No.719809

『舞い踊る季節の中で』 第144話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

長らくお待たせしました。
やっとこさ納得いく話が書けたので、数日おきに155話まで投稿したいと思います。

続きを表示

2014-09-20 21:02:57 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5964   閲覧ユーザー数:4816

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百肆拾肆話 ~ 戦神の矛を守護するは、幼き魂の舞い ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

【最近の悩み】

 

 何とかと煙は高い所が好きと言うが、高い所からの風景は壮観なのだろう。

 たとえそれが二階建ての屋根の上程度だとしても。

 俯瞰のと風景いうのは、それだけで見慣れた街を違ったものへと見せてしまう。

 

「智羽ちゃん、どう?」

「お師匠様、良く見えるのです」

 

 高い所が苦手と言うより得意でない朱里の代わりに、屋根の上にいる己が弟子の一人である馬謖を時折心配げに見上げながら、彼女から報告される内容を地面へと広げた地図へと落して行く。

 

「あわわ、あそこも直さないとだめです」

 

 そして、まるで水を得た魚のように生き生きしているのは高い所と言うか山が好きと言う馬謖。その横でわたわたと危なっかしげな足取りで屋根の上に立つのは雛里。ああ見えても戦術級に置いてはこの大陸で一、二を争える軍師だ。

 二人が何をやっているかと言うと、地図の上からは分からない街の実態を、山や城壁の上からと言う偏った視点ではなく、より街側からの視点としての現状を確認しているらしい。

 きっと二人の頭の中では、街とその周辺の状況が次々と立体的に構築され、それを元に政略と軍略が再構成されているんだろうな。

 地図の上からでは分からない大切な事を、その目と足でもって直接確認する事は良い事だと思う。

 ………思うんだけど。

 

「一刀さん、なにを見ているんです?」

「いえ、その、危なっかしいなぁと言うかなんというか」

「………」

 

 眼を泳がすかのように明命の視線を逸らす俺を、明命はジト目でもって俺の退路を追いつめてくる。

 いや、そうたいした事では無いんだ。明命に言った事は嘘でも誤魔化しでもなく俺の本心である事には違いない訳で。普通あんな小さな娘、と言っても実は明命より少しだけ下だと最近分かったものの、少なくても見かけ上は小さな娘が、屋根の上に登ってわたわたと危なっかしげにいたら不安に思い、万が一のために近くで見守ろうと思うのは当然の考えだと思う。

 けっしてそれ以外の他意がある訳では無く、たった今気が付いたその事実に思わず目を逸らした所に、タイミング悪く明命がやってきたわけで……。

 

 ひゅぉっ!

 

 あっ、今のは少し強い風がっ。

 山から吹き降ろしてきた突風に、屋根の上の二人は身体を少しだけ泳がせたものの、二人はしっかりと屋根に足を付けている事に俺は安堵の息を吐いた所へ。明命の……何と言うか……その……感情が全く籠っていない声で。

 

「ちなみに何色でした?」

「以外にも黒…ってっ、明命、違うからっ!

 あの俺は本当に心配して此処にいる訳で、けっしてやましい気持ちで此処にいるわけじゃ」

「わかってます。私は一刀さんを信じてますから」

「そ、そう? そう言ってくれると助かる」

「だから、あっちで少しお話しませんか?」

 

がしっ!

 

 そう言って俺の腕を巻きつけるかのように掴む明命。もう『お話しませんか?』なんて可愛いものではなく、どう見ても強制連行にしか感じる事の出来ない程の固定感に、思わず叫んでしまう。もうこれでもかという情けないほど大きな声を心の中でっ!。

 いやーーーっ、違うからっ!

 本当に違うから信じてぇーーっ!

 誤解だっ! 俺は屋根の縁に危うげに立っている雛里達を見守っていただけで、決して邪まな気持ちで下にいたわけじゃないんだーーーっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀視点:

 

 

「おー、一刀やないか、どうしたん?」

「そう言う霞こそ、何やってるんだよ?」

「何って、見てのとおりや。可愛い娘の膝を枕に一杯やってるんや」

「昼間っから?」

「こう言うのは昼間っやから、面白いんやんか」

 

