No.731047

黒外史  第十五話

雷起さん

賈詡が久々に登場して、カマしてくれます。
董卓との関係も明らかになります。
後半の戦闘シーンでは色々な意味で大暴れです。

初登場キャラ:徐栄・牛輔(兄ぃ)

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2014-10-19 01:00:00 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:2433   閲覧ユーザー数:2144

 

 

黒外史  第十五話

 

 

「北郷一刀様。折り入ってお話が御座います。」

 

 反北郷連合との和解の道が完全に絶たれた日の夜。

 賈詡が汜水関に用意された一刀の部屋を訪れた。

 一刀と賈詡は今まで殆ど会話をしていない。

 それは賈詡自身が一刀を避けていた為だ。

 だから一刀は賈詡がこうして自分を訪れた事に驚いていた。

 

「董卓軍の軍師が俺に…………董卓の命令か?」

 

 椅子に座ったまま、一刀は改めて賈詡を観察する。

 メイド服を着ている事を除けば、一刀と同い年くらいの普通なメガネの青年だ。

 

「いえ……………ボクの独断です。北郷一刀様とはどうしても一度お話をしておくべきだと結論が出ましたので。」

 

 見た目が違っていても詠と同じ声で謙った話し方をされて、一刀は背中に妙なむず痒さを感じていた。

 

「俺と話を…………ね。」

 

 董卓の企みを見抜けなかった一刀は、目の前の賈詡に対して明らかに警戒していた。

 一刀はこれまでの李儒の董卓に対する態度を思い出し、賈詡も董卓の正体を知っていて配下になっていると確信している。

 

「先にボクの身の上から話します。」

 

 一刀の警戒心を察知したのか、賈詡がそう切り出した。

 

「ボクは幼い頃に董卓様に拾われ、育てて頂きました。」

 

「あの董卓が育てたあっ!?」

 

 声が裏返るくらい一刀は驚いた。

 一刀の記憶に有る『暴君董卓』と『子育て』という単語は余りにも掛け離れている。

 しかも董卓は一刀に『自分は人喰いの化物だ』と自ら語った。

 普通に考えるなら賈詡は董卓にとっくに食われていても不思議では無い。

 

「はい。ボクは親と洛陽から涼州に引越す為に旅をしていた時に、盗賊に襲われたんです。だけど月が…董卓が氐族を引き連れてたまたま通りがかり助けられました。」

 

 ますます一刀には信じ難い話が出てきた。

 それでも賈詡の話に口を挟まず、腕を組んで聞き入る。

 

「あの時に親は賊に殺されました。賄賂を渡さなかった事への腹いせで官職を追われ、洛陽から郷里に戻る途中だったのに………ボクだって董卓があの時に現れなかったら犯されて、奴隷商人に売られていた……でも、現れたのが五胡だと分かって、あの時は更に絶望しました。自分は五胡に喰われて死ぬんだと。何で真面目に生きてきた父やボクがこんな不幸な目に会うのかって、理不尽さに悔しくて涙が出た。」

 

 語る賈詡は瞳に怒りの色が浮かべていたが、その色が不意に消えて穏やかになる。

 

「さっきボクは董卓が助けてくれたと言ったけど、あの時の董卓はこう言ったわ。『今からお前はオレの物だ。』ってね。幼いボクは恐ろしくて逆らうなんて出来ず、助けられたとは思えなかった。でもその日の夜に全てを覆されたわ。ボクは高熱を出して倒れ、董卓が裸で添い寝して温めてくれた。その時に董卓も五胡だと判ったのだけど………。」

 

 一刀は脳裏に、全裸の月が児童に添い寝をしてる所を想像してしまい、慌てて頭を振った。

 

「その時にボクは董卓から全てを教えて貰ったわ。董卓の正体。外史の事。『北郷一刀』の事。」

 

(やはりな………でも、賈詡が俺にこの話をする真意はなんだ?)

