友達歴は10年以上。
付き合って半年。同棲して1ヶ月の、恋人歴はまだまだホヤホヤ。
キスはした。触りっこもした。一緒に風呂も入ったし、夜は同じ布団で寝てくれる時もある。
でも俺はまだ、聖のナカを感じたことがない。付き合う前からセックスレス。……どういうことだ。
「ねぇー、聖」
「ん」
「今日、俺がどこ行ってたか知ってる?」
「は? 遊びに行くって言ってたじゃん」
「違う違う、その場所だよ」
「知るわけねぇだろ」
「合コン」
「ふぅん」
ソファに寝転がった聖の、スマホを操作する指は止まらない。
愛しの彼はいたって平常心で、俺の発言に少しも動揺した様子はなく。
確かに今日、俺は合コンに行った。別に出会い目的とか、女の子と遊びたかったからとか、そんなヤリチンな理由じゃなくて。……構って欲しかったんだ。
まだ友情の延長線から抜け出せない聖に、恋人らしくやきもち妬いて欲しくて、俺は楽しくもない合コンに参加した。だけど、
「え、それだけ?」
「他に何て言って欲しいんだよ」
「俺、恋人に黙って合コン行ったんだよ?」
「だから?」
「もっとこう……、ほらっ、『俺がいるのに!』とか『浮気すんなよ!』とかさ、あるじゃん!」
「ねぇよ。やましいことがあるんならわざわざ俺に合コン行ったとか言わねぇだろ」
「……そうだけど」
でも、それでもさ。
やっぱり恋人としては、もっと束縛とかして欲しいし、やきもちも妬いて欲しい。
長年培ってきた友情をぶっ潰したのは俺からで、勢い余って告白してしまった半泣きの親友に、たