No.723224

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百三十話 ダイブゲーム

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2014-09-28 07:28:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:19825   閲覧ユーザー数:17619

 「お前が長谷川勇紀か?なの」

 

 「……どちらさんで?」

 

 とある日の休日。

 翠屋に来た俺に先客でいた幼女が声を掛けてきた。

 …マジで誰?

 

 「私は静水久。優人の家で厄介になっている、なの」

 

 何だ、優人の関係者か。

 

 「ついでに言うと私はミズチ、なの」

 

 ミズチ?それって妖のミズチの事か?

 て事は人間じゃないのか。

 

 「戦闘は攻撃、支援、回復と何でもござれの万能タイプで、日常においては炊事、洗濯、掃除、夜伽と何でも役に立てる、なの」

 

 「完璧過ぎだね!?」

 

 ピースサインをコチラに向けながら自己紹介する静水久という妖。

 夜伽まで出来るとか何なの?このパーフェクトロリッ娘は?

 てか優人は夜伽してもらってんの?

 

 「剣を振る事しか能の無い猫とは格が違う、なの」

 

 「ほぅ…言ってくれるではないか」

 

 む?

 声のする方に向くと丁度野井原が翠屋に入って来たトコだった。

 そのすぐ後ろには優人の姿も。

 

 「静水久よ。少しばかり家事が出来るからっていい気になるでないぞ」

 

 「私は事実しか言ってない、なの」

 

 「くっ……ふん!その強気もここまでじゃ。私とて剣以外で若殿の役に立つ事を証明してやるわ」

 

 お?

 一瞬表情を歪めた野井原だが、すぐに胸を張り、含みのある笑みを浮かべる。

 何する気だろうね?

 と思ったら店内をキョロキョロと見回し

 

 「店主殿!店主殿はおられぬか!?」

 

 士郎さんを呼び始めた。

 

 「はいはい。誰か呼んだかい?」

 

 呼ばれた士郎さんは厨房の方から顔を出す。

 

 「店主殿!私をこの店の従業員として雇って下され!」

 

 「「「「「は?」」」」」

 

 俺、優人、静水久、士郎さん、そして俺達から少し離れた所でコチラの様子を窺っていたリズの声が重なった。

 

 「調理は不得手ですが、接客業ならば経験は無くともやれそうな気がするのです」

 

 野井原はバイト経験無しの初心者さんの様だ。

 

 「うーん……」

 

 士郎さんは両手を組んで唸っている。

 

 「君、バイトは今まで経験した事無いんだよね?接客業は結構大変だよ」

 

 「すぐに覚えて戦力になれる様頑張りますゆえ」

 

 「やる気は確かに伝わるんだけど、今この店はバイトの募集とかしてないんだよねぇ」

 

 人手は足りてますもんね。

 俺は極稀に、それも極めて忙しい時だけヘルプで手伝う事あるし。

 

 「そこを何とか!」

 

 それにしても食い下がるねぇ野井原の奴。

 別に翠屋じゃなくともバイトを募集してるトコなら他に沢山あるだろうに。

 アレかい?リズみたいに人ならざる者が働いてるから自分も雇って貰えるとか思ってんのか?

 必死に頼み込む野井原の姿を俺達は眺める。

 結局、野井原は自分の意気込みを見せ続けたおかげか、翠屋の店員として採用される事になった………。

 

 

 

 「お久しぶりですゼストさん、クイントさん」

 

 「ああ」

 

 「久しぶりね勇紀君。元気にしてた?」

 

 夕方…。

 今日、我が家には懐かしい人達がやって来ていた。

 ゼストさんとクイントさん。

 2人共、俺の父さんに連れられて警防隊へ赴いていたのだが、今回は1週間程の休暇を取る事が出来たので俺達に会うため日本まで足を運んで来たのだ。

 勿論転移魔法、飛行魔法等は使わず飛行機を使って、である。

 ちなみに空港まで2人を迎えに行ってたのはメガーヌさん。多分俺以上にこの2人と再会するのを楽しみにしてた筈だ。

 現に今もニコニコと嬉しそうだし。

 

 「ルーちゃんも大きくなったわね」

 

 「えと…お久しぶり……です?」

 

 「あらあら」

 

 ルーテシアは若干困惑気味だ。

 まあ、本人が今より幼い頃にしか会ってないんだから覚えていないのも無理は無いだろう。

 

 「……で、そちらの子は?」

 

 ゼストさんの視線がジークに向けられる。

 

 「ジークリンデ・E・長谷川です。兄さんの妹です」

 

 ペコリと頭を下げて自分の名前を言うジーク。

 初対面の相手に臆せず喋れる様になったのが成長してる証だと実感する。

 それに夏休み後半ごろから、ジークは遂に1人で寝る事が出来る様になった。

 本人にとっては1人で寝れる様になった事は人生で初の偉業らしい。……ちょっとオーバー過ぎじゃね?

