時間というのは、肯定しようがしまいが進み続けるもの。嬉しいことがあれば短く感じ、嫌なことがあれば長く感じるのは誰にだって一度ぐらいはその経験があるだろう。いきなり何を言っているのかと思われるが、出来ればアスベル自身も目の前に映る光景から目を背けたかった。
「で、朝っぱらから何やってるんだ?」
「肩車しろと脅されました。」
「脅してはいない。平和的なお話。」
「どっちかというとOHANASHIなんだが……すみません、なんでもないです。」
特別実習の出発日………予定よりも一時間早く集合場所に来たアスベルが見たものは、ルドガーに肩車しているフィーの姿であった。この二人の戦闘スタイルからすればお似合いだが、どっちかというと相棒みたいな感じであり、お互いに恋愛感情はないと断言している。
ルドガーの側からすれば、『一人増えると三人の餌食になる』という状態だ。何が?……“蒼の深淵”“鋼の聖女”“殲滅天使”相手なんて勘弁してほしい。で、何が原因かといえば、単純にフィーの気まぐれでもあるのだが……この二人、フィーが団にいた際にやりあったらしい(銃撃戦的な意味で)
「まぁ、一人前のレディには努力が不可欠だな。」
「で、何やってんの?」
「……ばすとあっぷたいそー」
「自分の部屋でやりなさい。」
フィー自身の気持ちは解らないでもないが、もう少し位慎みを持ってもいいのではないかと思う。それは彼女の“親”の問題なので横槍を入れるつもりはない。フィーがルドガーの肩から降りて三人で待っていると、フィーを探しつつ降りてきた女子―――Ⅶ組の委員長であるエマであった。
「あ、ここにいましたかフィーちゃん。それと、おはようございます。」
「おはよう、委員長。」
「おはよう。」
「それにしても、フィーちゃんが珍しく早起きでしたね。今後も続けてみませんか?」
「気が向いたら。」
とりあえずホンワカな空気なのだが……それをぶち壊すように来たのはマキアスとユーシスの二人。仲が悪いと言いながらも同時に降りてくるあたり、意地の張り合いというか、同族嫌悪的な空気を感じずにはいられなかった。
「おはよう、マキアスにユーシス。」
「……アスベル、この際だから言っておくが……何で手を抜かなかった。」
「は?ユーシス、この人が言っている意味が理解できないんだが?」
「まぁ、仕方あるまい。副委員長殿は粘着質だからな。」
「なっ!?」
実力テストだって評価の対象だ。マキアスにしてみればその辺りの事情を汲み取ってくれるものだと思っていたようだ……容赦なくやりやがったので、裏疾風で気絶させた事情があるのだが。一方、ユーシスのほうは冷静に判断するだけの余裕があるようだ。
「いや、何でユーシスに聞いたんだよ……」
「同じ模擬戦で戦った相手だからかな。」
「あはは………」
「ふぁ……」
「おはよう……って、もうみんな揃ってるのか。」
すると、そこに姿を見せたのはリィン……これでA班全員が揃ったので、装備の確認を行った上でトリスタ駅に行くと、B班の方も出発のために改札前に集合していた。挨拶を交わすものの、顔を合わせようとしないマキアスとユーシス……これには一同冷や汗ものだが。
「そういえば、B班はセイルティアスだったか……確か、列車を乗り継いで4時間半ぐらいだったかな。」
「ええ。ヘイムダルで乗り継ぎになるけれど……セントアーク経由の直行便でないと行けないというのには不便よね。」
「一応オルディス経由でも行けるけれど、そっちの場合は8時間かかるからな。」
「乗ったことがあるのか?」
「まあな。ちょっとした用事のついでだったけれど。」
鉄道網の関係で費用的にはその方が安く済むという面もある。その背景にあるのはリベールにおける鉄道運賃のエレボニア側との開きだ。定期飛行船で行けなくはないが、その分割高になる。他愛ない話をしている傍でガイウスがリィンに対して二人のフォローを頼むようにお願いをしていた。……フォロー云々というよりは、当事者同士の“身分”に関わる問題なのだが。
「それじゃ、そっちも気を付けてな。」
「ええ、そちらもね。」
ともあれ、乗る列車が来たのでB班が先に出て……その数分後にリィン達A班もケルディック経由バリアハート行き列車に乗った。今回は7人メンバーなので、リィン、マキアス、ユーシス、エマ、フィーの5人とアスベル、ルドガーの2人に分かれて席に座る。……嫌なのなら、顔を合わせにくい場所に座ればいいものの、どちらも窓側に座っているのが何というか……
「と、とりあえず今回の実習のおさらいをしますか。」
「ユーシス、折角だからバリアハート市について説明してくれないか?」
