実技テストより三日後……特別実習初日となるこの日。いつもより早い時間とは言っても、普段から早い時間に起きている人間には特に珍しいことではないわけである。
「流石に少し早いけれど、下に降りて待ってるかな。」
そう呟いたのはリィン。時刻は6時半ぐらい……もう少ししたら同じ班のメンバーも降りてくるだろう。そう考えたリィンが歩き出した時に、上の階から降りてくる音が聞こえ、リィンはそちらの方に視線を向ける。
「あ、ステ………え?」
だが、リィンはその対象―――ステラの姿を見て二の句が告げられなかった。というのも、リィンが黙ってしまった理由はステラが今現在着ている服装にあるからだ。彼女は寝間着……しかも、あちこちがはだけており、時折チラリと下着が見えたり……と、リィンは気を引き締めてステラに話しかけた。
「ステラ。その、おはよう。」
「ふぇ………?」
寝ぼけている様子のステラであったが、次第に意識がはっきりしてきて……事ここに至って、自分の服装に気付く。そして、
「~~~~~――――――――!!!」
「え、ちょ………」
リィンが問答する暇もなく、ステラの振り上げた右手は……寮内に乾いた甲高い音を響かせたのであった。
「……と、いうことがあったんだ。」
「災難、というかご愁傷様だな。」
已む無く一階に降りてきたリィンを出迎えたのは、先に集合場所にいたアスベルであった。先程の音とリィンの左頬にうっすらと残る紅葉―――手形を見て事情をそれとなく察した。一応、リィンを気遣いつつ詳しい事情を聞いた。
「けれども、これから2日間は同じ班のメンバーとして行動することになる。不可抗力とはいえ、お前にも責任の一端はあるからな。」
「うっ……」
事故的なようなものとはいえ、これがきっかけでメンバー内に不調和音が広がるのは拙い。出来る限り早めにその芽を摘み取っておくべきという言葉にリィンは二の句が告げなかった。すると、向こうの方から聞こえる階段を降りる音……降りてきたのは、今朝リィンとちょっとしたハプニングを起こしてしまったステラ・レンハイムその人であった。彼女もリィンの姿を見るとちょっとぎこちない表情を浮かべていた。
「おはよう、ステラ。」
「お、おはよう。アスベルにリィン。」
「ああ、お、おはよう。」
「……リィン、ステラ。用事を思い出したから俺は先に行ってる。駅で合流ってことで。」
「え?」
「ア、アスベル?」
動揺する二人を横目に、そう言い放って第三学生寮を出ていくアスベル……残されたリィンとステラ。沈黙が続くが、口を開いたのは……
「『ごめん(なさい)!』」
ほぼ同時であった。これには双方ともに驚き、『どうして謝るのか』というその直後の台詞まで被る始末であった。
「その、私がちゃんとしていれば起こらなかったわけですから。」
「いや、こちらも配慮が足りなかったと思う。アリサかラウラでも呼んで来れば違ったのかもしれないし、戻るように促さなかったところも含めて、俺の責任もある。(というか、まじまじと見ちゃったし……)」
「そんなことはないです……そういえば、頬のほうは大丈夫ですか?」
「ああ、大したことはないよ。頬を叩かれるなんて、妹からのもの以来だったけど。」
互いに謝罪の応酬……とはいえ、これでは埒が明かない。それをスッパリ断ち斬ったのはステラの方だった。
「それでも、私がしっかりしていればこのようなことは起こらなかったわけですから……この話は、これで解決ってことで。」
「……ああ、わかった。」
そして、交わされる握手。だが、二人は互いの事を意識していて横から来る視線に気づいていなかった。
「おはよう、二人とも。」
「よい朝だな。修復も出来たようで何よりだ。」
「そうね。おはよう、リィンにステラ。」
「って、エリオットにラウラ、アリサ!?」
「ははは、おはよう。お陰様でね。」
ちょうど降りてきたエリオット、ラウラ、アリサの三人に気づき、ステラは若干慌て、リィンも苦笑しつつ挨拶を交わす。
「そういえば、アスベルは?まだ来ていないの?」
「いや、用事があるって言ってたな。直接駅に行くって言ってたから。」
「と、とりあえず行きましょうか。学院とかも朝早くから開いているみたいですし。」
リィン等五人は、足りないものなどを学院で調達するために行動を開始した頃、アスベルは交換屋に入った。そこにいる店主―――ミヒュトがアスベルに気づき、声をかけた。
「おう、お前さんか。先日のレースでは大儲けさせてもらったぞ……受け取った俺が言うのもなんだが、負け分チャラにするほどの荒れ様だったぞ……どうやって予測した?」
「難しいことはしてないですね。それまでのレース結果を勘案すれば難しいことじゃないですよ。」
「いや、下馬評の馬が一着になるなんて大どんでん返しは簡単に読めねぇと思うんだが。」
学生である以上は賭け事禁止なのだが、別に競馬場に行くぐらいならば許される……論理的に通じるかは別だが、アスベルはそのレース前の経過を全部チェックし、そこから予想した結果であった。それがたまたま当たっているだけの話という感じだ……9割という的中率であるが。
「ま、儲けは儲けだ。お前さんにはレアクオーツ一式と欲しい情報を持ってきておいた……クロスベル絡みのな。」
「クロスベル……考えられるとすれば、記念祭あたりで何かあったんですか?」
「ビンゴだな。どうやら、ハルトマン議長主催のオークションでかなりの騒動があったようでな……それに関わったのが、クロスベル警察『特務支援課』だ。警察とルバーチェの間で“手打ち”もあったらしい。」
ミヒュトの副業……それは、情報屋。アスベルにも独自の情報網を持ってはいるが、様々なルートからの情報源があるに越したことはない。そういった意味ではこの人の情報は貴重である。
「普通なら揉み消す問題のはずが、それをしなかった……法に抵触するほどヤバいってことですね。」
「あの会場にはクロスベルの人間のみならず、帝国や共和国をはじめとした諸外国の金持ちも出るほどの盛大な裏のオークションだ。一度は行ってみたいものだな。」
「命が縮まるだけな気がしますけれどね。」
『特務支援課』に対して、ある程度のテコ入れはしている……それは、これから起こりうるであろう全てのプロセスに適度な介入を行い、最終的にはクロスベルそのものに対する大きな影響力を及ぼすための糧としてだ。そのために彼らを利用してしまう形になるのは気が引けるが。ともあれ、今の段階では自ら介入する予定はないのだが。
「何はともあれ、情報ありがとうございます。」
「おうよ。特別実習のほう、頑張れよ。」
「ええ。」
店を出ていくアスベル……それを見送ったミヒュトは笑みを零した。
(“紅耀石”に見初められし“剣聖の息子”……お手並み拝見、といったところだな)
プレイの方は1週目の後日譚まで行きましたが、マクバーンのアレ、デタラメにも程がありますよ。あれは近代兵器の戦いじゃない……大惨事大戦だ(確信)。そして、ミュラーさんの登場……TUEEE!!いや、まぁ、異変に関わってるから相当強いんですけれど……上半身消し飛ばしたぁ!?オリヴァルト皇子(オリビエ)も、発動速度がトヴァルとタメ張れるってやっぱ天才だわ(確信)………まぁ、ルドガーの強さは本気出すとヤバいってことで(色んな意味で)
で、“猟兵王”に関してですが……ここの小説では『レヴァイス・クラウゼル』ということでお願いします。理由はお分かりと思いますが、ルドガーという名前が二人いるとややこしいですし、こっちもルドガーあっちもルドガー……それで混同しないようにするためです。ご了承ください。
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第11話 ハプニングは往々にして