 霞の言うとおり、困った顔をしている春霞の膝を枕にして、短く刈られた草の上に寝っころがりながら一杯やっている。

 大きく張り出した木の枝が作る木陰と、その隙間から差し込む僅かな日差しが、時折吹くそよ風と共に心地良さを演出してくれている事を考えたなら、午後の一時を過ごすには持ってこいの場所なのかもしれない。

 

「霞の事だから仕事は終わってるんだろうけど、子供の教育には良くないんじゃないの?」

「休むべき時は休んで見せるのもウチの立派な教育方針や。

 いや~、この国はええなぁ。元大将の影響やろうけど。やる事をやりさえすれば、こうしてのんびりしてても文句は言われんし、兵達も仕事と休暇を切り分けができとる」

「ははっ。雪蓮のサボり癖も、そう言う意味では確かに良い影響を与えているのかもな」

「仕事を放ったらかしにしたら、どういう目に遭うかもやろ?」

 

 霞の質問に答えるまでも無く。俺は笑みでもって答えてやる。

 我ながら意地の悪い笑みを浮かべたとは思うけど、それで十分に答えなんて伝わるし、霞だって意地の悪い笑みを浮かべてるからお互い様だ。本当に良い意味でも悪い意味でも破格な王であったのは違いないからね。……まぁ、困った事に現在進行形ではあるけど。

 

「そう言う一刀こそ、どうしたん? ウチに用事か? だったら、ちょ~いと待つ事になるなぁ。この後は春霞の相手をしてやる約束があるさかいな」

「なるほどな。春霞が昼間から酒なんてと文句を言いたいのを我慢して、霞の膝枕をしているのはそう言う訳か」

「まったくです。将軍職と言う立派な地位に就かれていると言うのに、御休みごとにこれでは皆に自慢できません」

「なははっ、だから今はやって。この後の春霞の約束を破るつもりなんて、これ~~ぽっちも無いて証明してみせたやんか。可愛い義娘との約束を破る程、ウチは落ちぶれておらへんで~」

 

 霞の陽気な声で安心せえやと言う返答のついでとばかりに、義娘の春霞に酒のお代わりを要求する態度に、春霞は子供らしく頬を小さく膨らましながら、それでも困った顔のまま優しげに酌をする辺りは、春霞本来の優しさと言うよりも、霞との絆の証なのだと信じられる。

 そのあまりにも微笑ましい光景をよそに、霞は此方の事情なんてお見通しだとばかりに…。

 

「なんや、雪蓮みたいに仕事から逃げてきたんか?」

「まさか、仕事はするよ」

 

 掛けられた嫌疑に、身を潔白するように両手に抱えていた書簡の山を高く上げてみせるが、それはそれで何から逃げてきたかを説明しているようなもので。

 

「逃げてきたんは屋敷からかい。あれだけ立派な屋敷を貰っといて贅沢なやっちゃなぁ」

「その贅沢さにどうにも慣れないんだよ。根が小市民なんだもんでね」

「そうかぁ? 少しの間、住んどったけどウチは何とも思わへんかったけどな」

「あ、あの私は、その広すぎて……居心地居が…、あっ、でもそれ以上にアレにはどうにも慣れなくて」

「なははっ、あの時の春霞の悲鳴は可愛かったなぁ」

「か、義母様っ! あれは義母様が黙っていたからでっ」

 

 俺と同じく小市民な春霞をからかう霞に、春霞は顔を羞恥心で真っ赤にして霞に喰ってかかるけど、どう見てもじゃれ合っているようにしか見えない。

 春霞が言っているのは、たぶん明命ですら夜中に悲鳴を上げたアレの事だろうなぁ。流石に春霞が可愛そうなので二人のじゃれ合いに混ざる事は止めたけど。じゃれ合いの内容を聞く限り、なんやかんやと言いながらも洋式の厠その物には気にいっているらしい。

 城の方でもウォッシュレット機能はともかくとして、試験的に導入した洋式の厠は評判は良好らしく。近々追加試験を兼ねて城の全ての厠を変更するらしい。一応、陶製の水道管とゴム製のパッキン等を使用した上水道と下水道の実用試験が目的だと聞いているけど。一部の女性陣が随分と喜んでいたよな。何となく嫌な予感がしたのでその理由については深くは追及しなかったけどね。

 ちなみに天の世界の物には水の代わりにお湯が出たり、更には女性用のウォシュレットや、温風による乾燥をしてくれる機能があると言うと。 冥琳達は凄いとか羨ましいとか言う以前に、なんて無駄な機能だと驚かれた。確かに無駄に凝っていると言えば凝っているよな。トイレにあそこまでの機能と神経を注ぎ込んだのは日本人くらいだとか言う話も聞くし。