「説明してやってもいいが、どうせならそこにいる優秀な男に説明してもらった方がいいんじゃないか?貴族の目線で語るより、さぞ批判的で気の利いた説明をしてくれるだろうさ。」
「………くっ……僕が、イデオロギーに歪み、凝り固まった物の見方をしていると言いたいのか?」
リィンの問いかけに対してユーシスは皮肉めいた感じでそう答えを返す。この言葉に面白くなさそうな表情をするマキアスはその言葉に噛みつくように述べた。実際、そういう答え方をすれば多くの人がそう答えを返しそうなものだが……それに臆することもなく遠回しながらも皮肉めいた感じでユーシスが言葉を続ける。
「いや、何しろ入学試験で次席を取っている優等生殿だ。加えて、脇目も振らぬほどの日頃の余裕のない勉学ぶり。さぞ教科書的な知識は豊富に取り揃えているだろうと思ってな。」
「………ッ!!!」
この言葉にマキアスも我慢ならずに立ち上がり、エマも慌てるが……これを見たリィンはこう切り出すようにはっきりと告げた。
「―――成程な。道理で先月の実習は散々な成績だったという訳か。」
「な、何だと………!?」
「………」
「リィンさん…?」
「先月のB班の実習評価は“C”……可もなく不可もなくだが、問題はその実習内容。その殆どの解決をルドガーとフィーがこなしている点。それがなかったら“E”評価もおかしくはなかった。また同じことを繰り返すつもりなのか?」
リィンのこの言葉は事実であった。問題解決を殆ど二人に任せている以上“班”としての行動ではない。特別な事情によって身分や立場が違う者同士が集められた<Ⅶ組>である以上、根本的な考え方が違うのは当たり前である。その言葉を聞いたアスベルは、リィンに続くように言葉を述べる。
「俺達は士官候補生―――ひいては“軍人”という枠組みから言えば、組織で行動する上でそう言った個人的感情は任務に支障をきたす……まぁ、それは置いておくとしても、数日間は紛れもなく“仲間”である以上は諍いを起こすのは宜しくない……それぐらいは解ってるんだろう?」
「冗談じゃない!誰がこんな奴と仲良く―――」
「“友人”じゃなくて、同じ時間と目的を共有する“仲間”だ。露骨に言ってしまえば、ラウラやガイウスたちのB班に負けないための“仲間”なんじゃないのか?」
「へ―――」
「リィンさん?」
「………勝敗に拘るタイプだとは思わなかったが。」
そして、マキアスの言葉に対してリィンがそうはっきりと述べると、エマは感心し、ユーシスに関しては意外そうな表情でリィンの方を見ていた。
「はは、生憎勝ち負けが気にならないというほどに達観できているわけじゃないよ。委員長やマキアス、ユーシスたちの成績は正直羨ましいし……―――正直言って、この間のアスベルとの勝負だって正直、悔しくて仕方がなかった。」
「あ……」
「フン………」
同じ学生とはいえ、数の不利を覆して勝利しているアスベル。リィンの言葉に思うところがあるようで、マキアスとユーシスの二人も押し黙った。ふと、エマがこの間の事に関して率直な疑問を述べる。
「えと、見た感じでは、リィンさんはアスベルさんと互角に打ち合えていたような……」
「ううん……あれ『手加減』してたんでしょ、アスベル?本気出したら、私の“知り合い”と互角以上だし。」
「―――否定はしない。『加減なし』でやるんだったら、リィン位の相手なら“奥義”を使ってでも叩き伏せていたからな。」
「うっ……戦った相手にそう言われると流石に凹むんだが……」
「誰だって通った道だ。俺だって、父親やユン師匠に散々叩きのめされてきたんだから。」
「そうだな……俺もそういった経験があるから良く解るよ。」
戦闘経験がこの班の中では多いアスベルとルドガー……彼等の事をよく知るからこそ、かなり心に突き刺さる言葉にリィンは憂鬱そうな表情を浮かべる。これにはバツが悪そうにしつつもアスベルとルドガーがそれぞれ言葉を述べる。まぁ、ルドガーに関してはその相手が“枠外”のようなものだが。
ともあれ、B班のアリサ、ラウラ、ステラ、エリオットは先月の実習で同じ班。ガイウスに関しても誰とでも合わせられる大らかさを持っている。先月のような状況が続けば、評価の差がどうなるかは頭のいいマキアスやユーシスにもすぐに解ったようで、マキアスはそのまま席に座った。
「そこまで言われたら協力するしかないだろう!?少なくともこの実習が終わるまでは休戦する―――君もそれでいいな!?」
「いいだろう。こちらとて負け犬になり下がる趣味は持ち合わせていない。そのくらいの茶番に耐える忍耐力なら発揮してやろう。」
「ぼ、僕の方こそ!」
「―――なんとかなったっぽい。」
「そうですね。先月よりもマシになりそうです。」
「だな。」
