No.734524

ALO~妖精郷の黄昏~ 第46話 南方陥落

本郷 刃さん

第46話です。
今回は南方階段の防衛戦になります。

どうぞ・・・。

2014-11-02 12:42:16 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5972   閲覧ユーザー数:5430

 

 

 

第46話 南方陥落

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

 

 

グランド・クエスト[神々の黄昏]

『侵攻側クエスト[霜の世界の黄昏]:ミズガルズと四方の階段を攻め落とせ』

『防衛側クエスト[霜の世界の抵抗]:ミズガルズと四方の階段を守り抜け』

 

 

 

 

 

――ヨツンヘイム・南方階段

 

スコルとハティが北方階段の最前線部隊と交戦を始めて少しした頃、

ガルムとスィアチも僅かに遅れる形でアンデッド型Mobと邪神型Mobの部隊を引き連れて南方階段の最前線部隊と交戦を始めた。

 

「ハッハッハッハッハッ! さぁ妖精共よ、このオレを楽しませろ!」

「ガルムのようにとはいかぬが、此度の闘争は我も楽しませてもらおうか」

 

黒き体毛が身を覆い、胸元を血に汚し、フェンリルに並ぶ巨体を誇る〈Garm the Wachhund Lord(ガルム・ザ・ヴァハフント・ロード)〉。

彼はヘルの忠実な番犬であり、この最終戦争に参加できない彼女に代わり戦場に出てきたのだ。

本来、ガルムは冥界にて生者を追い払い、逃げ出そうとする死者を見張る役を受けているが、

ラグナロクにおいては冥界から離れ神々と戦う。

また、このALOにおいては死者達もMobとして彼の配下となり、戦争における戦力となっている。

 

一方でこちらはスリュム以上の巨体である〈Thiazi the Thrymheim Lord(スィアチ・ザ・スリュムヘイム・ロード)〉。

彼は山の巨人族、つまりは丘の巨人族に連なる者であり、

巨人としての姿以外にも為ることはあるが彼も神々に野心を持つ者である。

神話においては『黄金の林檎』を狙い策を弄する者であったが、ALOではそこに至る前にこの最終戦争が行われることになった。

 

そんな2体の侵攻に対し、防衛側であるオーディン軍のレイドパーティーは北方階段と同じくして、

エクストラアタックや大規模魔法によるMobの殲滅を図った。

幸いにもその広範囲攻撃はアンデッドや狼型のMobを殲滅し、邪神型にも大きなダメージを与えることに成功した。

しかし、ガルムは攻撃を回避し、スィアチに至っては少量のダメージという結果になっており、

そこにダメージを受けているとはいえ10体近い邪神型Mobがいれば苦戦は免れないだろう。

 

「くらえぇいっ!」

 

ガルムが大きく咢を開いてから息を吸い込むことで瘴気がその口に充満し、そのまま吐き出すと毒のブレスが放たれた。

彼の動作でブレスだと予測できた者達は対ブレス用に風魔法で吸引力を中和したが、

周囲に広がった毒の瘴気によってプレイヤー達は毒の状態異常になった。

 

「むぅぅぅんっ!」

 

続けてスィアチが巨大な石塊を作り出し、それをレイドパーティー目掛けて投げ飛ばした。

投げられた石塊は10人以上のプレイヤーを押し潰して大きなダメージを与え、陣形を乱した。

さらに近づく者には腕で薙ぎ払いや足踏み(ストンプ)を行っていく。

 

「スィアチには遠距離攻撃を行って確実にダメージを与えろ! ガルムには当たらないだろうからな!」

「近接武器持ちは確実にガルムに攻撃を当てに行くぞ! 素早いって言っても止まる瞬間があるはずだ!」

 

相手が最高クラスのボスとは言え、レイドパーティーのリーダー達も気後れすることなく周囲に的確な指示を出す。

伊達に『アルヴヘイム・オンライン』のサービス開始時から古参としてプレイしているわけではないようだ。

複数のレイドパーティーによる攻撃もあり、両者の7本のHPゲージは6本になった。

 

