出来る存在・・・。ならば、誘おう
あの地へと。」
いきなり喋り出した思うと、言っている事は電波的な内容だ・・・。
「何言ってるのか・・・さっぱりなんだけど?」
「君なくしては外史は成りえず・・・、怒り憎しみ悲しみが満ちていようと意味がない・・・。ならば今一度君に役割を与えよう・・・。」
「・・・・・・!?」
俺の本能が叫ぶ。こいつはやばい!早くこの場から立ち去れ!、と。
そしてすかさず行動に移る。
「え、あ・・・動かない!?」
俺の体は、金縛りになった様に動かなかった。
「さぁ、誘え。再びあの地に降り立たせんことを。」
そう言って奴は右腕の裾に左手を潜らせ、そしてそこから取り出したのは・・・
「銅・・・鏡・・・??」
銅鏡・・・あの時見つけた銅鏡、まさにそれだった!
「どうして・・・お前が・・・それを・・・・?」
だんだんと言葉を出すのが苦しくなる・・・。それでも、わいてきた疑問をぶつける。
「お前を、外史から外史へと誘う存在。全ての外史に必ず存在する、不変存在」
そう言い終えると、銅鏡からまるであふれだすようにおびただしい光が俺を包み込む。
そして視界が白くなっていき、次第にフードを被ったあいつと周囲の景色が白く塗り
つぶされていく。
「うおおおああああああああああああああああ・・・・・・・!!!!!」
そう叫んだところで、どうにかなるわけでもない。次第に意識が遠のいていく・・・。
「君こそ、最後の・・・・・・なのだ。」
奴が言ったのか、それともただの幻聴か、それをやっとの思いで聞き終えると、俺の意識は
そのまま闇の中へと落ちていった・・・。
「流れ星・・・、不吉ね。」
この広大に広がる青い空に一筋の光。
古来より、日の上りし時、星が流れる事は即ち、縁起の悪い事として伝えられている。
その不吉な流れ星を眺める、一人の少女がいた。
その歳に不釣り合いな程の威圧感を身に纏うその姿は、まさに「覇王」という言葉が
ふさわしいだろう。
しかし、その覇王の顔が愁いに染まる・・・。そして覇王は一人の少年の姿を思い描いた。
「一刀・・・・。」
その覇王の少女の性名は、「曹操」。字は「孟徳」。真名を「華琳」という。
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初投稿のものが、意外と皆さんに好評だったので、もう少し頑張ってみようと思います。とりあえず、今回投降したもので第壱章は幕を閉じます。今後ストーリー設定などを決めていきながら制作していく事になりますので、長い目で見て下さると助かります。