「「(いや、先月の実習はどんな感じだったんだよ?)」」
同じ班ではなかった面々―――リィンとアスベルにしてみればそれがどういった意味を持つのか計りかねていたというか、想像できなかった。ともあれ、今回の実習先―――バリアハートについて説明する。
クロイツェン州の州都にして<五大名門>アルバレア公爵家の本拠地。人口は30万人。“翡翠の公都”とも呼ばれ、特産物はミンクから採れる毛皮と豊富な七耀石や宝石資源。その影響は帝都であるヘイムダルにもバリアハート産の宝石を取り扱う店があるほどだ。その対象は専ら上流階級に属する人々なのだが。街の南側には職人街があり、良質な素材を一級品に仕上げる腕利きの職人たちが軒を連ねている。その品々の一部はリベールでも見かけることがあるのだが、それなりにいい値段をしている。
「それともう一つ。そこの男も言っていたが、バリアハートは基本的に“貴族の街”ということだ。」
領邦軍の大規模な詰所、職人街、大型飛行客船が停泊できる空港、大聖堂がある中央広場……あらゆるものがアルバレア公爵家を中心とした貴族社会のために形成されたものと言っても過言ではないということだ。そういったことを冷静に述べるユーシスに対して皮肉る様にマキアスが述べるが、
「フン、自分の実家の事を冷静に分析できているじゃないか。」
「事実は事実だからな。お前も先程の様なものも含めて挑発的な言動は控えるがいい。バリアハートはヘイムダルやトリスタとは違う……クロイツェン領邦軍の兵士にしょっ引かれたくなければな。」
「わ、解っている!それぐらいの分別位は持っているからな!!」
……本当にボロを出さないか心配なので、頭の片隅ぐらいには置いておきつつ……彼等の乗る列車は目的地へと着実に近づいていった。
さて、前回のコメント絡みで前作の小話を。
シオンの『銀の騎神』イクスヴェリアですが……当初は、リベールのカラーである白系にしようとおもったのですが、それだとヴァリマールと被るので却下。ただ、赤系と黒系は確実に来るだろうと思ったので除外し……結果的に銀色になりました。輝く環絡みだと金色にすべきだったのですが、何か目立つので銀色にしたという単純な理由です。属性の事は完全に考えていませんでしたが……幻属性ということで。
それに合わせてシオンのオーブメント属性も『水・時・幻』に変更します。ちなみにイクスヴェリアの武器はゼムリアストーン製(+α)のレイピア、製作者は……エプスタイン博士絡みの“あの人”と、武器職人である“あの人”です。え?材料はって?……アスベルの“特典”からですが(何
あと、星杯騎士あたりも閃Ⅱを基に修正しました。(オリ設定込みです)
○七耀教会封聖省所属星杯騎士団(グラールリッター)
<守護騎士(ドミニオン)>
第一位(総長) 紅の刻印
“
使役アーティファクト:???
・付従騎士 ????
第二位(副長) 漆黒の刻印
“
使役アーティファクト:???
第三位 紫碧の刻印
“京紫の瞬光”アスベル・フォストレイト
使役アーティファクト:天壌の劫火<アラストール>
・付正騎士 “赤朱の槍聖”レイア・オルランド
第四位 翠緑の刻印
“那由多”トワ・ハーシェル
使役アーティファクト:???
・付正騎士 “黒鋼の鍵姫(けんき)”セリカ・ヴァンダール
第五位 蒼の刻印
“千の護手”ケビン・グラハム
使役アーティファクト:魔槍ロア→聖槍ウル
・付従騎士 “夢幻の眼”リース・アルジェント
第六位 琥珀の刻印
“山吹の神淵”カリン・アストレイ・ブライト
使役アーティファクト:熾天使の輪<セラフィムハイロゥ>
・付正騎士 “天剣”レオンハルト・メルティヴェルス
第七位 白銀の刻印
“銀隼の射手(うちて)”シルフィア・セルナート
使役アーティファクト:氷霧の騎士<ライン・ヴァイスリッター>
・付正騎士 “神雷”ヴィクトーリア・エクセリエル
第八位 燈<あかり>の刻印
“吼天獅子”バルクホルン
使役アーティファクト:???
第九位 蒼金の刻印
“蒼の聖典”ワジ・ヘミスフィア
使役アーティファクト:古(いにしえ)の腕<アカシックアーム>
・付正騎士 “無明”アッバス
第十位 翠銀の刻印
“白露の孤狼”ライナス・レイン・エルディール
使役アーティファクト:震天の魂<ガイアフォース>
・付正騎士 “黎明の翼”ルフィナ・アルジェント
第十一位 鋼の刻印
“殉神”フィオーレ・ブラックバーン
使役アーティファクト:悪魔の影<ダークネスジョーカー>
第十二位 緋空の刻印
“氷玄武”????
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第25話 貴族絡み