No.731216

ソードアート・オンライン アクチュアル・ファンタジー STORY29 Good luck kids.

やぎすけさん

ベリルの呼びかけに、2人の主人公が目覚める

2014-10-19 19:26:05 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1199   閲覧ユーザー数:1162

前回のあらすじ

夜空の剣を取り戻し、それを使って街の外れに存在する巨大な柱フォースゲートを破壊したベリルは、キリトとデュオを救出すべく、空中で偉そうにしていた神(笑)に戦いを挑む。

あまりの巨大さにさすがに手こずるかと思いきやそんなことはなく、あっさりとボコボコにした。

その後ベリルは、コアがあると推測される場所に夜空の剣と自分の大剣を放り込み、内部にいる2人の少年に呼びかける。

その声は巨人の中に捉えられて眠っていたキリトとデュオの耳に微かに、しかし確実に届いていた。

 

STORY ⅩⅩⅨ Good luck kids.(グッド ラック キッズ)

 

 

 

キリト視点

俺は謎の空間を漂っていた。

辺りは真っ暗で何も見えないし、何も聞こえない。

 

キリト〈ここは・・・?〉

 

思わず呟くが声は出ず、何かの反応が返ってくることも無かった。

俺はなぜこんな場所にいるのだろうか。

曖昧な意識の中で思考するが、何も思い出せない。

ここがどこなのかも、何が起こっていたのかも、自分がどういう状態なのかも、さらには自分が誰なのかさえ、今の俺には理解が出来なかった。

ただわかるのは、ここでは何も感じないということ。

痛みも苦しみも無い、ただ何もない場所に俺の意識があるだけ。

ただ心地良い浮遊感が、今の俺を包んでいる。

俺はここにいたいという衝動に駆られた。

ここにいれば何も無い、傷付くこともなければ苦しい思いもしない、ただぼんやりと身を預けておけば良いのだから。

その時、突然どこから衝撃が疾り、俺のいるこの空間を揺るがした。

直後響いた何者かの声が、どこにあるかもわからない俺の耳に届く。

 

?「起きろキッズ。お目覚めの時間だぜ!」

 

聞き覚えのある声だ。

だが起きるとはどういうことなのか理解できない。

 

キリト〈俺は今眠っているのか?何で寝てるんだ?〉

 

急に鮮明になり始めた記憶を辿り、今までに起きたことを振り返る。

そして、全てを思い出す

再びデスゲームに囚われたこと、アスナを探してフォルス街を訪れたこと、アスナを救うためにデュオとともに教皇と戦ったこと、そして自分は今、教皇に捕捕らえられていることなど、全てを。

 

キリト「ア、スナ・・・」

 

無意識の中でアスナの名前を呟く。

その瞬間、身体を包んでいた浮遊感が消え、代わりに締め付けるような束縛感が襲ってきた。

 

キリト「うおおおおおお・・・!!」

 

獣のような唸り声を上げながら、俺は体を拘束しているものを引き千切ろうともがく。

右腕を拘束していた肉塊のようなものが千切れるが、それと同時にきつく締め上げられ、身動きが取れなくなってしまった。

俺はそれでも、必死に自由になったばかりの右手を伸ばす。

すると、指先に何か硬いものが触れた。

それは、俺に呼応するようにドクンと脈動を打つ。

俺は何かに引き寄せられるように手を伸ばし、そしてそれを掴んだ。

懐かしいような、馴染むような不思議な感覚を味わい、そこでついに俺の意識は完全に覚醒する。

麻痺にも似た感覚のぼやけが消え失せ、失われていた肉体が再構築されるかの如く五感が戻ってきた。

俺はしっかりと握った剣で、自分を拘束しているものを斬り裂いた。

清浄な空気が流れ込み、入れ替わりに俺の体は糸が切れた操り人形のようにその場から崩れ落ちる。

左右に首を振って目を開けると、そこは今までいた漆黒の世界はない。

得体の知れない肉塊で覆われた洞窟、といった感じの場所だった。

デュオ視点

不思議な浮遊感に包まれたまま、俺は昔のことを思い出していた。

俺が父親の顔を最後に見た時のことであり、俺が初めて人を殺した時の記憶だ。

不意にそれが消えると、今度はまた別の記憶がよみがえる。

俺が人を、そして自分を信じられなくなった原因であり、友達を作ることを避け続けていた理由。

自分が誰なのかさえよく思い出せない状況なのに、なぜこんなことを思い出しているのかはわからない。

 

デュオ〈忘れるな・・・って言いたいのか?〉

 

他の何を忘れてもこの記憶は忘れるなという意味なのか、それともただ人を殺したいという欲求の現れなのかは、今の俺にはわからなかった。

考えようとしたその時、突然後ろから衝撃が疾り、次いで声が響いてくる。

まだ記憶に新しい声だ。

 

?「起きろキッズ。お目覚めの時間だぜ!」

 

その言葉に、俺は途中だった思考を放棄して考える。

 

デュオ〈起きる?ということはまだ生きてるのか?〉

 

俺の意識が徐々に回復していき、完全になると同時に俺の中に凄まじい怒りを呼び覚ました。

 