それによってガルムとスィアチに新たなモーションが加わった。

ガルムは毒のブレスと噛みつき、遠吠えによる衝撃波と尾による振り払いだったが、

それに加わったのは前脚と後脚による攻撃だが毒状態を与えるものである。

スィアチは腕による薙ぎ払いとストンプ、石塊投げと拳の振り下ろしだったが、そこに砂嵐を巻き起こす攻撃が加わる。

新たなモーションの追加によって態勢が崩され掛けていく中、2体に接近する者達が居た。

 

「そこまでにしていただきます! ハァッ!」

「テメェも止まれやぁっ!」

「「ぬぐぅっ!?」」

 

ガルムは攻撃の際に止まったところを刀で斬られ、スィアチも攻撃を繰り出す際に出来た隙を突かれて斧に斬られて怯んだ。

さらに追撃と言わんばかりに2体を攻撃した2人のプレイヤーは連撃を繰り出したあと、反撃を回避してから敢えて正面に浮かんだ。

 

「援軍として派遣されてきましたからには、アナタ方の蛮行もここまでです!」

 

戦争で、AIとはいえNPCを相手に何を言っているのかと思うかもしれないが、

これがガルムに強烈な一撃を決めたこの女性の持ち味なのだ。

彼女の名は『メラフィ』、種族はサラマンダーで腰まである髪はポニーテールで緋色に染まっており、

赤色の瞳はややツリ目になっている。

その整った顔立ちはアスナやティア、カノンにアリアに並びALOにおける美人の十指に入るだろう。

スレンダー美人とも言える彼女だが、装備している防具は少々風変りと言えるのは違いない、

なぜならば赤を基調としたメイド服なのだから。

だが彼女の持つ刀は古代級武器(エンシェントウェポン)の『霊刀ラングレン』といい、

それを持っているだけでも実力を窺い知ることは出来る。

 

「相手がなんだろうとこっちも勝つつもりだからな、ガチで行くぜ」

 

スィアチに強烈な一撃を決めて動きを止めたのは黒髪に赤い瞳を持ち、

赤のプレートアーマーと黒いジャケットに身を包む、両手斧使いのインプの男性で名を『ロスト』という。

彼が持つ両手用の斧も古代級武器で銘を『魔斧コンカラー』といい、このことから彼も相応の実力者だと窺える。

 

「それでは、行かせていただきます!」

「覚悟しやがれよ!」

 

メラフィとロストはガルムとスィアチにそれぞれの向かっていき、プレイヤー達と共に戦闘を再開した。

 

 

 

 

「せぇやぁぁぁっ!」

「おおおぉぉぉぉぉっ!」

 

メラフィは気合いの篭った声を発しながら刀を振りかざし、ガルムと接敵した瞬間に斬り裂いた。

ガルムも雄叫びを上げながら駆けていたが、メラフィに噛みつこうとした瞬間に彼女の姿がブレ、

メラフィは高速で飛翔しながらそのままガルムの体を斬り裂いていたということだ。

 

「まだまだですっ!」

 

さらにメラフィはすれ違い様に刀で斬り裂いていたところを途中で深く突き刺した。

続けざまに刀を引き抜きながらガルムの背に乗ると幾度も刀で斬りつけた後、刀の3連撃ソードスキル《羅刹》を使用する。

その時、炎と風が刀から巻き起こり、追加でそれなりのダメージを与えた。

 

「図に乗るなよ、羽虫っ! ぜあっ!」

「くっ!?」

 

しかし、技後硬直により行動が停止したところでガルムが空中で回転し、メラフィを背中から落とした。

さらに落下する彼女に向けて尾が叩きつけられ、メラフィはそのまま森に吹き飛ばされた……が、

空中で体勢を立て直すとそのまま着地してみせた。

そして着地の反動を利用して空中に再び舞い戻り、ガルムに向かって行く。

 

「この程度、キリト殿の割と本気な13連撃OSSの《スターダスト・クロス》に比べれば、

 痛くも痒くもありません……ええ、そうですとも、あの強烈な連撃の恐怖に比べれば…」

 

ALOには違和感はあれども痛覚はない、それは百も承知のはずだがさらに付け加えてキリトのことまで話しを持ち出す。

彼女、実は天然の気があり、しかも以前にキリトに手合せを依頼した時のことが尾を引いているのか、思い出して怯えている。

いやしかしキリトを相手にしてトラウマを植え付けられているのは仕方が無い……いや、マジで…。

 