 

 「シュテル達は現在ミッドにあるメガーヌさんの家で生活してますからね。この家に住んでるのは俺、メガーヌさん、ルーテシア、ジークの4人です」

 

 後はモンスターボールに収納してる2体のユニゾンデバイスと部屋で寝てるアギトだ。後でゼストさんとクイントさんにも紹介しておこう。

 

 「そう。シュテルちゃん達にも会いたかったから少しだけ残念だわ」

 

 ま、今回は巡り合わせが悪かったって事で。

 

 「じゃあ私は夕食の準備に取り掛かるわね」

 

 メガーヌさんはエプロンを纏い、キッチンへ消えていく。

 

 「しかし日本は平和で良いわねぇ」

 

 「あぁ。この世界の『裏』の部分にもっとも関わりが薄い国だからな」

 

 「……何か2人の言葉に重みを感じますね」

 

 「警防隊にいると嫌でも関わっちゃうからねぇ」

 

 「しかも対峙する者達は皆、魔導師で例えたらオーバーSランク以上が当たり前の様な強者達。魔法とは全く違う能力を有しているし、自分の実力不足を悉く実感させられる」

 

 ついでに言えば管理局で言う質量兵器も当たり前の様に使われていますからねぇ。ちょっとでも油断してたら背後から狙い撃たれるなんてよくある事だし。

 でも『裏』に関わり薄いと言われるのは意外なんですが…。

 俺、とらハとか緋弾のアリアとかの原作イベントに遭遇してるんですけど。この日本で。

 

 「…ん?ねぇねぇ、コレ何かしら?」

 

 クイントさんの目に留まったのはテレビの横に置いてあった1台の機器。

 

 「P〇やW〇iじゃないわよね?」

 

 クイントさん、結構ゲーム機に詳しいですね。

 

 「警防隊での訓練漬けの日々……唯一の娯楽は日本製のゲームやアニメ、漫画なのよ」

 

 「確かにな。日本のオタク文化はどの国よりも一歩先を進んでいる。いや、ミッドでもこれ程のクオリティを誇っている物は無いだろう」

 

 うんうんと頷きながら語るクイントさんとゼストさん。

 ……オタクに染まり始めてる?

 

 「…スバルやギンガが今のクイントさんを見たら何て言うでしょうかねぇ…」

 

 「大丈夫よ。ちゃんと2人にもこれ等の素晴らしさについて説いてあげるから」

 

 実の娘達に何をしようとしてるんだアンタは。

 

 「まあ、今はそんなことよりこの謎のゲーム機の事よ。また新しい機種が販売されたの?」

 

 強引に話を逸らされたけど、まあいいか。

 

 「これはですねぇ、ダイブゲームと言いまして他人の夢の中を覗ける機器なんですよ」

 

 「夢を?」

 

 首を傾げるクイントさんに詳しく説明する。

 ついでにコレを作った張本人2人の事も。

 管理局で絶賛指名手配中の犯罪者が偽名を使って隣に住んで居る事に2人は驚いた表情を浮かべていたが、お隣さん(ジェレミア)が決して悪人じゃないという事を知ってるのですぐさま『逮捕だー!』みたいな事は無かった。

 

 「……何だか面白そうな機械ね。もう試した事はあるの?」

 

 「いえ。ジェレミアから渡されただけでまだ一度も試した事は無いですね」

 

 「じゃあ早速試してみましょうよ♪」

 

 すんげぇ瞳をキラキラと輝かせて言うクイントさん。

 ゼストさんは…

 

 「ふむ。俺はどちらでも良いな」

 

 肯定もせず否定もせずの成り行き任せのようです。

 

 「はいはいはーい!!私もやりたい!!」

 

 ルーテシアは元気良く返事する。

 

 「(ウチ)はどっちでも良いよー。ここ最近は夢見た記憶無いんやけど」

 

 ジークもお任せか。

 メガーヌさんは夕食の準備で参加出来ないだろうし…

 

