キキSide
俺たちがワルド達に追いついてから半日ほど経ち、日が暮れ始めた頃。その大陸を視界に納めた。
暮れ日の光に染まったオレンジ色の雲。そしてその雲に包まれて日を背に浮かぶ大陸。
「ラピュタは本当にあったんだぁ」
「? あれはアルビオン」
「いや知ってるけど。ただ慣例として言っておかなきゃと…」
「??」
ラピュタ発言にタバサが怪訝な表情で見てくる。まあ、そうだろうな。俺も同じことを近くで言われたら…
「ラピュタは本当にあったんだッ!」
「………」
別の場所で笑顔で同じことを言っていたジンに『何言ってんのコイツ?』的な視線を向ける。やっぱあれだな。テンション上がって自分で言うと満足感あるけど、他人が言ってるのを見ると果てし無くバカっぽく見えるな。まあいいや。
さらに別の場所へと顔を向けるとリオンを間にルイズとキュルケが一緒に話しいた。リオン的には浮いている大地ってどう思うんだろう? ぶっちゃけ俺としては少し前に聞いたガリア王の事を考えると……あれがラスダンにしか見えなくなってくる。……さすがに悲観的過ぎるか。
「
鐘楼にいる見張りの船員が大声叫ぶ。俺とタバサはその内容を聞き、船の方へと向く。他の甲板にいる連中も気になったのか皆近くに集まってきて近づいてきている船に視線を向けていた。
「いやだわ。反乱勢力……、貴族派の軍艦かしら」
「さあな。内乱中だ。哨戒の船が見張っていてもおかしくはあるまい」
不安そうなルイズが呟きにリオンが答える。そう言ってる間にも軍艦は大砲をこちらに向けたままどんどん近づいてきた。鐘楼にいる船員は指示を受け取ったのか手旗を振って軍艦に何かしらの意思を示すが、軍艦の方は何の反応もかえさなかった。
そしてすぐ後に見張りの船員は慌てたように鐘楼から降りて行き、船内が慌しくなった。
「アレ、空賊だな」
「見分け方は?」
「あの軍艦、旗を掲げてないだろ」
「旗の有る無しだけで判断していいのか。……ゆるいなぁ」
ジンの説明に俺はボケッとした声で言い返す。
「どうするんだ。あれが空賊と言う事はつまりこの船が奴らのターゲットにされたのだろう?」
「えッ!? そ、そんな…。あと少しでアルビオンだって言うのに」
ルイズがリオンの言った言葉に動揺し、不安そうな声を出しながら指輪を見る。
「ま、相手の出方しだいじゃないか? 場合によっては積荷だけ渡して俺らはアルビオンへ行けばいい。幸い、今船は風石を使い切ってワルドが浮かせてるから、それを教えてやれば下手に長居はしないだろう」
と、俺はあの軍艦が王子一派が乗っていることを知りつつも、すっとぼけて言う。そして軍艦が横付けされ、
「ヒャッハー! てめぇら全員死にヤガレェ!!!」
「……」
軍艦から現れたメタボの典型的船長と世紀末的乗組員。俺は無言無表情で空賊船長を殴り船から落した。あれ王子違う。それを皮切りにジン、リオンの計3人で空賊達を全滅させた。
「君たちさ、相手の出方を
「ギーシュ。世の中臨機応変に生きなきゃ」
ギーシュの引き気味の言葉にジンが遠い目をしながら返答する。俺も臨機応変に空賊の船から色々な荷物を物色し貰った。もちろん積んである風石も船員たちで軍艦からか半分程運び出す。船員曰くこの位置からアルビオンまでならこれくらいで十分なのだそうだ。なお軍艦の方も商品として港に着いたら売るらしい。そして…
「空賊だ! 抵抗するな!」
とアルビオンへ近づき雲の中で運航中、船の真上から大きな声が聞こえてきた。本日2度目の空賊襲来である。どうしよう。最初に襲ってきた空賊のこともありリオンは既に臨戦態勢であり、ギーシュ、キュルケ、タバサも戦う気満々である。
