No.72160

after 10 years ~Million Films/クロスロード~

拳崇×アテナ
時系列としては、超今更ながらKOFXI後。今までとこれから。

2009-05-06 15:46:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1173   閲覧ユーザー数:1118

after 10 years ~Million Films~

 

建物のドアを開けて、俺は外に出た。

既に暗い道を街灯が明るく照らしている。

近所の公園に向かって歩く。

ゆるい空気がほほをかすめた。

 

俺の名前は椎拳崇。

数ヶ月前に開催された、異種格闘技大会 THE KING OF FIGHTERSに

サイコソルジャーチームとして出場した。

大会が終わった今も、このペンションで

俺とチームメイトの麻宮アテナ、桃子は修行を続けている。

 

ペンションから徒歩三分もない近所の公園。

足をふみいれた瞬間、緑のみずみずしい匂いが濃くなる。

あたりをゆっくり見渡すと、三本並んでいる大きな桜の木が目についた。

その下に見える人影。

 

――やっぱり。

「アテナ!」

駆けよりながら声をかける。

「あ、ケンスウ。どうしたの?」

「…ん、いや、外の空気でも吸おうかと思てな。なんとなく。」

へへっ、と軽く笑ってごまかした。

全くのウソではないが、なんとなく予感がしたのだ。

アテナがここにいるのではないかと。

直感よりも淡くて薄い期待にひきずられて来たら

ホントにアテナがいた。

ちょっと嬉しくなって、俺はちょっと笑った。

 

「アテナは、どないしたん?」

「気候がいいから。ちょっと外に出たくなってね。」

「そやなぁ。外に出やすい時期やもんなぁ。」

「うん、涼しくてきもちいいね。」

軽くほほえみ、アテナは桜の木を見た。

一月ほど前に咲き誇っていた花も今は散り、

てのひらを広げたように葉が茂っている。

 

――あーあ、桜が咲いとったらもっとええ雰囲気やったんやけどなぁ。

ちらと見ると、アテナは枝の葉をさわっている。

となりにいるアテナの横顔。

こんなにしっかり見るのは、ずいぶん久しぶりだ。

 

 

約一年前にあった、師匠とのやりとりを思い出す。

『拳崇、おぬしの中にある力は…ワシの想像以上に強大な力じゃ。』

『はい。自分でも、よう判っとります。』

『今のおぬしには、とても扱いきれん。

 力に飲まれ、自滅するのが関の山じゃ。

 それに、他の弟子にも影響がでる。』

『アテナを危険な目にあわすかもしれんっちゅーことですか?』

『そうじゃ。』

『お師匠さん…俺、ここを離れて修行します。

 アテナを危険な目にあわせるわけにはいかん。』

『まぁ、そうくると思っておったが…。

 拳崇、その修行は容易ではないぞい。力を支配下におく修行じゃ。

 終えるまでに何年、いや十何年かかるか判らんが…よいかの?』

――え、十何年…!?いや、迷っとるヒマがあるかい!!

『構いません。俺、必ず戻ります。』

『よく言った。

 ならワシが昔使っておった修行場を貸そう。

 ワシも時おり様子を見に行くでな。』

『はい!俺、明日にでも行きます。アテナが日本から戻ってきたら

 よろしゅう言うとってください。』

 

 

 

――あれからKOFのエントリー開始まで

  一年間会えへんかったもんな…。

  ふたりっきりになんのも、ほんまに久々や。

 

そんなことを考えていたら、アテナがこっちを見た。

バッチリ目があう。

その瞬間、心臓がビクッと跳ねた。

自分の心音が聞こえた気がした。

 

「ケンスウ、なんで黙ってるの?」

アテナが怪訝な顔でたずねる。

「アテナと久々に二人っきりになれたなぁ、思うて。」

軽く冗談めかして言ってみた。

「なに言ってるのよ。

 …でも、こうしてゆっくり話すのは、久しぶりかもね。」

 

彼女の言葉に一瞬思考が止まる。

俺の発言をごくふつうに受けとめてくれた。

 

もしかして、アテナも俺と同じように思ってくれていたのだろうか。

 

――ハハ、まさかな。

と、有頂天になりそうな気持ちをなだめておく。

 

――そういや、まだ言うてへんことがあった。

俺はひっかかっていたことを口にした。

「なぁ、アテナ。ずっと気になっとったんやけど

 その…、黙って出てってすまんかった。」

「え?」

「一年前…、アテナが日本に行っとる間に修行場離れてしもたから。

 いくら修行の為やゆうても、黙って行ったんは

 …すまんかった」

 