 「…じゃあやってみます?」

 

 「「イエーーーーー!!!」」

 

 テンションがUPUPなクイントさんとルーテシアである。

 俺はテーブルの上にダイブゲームを置き、カチカチと設定を弄り始める。

 

 「対象は『この部屋にいる面子』で、夢は『ここ3日以内に見た最新の夢』……っと」

 

 一通りの設定を終え、スタートボタンを押すと部屋の空間の一部にゲートが出来る。

 これを潜れば夢の中にレッツゴーだ。

 クイントさんとルーテシアが嬉々としてゲートに飛び込み、その背中を追う様に俺とゼストさん、ジークは足を踏み入れたのだった………。

 

 

 

 ……ゲートを抜けたのは何処かの街だった。

 ビル群がある都会っぽい場所。

 けどミッドチルダではない。日本の何処かと推察する。

 ……誰の夢だ?

 

 「コレは……私の夢ね」

 

 最初はクイントさんの夢に飛び込んだみたいだった。

 一体どんな夢を……って

 

 ダダダダダダダダダ!!!

 

 バシュッ!!バシュッ!!バシュッ!!

 

 すぐ近くから銃撃やらミサイルを飛ばす音が聞こえる。

 街中で銃撃?ミサイル?

 疑問に思った俺だが、次の瞬間大きな地響きが辺りに響く。

 

 「(何だ?)」

 

 俺が上を見上げると、巨大な怪物の姿が目に入る。

 その怪物は俺も良く知るアニメに出て来る怪物だった。

 

 「サァ~キィ~エェ~ルゥ~!?」

 

 その名は『サキエル』。『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する『使徒』と呼ばれる怪物だ。

 しかもTVアニメ版…。

 俺はクイントさんに視線をやる。

 

 「最近訓練が終わって寝るまでの間、エヴァ(TVアニメ版)を見るのが日課になってたから夢にまで反映されたのよ多分」

 

 そうなのですか?

 で、この後はどんな展開に?アニメ通りですか?

 

 「正直言うとあまり覚えてないのよね。人間って夢に関しては目が覚めたらどんな夢を見たのか曖昧になってたり忘れてたりするじゃない?」

 

 「確かに…」

 

 「だからこの後の展開と言われても答えられないわ」

 

 そうですか。

 そんな会話をしていると突然周囲の景色が切り替わり、次の瞬間にはエヴァの格納庫に場面が映っていた。

 そして主人公の碇シンジと父親の碇ゲンドウの会話シーン。

 エヴァに乗れ、嫌なら帰れ等々。

 この後包帯まいた綾波が現れ、その様を見たシンジがエヴァに乗る決心するんだったよな?

 そう思いつつ、事の成り行きを見守っていると向こう側からこちらに向かって走ってくる人物が。

 

 「(綾波って走って現れたっけ?)」

 

 だが走って来たのは綾波ではなく、この夢を見ている張本人クイントさんだった。

 服装は私服でもエヴァ搭乗時のプラグスーツでもなく、バリアジャケットを纏っている。

 クイントさんは駆けてくる勢いを殺す事無く

 

 ドガッ!!

 

 主人公の碇シンジを蹴り飛ばした(・・・・・・)

 

 「「「えーーーーーーー!!!?」」」

 

 俺、ルーテシア、ジークの声が重なる。

 蹴り飛ばされた碇シンジはそのままケージから重力に引かれ、下へと落下していく。

 やがて『グシャッ!』という何かが潰れた様な音が聞こえ、『碇シンジ』という人間は『かつて碇シンジだったモノ』へと成り果ててしまった。

 

 「くくく、クイントさん!!?」

 

 「思い出したわ。私、どうしてもエヴァに乗りたかったから主人公のポジションをこの手で掴み取ったのよ」

 

 ポン、と手を叩いて何事も無かったように言うクイントさん。

 そんな理由で原作キャラ……しかも主人公殺したんですか!?

 原作ブレイクにも程がありますよ!!

 

 「そう言われてもねぇ…夢の内容にまで責任は持てないわよ。それに私がエヴァに乗るためには仕方の無い事、運命だったのよ。彼は私にエヴァを譲るため尊い犠牲になったの」

 

 は…反省してないよこの人。

 この一連の行動を見たゼストさんは引き気味で、ルーテシアとジークは俺の背に隠れる。3人の中でクイントさんに対する印象や評価が明らかに変わったと言える。それも悪い方向に。

 俺が若干戦慄してる間にも夢の中のクイントさんはエントリープラグの中へ乗り込み、プラグはそのままエヴァ初号機に装着される。

 ……ってオイ!!乗ってる人が別人なのにそのままプラグ挿入して良いんか!?