「って、違いました!? なんにしても、この程度では負けません! やぁっ!」

 

すぐさま気を取り直してメラフィは空を駆けながら詠唱を行い、

レイドパーティーと戦闘を繰り広げて動きの止まったガルムに向けて魔法を放った。

火弾を幾つも生み出して敵に向かって放つ魔法の《ファイアショット》であり、放った火弾の数は10を超えている。

魔法の熟練度が高ければ高いほど数が増え、10以上という数は相当な練度の証拠である。

彼女が放った火弾は速さがあるため、ガルムに見事的中して爆炎を上げた。

 

さらに距離を縮めつつ、新たな魔法を使用する。

風の刃を幾つも形成して標的に向けて放出する魔法の《エアカッター》であり、こちらも作り出した数は10を超えていた。

こちらもガルムにダメージを与えることには成功したが、

《ファイアショット》の使用後ということもあり命中したのは2つだけだったがダメージを与えることはでき、

再び駆け出そうとしたガルムに追いつくことを可能とした。

 

「ふっ、はぁっ!」

 

素早く刀のソードスキルで斬り掛かるメラフィ。

刃だけでなく炎と風も混ざった一撃一撃が強力なものでガルムに多くのダメージを与えていく。

それもそのはず、火属性は聖属性に並ぶガルムの弱点属性であるのだ。

冥界、死者の国の番犬だからこそともいえる。

 

そしてメラフィの赤い刀身を持つ古代級武器『霊刀ラングレン』にはある特殊効果が付加されている。

その効果は『ソードスキル発動時に火属性と風属性が付加される』というもので、

ソードスキルに元々付加されている属性+火属性&風属性ダメージが発生することになる。

古代級武器とはいえこれほどの能力ならばかなりの性能だろう。

加えて、彼女がこの武器を扱えるだけの実力は周知のものなのだ。

 

「すげぇな、あの姉ちゃん…」

「アレがサラマンダーの戦姫か…」

「【烈火の戦姫】メラフィ。サラマンダー領の新星でユージーン将軍に一目置かれているっていう、あの…」

 

レイドパーティーの中で彼女の戦いに魅せられている者達がそう呟いていく。

彼らが話している通り、メラフィは現在サラマンダー領にて注目を集めている新星である。

実力は確かなもので前述にある通りユージーン将軍に一目置かれ、同じくキリトとも一度だが刃を交えている。

また【黒魔の戦姫】の異名を持つカノンとは【二大戦姫】として評されることもある。

しかし、ガルムの巨体の隙を突いて攻勢に出ているメラフィだが彼女の本領は別にあり、いまその瞬間を垣間見る。

 

「小賢しいぞ、小娘ぇっ! らぁっ!」

「甘いですわ……シッ!」

「ぬぅおっ!?」

 

ガルムが自身の周囲を飛び回るメラフィを標的に毒の効果を持つ前脚で攻撃を行おうと彼女目掛けて振り下ろした。

だが、メラフィはそれを掠めるか否かというギリギリで舞うように回避し、さらには回避しながら刀で前脚を斬り裂いていく。

ガルムの前脚を斬り裂きながら彼の背後へ回ると今度は刀のソードスキル《辻風》を使い、

刀の付加効果と共にそのまま背中を斬り裂いた。

 

「ぐぅっ!?」

「怯んだぞ! 一斉にかかれぇっ!」

「この隙を無駄にするなぁっ!」

 

ついに発生した怯みを好機と判断したレイドパーティーのリーダー達は指示を飛ばして攻撃を行う。

魔法や弓による遠隔攻撃がガルムを覆いつくし、それが終わるとすぐさま近接武器による一斉攻撃が行われた。

遠隔攻撃を行いながら離れていたメラフィも即座に攻撃を再開し、刀による乱舞を披露する。

そして、刀を鞘に収めながらガルムの眼前に来ると真紅に輝くそれを勢いよく抜き放ち、技を放った。

 

オリジナル・ソードスキル(OSS)《紅蓮旋嵐》!」

「ぐおぉぉぉっ!?」

 

抜刀からの一撃に始まり、“突き”と“斬り”を合わせた複合型の9連撃OSSが発動し、

刀の効果も相まって刃と炎と風による嵐が巻き起こりガルムに大きなダメージを与えた。

6本目のHPゲージが全て減少し、5本目となった……だがそれは、この直前に北方階段にて発生した出来事と類似することになる。

 

「どうやらオレは思い違いをしていたようだ……お前達はオレを十分に楽しませてくれる存在らしい!

