No.731152

IS×SEEDDESTINY~運命の少女と白き騎士の少年

IS勢よりも先に嫁のプロローグを書きます。

2014-10-19 14:07:13 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2495   閲覧ユーザー数:2418

プロローグ2 呪われた運命に捕らわれた少女

 

━━━それは、今から一年前のことだ。

 

━━━私はナチュラルの地球連合軍とコーディネイターのザフトとの間で戦争が起こっているとき、地球の中立国“オーブ“にいた。

 

━━━けど、ある時オーブを攻めてきた地球連合軍が家の近くを攻撃してきて、急いで避難している途中に家族がオーブ側の機体の流れ弾に吹き飛ばされて、私だけが生き残った。

 

━━━……オーブは、その理念を守り通したのかも知れないけど、私の家族は、守ってはくれなかった。

 

━━━家族の他に身寄りのない私は、コーディネイターだったことからプラントへ移住することになった。

 

━━━オーブには……もう戻りたくはなかった。

 

━━━その後、世界は平和条約で結ばれたけど、私はここである道を選択した。

 

━━━それがもっとも私に向いてるって言われたし、……他に何をやれって言うのさ。

 

━━━ただ、正しい道かも知れないって思ったから……

 

 

「戦争はようやく終わりを迎えました」

 

三十歳くらいの長い黒髪の男性が、教壇で演説を述べている。白い端正な顔は柔和だが、同時に周囲を引きつける存在感をすらりとした全身から放っている。現プラント評議会議長、ギルバート・デュランダルだ。

 

「ですが我々は平和への道を歩みだしたばかり。先の大戦のような過ちを二度と繰り返さぬよう」

 

そう、ここはプラントのザフト軍士官アカデミー。軍人になるために必要なことを学び、鍛える場だ。ここに立ち、そしてこのアカデミーの制服を身に纏っている私がいる。もう大切な人を失いたくないから、いなくなる悲しみを、味わいたくないから━━━

 

「君たちには新たな時代を創り、守っていく力となってもらいたい」

 

━━━だから私は、モビルスーツのパイロットになる。

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

狭く苦しいシュミレーション用のコクピットに閉じ込められた中、荒々しい息を吐き続けながら私はモニターに表示された結果をただ見つめていた。

 

【MISSHON COMPLETE】

 

その下には、クリアータイムが刻まれており、55分28秒の文字がチカチカと点滅していた。

アカデミーに入学してまだ日が浅いこの時期では、ごく当たり前の記録だ。実際隣のシュミレーション用コクピットから降りてきた女子生徒も簡単にはいかないとぼやいていた。

 

(まだ、脚がガクガクする……)

 

けど、そんな言い訳はしたくもない。一刻も早く、それこそこの時期の内に皆より抜きん出た成績を獲得し、卒業まで維持し続けなければならない。それぐらいないと、卒業後のザフト軍でエリートの証である赤を着ることなど夢のまた夢だ。

 

「うわぁ……すげぇスコア!」

 

「またあいつか……」

 

誰かが他のシュミレーターコクピットのスコアを見て感嘆の声を漏らしているのが聞こえた。同時に、脳裏に肩まで伸ばした金髪が特徴の少年の姿が浮かび上がって、苛立ちが込み上げる。

 

(チェッ、いつもいつも)

 

レイ・ザ・バレル。

それがアカデミー在学現在、入学の日から実技・座学、すべてにおいてトップの座に居座り続けている人物の名だ。

ある意味、目的を持つ自分の前に立ちはだかる堅く険しい壁にもなっている。

 

(だからって諦めるつもりはないけどね)

 

私が目標としているもの。家族を殺したフリーダムと言う機体のパイロットに復讐するというのもあるが、最優先すべきことは自分のような人を二度と産ませないことだ。

 

何も出来ないで、ただ家族を吹き飛ばされる瞬間を見ていることしかできない虚しさも、理不尽に大切な人を奪っていく奴らに対する憎しみも、命が消える瞬間を見せつけれる悲しみも。

感じるのは、私だけで十分なんだから━━━

 

 

宇宙の(ラグランジェ)5宙域に位置するプラント(P.L.A.N.T.:“P“roductive “L“ocati on “A“lly on “N“exus “T“echnology)は、母親の中で遺伝子操作を受けて生を受けたコーディネイターが中心となって作り上げた砂時計型をした新世代コロニーの総称で、プラント1基を1区、10区で1市とカウントしており、C.E.71年時点で全12市・計92基が存在していた。