 サードチルドレンじゃないんだぞ!?むしろおt…

 

 「年増のお前がエヴァに乗って動かせるとは思えぐべらあっ!?」

 

 ゼストさんが喋っている最中、クイントさんのボディーブローが綺麗に決まる。

 

 「駄目ですよ隊長♪世の中には言って良い事と悪い事があるんですから♪」

 

 ピクピクと悶絶するゼストさんを見下ろし、笑顔だが目の笑っていないクイントさんが言う。

 これは自業自得なのかも。『大人』ならまだしも『年増』(←禁句)なんて言うから。

 ……背後にいるルーテシアとジークの俺を掴む力が更に増した。

 そうしてる間にもエヴァ初号機は発進し、第3新東京市に姿を現す。同時に俺達も第3新東京市のビル群の内の1つのビルの屋上に佇んでいた。

 何つーか現状を見易い場所に強制転移されたみたいだ。

 まあ、格納庫に取り残されて事の顛末が終わるまで待つのは良いけど。

 

 『シンジ君、まずは歩く事だけ考えて』

 

 そこへ作戦参謀の『葛城ミサト』の声が何故か聞こえて来る。何で聞こえて来るのかは知らん。夢の中だから都合が良い様に出来ているんだろう。

 てか乗ってるのシンジ君ちゃうし。

 当然ながらクイントさんのエヴァに対するシンクロ率は高くない……てかほぼ無い。

 エヴァ初号機はウンともスンとも言わず立ち尽くすだけ。

 

 『動いた!』

 

 「動いてねーし!!」

 

 突如聞こえてきた『赤木リツコ』の声に思わずツッコむ。アンタの目は節穴か。

 そしてサキエルがエヴァ初号機に猛攻を仕掛ける。

 ATフィールドも展開出来ず、一方的にボコられる光景を俺達は目にしていた。

 

 「この時、クイントさんはコクピットの中で何かしてたんですか?」

 

 「えーっと……確か……」

 

 思い出そうとするクイントさん。

 だがそれよりも早く夢の中の光景がコクピットの中を映してくれた。まるで俺の問いに答えてくれた様に。

 

 「動いて動いて動いて動いて動いてよぉっ!!!今やらなきゃ、みんな死んじゃうのよ!もうそんなの嫌なの!だから…動いてよーっ!!」

 

 ガシャガシャとひたすらにレバーを引いたり押したりして初号機の起動を促すクイントさん。

 てかそのイベント早過ぎますよねぇっ!?まだ『最強の使徒(ゼルエル)』来て無いッスよ!?

 だがここでエヴァ初号機の初暴走イベントが起きる。クイントさんの行動に対してタイミング良いなオイ!!

 

 『勝ったな』

 

 呟く副指令、冬月。

 その後、エヴァ初号機は咆哮を上げ、圧倒的な実力で使徒を叩きのめし、サキエルの自爆を受けても爆炎の中から無傷で現れる。

 コクピット内にいる夢の中のクイントさんはというと…

 

 『~~zzz…~~zzz…』

 

 爆睡していた。

 

 「寝んな!!!」

 

 宝物庫からハリセンを取り出し、夢の中のクイントさんを叩くが、スカッとすり抜けてしまう。物理的干渉は出来ないのかよ。

 

 「初戦からとてつもない激戦だったわね」

 

 「「「いやいやいやいや!!!」」」

 

 何故かスッキリ顔のクイントさんに対し、俺、ルーテシア、ジークは首を振って否定する。

 貴女、何もしてませんからね………。

 

 

 

 ……あれからクイントさんの夢は一気に話が飛んで最終話(エンディング)を迎えた。

 その最中で見た内『渚カヲル』がゲンさんに、NERV本部の最深部、ターミナルドグマで磔にされてる『第2使徒リリス』がレジアス中将に変えられていた時は、思わず吹き出し、クイントさんにツッコんだ。

 ゲンさんはカヲル同様に首ポチャン。レジアス中将に至っては上半身裸のトランクス一丁姿で、顔は白目を剥き、口元からは涎を垂らすという人間が痙攣してる時と同じ様な表情だったのだ。