俺とアテナのつきあいは長い。

その中でもこんなに長く顔を合わせなかったことはなかった。

予想より短期間で戻ってこれたのはほとんど奇跡だったが

そういう状況を作り出してしまったのは、俺からだ。

しかも一言も相談せずに。

俺は、修行仲間に黙って行動したことを詫びた。

 

「あ、謝らないでよ。修行だし…。

 それに、放っておいた方が危ないような強い力なんだから。」

「あぁ…そやけど…」

赦しよりも諦めが色濃い声。アテナは納得してくれたのだろうか。

それに……

――まぁ、黙って出てったのは変わらんしな。

 

アテナは言いよどんだ俺の瞳をまっすぐにとらえてきた。

そして笑顔で言う。

「でもすごいじゃない。お師匠様のお話じゃ十数年かかるってところを

 たったの一年で力をコントロールできるようになったんだから。

 がんばったんだね…すごく。

 私も、ガンバろうって思ったもん。」

「アテナ…」

アテナの言葉…そして何よりその笑顔に

彼女への気持ちが溢れそうになる。

 

俺は…この笑顔を守りたくて。少しでも早く戻りたくて。

会いたいと、そればかり願っていた。

そんな修行の日々が脳裏をよぎる。

――よかった。…ほんま、帰ってこれてよかった。

気がつけばアテナをくいいるように見つめていた。

いや、自然と目が惹きつけられているといった方がいいだろう。

きっと、普段冗談めかして伝えている想いが

今ははっきりと表れているに違いない。

 

アテナが俺を見つめ返してきた。

艶やかに光る黒髪。

心なしか潤んだような瞳。

月光を浴びる彼女は、いつもより儚げに見える。

いつもと違う雰囲気。

会えなかった一年間に彼女も成長し、大人へと近づいていたのだろう。

 

 

俺はアテナの手をとった。

 

 

「アテナ…俺と、ずっと 一緒にいてくれへんか?」

 

今まで離れていた分、これからは傍にいたい。

日常の一瞬一瞬を大事にできればいい。

ありふれているからこその大切な時間を。

 

少しひんやりする彼女の手を包み込むように

ギュッと握りしめた。

その瞬間、5月の若葉風が桜の木を揺らす。

葉がざわめく。

 

「うん。…そうだね。」

 

アテナが頷く。

 

その瞬間、自分の内側から力が湧き出るような感覚をおぼえた。

今なら、何だってできそうな気がしてくる。

――かなわんなぁ…。

彼女の微笑みだけで舞い上がってしまう自分は本当に

ドツボにはまってしまっていると思う。

 

アテナを守る。

支えていきたい。

たとえ何があってもこの気持ちは変わらない。

――絶対この手を離さへん。もう離せん。

 

そのためなら、何だってする。

手を伸ばすなど、わけもない。

腕がちぎれても、諦めない。

どこにだって、駆けつける。

それが自分の希望であり意義であり、気持ちだから。

 

after 10years ~クロスロード~

 

私、麻宮アテナは夜の公園にひとり佇んでいた。

5月。

少しひやりとする空気。

それにのってくるやわらかい草木の香り。

爽やかに水気を含んだ風が心地いい。

 

一月前には、荘厳という形容詞がぴったりの花々が咲き誇っていた樹木の下で心を空にする。

夜の静寂、澄んだ空気に包まれ、自分自身が浄化されていく気がする。

 

ぴたりと静止した水面へ雫が落ちるように、彼は現れた。

椎拳崇。

私の修行仲間。

 

「アテナ!」

軽やかに駆けよってくる。

この場所に来ることを示し合わせたわけではない。

私は少し驚いてたずねた。

「あ、ケンスウ。どうしたの?」

「…ん、いや、外の空気でも吸おうかと思てな。なんとなく。

 アテナは、どないしたん?」

「気候がいいから。ちょっと外に出たくなってね。」

「そやなぁ。外に出やすい時期やもんなぁ。」

「うん、涼しくてきもちいいね。」

 

そう言うと、彼は笑っていた。

私はつられて微笑み、桜の木に目を移した。

 

枝から伸びている葉。

もうこの時期になると透きとおるような4月の新緑、と呼べはしないが

真夏の濃い緑ともなんだか違う。

 

私は手をのばして触れてみた。

やわらかいだけでない弾力が指に返ってくる。

みずみずしい、若い生命力にあふれるそのさまは

隣にいる彼のイメージと重なって思えた。

 

少しのあいだ葉を弄んでいたけれど

彼が無言なのを不思議に思い、沈黙を破った。

「ケンスウ、なんで黙ってるの?」

目があったとき、少しびっくりしたようだった。

「アテナと久々に二人っきりになれたなぁ、思うて。」

「なに言ってるのよ。」

いつもの軽口に対して反射的に返したあと、ふと思った。

「…でも、こうしてゆっくり話すのは、久しぶりかもね。」

すると、拳崇が一瞬止まった。

――どうしたんだろう。

口を開こうとしたとき、

彼は自嘲的な笑みを一瞬だけ浮かべ、普通に微笑んだ。

そして何か思い出したような表情へ。

くるくる変わるカオがおかしくって、私は口元をゆるめた。

 

「なぁ、アテナ。ずっと気になっとったんやけど

 その…、黙って出てってすまんかった。」

「え?」

「一年前…、アテナが日本に行っとる間に修行場離れてしもたから。

 いくら修行の為やゆうても、黙って行ったんは

 …すまんかった」

 

――あのときのことかぁ…。

私は一年前を思い出した。

仕事で行っていた日本から修行場へ戻ったとき、拳崇はいなかった。

「龍の気」という強大な力をコントロールするため

単独で修行をすることになった、とお師匠様から聞いた。

そのときの、なんともいえない気持ちが蘇る。

 

今までこんなに長く顔を合わせなかったことはなかった。

私がいくら忙しくても、拳崇から会いにきてくれていたから。

その拳崇が、自分で下した決断。

ひとりで修行するということ。

たとえ一言あったとしても、私になにが言えただろう。

なにができただろう。

 

「あ、謝らないでよ。修行だし…。

 それに、放っておいた方が危ないような強い力なんだから。」

「あぁ…そやけど…」

彼は言いよどんだ。困ったような、いぶかしげな表情。

私の気持ちが表情にあらわれてしまったのか。

つきあいが長いだけあって、彼にはごまかしがきかないことがある。

 

しかしそれはこちらも同じこと。

 

私は拳崇の目をまっすぐ見据えた。

――守るため、だったんだよね。ちゃんとわかってるつもりだから…。

  修行のためっていうより、私を危険にさらさないためだったって

  …わかってるよ。

 

昔は修行をできるだけサボろうとしたり

きつかったらすぐに音(ね)をあげていた拳崇。

それが、今までとは比べ物にならない厳しい修行を

たった一年で終わらせてきた。

そして今はココにいる。

拳崇の瞳を見つめながら、自分の心が和ぐのを感じた。

 

「でもすごいじゃない。お師匠様のお話じゃ十数年かかるってところを

 たったの一年で力をコントロールできるようになったんだから。

 がんばったんだね…すごく。

 私も、ガンバろうって思ったもん。」

 

ずっと近くにいて私のことを守ってくれていた彼が

守るために離れた。

どんな思いでその選択をしたのだろう。

そしてどんな思いで一年を過ごしていたのだろう。

 

「アテナ…」

 

じっと拳崇を見る。

全体的に引き締まった身体、骨ばった肩のライン。

すこしシャープになった輪郭。

そして…いつになく真剣な表情。

――こんなカオするんだ…。

こんな表情初めて見た。

力強い光をたたえた瞳にとらわれる。

なぜか落ち着かない。けれど、目をそらせない。

 

なのに…なんだか胸がしめつけられる。

拳崇の変化は、この一年間私たちが別々の時間をすごしてきたことを

はっきりと物語ってる。

 

出会ってからずっと近くにいたから、それがあたりまえだと思ってた。

ずっと、同じ時間をすごすものだと思ってた。

 

 

でも、それは違っているのかもしれない。

 

 

この一年間がそうだったように。

 

拳崇には拳崇の、私には私の時間が、これから歩んでいく道が

あるのかもしれない。

 

それが、ただ切ない。

 

 

ふいに拳崇が私の手をとった。

 

 

「アテナ…俺と、ずっと 一緒にいてくれへんか?」

 

拳崇の広いてのひらに包まれる。

そこから身体に温かさがひろがっていく。

今わかった。

 

――私には、この温かい手が必要なんだ…。

 

私のことを支えてほしい。

そして拳崇が大変なときは援けたい。

そのためなら、自分の手を精一杯のばせる。

ずっとこうしていられたら…。

そう自分が思っていることをはっきり自覚した。

だけど。

 

 

たとえば10年後――私たちは一緒にいるのだろうか?

 

 

拳崇が望まなくても、私が望まなくても、

お互いが成長する過程で、別々の選択をするときがくるかもしれない。

 

少し冷えた風が拳崇の前髪をゆらす。

桜の葉がざわつく。

 

「うん。…そうだね。」

拳崇のゆるがない意思。その気持ち。

今はただ、それがうれしかったから、うなずいた。

 


 
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