神話で語られる楽園=ユートピアをイメージしており、太陽粒子・宇宙放射線遮断フィールド発生システムを外壁側に有する円錐状構造物の底面に位置する直径10キロ相当の面積が居住区であり、その約7割は水源(湖)で占められている。ゆえに充分な居住地帯を確保するにはサイズそのものを巨 大化させる必要があり、その景観はL5宙域にあるにもかかわらず地球上から肉眼で視認できるほどのものとなった。支点となるセンターハブを軸に回転する事で擬似重力を生み出し、地球上とほとんど変わらない 環境を確立。側面は多層超弾性偏光&自己修復ガラスで覆われており、その強度は高出力ビームの砲火数発にも耐えてみせたほど。気候は亜熱帯に設定。太陽光発電の変換効率が80パーセント強の世界ゆえに、中央のくびれ部分から伸びるシャフト先端の第1次ミラーで太陽光を受け、支点側の2次ミラーへ反射させて電力を蓄える事で全てのエネルギーをまかなっている。行程60キロにもおよぶ両端への移動は内部中心にそびえ立つシャフトタワー内のエレベーターが用いられ、その中間が宇宙港などの施設

地帯となっている。

本来、資金を提供した宗主国が作る“プラント運営会議“の支配下にあったが、コーディネイターはプラント開発に従事する者が多く、かつ宇宙生活者が大半だったため、プラントはコーディネイターという同胞意識を共有する人々にとって祖国のようなものとなっていた。しかしプラント理事国を含む地球各国側は“プラント=主権国家“とは認めていなかったため、度重なる強圧に耐えかねたプラント議会はC.E.70年2月18日に黒衣の独立宣言と徹底抗戦を明言し奪取、「プラントは我等コーディネイターの国である」とする強硬手段をとった。

その後、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦が終わりユニウス条約の前身となったナイロビ講和会議が開催されると、政治的独立と引き換えに武力放棄を迫った連合国(地球連合軍)に対し、スカンジナビア王国のリンデマン外相が提案した条件(通称リンデマン・プラン)をプラント(ザフト)が了承した事で、残る唯一の障碍だった『大西洋連邦との合意』を得て名実共に完全な自主権を獲得し“国家プラント“となる。それに伴い名称を“P“eoples “L“iberation “A“cti ng “N“ation of “T“echnology(科学技術に立 脚した民族解放国家)へと改名し、その景観を模してデザインした国旗も制定されたのであった。

 

 

架空シュミレーションによるモビルスーツ訓練を終え、制服に着替え直すと少女はアカデミーの校舎から学生寮へと向かっていた。

今日の架空シュミレーションにおける反省点、授業の予習、放課後の訓練スケジュール。そういったものを脳内で組み立てている中、とびきり大きな声が少女を深層から引きずり上げた。

 

「シン・アスカ!」

 

少女━━━シン・アスカはその場で立ち止まると声がとんできた方角に目線を向けた。声の主は、赤い髪とアホ毛が特徴のルナマリア・ホークだ。

 

「もう!さっきから呼んでるのに!」

 

どうやら彼女はシンがスケジュール編成をしている合間から呼び掛けていたらしい。

 

「何?」

 

少しの申し訳なさを感じながらシンは口を開いた。

 

「ねぇ、今日の夜、暇?ちょっと付き合わない?えっと……」

 

「お姉ちゃん!」

 

「メイリン!」

 

たったったっ、と足音を立てながら走り込んできたのはルナマリアと同じ赤い髪をツインテールにした、シンたちより幼さが残った少女だった。

 

「あ……こんにちは」

 

「う……うん。こんにちは」

 

“お姉ちゃん“。という単語に一瞬だけ心臓を握り締められた感覚を受けたものの、表面上はどうにか冷静を装って少女の挨拶を返した。

 

「あ、“妹“のメイリン。情報科なの」

 

(“妹“……)

 

その言葉に今度は胸を締め付けられるような感覚に襲われる。

 

「ちゃんと人数揃えてくれた?」

 

「もう……わかってるわよ!」

 

「じゃ、後でね!」

 

淡々と流れていく姉妹の会話にシンはただ傍観者として外から眺めることしかできなかった。胸の痛みは、そのたびに強くなっていく。

 

「も~あの子は……いくつになっても手間のかかる妹だわ!」

 

「…………」

 

走り去っていくメイリンを遠くからあきれた溜め息混じりの文句を垂れるルナマリア。どこか羨ましく、そして煩わしく感じながら、シンは次の言葉を待った。

 

「今日はね、クラスの小の誕生日なんだって。それでね、パイロット科にも声をかけるように頼まれたの」

 

「ふぅん……」

 

この時点でルナマリアがシンに声をかけてきた理由をようやく理解した。つまりその誕生日に自分もどうか?と聞きに来たのだろう。

だがシンの答えはもう決まっている。

 

「こういうの……あんまり好きじゃないかな?どう?行く?」

 

「……ごめん。やめとく……」

 

元々人付き合いの苦手なシンは、この手のイベントにさほどの興味もない。昔はこうではなかったと思うが、少なくともあまり親しみのない人の誕生日を祝う気にはなれなかったのだ。

 

「……そっか。じゃ、また今度!」

 

シンの心情を悟ったルナマリアは、それ以上何も言わずに素直に立ち去っていった。

 

 

学生寮に割り当てられた二人部屋のベッド。その上でシンは制服から着替えることもせず、折り畳み式のピンク色の携帯電話の待ち受け画面をただぼーっと眺めていた。

 