 散々突っ込んだ後に、最愛の旦那さんとかつての上司、この2人の不遇な扱いを見て俺は静かに涙した。

 こんな事を現実世界の本人達には口が裂けても言えないので、俺は心の中に秘めたまま自分が死ぬ時、墓場まで持っていこうと固く誓った。

 で、次の夢は…

 

 「俺の夢か」

 

 ボディーブローを決められ気絶してたゼストさんがいつの間にか復活し、口にしていた。

 ゼストさんの夢…ちょいと興味あるなぁ。

 俺達はとある崖の上に立っていた。

 崖の下では…

 

 『うおおおぉぉぉぉっっっっ!!!!』

 

 『たあああぁぁぁぁっっっっ!!!!』

 

 『悪は滅びるべし!!』

 

 『死すべし!死すべし!』

 

 ……何か2つの軍が激しい戦闘を行っていた。

 片方の軍は『十文字』の旗印を軍の中心に据え、『関』『張』『馬』等の一文字が印された旗が見受けられる。

 もう片方の軍は白一色。兵隊全員が白装飾の一団といっても良い位の真っ白な構成。

 ……これはどう考えてもアレですよね?三国志で乙女演義なあの世界ですよね?

 白装飾の一団がいるという事は初期の無印版か。

 

 「ゼストさん、これ……18禁版ですか?」

 

 タイトルの漢字が『無双』なのか『夢想』なのか……。

 

 「……さあな」

 

 視線をスッと逸らして短く答える。

 その態度がもう答えみたいなもんですけどね。

 別に18禁版だからと言って軽蔑したりする事なんて無いんだから、堂々とすりゃ良いと思うんですけど。ゼストさんは18歳以上なんですし。

 しかし当の本人は視線をコチラに合わせようとしないので、戦場になっている崖下に視線を戻す。

 両軍とも一進一退の攻防を繰り広げている。

 てかよく見たら曹操の軍も主人公、北郷一刀が率いる北郷軍に混じってる。

 そういや無印版の最終決戦で援軍として現れて共闘してたっけ。

 しかし呉の軍勢はいない。まだ増援に現れるタイミングじゃないという事か。

 

 『増』

 

 んん?

 誰かが何か叫んだ様な…。

 キョロキョロと辺りを見渡すと、少し離れた所に1人の男がいつの間にやら現れていた。

 ……于吉やん。ホモォな于吉やん。

 

 「お兄ちゃんお兄ちゃん。白い服の人達が増えたよ」

 

 ルーテシアが言う通り、白装飾の連中の数がグンと増えた。

 主人公、北郷一刀側には関羽や張飛みたいな三国志の英傑(女性だけど)がいるし、彼女等が率いる部下の練度も中々どうして。

 しかも曹操軍も共闘してるから優秀な英傑達が更に集い、個人の『質』では完全に白装飾の一団よりも上回っている。

 しかし悲しいかな。于吉(ホモォ)が妖術で増援を出しまくるから『数』の暴力に徐々にではあるが押されてきている。

 

 『ククク……北郷一刀。貴方という存在を、この外史から抹消してあげます』

 

 ………まさかアレ、見た目が于吉(ホモォ)なだけで中身は蒼い魔神を駆る博士じゃないよね?

 中の人は一緒だけどキャラ設定まで一緒じゃないよね?

 

 『増』

 

 ここで更に白装飾の増援が。

 タイミング的には孫権率いる呉の軍勢がそろそろ来ても良い筈なのだが…。

 

 『おーい、誰か鈴々達を助けてくれる奴はいないかーー?』

 

 戦場で敵を粗方斬り伏せた張飛が叫ぶ。

 この叫びはもしや味方増援のフラグか?

 

 『オレを呼んだかぁっ!キョ〇スケ・〇ンブぅっ!!』

 

 「呼んでないよ!!てかこの世界にキョ〇スケ・〇ンブは存在しないよ!!」

 

 場違いどころか作品違いなセリフにツッコむ。

 てかこの声色……。

 

 『にゃにゃっ!?誰なのだ!?』

 

 張飛を始め、戦場にいる者全員がその声の主を探す。

 声の主……夢の中のゼストさんは俺達や于吉とはまた離れた位置に陣取り、腕を組んで崖下を見下ろしていた。

 ……そして俺の目が悪くなければ夢の中のゼストさんの隣には、同じポーズでレジアス中将が立っていた。

 

 「ゼストさん…」

 

 「隊長…」

 

 俺とクイントさんはこの夢を見たゼストさん本人に視線を向ける。

 しかし当の本人は夢の中の自分を見て凄く満足気で、俺達が視線を向けている事にも気付いていない。

 2人はそのまま崖から飛び降り、戦場に降り立った。

 …レジアス中将、アンタ非魔導師で崖から飛び降りれる程身体能力も高くないですよね?