 

「そう言う訳で、場所だけ貸してくれればいいから」

「ええけど、無駄やないか?」

「大丈夫。明命は任務で街に不在だし翡翠は城にいるはず。美羽は善々(虎)と周々(大熊猫)を率いたシャオと一緒に荘園に行っている。七乃も今日の午後はお店の方に行っているはずだから、半日くらいは誤魔化せるはずさ」

「其処まで確認して、やる事が隠れて仕事するっちゅうのもどうかと思うけどな。

 ちなみに他に行くところは無かったんか?」

「隊舎は、人の出入りが多すぎるし、行ったら行ったで皆の相手をさせられるだけだ。華佗の所はそう言う心配はないけど、色々と質問攻めにされた挙句に治療の手伝いをさせられるのが目に見えている。どちらにしろこっちの仕事どころじゃなくなるから論外さ」

 

 我ながら逃げ込む先の少なさに寂しくはなるが、お城のお偉方から俺を庇ってくれそうな場所と言うのは限られてくるから仕方がない。

 

「色街の方はどうや? 確か一刀の案やろ? 国が管理する事で弱い立場のもんを守るっちゅうのはええ事やし、あそこの連中なら一刀の頼みなら、たとえ大将が相手でも匿ってくれそうやけどな。

 ついでにタダで遊ばせてもらえるんやないか? にひひひっ」

「そう言う親父くさい笑いは止めてくれ。 流石に春霞も今のは引いてたぞ」

 

 ちなみに霞が言っていたのは、言葉通りのそう言うお店を集めた場所で、俺が建策したのはそれぞれの深い訳あってそう言う職に就いてしまった人達の最低限の人権を守ろうと言う趣旨のものだ。

 なにせああ言うものは幾ら取り締まったとしても無くならないし、それならば国が管理する事によって、酷い環境や不遇な契約からそう言う人達を守ろうと言うものだ。

 一人一人が国、もしくは街に登録する事になっており、国の定めた金額と歩合を報酬として受け取れる事が保障されている。むろん無料と言う訳では無いがけっして高い金額というわけでもなく、そう言う人達にとってお店側に売り上げの上前を刎ねられたり、返しても返しても一向に借金がなくならない状況に比べたらこの政策は救いと言える。

 むろんお店を持つ者側からしたら、売り上げが減ること間違いないこの政策に強い反発も多く在ったが、その反発する理由が理由だけに、幾ら建て前の綺麗事を並べても、正当な理由を前に押し出した国のゴリ押しに対抗できるわけも無く無事に施行となった訳だ。

 ちなみに店子への暴力や強要はもちろんの事、お店側は定期的にお店側持ちで店子を医者に見せる事が義務付けられている。禁を破ったり、無許可での営業は当然ながら厳罰と言う事もあって、最初こそ混乱はあったものの、一旦機能してしまえば安全に遊べるならばと言う事で落ち着きを取り戻した所らしい。

 そんな訳で、決して俺の趣味で建策したわけではないので、霞の言葉は完全な邪推と言うか、単に俺の反応を楽しむためのもの。そもそも……。

 

「あのね俺一人で行った日には、間違いなく疑われるに決まってるだろ」

「あの街での客の素性は、外には出さんへんはずやろ?」

「街の中はね」

「なるほどな。確かに街の出入り口の外はその限りやないわな。

 ちなみに一刀が行くとしたらどっちなん?」

「視察や華佗の治療に付き合ってと言うなら、どっちもだよ」

「イケズやなぁ。分かっていてそう言う事言うあたり。面白うないで」

「酒の肴にしようとする魂胆が丸見えなのに、そうそうは付き合えんさ。

 それに題材が題材だから、これ以上は勘弁してくれ」

 

 霞が言っているのは、男性向けの色街か女性向けの色街かと言う事。

 女性優位のこの世界において、やはりそう言うお店は出てくるのは当然の成り行きで、どちらもプライベートで行く事は遠慮したい。

 いや、行った所でやましい事をしてくるつもりはないけど。どちらに行っても身の危険を感じる。

 だって男性向けの色街へ行けば、当然ながら明命と翡翠の二人にいらない心配を掛ける事になるわけだし。かと言って、女性向けの色街へ行った日には、それこそそっちの趣味だと疑われるに違いないのは目に見えている。