 

「翌朝、熱の下がったボクは董卓に真名を預けた。そして董卓も真名を預けてくれた。それからの董卓はボクに学問を与えてくれた。董卓がしようとしている事にボクも力になりたくて必死に勉強した!正直に言えばボクは今でも董卓が怖い………でもね、それ以上にボクは董卓を…いえ!月を愛しているわ!」

 

 賈詡の口調が畏まった物から詠と同じになっていた。

 詠が宣言していると一刀が錯覚してしまう程に。

 賈詡はまた俯き呟いた。

 

「………でも、月にとってのボクは只の道具…………いえ、食事でしかないのかも知れない………」

 

「食事………?」

 

 それが何を意味するのか。察して一刀は戸惑った。

 賈詡が再び顔を上げると、その目には嫉妬の炎、口元には勝ち誇った笑みが浮かんでいる。

 

「ええ、そうよ。月は毎晩、ボクの精を飲むのよ!」

 

「お、お前……………董卓は噛みちぎるかも知れないんだぞ!」

 

「構わないわ!いえ、むしろ望む所よ!ボクの究極の願いは月に食べられる事!この身体は月の血肉となり、魂も月と一緒になるの!そうしてこの腐った国を滅ぼした後は月と共に次の外史に旅立つの!!」

 

 賈詡の瞳は狂気を孕み、表情は恍惚感に陶酔していた。

 

(……………こ、これはある意味、究極のヤンデレ?)

 

 完全に引きまくってる一刀に賈詡が詰め寄った。

 

「あんた…………この世界をどうしたいのよ。」

 

「え?」

 

「ボクはね、月があんたも一緒にこの世界をぶっ壊してくれって言ったから黙って見てた。でも今日までのあんたはどうなの!?フラフラしてるのは演技かと思ってたけど本当に優柔不断なだけじゃないっ!!」

 

 賈詡に指摘されて一刀は狼狽える。

 劉虞にぶつけられた怒りのショックから完全に立ち直っていない所に追い打ちを掛けられたのだ。

 

「俺は…………」

 

 この外史で一刀はその場の感情に振り回されている。

 いや、正確には感情を制御しきれていないのだ。

 一刀本人はまだ気が付いていないが、これもこの外史の突端を開く前に『北郷一刀のデータ』に左慈と于吉が介入した為に起きている障害だった。

 

 一刀が言葉に詰まっていると扉が開く音がした。

 

「詠、その辺にしとけ。」

「月!でも、こいつが……」

 

 部屋に入って来た董卓は、真っ直ぐ賈詡に近付いて腕を伸ばす。

 

「んん?嫉妬しやがって、可愛いがってやるから部屋に戻るぞ。」

「んあ!ゆ、月…」

 

 スカートの裾から突っ込んだ董卓の手が賈詡の股間を鷲掴みにし、引っ張って扉へと連れて行く。

 

「北郷!こいつの言った事は気にすんな。って、オレが言うなってか♪」

 

 笑う董卓を一刀は複雑な表情で見ていた。

 

「明日はオレ達董卓軍が打って出る。お前は城壁の上で眺めながら、これからはどうするか考えてろ。」

 

 そう言い残して董卓と、股間を引っ張られて賈詡が出て行った。

 ひとり残った一刀は深い溜息を吐き、俯いて賈詡の言葉を反芻するのだった。

 

 

 

 

 董卓が廊下に出ると于吉と左慈が待ち構えていた。

 

「董卓。傀儡の管理がなっていませんね。」

 

「そう言うなって。こんなのがひとりくらい居た方が面白えんだよ。」

 

 董卓が手に少し力を加えると、賈詡がくぐもった呻き声を漏らす。

 

「それで我々の計画を破綻させられては困りますよ。」

 

「こいつが何か言った程度で破綻するチンケな計画じゃねえだろうが。最終的に北郷がこの外史を手にいれりゃいいんだろ?北郷がいつもの甘ちゃんでいようが、悪堕ちしちまおうが。オレはどっちでも楽しめるから構わねえな♪」

 

 黙っていた左慈が不意に笑い出した。

 

「くっくっく、あの北郷が悪堕ち?有り得んな。」

 