 それを見た于吉もまた、妖術で崖から戦場へ転移する。

 

 『ゼスト・グランカイツ、レジアス・ゲイズ……管理局の発端に名を残した伝説の局員達…。その様な連中と戦う事が出来る…これぞ武門の誉れなりぃっ!!』

 

 御大将!?

 于吉の中身は博士だけじゃなくて御大将までいたというのか!?

 てか于吉は武闘派ちゃうよ!!どっちかと言えば博士みたいに暗躍するタイプだよ!!

 

 『外史の否定はこの世界の人類の破滅と同意義だ!何故それが分からない?于吉!』

 

 『ハッ!この外史発端の当事者たる貴様等に…この世界へ干渉する資格など無いわ!』

 

 マジメな顔で言い返すゼストさんとノリノリの御大将…もとい于吉。

 この外史誕生の発端はその2人じゃないよ!?主人公の北郷君だからね!?

 

 『確かにな。だが、この外史で起きようとしている悲劇を黙って見過ごす訳にはいかん!』

 

 …レジアス中将。

 いや、これはゼストさんの夢であるから、あの人は本人じゃない事は分かってるんだけど。

 貴方までそんなマジメな顔でこのノリに合わせるのはちょっと…。

 

 『笑止!!お前達がこの外史に現れた事によって…新たな歴史の幕は開かれ、戦いの時代が来た!!ハハハハハ、我が世の春が来た!!しかもこれは人類に架せられた永遠の宿命だとも言えるのだよぉっっ!!!』

 

 …ゼストさん達が現れる前から絶対にこの世界は戦乱の幕が開いていたと俺は思うんだが…。

 

 『戦いなくして、人は生きられないというのか…』

 

 『だがそんな宿命など…俺とレジアスの手で変えて見せる!!』

 

 …何つーかゼストさん、相当ス〇ロボシリーズにハマってると見た。これ、アレンジされてるとは言え、α外伝であった伝説のニュータイプ達と御大将とのやり取りだし。恋姫†無双の世界に引っ張り出すくらいにハマってるなら世界観そのものをス〇ロボにしたらいいのに。

 そんなこんなで再び一連のやり取りを見守っていた面々が動きだし、戦場は更に激しさを増す。皆さん、ゼストさんやレジアス中将を何も言う事無く受け入れてますねぇ。

 てか呉軍の援軍は?未だに来ないんだが…。

 俺達はただ戦場を見るだけなのだが、于吉の方で動きがある。

 新たな妖術を使うのだろうと思い、その動向を注意深く観察していたが、次の瞬間に于吉の背中から何かが大量に放出された。

 それ等は戦場を始め、辺り一面を虹色に染め上げる。

 

 『絶好調である!!』

 

 「違うよね!?そこは『月光蝶である!!』が正しい台詞だよね!?」

 

 いや、于吉(アンタ)ノリノリだから絶好調というのもあながち間違いじゃないんだろうけどさ!!

 

 『これはマズいな…』

 

 夢の中のゼストさんも表情を歪め、事態のヤバさを即座に理解する。月光蝶は放っておいたら文明崩壊するからねぇ。

 

 『このままでは街でワシ等の帰りを待っているオーリスも…』

 

 え!?オーリスさんも登場してんの!?

 

 『戦場でなァ、恋人や女房の名前を呼ぶ時というのはなぁ、瀕死の兵隊が甘ったれていうセリフなんだよ!』

 

 レジアスさんの呟きに対して御大将によるあまりにも分かりやすい死亡フラグ講座が説かれる。

 てかオーリスさんは恋人でも女房でも無く、実の娘だし。

 …いや、それでも死亡フラグの構築にはなるか。てか立ったの?死亡フラグ。

 

 『親友(ゼスト)よ。今こそワシ等の力を見せる時…』

 

 『承知っ!!』

 

 2人が構えると、激しい光に包まれる。

 光はすぐに収まり、視界に映ったのは

 

 『親友(ゼスト)よ、今が駆け抜ける時!』

 

 『応っ!!刃・馬・一・体!!』

 

 両手両膝を地に付き、四つん這いになるレジアス中将と、レジアス中将の背に跨るゼストさん(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)だった。

 

 「「「「ぶふっ!!?」」」」

 

 その姿を見て吹き出す俺、クイントさん、ルーテシア、ジーク。

 コ レ は 酷 い!!