デュオ「「絶対ニ許サナイ!!」」

 

浮遊感と入れ替わりに現れた拘束物を強引に引き剥がして、薄っすらと見える光の筋に向かって歩く。

近付いてみるとそこには肉の壁あり、その一ヶ所から剣の刃が突き出していた。

どうやら俺の見た光の筋は、この剣が肉壁を貫いた時にできた隙間から漏れたものらしい。

俺は剣を掴んで引っ張り、手繰り寄せたそれの柄を握る。

普段使っている剣と比べてもかなり重いが、決して振れないわけではない。

腕にずっしりとくるそれを大上段に構え、渾身の力をのせて一気に振り下ろした。

通常視点

キリト「デュオ!?」

 

デュオ「キリト!?」

 

いきなり肉壁を破って現れたデュオにキリトは驚きの声を上げた。

デュオも同様に驚いていたが、それを知ってか知らずかベリルの声が響く。

 

ベリル「お前らの番だぜ、坊やたち!」

 

叫んでこそいるが、いつもと同じ余裕を感じさせる話し方で続ける。

 

ベリル「早くお姫様を助けにいきな!王子様」

 

キリト「分かってるさ・・・」

 

キリトは右手に握り締めた夜空の剣をブンと音を立てて振り切ると、奥へ歩き出した。

 

デュオ「俺たちが終わらせる・・・」

 

ベリルの剣を握り締めてそう告げ、デュオもキリトに続く。

その眼には、すでに光はない。

一方、神の外側で2人を見送ったベリルは

 

ベリル「せいぜい楽しみな!」

 

ニヤリとした不敵な笑みを浮かべたままそう叫んだ。

 

ベリル視点

これでキリトとデュオは助け出した。

あとは放っておいても問題無いだろうが、お嬢ちゃんの記憶結晶はまだ俺が持っているので勝手に立ち去るわけにもいかない。

教団の施設で読んだ資料に書かれていた内容では、記憶結晶を抜き取られた人間は7日以内に確実に死亡するとあった。

お嬢ちゃんの写真が新聞に載っていたのは2日前だから、3日以上前に抜き取られていたのは間違いない。

ことによると、もうあと数時間しかないとも考えられる。

もしそうだとすれば、このまま神(笑)を野放しにしておくのはあまり良くない。

このまま放置して神(笑)が安全だとわかれば、教皇はキリトたちの迎撃の準備を整えるだろう。

それでもあの2人なら負けないだろうが、お嬢ちゃんを人質にされれば話は別だ。

もしそれで負けたりすれば、あの3人はまとめて逝ってしまうだろう。

別にお嬢ちゃんや坊やたちが何人死のうが俺の知ったことじゃないが、“救えたのに救わなかった”じゃ、目覚めが悪い。

それにせっかく見つけた“10秒以上も闘り合える”相手を、わざわざ変な小物にくれてやるのは面白くない。

 

ベリル「・・・仕方ない。もう少し付き合ってやるか」

 

そう言って塔の上から地上に飛び下りると、スカルリーパーを展開して身構えた。

そこへ、雄大な動作で振り上げられた神(笑)の剣が落ちてくる。

俺は手甲の前腕部に取り付けられたブレードを前方に突き出して、交差させる。

そして、

 

ベリル「オラァァァッ!!」

 

俺は笑いながら絶叫し、落ちてきた剣を真っ向から迎え撃った。

次の瞬間、ズガアァァァン!!という音を立てて、周囲に衝撃波が駆け抜ける。

大気が激しく振動し、地面が大きく震え、吹き飛ばされた粉塵が煙となって舞い上がる。

その中心で、俺は神(笑)の剣を受け止めていた。

交差させた刃に挟まれるようにして、巨大なクリスタルの刃は動きを止めている。

神(笑)が俺を押し潰そうと力が込めてくるが、俺は一歩も譲らない。

逆に打ち返そうかと迷ったが、下手に吹き飛ばしてしまうとキリトたちがシェイクされてしまいそうだ。

時間に余裕があればそれも面白かったのだが、何分こっちはタイムリミットが迫っている。

下手に刺激せず、適度にぶっ飛ばすのがベストだ。

ギギィと軋む手甲を引き戻し、間髪入れずにサイドステップで剣を躱す。

次いで振り下ろされた左拳に、取り出したばかりのフェイタルサイズを突き立てて拳もろとも上空に誘われる。

 

ベリル「こいつはいい。楽だし、眺めもなかなかじゃねえか」

 

とは言え、いつまでも呑気にぶら下がっているわけにはいきそうにない。

俺の行動に気付いた神(笑)が、俺を振り落とそうと手を振り回す。

俺はぶら下がった状態から身体を上方に跳ね上げた。

一度拳の上に着地し、そこからさらに跳躍して巨人の頭部に跳び移る。

神(笑)のドデカい眉間に、脚甲の踵部分から突き出した刃を突き立ててぶら下がった。

逆さまの体勢のまま腕を組み、フンと鼻で笑ってから小さく微笑む。

 

ベリル「Good luck kids(幸運を、坊やたち).」

 

まだ内部を進んでいるであろう2人の少年に、向かって俺は呟いた。

 


 
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