「貂蝉と卑弥呼が傍らに居る限り不可能でしょうね。それ故に北郷一刀はこの外史で苦しむ。ふふ、図らずも我等の当初の目的に沿って外史が回り始めました。まあ、この外史で北郷一刀の魂を完全に擂り潰す事は出来ないでしょうが、今後の為の実験場として実に良く機能してくれています。」

 

「そっちの方はお前らで勝手にやってくれ。オレはこの外史の終演まで楽しませて貰うぜ。」

 

「その傀儡も楽しみのひとつですか。」

 

 于吉が興味深そうに賈詡を眺めた。

 

「これはオレんだ。貸さねえぞ。」

 

「それは残念。では、私は左慈と………」

 

 左慈は既に背を向けて遠ざかっている。

 

「相変わらずつれないですねぇ、左慈は………」

 

 于吉は溜息を漏らしつつも楽しそうに笑った。

 

 

 

 

ジャアアァァアアアン!ジャアアァァアアアン!ジャアアァァアアアン!

 

 汜水関に銅鑼の音が響き渡る。

 連合軍が先日の失態を踏まえ、今回は整然と方形陣を組んでいた。

 更に今回は井闌(せいらん)を二十台最前列に並べ、後列に霹靂車(へきれきしゃ)を五台、最後尾に衝車(しょうしゃ)を用意して完全な攻城態勢だ。

 対する汜水関では董卓が己の軍に出陣の準備を万端整えてさせていた。

 

「行くぞ!野郎どもっ!!」

 

『うおおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおっ!!』

 

 堅牢な城壁が震えるのではないかと思える程の声を上げ、董卓軍が汜水関から駆け出した。

 連合軍は冷静に弓隊と井闌から矢の雨を降らせる。

 しかし、董卓軍はまるで意に介さぬ様に突撃速度を変えずに突っ込んで行った。

 

「華雄!昨日も言った通り汚名を返上してみせろ!」

「応っ!」

「牛輔!お前は井闌をぶっ壊せ!」

「応っ!」

「徐栄!お前は左の曹操軍をぶっ潰せ!オレは右の孫堅軍と遊んで来るぞっ!!」

 

「お任せ下さい♪董卓様♪」

 

 恵比寿顔の大男は和やかに応えながら飛来する矢の雨を手にする剛槍で全て振り払い、部下と共に曹の旗目掛けて進路を変えた。

 

「さあ♪勇猛なる董卓軍のみなさん♪前方に控える脆弱な賊軍全てに見せしめておあげなさい♪」

 

 徐栄の鼓舞に董卓軍の騎馬が雄叫びを以て応え、徐栄を先頭に曹操軍の陣に雪崩込み、当たる端から敵兵を血祭りに上げていく。

 

「さあ♪みなさん♪いつもの行きますよっ♪董卓様はカワイイっ♪」

 

『董卓様はカワイイっ!!』

 

「カワイイは正義っ♪」

 

『カワイイは正義っ!!』

 

 この唱和によって董卓軍の兵は更に力を増した。

 

「これぞ我が董卓軍の真の武♪真の力なりぃいいいいいっ♪」

 

 

「ほざくなあああああっ!!真にカワイイのは曹操様ただひとりいいいいいっ!!」

 

 

 怒声を上げて徐栄に向かって行くのは夏侯惇だ。

 

「曹操みたいなヒゲのおっさんがカワイイなどと巫山戯た事を♪名を名乗りなさい♪」

 

「我が名は夏侯元譲!ヒゲのおっさんはお前ではないかっ!曹操様はお若いわっ!」

 

「わたくしの名は徐栄♪わたくしがヒゲのおっさんなのは認めましょう♪しかし!ヒゲのおっさんだからこそカワイイ董卓様に踏みしだかれ嬲られると燃えるのです♪」

 

「何をっ!曹操様に踏まれて嬲られる方が気持ちイイに決まっとるだろうがっ!!」

 

 ドM男達の御主人様自慢合戦が始まった。

 そこへ空気を読まずに飛び込む男が現れる。

 

「夏侯惇殿!この張郃儁乂(しゅんがい)が助太刀に参りましたぞっ!!」

 

「「五月蝿いっ!」♪」

 

 熱くなった徐栄と夏侯惇に、張郃は叩き斬られて絶命した。

 