 手を抜いたことを詫びよう、故に死に晒せぇっ!」

 

ガルムは倒れた体を起こして立ち上がると咢を大きく開いて瘴気を溜めた。

その様子を見てメラフィやプレイヤー達はブレスが来ると判断し、態勢を整えようとした次の瞬間、

ガルムは瘴気を空中に向けて放った。

すると空中で瘴気の塊が弾け飛び、大きな塊となりプレイヤー達に襲い掛かってきた。

 

さらにガルムの前脚と後脚に毒の瘴気が集うと飛び上がり、着地と同時に毒の衝撃波が駆け廻り、

加えて衝撃波が過ぎ去った場所の各所から毒の間欠泉が沸き起こりプレイヤー達に大きな被害を与えた。

 

「なんて攻撃を…!」

 

周囲が攻撃で甚大な被害を受けて態勢が崩れた中、メラフィは健在だった。

彼女は降り注ぐ毒の塊を魔法で防ぎ、毒の衝撃波はソードスキルによる属性攻撃で防ぎ切ったのだ。

咄嗟の判断とはいえ無事に済んだことは僥倖である……だが、これはこの戦線そのものの崩壊を指しても過言ではない。

なにせ、ここもまた同じ出来事が襲うのだから。

 

僅かに離れたスィアチとの戦いにも影響を繋げる。

 

 

 

 

メラフィがガルムと戦い始めた時、ロストもスィアチと戦闘を開始していた。

 

「ふぅんっ!」

「うおらぁっ!」

 

宙を駆けるロストに向けてスィアチは的確に拳で殴りかかってきたが、彼は愛用の両手斧を振るい向かってきた拳にぶつけた。

拳と斧がぶつかり合ったことで衝撃波が発生したが、お互いにすぐさま態勢を立て直して再び拳と斧をぶつけ合った。

普通ならば数撃それを繰り返しただけで武器の方が砕け散るだろうが、そこはやはり彼の扱う古代級武器にあるだろう。

『魔斧コンカラー』、“征服者”の意を持つこの斧の硬度は並ではないといえる。

 

「良き斧の使い手だな、ならば我も斧を使うとしよう」

 

そこでスィアチが地面に手を付けるとゆっくりと地面が盛り上がり、土で出来た斧が完成してそれを手に持った。

巨人であるスィアチに合わせている為、斧も巨大なものであるがロストは驚くことも怯むこともなく、振り下ろされる斧を捌く。

スィアチの土斧を回避して側面を叩き斬り、さらには敢えて真正面から自身の斧でぶつけることで防ぐ。

それを十数合重ねた時、スィアチの斧にピシッという音と共に罅が入った。

 

「どぉりゃあぁっ!」

「むぅっ!?」

 

それを好機と判断したロストは両手斧の単発ソードスキル《グランド・ディストラクト》を使用した。

その強力な一撃によってスィアチの斧は一気に砕け散り、それによって怯みが発生する。

ロストの技後硬直とスィアチの怯み、どちらも僅かな秒数だがこの戦いは集団戦であるため、軍配はロストの方に上がる。

 

「今だ、ヤレ!」

「あの青年に続けぇっ! あたし達もやるわよ!」

「弓部隊、撃てぇっ!」

「続けてメイジ部隊、ファイアーッ!」

 

ロストの言葉に応じてレイドパーティーの指揮官達は即座に周囲に指示し、行動を起こした。

近接部隊の女性指揮官はプレイヤー達を連れて接近を開始、弓部隊が矢による攻撃を行い、

続けてメイジ部隊が遠隔魔法を斉射、それが終わると近接部隊が各々の武器でスィアチに攻撃を行った。

そして技後硬直が解けたロスト、怯みから解放されたスィアチが攻撃を再開する。

 

「「おおおぉぉぉぉぉっ!!!」」

 