 どちらに行っても二人の【O☆HA☆NA☆SHI】を免れる事は無いに決まっている。例え身の潔白が証明されていようとも、おそらくその結果は変わらないに違いない上、もし女性向けの色街に足を踏み入れたとしたら、まず翡翠が目を輝かせて根掘り葉掘り聞いてくるのが目に見えている。 しかも十中八九、三日もしないうちに他の皆にまで広まるに決まっている。 ならば此処は君子危うきに近寄らずを徹底するだけの事。例え冗談や洒落でも他人の耳に入る危険性のあるところで、色街に行くだなんて事は口にする事は出来ない。

 

「義母様っ、一刀様が困っています。

 そもそも天の御遣いであられる一刀様が、不義理を働くはずなどないではないですか」

「ふにゃ~。春霞は一刀の肩を持つと言うんかぁ? 冷たいなぁ」

「どう聞いてても、今のは義母様の方に問題があるように聞こえます」

「春霞は優しいなぁ。で、一刀。春霞の言葉に胸が痛くならへんか?」

「い、痛くなんてないぞ」

 

 うん、痛くないんだけど、こう春霞の純真な瞳に見詰められると、こう胸が痛くなると言うか。いや、身に覚えなんていくら振り返ったって無いんだけどね。男と言うのは、例え無実だとしても無垢な瞳でそう言う風に問い詰められたら痛くなる生き物であって。 つい思わず、ごめんなさいと言ってしまいそうになるのをぐっと堪えて、戦略的撤退を謀る事を決める。

 

「そう言う訳で、縁側の一角を貸して貰うな」

「一杯くらい付き合ってくれてもええのに」

「此れが終わったら、一杯だけなら付き合うよ」

「さよかぁ。まぁ期待せんで待っとるわ」

 

 霞の誘いを丁寧に断りをいれて、さっそく縁側に据えてある机に向かった所で、手が止まる。

 暫くして霞も気が付いたのか、憐みと言うよりむしろ面白そうに、残念やったな一刀と言う言葉が聞こえる。

 まずったなぁ、気配を消しておくべきだった。気がついた所で気配を消した所で、それまで感知されていた以上は自ら此処に居ましたよと喧伝している様なものだし、かと言って露骨に走って逃げ出すと言うほどではないわけで…

 

「……こんな所に居たとはな。蓮華様が御呼びだ」

 

 女性だけの家に気配を消して訪問するのは気がひけたのが災いしたのか、それとも霞との会話を楽しんでいる事に時間を費やし過ぎたのか、すぐ隣りと言う霞の屋敷は灯台下暗しで半日は稼げると思っていた思惑は、思春と言う予想外の人物の手によって撃ち破られてしまった。

 つまり予想外の出来事か、それとも俺が知らない所での話が動いたと言う事なんだろうけど。

 でも、その前に聞きたい事が一つだけ。

 

「ちなみに、真っ先に此処へ?」

「……ふんっ、それならば手の者を数人ほど色街へ飛ばした」

「おーーーいっ!」

「……冗談だ。半分はな」

「半分と言う事は、人をやった事には違いないのね?」

「貴様があの街でナニをしようと私の関与する事では無いが、念のためと言う奴だ」

「今なにか字が違った気がするんだけど」

「……気のせいだ。

 一応忠告しておくが、其処まで慌てては、まるで身に覚えがあると言っている様な物だぞ。

 言ったろ。念のためだと。あそこの連中なら王に逆らっても、貴様を匿う事くらいはしかねないからな」

 

 思春の言葉に、やっぱり行くのを止めておいて良かったと安堵の息を吐きながら、俺は諦めて机に置いたばかりの書簡を再び両脇に抱えてゆく。其処へ珍しく思春が先程の言葉に継ぎ足すかのように…。

 

「……それに貴様が翡翠様や明命に対して本気で不義理を働くとは、私も思ってはいない。

 せいぜいが、彼方此方の女に粉を掛けまくるくらいだとな」

「ちっがーーーーうっ!」

 