「すまない。疲労で戦闘に参加できなくて」
幸い、甲板に出てきたワルドは疲労で動けず、ジンは原作を知っている。チトセは………あれ? あいつ何処行った? まあいいや。
「俺が言うのもなんだがどうしよう」
「ホント、どうするん…」
ドゴォンッ!とジンの言葉を切るように大きな砲音が響き、空賊船の船底が爆発した。
「おーほほほっ! 悪逆非道な空賊め! この正義のスーパー美少女であるこの私、烏丸ちとてくッルォッ!?」
「てめぇはいきなり現れて、何さっそく問題行動してんだよっ!!!」
さっきまで隣にいたジンはチトセの声が聞こえた瞬間、目にも写らぬほどの速度で牽引している軍艦の上で大砲に片足を乗せて嗤っていたチトセへと接近し、見事な飛び膝蹴りを顔面へと見舞った。
が、その反射的
膝蹴りによって吹き飛ばされたチトセは無意識だろか、
握られたロープはチトセの動きに合わせて引っ張られ、マストの足場に何故か置いてあった数本の材木に引っかかり落下してくる。落下した木材は、これまた何故か甲板に纏められていた積荷に当たり、その積荷の中に有った大樽が転がり、それはジンへと向かう。
もちろんジンはそれを難無く躱すが、避けたことにより大樽は大砲に当たり、どういう構造をしているのだろうか、大砲は固定されている台座を軸に物凄い勢いで回転し、砲身がジンへと叩き込まれた。
砲身に側頭部を強打したジンはふらつき倒れそうになった所に先ほど蹴り飛ばしたチトセが振り子の要領でぶつかり、それと同時にチトセが掴んでいたロープが切れてジンと共に絡まり身動きが取れなくなったまま転がり甲板の端、これもやはり何故か手すりが壊れている場所へと速度を上げて進んでいった。
しかし、流石はジンである。落ちる直前、咄嗟に片腕で甲板淵を鷲掴み落下を阻止する。そして、空賊船の…チトセが大砲で破壊し開いた船底から落ちてきた大きな木箱が直撃し、ドォォォォンッ!と大爆発。
煙が晴れるとそこには爆発の規模に対してそこまで被害を受けていない軍艦だけが見えた。
「ピタ~ゴラ~スイッチ」
俺は無意識に呟く。もう笑うしかない。笑えないけど。今の一連の流れを見てしまっていた他の皆も唖然としてしまっていた。
「殿下! 大変です! さっき撃たれた場所から一番大きい火薬箱が落下しました!」 「なに!? どう言う事だ。破壊された場所と荷が置いてある場所は違うはずだろ!」 「それが何故かあの火薬箱だけが砲撃された時転がったようでっ」 「そんな馬鹿なことがっ、それに何故落ちただけで爆発した!?」 「原因不明です!」
ふと、空賊船から慌てた声が聞こえてくる。なんだろうな、これ……。
チトセSide
「いった~~~~~いっ!」
ゴシャッ! と言う音と共に全身に痛みが走り私は飛び起きました。一体何が起きたんでしょう……。確か空賊を倒して皆さんの命の恩人として感謝されようとして、大砲を撃ったらジンさんの膝蹴りを顔に受けて……、そこから記憶がありませんね。う~~~ん。
「とりあえず、ここから出ませんと何がなんだか分かりませんね。……よいしょっと」
私は立ち上がり、嵌っていた穴からピョコリと顔を出します。
「あら? ここは地上ですか? うーんと……」
私はキョロキョロと辺りを見て、それから上を向きました。これはもしかしなくても船から落っこっちちゃいましたか? 原因は間違いなくジンさんからの蹴りでしょう。酷過ぎます!