「あらあら、せっかく袁紹軍から助太刀に来てくれたのに、春蘭ったらヒドイわねぇん。」

「そんなことより、そのおじさんのお相手をわたし達にもさせてちょうだい♪」

 

 夏侯惇の背後に曹洪と曹仁が助太刀の為にやって来ていた。

 

「腐琳に掘琳か!お前らもこのコロコロオヤジに華琳様が素晴らしい事を教えてやれ!」

 

「コロコロオヤジと呼ばれるのは構わないけど、わたくしマッチョの相手はしたく無いのよねぇ♪」

 

「あらん?そんなにご立派な身体なさってるのにツレないわねぇん。」

「そんなこと言わずにわたし達と遊びましょ~ん♪」

 

 曹仁と曹洪の二人が徐栄にポージングで誘いを掛けた。

 

「ほほう♪その構え、隙が無いわね♪面白いわ♪三人まとめて相手してあげるから掛かってらっしゃい♪」

 

 

 

 

 徐栄が夏侯惇、曹仁、曹洪の三人を相手に戦い始めた頃、牛輔の部隊が井闌に取り付こうとしていた。

 

「井闌に近付いたら油壺をぶつけろっ!走射隊は火矢を放てっ!反逆者を地獄に送る篝火にしてやれっ!!」

 

「兄ぃ!井闌を守るのに袁紹軍が前に出て来ましたっ!」

 

「袁紹の兵など蹴散らせ!奴らの攻撃など董卓様のお仕置きに比べれば、まとわり付く蠅と同じだっ!!」

 

 袁紹軍の中から一騎の武将が飛び出して来た。

 

「我が名は張郃儁乂!井闌には指一本触れさせんぞっ!」

 

 その張郃に油壺がひとつ飛んで来る。

 張郃はそれが投石だと思い、手にした槍で叩き割ってしまった。

 

「ぶわっ!なんだこれはっ!?……………油?」

 

 そして次には火矢が飛んで来た。

 

 

「ぎゃああぁぁぁぁあああああああああああああああああぁぁぁぁ………………」

 

 

 張郃は火柱の様に燃え上がって絶命した。

 

 

 

 

 董卓は孫堅の旗を目掛けて突進して行く。

 途中、行く手を阻む者は手にした斬馬刀で薙ぎ払われ、人馬共に両断されて大地を血の河に変えた。

 

「孫堅っ!テメエのチ○ポを(なます)切りにしてやんぞ!オラァっ!!」

 

「俺のチ○ポは岩より硬えぞっ!その鈍らを逆にへし折ってやるぜっ!!」

 

 さすがに董卓の斬馬刀をその剛直で受け止めはしなかったが、孫堅は南海覇王で押し止めた。

 

「接近戦でその馬鹿でけぇ得物は扱いづらいんじゃねえのか!?董卓っ!!」

「へっ!テメエこそそんな爪楊枝みてぇな剣しか持てねえんじゃねえのか!?老いぼれはさっさとくたばりなっ!!」

 

 二人は激しい攻防を繰り広げながら戦場を駆け抜ける。

 おかげで周りに居て逃げ遅れた兵は敵味方関係なく、巻き込まれて肉塊になっていった。

 その中に張郃の姿も有ったのだが、誰にも気付かれる事無く絶命していた。

 

 

 

 

 連合軍本陣で劉虞は苦虫を噛んだ顔をして戦局を見ていた。

 

「流石、噂に聞こえた董卓軍ですね。一万の兵で膠着状態にされてしまいました。」

 

 劉虞の隣には劉備が馬に跨っている。

 関羽と張飛もその後ろに控えて居るが、周りを完全に囲まれているので逃げ出す事は不可能だった。

 更に、糜竺、糜芳、孫乾が劉備軍の兵と共に離れた場所で監視されていて、完全に動きを封じられている。

 元より劉備、関羽、張飛はこの連合を内側から食い破ると誓っているので、この場で逃げ出す気は無い。

 しかし、機会が有れば一刀に連絡を取りたいと隙を伺ってはいたのだ。

 

