二人の物語~私達に未来の花束を~
雨泉 洋悠
私達は、アイルの花。
私が貴女と過ごした日々。
貴女と私達が過ごした日々。
貴女が私にくれたもの。
私達に貴女がくれたもの。
貴女は、私の花。
始業式、新しい日々の、始まりの日。
凛と花陽、今年ももちろん、同じクラス。
他の皆も、去年から一人も変わることのない、こんな私でも、それなりに仲良くなる事が出来た、大切な仲間達。
凛と花陽とは、春休みも会っていたから、久し振りという感じがしない。
もちろん、にこちゃんとも、ほとんど毎日会っていたから、正直あんまり寂しいと感じていない。
休み前までの、濃密だった日々を思うと、今そう思える自分が、少し意外だったりもする。
今日は、練習はお休みにする事も、皆で考えたけれども、結局は昨日、皆早く練習したいねとなって、今日からまた、毎日の練習を再開しよう、ということになった。
まあね、春休み中も練習はしていたけれども、昨日までの数日はお休みだったから、久々に練習で、身体を動かしたいし。
お休みの間は、基本的ににこちゃんと一緒にいる事が多かったから、緩んじゃった気持ちの方も、鍛え直さないといけないと思うし。
にこちゃんと二人きりでいると、基本私の方が甘えてしまうから、どうしても気持ちが緩んじゃう。
そんな昨日までの日々を、心の中で反芻していると、申し訳程度の、短いホームルームが終わって、凛が声をかけてくる。
「真姫ちゃん、何楽しそうに笑ってるにゃ、ホームルーム終わったんだにゃ、練習いっくにゃー」
ああ、見て解るぐらいに顔がにやけていたみたい、もう隠す必要もないんだけど、あんまりバレバレなのは、やっぱり恥ずかしい。
「な、なんでもないわよ。春休みの間の出来事、思い出していただけよ」
そう言いながら、凛から目を逸らす。
やっぱりこの、恥ずかしいっていう気持ちばっかりは、どうにもしようがない。
「真姫ちゃん、紅くなってるにゃーなにか思い出しちゃったかにゃ?」
凛の事だから、もう解っているくせに、そう言って私の事をからかってくる。
そんな凛の突っつきが、恥ずかしくも、嬉しいものになったのは、何時頃からだったかな。
「凛ちゃん、それぐらいにして、真姫ちゃん、今日は雪穂ちゃんと、亜里沙ちゃんも、見学に来るって、さっき穂乃果ちゃんが、言ってたよ」
花陽も、凛を諌めつつ、話しかけてくる。
私達三人の関係、何も変わらない、きっとこれが、完成形なのかな、と思う。
「ただ、穂乃果ちゃん達は、生徒会の仕事してから来るって言ってたから、少し遅くなるみたい。二人はその時に、一緒に連れてくるって言ってたよ」
うちのクラスからも、見学に来たいって子が何人か出て来たけど、花陽いわく、今日は二人のためで、明日以降に他の人を徐々に受け入れていくみたい。
部長らしく、今後のアイドル研究部のこと、穂乃果達とも相談しながら、色々考えているみたい。
私も副部長として、花陽の手助けを、これからしていければ、と思う。
「じゃあ、先に行って、早速三人で練習始めようか。三人が来るまで、ちゃんと凛が指示を出してね」
そう言って、立ち上がりながら、凛の肩に手を置いて、回れ右させる。
これからの事を考えれば、凛にはリーダーにより一層、慣れていってもらわないと。
「解かったにゃ、真姫ちゃん、かよちん、凛に着いて来るにゃー」
春の陽射しの中、私達の、新しい、当たり前の日々の、始まり。
凛と花陽と、三人で、着替え終わって、屋上のドアの前。
「今日はお天気が良いから、暖かそうだにゃ」
何時もと変わらない調子の、凛。
「眠くなっちゃわないように、気を付けないとね」
何時だって、私と、凛に、優しい、花陽の言葉。
「さあ、行くわよ。二人とも」
休み前と、何も変わらない、三人。
だから、私は、今までと、何一つ、変わらないと、その時、きっと、思っていた。
でも、ドアを開けて屋上に飛び出した時、そこにあったのは、きっと私がそこに見たいと思っていたものとは、少しだけ違う。
雲ひとつ無い、あの日と同じ、どこまでも、透き通った、優しい、青空。
次回
雨
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あの日が来たので書き始めました。
真姫ちゃんにとって、生涯で多分二番目に辛い日。
そこに、にこちゃんは居てあげることが出来ない。
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