ロストの斧とスィアチの拳による剛撃がぶつかり合い、再び衝撃波が発生するがその威力は先程よりも増している。

衝撃波が発生する度に周囲でまだ生きている邪神型Mobとそれと戦闘を行っているプレイヤー達にも影響を及ぼした。

だがどのような戦いにも拮抗が崩れる時は必ず訪れ、それがここで発生する。

 

「であぁぁぁっ!」

「ぐっ!?」

 

ロストは両手斧の3連撃ソードスキル《アルティメット・ブレイカー》を放ちスィアチの拳を弾いた。

ボスゆえに完全なスタン状態にはならないものの僅かなスタンを起こすことは可能であり、その状態がここで起きることになった。

そこを再び他のプレイヤー達が援護攻撃を行い、ダメージを与えていく。

しかし、どれだけの攻撃を与えてもダメージの総量は良いとは言えない、スィアチ自身の防御力が高いのだ。

さらにクリティカルポイントも目立たないため、決め手に欠ける。

 

「このままでは不味いですね、彼だけにヘイト役を任せているようなものです」

「しかも俺達が攻撃を仕掛けるタイミングじゃ怯みもスタンも解けちまう」

「武器は我々も古代級武器とはいえ、大きな一撃を与えるのは厳しいですね」

 

レイドパーティーのリーダー達は一度近づいて言葉を交わすが現状は良くない。

ロストがただ1人でヘイト役を担いながらスィアチの攻撃を捌くなど無理があるのだ。

だからこそ、彼らはそれを打破するために集まり、判断した。

 

「こうなりゃ、やるしかねぇな……おい、お前ら! 俺達でヘイトを稼ぐぞ!

 あの兄ちゃんにばかり任せておいて、恥ずかしくねぇのか!?」

「リーダーの言う通りだ、俺達も行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

近接部隊が前に出てロストの援護を行う。

 

「兄ちゃんは一度下がれ! 俺達でヘイトを稼ぐから兄ちゃんは弱点っぽいところに一撃を頼むわ!」

「あ、おい…!」

「いまは後退をお願いします。ソロプレイヤーである分、アナタは動きやすいはずです」

「分かった、タイミングを見計らってから仕掛けるぜ」

「ええ、サポートします」

 

ロストは前衛から一度下がり、入れ替わりで近接部隊が前に出た。見事な連携でスィアチの攻撃を躱していく。

ただ回避するのではなく、飛行で視線を掻き乱しながら個々でヘイトを稼ぎ、標的にされればまた新たなメンバーがヘイトを稼ぐ。

可能な限り攻撃と魔法を行い、ダメージを与えることも忘れない。

そして、メイジ部隊が準備を整え終えた。

 

「全メイジ部隊、大規模魔法準備完了! 前衛部隊に撤退の合図を!」

「了解!」

 

撤退指示を促す魔法を空へ上げると前衛部隊が後退し、それが終わった瞬間にメイジ部隊が大規模魔法を放った。

 

「ぐおぉぉぉぉぉっ!?」

 

炎が、風が、土が、水が、氷が、闇が、光が襲い掛かり、スィアチに痛烈なダメージを与えて怯みも加わる。

それに機を見出したロストは一気に飛び抜け、彼の行く先を援護するように弓部隊が射撃を行う。

ロストはスィアチの背後に回り込み、首の付け根に向けて技を放つ。

 

「ソードスキル《ダイナミック・ヴァイオレンス》」

「ぐあぁぁぁっ!?」

 

両手斧の奥義スキルである4連撃ソードスキルが決まり、

どうやら人と同じで急所に近い場所であったからかクリティカルポイントだったようだ。

かなりの勢いでHPゲージが減少して残り6本となっていたHPは5本となった。

 

「あの兄ちゃん、決めやがった!」

「さすがは【鮮血の鬼神】と呼ばれるだけはありますね」

「豪快な斧使いだ」

 

HPが削れたことでレイドパーティーの士気が上昇した。

このまま攻め続けよう、リーダー達やプレイヤー達の意識が統一された瞬間、彼は動き出した。

 

「よもや我をここまで追い詰めるとは、これ以上の出し惜しみは失礼に値するな……では、括目して見よ、妖精達よ! かぁっ!」

 