「まったく何なんですか! 私はただ皆さんの為に空賊を追っ払おうとしただけなのに。ちょっと大砲を撃っただけで船から蹴り落すとかジンさんは乱暴過ぎです」
ムー!っと私は頬を膨らませながら私が落ちて出来た穴から這い出ます。あーあ、服が土まみれになっちゃいました。
「………はぁぁ、どうしましょう。また私一人ハブられたんですね。それに此処は一体どこなんです? 私、どうやって帰ればいいんですかー!?」
うっぐ。涙が出ていました。何で私ばかりいつもいつものけ者にされるんですか。こんなのあんまりです。はぁ~。
「…………………………………へぇ、生きてんだ」
私が俯いてこの世の不幸に嘆いていた背後からこの世全てを呪い殺すようなとてつもなく低く、ドスの効いた声が聞こえてきました。
「え、ジンさん…? ジンさんじゃないですか! もうっ居るなら居るで早く声かけてくださいよ。私心細くて泣きそうになっちゃいましたよ~」
私は1人のけ者にされたと思っていたのでジンさんに会えてとても幸せです。でも船の上で蹴られたことには文句を言わなくては。そのせいで私は船から落ちてしまったんですから。
「まったくジンさん。いきなり蹴り飛ばすとか酷いじゃないですか! そのせいで船から落ちるわ、地面に激突して痛いですし、服も土だらけ。それに…」
と、私はジンさんへと不満を言い募ります。そうだ、いっそのこと今までの不満も言ってしまいましょう。私はついでとばかりにこの星に来てからの事にも文句を言います。
「ちょっとジンさん、聞いてますか? さっきから俯いたままで時たまブツブツと。まったくジンさんには困りものです。もう人としてとても残念な方なのはどうしようもないとしてですね…」
そんな中、突然プッツンとゴムが切れた様な音が聞こえました。
「……はて? 何のおどぉでょッ!?」
お腹の痛みと共に身体が空中でグルグルと回ります。そしてドサリッと身体が地面に叩きつけられてました。どうやらまたジンさんに殴られたみたいです。
「いきなり何するんですか!? ってあれ?」
私はお腹を押さえながら抗議をしますがジンさんの姿は何処にも見当たりません。あれ~? 何処行ったんですか?
「へっくちゅ!」
寒っ! いきなり周囲が寒くなってきました。何が起きているんです? 私は立ち上がろうとして…ってあれ? あれれ?
「えっ、ちょっと凍ってます!?」
余りの寒さのせいか地面が凍り、足やらお尻やら地面に触れている所が張り付いてしまっていました。こ、これじゃあ動けません!
「ひえぇ~、助けて~!」
必死に氷を取ろうとしていたら背後に人の気配を感じて振り向くとジンさんがいました。
「ちょっとジンさん! 近くに居たなら助けてくださいよ。凍っちゃって動けないんです!」
「………第五…」
「もうジンさん! 変な事してないで助けてくださいって言ってるんです! 何を…」
「…波動!!!!」
目の前が真っ白になりました。私は何が起きたか分からないままに白い光の中でクルクルと翻弄され、そして光が収まると同時にドサッと地面へと放り出されました。
「うっゲホッゲホッ! なんですか~! …ゴホッ!」
体中あちこちが焦げて
「アハ。ハハハ。アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」
「ひょえっ!?」
ジンさんが遠くで言い表し難い表情で私を見て大笑いをし始めました。ハッキリ言って無茶苦茶怖いです。ついに頭が可笑しくなったんでしょうか?