「劉虞様。ここはこの関雲長が前に出て敵将を引き付けましょう。」

 

「貴方が?北郷軍の将に刃を向けられるのですか?」

 

 劉虞は昨日の劉備の言葉を信じ、劉備が次期皇帝になってくれると思い込んでいる。

 劉備達三人が囲まれているのも、諸侯から劉備を守る為に配置した物だった。

 劉虞が関羽に言った言葉は関羽を慮ってである。

 

「今出てきているのは董卓軍です。私は董卓軍の将とは面識が有りませんので、我が刃が鈍る事は有りません。それに敵将を討てなくとも動きを封じられれば、兵数でこちらが押し込めましょう。この本陣で酒を呑んでいるよりは役に立つと思います。」

 

 劉虞が劉備を振り返ると、劉備は無言だが強く頷いた。

 

「分かりました。井闌に火の手が上がった今、早急に手を打たねばなりません。関羽殿が敵将と戦い始めたら霹靂車で汜水関に投石を開始します。敵は動揺するでしょうから、その時一気に押し返しましょう。」

 

 関羽は懐に一刀宛の書簡を忍ばせている。

 これで現状を変える突破口は開かれた。

 後は関羽が如何にして書簡を相手の将に渡すかである。

 劉備、関羽、張飛は小さく頷き合った。

 

 

 

 

 孫堅軍の中で周瑜が戦場を確認していた。

 孫策が兵を率いて董卓軍と戦っているのだが、現状では周瑜が孫策に勧める策は何も無い。

 そんな時、傍らに居た諸葛瑾が声を上げた。

 

「はわわーーーーーーーっ!!あ、あいつはあんな所で何をしてるんだっ!!」

 

 周瑜が驚いて諸葛瑾を見れば、望遠鏡を覗いて汜水関を見ている様だった。

 

「どうした、紅里(あかり)?」

 

 紅里とは諸葛瑾の真名である。

 

「汜水関の城壁の上に…………………弟が居た……………」

 

 諸葛瑾は昨日後方で仕事をしていて会談を見ていなかったので、今日になって初めて孔明の姿を見たのだった。

 

「弟?………前に見せてもらった手紙の…例の弟か?」

 

「そうです………あれから何の音沙汰も無いから隆中に戻ったと思っていたのに………」

 

「ふむ。」

 

 周瑜も望遠鏡を覗いて汜水関の城壁の上を確認する。

 

「どれが紅里の弟だ?」

 

「淡黄色の服を着て羽毛扇を持ちふんぞり返ってる背の高いのです。」

 

「あれが………伏龍………」

 

 周瑜は昨日の会談でも一刀が連れて来ていたのを覚えている。

 短期間で北郷軍の中枢に居る事から、諸葛瑾の話の通り相当切れる人物と判断した。

 今後、周瑜と孔明の関係が三国志演義の様になるかは判らないが、これは周瑜が孔明を認識した最初の出来事であった。

 

 

 

 

 関羽が先陣の乱戦状態へ一騎で飛び出して来た。

 

「我が名は関羽雲長!幽州の青龍刀とは私の事だっ!腕に覚えの在る者は居ないか!!この私が相手をしてやろうっ!!」

 

「関雲長!先の狩猟大会での漢気!覚えているぞ!この華雄が貴様の相手をしてやろうっ!!」

 

 直接の面識は無い二人だが、華雄は自分で言った通り関羽が張遼に自分の青龍偃月刀を投げてよこしたのを見ている。

 そして張遼とは共に死線をくぐり抜けた戦友だ。

 関羽に何か思惑が有って前線に出てきたと察しは着いていた。

 あからさまに手を抜いては関羽の思惑を潰してしまう。

 華雄は金剛爆斧を振りかぶり、関羽も疑われない様に切り結ばねばと青龍偃月刀を振り上げた。

 しかし、関羽はひとつだけミスを犯した。

 本陣で周りを油断させる為に酒を呑んでいた事だ。

 本人は酔っていないと思っていたが、僅かに力加減が出来ていなかった。

 

ズバアアアアアアッ!!