 前半はともかく後半の思春のあまりの言葉に、俺は両脇に抱えた書簡が地面に落ちるのも構わず全力で叫ぶ。

 いったい何処をどうやったら、そう言う冤罪が出てくるのか俺の方が聞きたいくらいだ。

 まったく霞は腹を抱えて笑っているし、春霞は信じられない物を見たように目をパチクリしている。頼みますから信じないでね。

 無駄かもと思いつつも、霞に春霞の誤解を解いておくよう視線を送るが、霞の大丈夫大丈夫が、今日ほど当てにならないと思えるのは気のせいだろうか。 と言うか気のせいだと良いなぁ……。

 俺は諦め気味に今度は溜息を吐きながら、もう一度書簡の山を両脇に抱え直し、霞の屋敷を思春と共に後にする。思春は、後ろをついて行く俺にだけ聞こえるような声で…。

 

「……冗談だ」

 

 うん、よかった。よかったんだけど、それをあの場で春霞達に聞こえるような声で言ってくれたら、もう少し嬉しいなぁと思うんだよね。

 でも思春からしたら俺が姿を暗ましたおかげで、あちこちを探させられた意趣返しなんだろうけど……、此れなら、まだ剣を突きつけられる方がマシかもしれない。 だって、こう言っては何だけど思春の場合、冗談が冗談に聞こえない事が多すぎるんだもん。

 それにしても、思春を遣わすほどの急用か。

 なんか碌でもない事のような気がするのは気のせいか?

 はぁ…、いったい何だろう。

 

 

 

音々音(陳宮)視点:

 

 

 きゅるる~。

 

 うぅ、裏切り者のお腹がまたもや鳴ったのです。

 城壁の矢狭間が作る日影に腰を下ろしながら身体を休めて仮眠を取っているのですが、裏切り者のお腹が騒ぐせいであまり寝れていないのです。

 

「……ねね、ごはん」

「此れは恋殿、わざわざ持ってきてくださらなくても、音々が取に行きましたのに」

「また、此れっぽっちですか。あいつめ、とうとう本性を出してきたですね」

 

 恋殿が持ってきてくださった椀には、干し芋と干し肉がそれぞれい二欠片づつと、数口分の具の無い汁。

 その程度では身体を最低限維持するだけの食事でしかなく、とても最前線で戦っている者達に出す内容では無いのです。

 食料が少なくはなっているのは確かですか、恋殿達が敵部隊の包囲網を突き破って仕入れてきた糧食分を考えたならば、まだまだ余裕はあるはず。

 それはつまり、恋殿達を斬り捨てるための準備と考えた方が良いかもしれないですね。

 共に利用するだけの間柄とはいえ、そろそろ此方も見切りどきなのかもしれないのです。

 

「そう言えば恋殿の分は?」

「…恋はもう食べた」

くぅぅ~……。

 

 恋殿の言葉と同時に、恋殿のお腹から確かに聞こえてくるのです。

 きっとお優しい恋殿の事です。御自身の分を他の者へと与えてしまったのでしょう。

 そして音々を心配かけまいとそう仰ったのでしょうが、恋殿のお腹が恋殿の御心を裏切ってしまった。

 つまりそれは、恋殿もそろそろ限界に近いと言う事。

 まったくあいつといい、孫呉といい、苛立つ事ばかりなのです。

 幾ら蜂起するための準備の途中に攻め込まれたと言っても、恋殿達に掛かったら此処まで戦が長引く事は無かったのです。

 敵が幾ら多いと言っても、連合軍相手の時と比べればまだマシでしたし。籠城と奇襲と言う事を考えたら十分に勝機はあったのです。なのにそうはならなかった。

 理由は明白なのです。卑怯にもあいつ等は本気で戦って来ないのです。いや、本気で戦っていないと言うのには語弊があるのです。本気で戦っては来ても、本気で攻めてはこないのです。恋殿達を深く警戒してと言うより、まるで此方の出方や戦術を試すかのように、少し戦っては軍を退くを繰り返して行ったのです。

 本気で攻めてこない相手など幾ら追っても無駄でしかなく。かと言ってここまで長引かされては街への街道を封鎖されている以上、此方側が消耗するだけなのです。

 勇猛果敢を旨とする孫呉の軍が、まさか兵糧攻めなどと言う消極的な戦いをしてくるとは想定外だったのです。 この街の城主であるアイツも、それだけは無いと言っていただけにこの事態に焦っているようですね。

 