スィアチは両の掌を合わせてから手を開き、地面に両手を付けた。

すると地面から土で出来た無数の棘が塔のように生えていき、レイドパーティーに襲い掛かった。

その一撃は凄まじく、ほぼ一撃でHPが消し飛ぶという大惨事だ……結果、レイドパーティーは壊滅寸前になった。

それは空中に居た者達も同義であり、その高さまで棘が及んだのだから。

 

「チクショウッ! 折角HPを削れたのにこんなことが…!」

 

スィアチの背後に居たからこそ無事で済んだロストだが、

逆を言えば自身がHPを削ったことで発生した惨状に苦虫を噛み締める思いをする。

それでもいまはそんなことを考えている場合ではないということも理解している。

 

だが、惨劇は終わらない…。

 

 

 

 

スィアチの元に巨体を持つ黒い影が走り寄ってきた、ガルムである。

レイドパーティーの多くを蹴散らした彼は包囲網を破壊してここまで走ってきたのだ。

 

「やるぞ、スィアチ!」

「上手く合わせろ、ガルム」

 

ガルムがスィアチの前に四足のままある方向を睨みつけ、スィアチもまた彼の後ろで同じ方向を見据える。

そしてガルムの咢が開いてそこに瘴気が充満し始め、スィアチは両手を上に掲げるとそこに巨大な石塊が形成されていく。

 

「おい、待てよ……そっちには…!」

「ダメ、間に合わない…!」

 

ロストはコンカラーを振りかざしながら、ガルムを追いかけてきたメラフィはラングレンを抜き放ちながら2体に向かう。

しかし、あと寸でのところでそれは無意味となった。

 

「「《ヘルズキャノン》!」」

 

スィアチが巨大石塊を投げ飛ばし、それに向けてガルムの毒ブレスが吐かれ、

毒を纏った石塊は“投げ”と“ブレス”の勢いのままに直進していった。

その先にあるのは南方階段であり……着弾した。

凄まじい爆音と衝撃が発生し、着弾箇所は煙に包まれた。

煙が晴れた先にあったのは、南方階段の防衛拠点の残骸とむき出しになった階段のみであった。

 

「任務、失敗…」

「マジ、かよ…」

 

呆然自失となるメラフィとロスト、それに生き延びたプレイヤー達。

最早この地での防衛に意味はない、現にスィアチとガルムは既に南方階段へと向かっているのだから。

だから2人は、例え敗北しようとも彼らの侵攻を遅らせるためにそのあとを追った。

 

この出来事は北方階段陥落の直後であり、重要防衛拠点の一角である南方階段の陥落は上部を危険に晒すこととなる。

 

 

 

――アースガルズ

 

「ガルムが相当に暴れているようだな……面白いではないか、なぁブラギよ」

「スィアチも共に行動しているようですよ、テュール」

 

アースガルズにて戦の準備を整えている2人の男神。

1人は軍神である『テュール』、もう1人は詩の神の『ブラギ』である。

それぞれが北欧神話にてガルムとスィアチに対して因縁があり、それがこの最終戦争を以てして終わるということなのだ。

 

「どのような展開になろうとも俺はただ戦うのみ……軍神としてな」

「スィアチが私の妻であるイズンを狙う以上、私も可能な限り戦いましょうとも」

 

憂いなくどこか清々しいのはテュール、妻の為にと戦場に立つブラギの胸中はどのようなものか。

行く末は神すらも知らぬ…。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

今回は南方階段が陥落しました・・・ここまでくればこのあとの展開も大体読めてしまいますね(苦笑)

 

加えて戦闘も似たような展開になってしまいますがそれでも読んでくだされるのであれば幸いです。

 

さて、今回登場した『メラフィ』と『ロスト』もユーザー様のアバターです、ありがとうございます。

 

今後の戦闘でも登場しますのでここで負けたからと言って気落ちしないでくださいね。

 

それと前回で『ソール』と『マーニ』が出たように今回は『テュール』と『ブラギ』を登場させました。

 

彼らの登場は今後の戦闘でも大きくかかわってきますので是非覚えていてください。

 

それにしても今週のアニメ『ソードアート・オンライン』も面白かったですね。

 

トールの声優さんが某親方様だったのがピッタリ過ぎて笑えましたw

 

クラインはめげないでスクルドにアタックするという・・・良くやるわと思いますw

 

それでは次回もお楽しみに!

 

 

 

 


 

 
 
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