「ぎゃああぁぁぁぁあああああああああああああああああぁぁぁぁ………………」

 

 振り下ろされた青龍偃月刀によって、竹を割る様に真っ二つになって絶命してしまった。

 

 

 張郃が。

 

 

「「………………こいつはどこから現れたんだ?」」

 

 しかしこれで関羽は己の状態を把握した。

 

「まあいい。では華雄将軍!仕切り直しだ!」

「おう!来い!関羽っ!」

 

 二人は数合斬り結び、鍔迫り合いでの力勝負に持ち込む。

 

「(華雄将軍。私の懐に書簡が在る。隙を作るので抜き取ってくれ。)」

「(心得た。)」

 

 関羽が力を抜いて脇に隙を作り、華雄はすかさず関羽の服に手を入れた。

 

 しかし、勢い余って手が深く入ってしまった。

 

「うほっ!それは書簡では無く私の逸物だ!そ、そんなに強く握って引っ張るな!」

「おっと、すまん。だが、さすが関雲長。剛の物を持っているな♪」

「いいから早く書簡を抜き取れ!」

 

 華雄は素早く書簡を自分の懐に隠した。

 

「(それを一刀様に!)」

「(任せろ!)」

 

 その時、二人の頭上を風切り音が通過する。

 霹靂車から発射された岩が飛んで行く音だ。

 岩は汜水関の城壁に当たり轟音を響かせた。

 

 

 

 

 汜水関の城壁の上で孔明は飛んで来る岩を目で追っていた。

 自分の立っている城壁に当たり、その音に耳を澄ませ、振動を足で感じる。

 

「ふむ、まだ距離が有るので軽い岩を飛ばしてますね。この程度なら汜水関の壁はビクともしません♪」

 

 それは一刀も同じ意見だったが、霹靂車が接近すればその分重い岩を飛ばして来るのは明白だ。

 

「井闌を燃やしたからまだマシだが、董卓軍の前進が止まってて霹靂車を破壊出来そうに無いぞ。どうする?」

 

「今日の戦は我らにお任せを。ご主君はご自分の悩みを自問自答しながら壁の隅で膝でも抱えてウジウジしていて下さい。」

 

「今は悩んでる場合じゃ無いだろ!戦局だけでも把握するぞ!」

 

「そうですか?まあ、流れ玉に当たらない様に気を付けて。」

 

 孔明が適当に一刀をあしらい、羽毛扇をヒラヒラさせた所で陳宮が階下から上がってきた。

 

「一刀さま!朱里殿!恋殿がひとりで助太刀に行くと言って…」

 

 陳宮の報告が終わらぬ内に城門の開く音が聞こえて来た。

 現在の呂布はまだ『飛将軍』とは呼ばれていない。

 并州では有名な呂布だが、今は一刀の活躍に隠れその影が薄くなっている。

 狩猟大会の時にその力の片鱗は見せたが、真の実力を見抜けた者が果たして何人居た事か。

 呂布自身は自分が他人からどう評価されようが気にしていないが、唯一つ、一刀に認められる事を夢見て鍛錬を重ねていた。

 

 呂布は昨日の一刀と同じ様に馬には乗らず、方天画戟を片手に開いた城門から一歩踏み出す。

 

 そこに霹靂車から発射された岩が飛んで来た。

 

「フンッ!!」

 

 方天画戟の一閃で岩が粉々に砕かれ飛散する。

 

 

「………ご主人様をいじめた奴は許さない!」

 

 

 呂布は昨日の会見で、劉虞が一刀に何か言った後に一刀の様子がおかしくなったのを直接見ている。

 呂布の我慢していた怒りは限界を超え、爆発寸前になっていた。

 

 大陸全土に『呂布奉先』の名を知らしめる戦いが、今まさに始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 昨夜の一刀と賈詡のやり取りを呂布が見ていたら、賈詡は既に死んでいたに違いない。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

徐栄は完全に『蒼天航路』のパロディです。

あの暴れっぷりは頭から離れません。

 

実は華雄を今回で退場させる気でいたのですが、張郃の暴走により死亡フラグはへし折られました。

 

 

次回で汜水関の戦いは終わりにするつもりです。

 

 

 


 
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