 普通に騎乗用の馬はいるのに、レジアス中将を馬代わりにするなんて…。

 

 『いざ参る!刮目せよ!!』

 

 『これぞ我等の…』

 

 『乾坤一擲の一撃なり!!』

 

 于吉に向かって駆け出すレジアス中将。

 

 「「「「速っ!!?」」」」

 

 普通に二足歩行のダッシュよりも速いレジアス中将に驚愕せざるを得ない。

 レジアス中将に跨ったゼストさんは片手に大剣を持ち、真っ直ぐに于吉を見据える。

 

 『でええぇぇぇぇぇいいいぃぃぃぃっっっっ!!!』

 

 一気に于吉の懐に飛び込み、大剣を突き刺してから

 

 『はあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!』

 

 大剣を回転させて、人工的に竜巻っぽいものを作り出した後に、突き刺した于吉を上空に放り投げる。

 その後、一直線にレジアス中将がゼストさんを背に乗せたまま放り投げられた于吉に向かい

 

 『奥義!!斬艦刀!!逸・騎・刀・閃ッ!!チェストオオォォォォッッッ!!!!』

 

 于吉を真っ二つに斬り伏せた。

 その後、地面に着地した2人。

 

 『フッ、ワシ等に…』

 

 『断てぬものなし!!!』

 

 最後はビシッと決め、2人の合体攻撃は終わる。

 何ていうか…

 

 「ゼストさん…」

 

 「隊長…」

 

 俺とクイントさんはゼストさんに批難を込めた視線を向けるが

 

 「……俺が悪いのではない。親分がカッコ良過ぎるのが悪いのだ」

 

 視線を逸らしながら親分のせいにするゼストさんだった。

 まさかゲームのキャラのせいにするとは…。

 

 「いや、それにしても…」

 

 「馬代わりにするのはやり過ぎですよ隊長」

 

 クイントさんの言う通りだが、貴女だってレジアス中将の扱いに対して何かを言える立場じゃないでしょうが。

 夢の中ではリリス代わりにしてた貴女が。

 それにゼストさん…貴方自分のデバイスの得物って大剣じゃなく槍ですよね?自分の得物を変えて夢の中にまで反映させるなんてどんだけ親分の事気に入ってんだよ…。

 

 『み…見事です…この私を倒すとは…』

 

 おお!?

 上半身と下半身をお別れさせられた于吉はまだ生きていた。

 

 『これで…私も悔いはありません…戦えるだけ戦いました…』

 

 途切れ途切れになりながらも最後の力で必死に言葉を紡ぐ。

 

 『全ての者は…いつかは滅ぶ…今度は私の番であった…それだけの事です…これで私も…全ての鎖から…解き放たれることが…出来…まし…た…』

 

 そして上半身、下半身共に爆発し、于吉は死体すら残さずこの世界を去った。

 ……人が爆発するなんてシュールだなぁ。

 しかも最後の台詞は博士ッスか。あのテンションだったから御大将みたいに『お、のぉぉぉれぇ!!』って叫んだりしないのは意外だった。

 後、戦えるだけ戦ったとか言ってたけど于吉何もしてないからな。白装飾の一団を妖術で増やす以外には月光蝶使ったぐらいで実際はゼストさんに簡単に斬られてたから。

 

 『于吉…バカな…ヤツだったぜ…くそっ!!』

 

 「お前はいつ現れた左慈!!」

 

 爆発した于吉を見て涙を流し、言葉にしていた左慈に思わずツッコむ。

 夢の中のキャラ相手にだから言った所で聞こえてないだろうけど、ツッコまずにはいられない。

 それに左慈は于吉のホモォな態度を嫌ってたから悲しむ姿を見るのは違和感バリバリだ。

 ホント、何故恋姫†無双の世界でコレ等のイベントを再現したんだゼストさん…。

 結局最後まで呉軍の増援も来なかったしさ。

 それにレジアス中将に伝えられない情報がまた1つ、増えちまったな………。

 


 
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