「オ前ッテ、如何スレバ、死ヌンダ?」
目が尋常じゃないぐらい血走ってます。喋り方もカタコトです。
「あのぉ? もしかして……怒ってますか?」
「怒ッテナイヨー」
「うひっ!」
そう言ってジンさんは私に殴りかかってきました。私は咄嗟に横に転がりパンチを避けましたが、ジンさんのパンチが当たった地面が一瞬にしてマグマの様に融けてしまいました。さらに
「伝導・
ジンさんが叫ぶと拳をめり込ませている場所から私に向かって亀裂が向かってきまして、足元まで来た瞬間、マグマと炎が吹き上げてきました。
「キャーーー!」
私はジンさんに背を向けて逃げだします。ヤバイです。アレはブチ切れたフォルテ先輩や|蘭花《らんふぁ》先輩、ミント先輩と同じ表情です。アレは本気で殺しにくる時の顔です。逃げなきゃ殺されます。
「逃がすかぁっ!!! 絶対にぶっ殺す!!
ジンさんは叫びながら手の平を私に向けて言うと、どう言う訳か私の身体がジンさんへと引き寄せられて行きました。イヤァァァァァァ!! 殺されるーー!
「消し炭になれやぁっこの疫病神女が! アグニジュボボッ」
私の身体が自由になった直後、ジンさんが先ほど地面を溶かした攻撃を私の頭へとしようとしたとき、ジンさんが突然消え、私はまた身体へと強い衝撃を受けて空中へと舞い上がりました。一体何が?
グチャっと頭から落下し、身体を起こすと目の前には巨大ブタさん達が列を成して大移動していました。ああ、コレに轢かれたんですね。そしてブタさん達が去った後、通った場所には足跡だらけの手足が曲がっちゃいけない方向へと向いて痙攣しているジンさんが居ました。
「えっと……大丈夫ですか?」
「……大丈夫に見えるか?」
「え、はい」
「よし、今すぐその首落としてやるっ!!」
「キャーーーー!」
ジンさんはそう言うや否や、どういう構造なのでしょう。腕がチェーンソーになり私を真っ二つにしようと振りかぶり
「ゴボォッ!?」
ドゴンッ!と言う衝撃と共に私は衝撃で吹き飛ばされました。
「痛いです~。もう、ホントさっきから何なんですか? 意味がわかりません」
私は巻き上げられた土を頭から被り、泥だらけになりながら目の前にある小さなクレーターに眼を向けます。クレーターの中心には身体に穴が開き、と言うよりほとんど千切れてると言っても過言ではない状態のジンさんが有りました。うっわぁ、グロいです。
「ジンさん。貴方の勇姿は忘れません。私は貴方の使い魔として立派にジンさんの持つ財産全てを貰ってあげます」
私はジンさんの遺体の前で手を合わせて涙をなが…
「がて・・・な、ごどぼ……いっで・・・じゃ、べぇ…」
「きゃっ!?」
死体が喋りました! 何ですかコレ! 気持ちワルっ! 私はジンさんから離れてよく観察してみます。
………あ、千切れた身体が再生していってます。もはや化け物ですね。それからジンさんの身体は少しづつ元に戻って行き、完全に元通り(服までも元通り)になりますとその場で座り込み、すすり泣き始めました。
「……もうイヤだぁ。……なんだよこれ。…うっ、ぐぅっ。痛かったぁ…」
「あー、ジンさん? えっと、…大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳あるかよ…。落下死しかけるし、圧死しかけるし、んで今の何だよ…。身体千切れかけたぞ…」
どうやら心が完全に折れてしまっているようです。こんな弱ったジンさん始めてみます。ま、どうでもいいことですね。私はジンさんを放って先ほどの衝撃の原因を探してみます。
「あ、コレですね。うーん……隕石ですかね? もう粉々になってしまってますが、間違いないと思います。これがジンさんに当たったんですね」
「…………そうか、隕石なら…仕方が…無い……わけるかよ。なんでこのタイミングで隕石…」
私が笑顔で説明しましたらジンさんの目から光が消え、真っ白になってしまいました。
「まあ、人間生きていれば色々ありますよ。」
「こんな人生はいやだぁ!!」
私がポンと肩に手を置いて言ったらジンさんは泣き崩れてしましました。
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
アルビオン編9