『お姉ちゃん。あのね……誕生日のプレゼントはケータイがいいなぁ!』

 

この携帯電話は、元々は妹が九歳になった誕生日のプレゼントとして両親が買い与えたものだ。携帯にそれほどの執着心もなかったシンも誕生日が来たら両親に頼もうかと考えていた。

だが、もうこの携帯電話が持ち主の元に返ることは永遠に無い。

妹は━━━マユはもう、どこにもいないのだ。

 

 

 

『ねぇ、お姉ちゃん……あたらしい学校は楽しい?』

 

シンの意識が暗くなっていった先には暗い闇の底があり、冷え切った空間の中からマユが尋ねてくる。あの時と同じ、ひまわりのような明るい笑顔を浮かべながら……

 

━━━ううん……別に。

 

『マユ知ってるよ!お友達できたんでしょ?』

 

友達……ルナマリアのことを言っているのだろうか?確かに面倒身の言い彼女とは他と比べればそれなりに会話もするし、構ってくれたりはしている。けれども、それが友達と言えるのかどうかはシン自身、わからなかった。

 

『ねぇ……マユも一緒に行っていい?』

 

━━━ダメだよ……軍の訓練学校なんだから。

 

マユが静かに持ちかけた提案を、シンは即座に一蹴した。

 

『大丈夫!お姉ちゃんと一緒に行くから』

 

━━━……ムリだよ。マユには。

 

『どうして?』

 

俯いた顔をのぞき込むようにして問い尋ねてくるマユに、涙が溢れようとする瞳を閉じた。

 

━━━だって、マユは……

 

 

 

【もうここにはいないもの】

 

 

 

 

 

 

 

シュン……

 

自動式の扉が横に移動し、そこから光が差し込んだ。相部屋の女子生徒が誕生日会から帰ってきたのだろう。あれ以上先の悪夢を見たくなかったシンにとっては、このタイミングはありがたかった。

 

「ん……」

 

「あ……ごめん。起こしちゃった?」

 

相部屋の女子生徒……名前は覚えていないがとにかくその人物はすぐに扉を閉めて光を遮った。

 

「アスカさんも来ればよかったのに。けっこう盛り上がってたよ?」

 

大きなお世話だと思う。第一、知らない人たちと盛り上がったところで何が楽しいのかいまいちよくわからないし。

これがもしルナマリアとかだったのなら、まあ考えてもよかっただろう。

 

「ん?何これ?」

 

女子生徒が拾い上げたものが視線に入ると、ぼやけていたシンの意識が一瞬のうちに覚醒した。妹の携帯がその手に握られていたからだ。

 

「コレってもしかしてアスカさんの?意外とファンシーな趣味して━━━」

 

「触るな……!!」

 

刹那、女子生徒は瞬時に起き上がったシンの少女とは思えない身体能力で反対側のベッドに抑えつけられていた。

彼女が一体何が起きたのか理解したのは、シンが携帯電話を奪い返してからだった。

 

「あ……ごめんなさい。何か、大切なものだった……?」

 

怒っているような、泣いているような、それとも恐れているのか、うまく読み取れない表情を付けていたシンは、携帯電話を片手に部屋を飛び出した。取り残された女子生徒は、その背中に申し訳なさを送りつけていた。

 

 

学生寮の屋上に訪れたシンは、肩で息をしながら人工の空を仰ぐと、次に鋼で築き上げられた大地を見下ろした。

 

(何か、大切なものだった……?)

 

脳の中で先ほど女子生徒が口にした言葉が再生される。確かにこれは大切なものだ。あの日、家を焼き払われ、家族を殺された中で、たった一つだけ残された“形見“なのだから。

 

(……わかるものか)

 

だからこそ、何も知らない人間にそんな風に言われることには我慢できなかった。

 

「ゥ……ァァ……ッ」

 

声にすらならない獣じみた呻き声をあげる中、うっすらと涙を流しながらシンは携帯電話を胸に包んでから体を丸めた。

 

(私以外の誰も、わかるものか)

 

何も知らない奴にそんな風に言われるのはシンにとって屈辱以上の苦痛だ。

可哀想だとか、つらかっただろうもか、そんな情けはかえってうざったらしかった。

 

━━━わかって……たまるか!

 

 

翌日。前回と同じ架空シュミレーションを今日最後の授業として設定されたパイロット科は一斉のどよめきの声を上げた。レイが昨日更新した新記録を自ら塗り替えたからだ。しかし、驚きはそれだけではなかった。

 

「すげぇ!レイと同点!?」

 

「いや……まぐれだろ?」

 

クリアタイム28分45秒。レイとまったくの同時にシンはこれをクリアして見せたのだ。

この時期どころか卒業生でもまず執るのは難しいと言われた記録をシュミレーションの成績を成し遂げて見せたのはレイだけではなかったのだ。

 

隣のルナマリアからは好奇の視線を、遠くのレイからは観察するかのような視線を受けながら、シンは静かにヘルメットを取り外した。


 
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