No.728521

紺野夢叶 短編小説【ジーニアス・オン・ア・ジーニアス!】2

坂学園☆初等部の短編小説です。

・公式サイト
http://www.sakutyuu.com/

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2014-10-07 15:50:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1071   閲覧ユーザー数:1066

 

 スポーツテストが終わり昼休みになった。

 

 夢叶は輝かしい成績を残しつつも、国語の結果が不満なのか浮かない顔をしていた。そんな夢叶の手には、半額のシールが貼られたシュークリームが握られている。

 

「夢叶様~?」

 

 夢叶の後ろから、突如声がかかった。夢叶はシュークリームの半額シールを机に急いで伏せ振り返る。そこに居たのはクラスメイトのキャロルだった。

 

「どうかしましたか~?」

 

「……テスト」

 

「テスト!凄かったですよね~!」

 

「すごくない!!」

 

 キャロル・ピールは、五年一組の中でもとびきりの容姿と、底抜けの明るさを持っている、クラスの人気者だ。夢叶とよく似た明るい金髪を、彼女はすらりと真っ直ぐ流している。喋っているだけで花が咲きそうに明るいキャロルの態度が、今の夢叶には厭に鼻についたのだった。

 

「慰めとかいいから……」

 

「そんなのではありませんよ!ワタシ、あんな反復横跳び初めて見ました~」

 

「そっちじゃない」

 

「あっ、国語ですか~?でも、アチラも98点ですよ~?ワタシなんて、えへへ、42点~」

 

 あくまでにこやかなキャロルに、夢叶はぶうっとむくれ顔を露わにする。

 

「テストは100点じゃなきゃ意味が無いの!!」

 

「いつも100点じゃないですか~。たまには2点ぶんくらい、お休みです!」

 

 邪気の無いキャロルに、夢叶はうまい返し言葉が見つからず、誤魔化すようにシュークリームを口に運んだ。

 

「夢叶様って……、"天才”ですよねぇ」

 

 キャロルが言った言葉に、夢叶の手がぴたりと止まった。

 

 「……アタシが天才?」

 

「ハイ!勉強もすごいし、体育もすっごくデキるし、家庭科も、図工も……。あ! 前、夢叶様が音楽の時間のときに歌ってたとき、ワタシ、感動したのですよ~! 芦屋ナマちゃんも目じゃないな! 夢叶ちゃんすごい、うらやましいなあ~って!」

 

 芦屋ナマは、今もっとも旬なタレントで、夢叶たちの一つ上の年の小学六年生にあたる。そんな、全国区のカリスマ小学生と比べなくてもと、夢叶はキャロルから目線を外した。目線の先にシュークリームに貼られた、半額シールが飛び込んできた。夢叶がキャロルのほうを向き直すと、キャロルの手には、それはそれは高級そうなエクレアが握られていた。

 

 「……アンタのほうが羨ましいから」

 

 「え?」

 

 にこりと笑うキャロルの口元に、ほんのりとチョコレートが付いている。

 

 「アタシは……上に、チョコレートなんてかかってなくても、満足出来る"程度”だもん」

 

 「え? え?」

 

 キャロルが、自分の手元にあるエクレアと、夢叶の手元にあるシュークリームを交互に見た。そうやって顔を動かすたびに、チョコレートの香りが誘惑してくるものだから、夢叶は必死でそれから目も鼻も意識を背けた。

 

 「あ、でしたら! 今度、夢叶様のお家へ行っていいですか!? ワタシのパパは、パティシエで、『パティスリー ジェイムス・ピール』っていうサロンを開いてるのです! マカロンとかダコワーズとかすっごく美味しくって。あ、そうだ! 今度新商品で、フランボワーズとクランベリーのキルシュトルテを作るので、そちらを持って参ります~!!」

 

「ぺてぃすりさろん、くらんべり、ふ、ふらんぼわず、きるしゅ、だこわず……?」

 

 夢叶は聴き慣れない呪文たちに、思わずふらっとした。

 

「アンタが、アタシの家に、来る?」

 

「ハイ!夢叶様のお家に!」

 

「アタシの、家……」

 

 夢叶は思わずシュークリームの袋を握りつぶした。申し訳程度にはみ出るクリームの少なさと、無残にしわがかった半額シールが、夢叶の家を物語っていたのだった。


 
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