「此れは恋殿が食べるのです。いざと言う時に恋殿が力を出せなくては、恋殿について来ている者達が危機に陥ってしまうのです。

 なに音々は大丈夫なのです。このとおり音々の身体は小さいですので、人より少ない食事で済むのです」

「ふるふる……だめ。音々、昨日もそう言って真白(眭固)に譲ってた。その前は更紗(高順)に。だからこれは音々が食べる」

 

 まったく主である恋殿に此処まで心配を掛けるなど、音々は恋殿の一の家臣として失格なのです。

 ですが、恋殿がそう思われるように、音々とて譲るわけにはいかないのです。かと言って、こういう時の恋殿は何を言っても聞いてくださらぬのは、長い付き合いの中で痛いほど分かっておるのです。ならば、此処は恋殿が納得する形で音々が折れるしかないですね。

 

「ならば、此れは二人で半分こにするのです。

 それならば、恋殿は音々が食事をするのを見張れるのです。

 音々も、恋殿が食べてくだされるのを見て安心する事が出来るのです」

「……………………わかった。音々と半分こ」

 

 音々の提案に、恋殿はしばらく考えた後、無事に承諾してくれるのです。

 恋殿と二人、城壁の壁を背に食事を取るのです。

 量はほんの僅か。セキトと張々をいれれば、本当に一口づつでしかない食事。

 それでも、いっぱいになるのです。お腹では無く、胸がいっぱいに膨れるのです。

 

「恋殿、今が正念場なのです」

「ん……音々を信じる」

 

 ですが幾ら気力で大地に立とうとも、いずれは限界が来てしまうのは明らか。

 このままでは幾ら恋殿でも力を出すことができず、敗れてしまう日が来るのは目に見えているのです。

 ですが、此方が弱ってくるのを向こうとて待っている筈。そして必ず此方が戦えなくなる前に勝負に出てくるはずです。大陸中に知らぬ者は無い程に広まった恋殿の勇猛さを、奴等が利用しない訳ないのです。

 天下無双を正面から撃ち破って見せてこそ、孫呉にとって旨味がある戦なのです。

 たとえそれが兵糧攻めと言う汚い手段だとしても、戦い撃ち破ったと言う部分だけを広めてやれば済むだけの話。

 だけど、それこそこの状況下で音々が狙っていた瞬間なのです。

 恋殿も、恋殿が鍛えた武威五将を始めとする兵士達も、其処らの雑兵とはわけが違うのです。

 こんな危機など幾らでも喰い破って見せれるのです。

 相手がどのような手段を使って来ようとも、本気で掛かって来たならば、恋殿に負けは無いのです。

 そして、敵の全力を正面から撃ち破った時こそ、初めて敵と取引が出来るのです。

 恋殿の国を孫呉から奪い取るための取引が。

 恋殿と恋殿の家族が安心して暮らす事の出来る国を。

 

「恋殿、今は少しでも身体を休め、力を蓄えておくべき時です。

 なに、音々が見張りをしておきますから、恋殿はどうか安心してお休みください」

 

 その為には今回ばかりは最悪、アレを恋殿に出してもらわねばならないかもしれないのです。 恋殿の本気の本気を…。 アレだけは出させてはならないと判ってはいるのですが、そうも言っておられぬのです。

 違うのですっ! 何を弱気になっているのですっ!。

 ようは音々が頑張って、恋殿にアレを出させずに済むようにすれば良いだけなのです。

 

ぱんっ!

 

 気合いを入れるかのように、音々は両頬を叩いて気合いを入れ直す。

 覚悟を決めたとはいっても、やるべき事はやらねばならないのです。

 常に最悪の事態を想定して動いておくのが軍師としての務め。(張楊)殿にでも、もしもの時のことを想定した話をしておいた方が良いですね。アレに巻き込ませないためにも…。

 

「………来た」

 

 突然飛び上がる恋殿に驚く事無く、音々は真っ直ぐと恋殿が見つめる視線の先に目をやるのです。

 そして恋殿の反応から大分遅れて見張りの兵士が声を大きく上げるのです。

 

「東の丘向こうに、敵影を発見。

 敵、牙門旗はいつもの緑黄の【陸】と紫電の【呂】」

 

 ち、まだ音々達をいたぶるつもりですか。

 

「……ちがう。まだいる」

 

 音々の心中を読んだかのような言葉を漏らしながら、恋殿は地平の先を強く睨みつけ続けるのです。

 つまりそれは……。

 

「敵軍影、なおも増大中。掲げられる牙門旗も増えています。

 黄色に【黄】の字、真紅に【孫】一文字が……三つもっ! ……それにあれは紺碧の【張】……張遼殿の旗ですっ!」

 

 最期の言葉に兵士達に動揺が走るのです。

 かつては仲間だった霞との敵対と、その強さを知る故の動揺。

 だけどそのような事、最初から分かっていた事なのです。

 

「お前達は何なのです。誇り高き呂奉先の兵士ではないのですか!

 例え張遼とて、奉先殿の前には雑兵も同じ。その奉先殿の兵士たるお前達がその程度で動揺してどうするのです」

 

 すぐさま城壁の更に上たる矢狭間の上に立ち動揺する兵士達を鼓舞するのです。

 恋殿が見えるように…、恋殿を指し示すかのように大きく手を広げ、言葉少ない恋殿の代わりに兵達を鼓舞して見せるのです。

 その間にも増え続ける敵軍影。確認できる牙門旗は更に【周】【甘】【諸】と増え続けるのですが、今は敵の数に飲まれる時ではなく、逆に気迫でもって敵を飲み込む時。そうでなければ戦など勝機は掴めるはずなどないのです。

 

「飛将軍、呂奉先殿の武は天下無双っ!

 奉先殿前に敵は無く、奉先殿の後ろに敵は無し!」

 

 恋殿…そう小さく呟いて見せると同時に、恋殿は音々の期待に応えるかのように、方天画戟を高らかに揚げ肩に担いでみせるのです。恋殿が見せる無双の構え。一見無防備に見えて、余分な力を抜いた恋殿の構えは、其処からどんな攻撃にも対応して見せ、すぐさま敵の攻撃毎粉砕してみせる事が出来るのです。

 その事を何よりも知っているのが、恋殿の傍でいつも戦い抜いてきた兵士達。

 さぁ思い出すのです。あの程度の数、虎牢関の時に見た五十万の大軍の事を思えば大したことなどないと。ここにいる兵士達はその大軍の中を突っ切ってきた武士(もののふ)であることを。

 何より、その先陣に立つ恋殿の何者のも寄せ付けぬ強さをっ。

 

 

「天下の飛将軍、呂奉先殿は此処にありなのですっ!」

「「「「おおおぉぉぉぉーーーーっ!!」」」」

 

 これで良しなのです。兵士達に走った動揺も、所詮は空腹が生んだ一時的な物。恋殿の強さを思い出させてやれば、いつものあいつ等に戻るのです。

 そして復活した士気を見逃さないとばかりに、(張楊)殿も真白(眭固)更紗(高順)を含む他の武威五将達が兵士達を纏め上げて行くのです。 一騎当千の兵士達へと。

 そして敵軍影が全てが確認でき始めた時、新たな牙門旗が上がるのです。忘れもしない十文字の牙門旗。

 虎牢関にて連合軍全体を餌にすると言う巫山戯た策で音々達を陥れた張本人。

 

 

 

 

 そして、何処か恋殿と同じ匂いのする奴なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 こんにちは、うたまるです。

 第百肆拾肆話 ~ 戦神の矛を守護するは、幼き魂の舞い ~を此処にお送りしました。

 

 長らくお待たせしました。

 唐突と始まろうとするのは孫呉 VS 呂布 え?敵の城主の名前が出ていない?

 そんなの気にしないでください。どうせ必要のないモブキャラ以下の存在ですので、いっその事名前なしのまま話を進めて位と思います(哀れw

 さてさて、以前から呂布との場面はどうなったのか、と言うお話がありましたが、此処まで伸ばしてきたのにはそれなりの理由があり、この物語ではそれなりに重大な場面だからです。

はっきり言って、私的には何処かの金髪抉れ胸娘 VS 金髪脂肪の塊胸娘の場面より重要と思っていたりします。ぶっちゃけ、あっちは話を飛ばせても、此方は飛ばせない程なんですよね。

 と此処まで話を盛り上げておいてなんですけど、そう話的には激変する訳では無く、物語の背景における重要なファクターが多く含まれている話と言う事です。

 と、言う訳でこの戦いの決着がつく話数まで、一気に書き上げて納得いく形になったら、更新したいと思い、今まで更新が開く事となってしまいました。

 

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

 


 
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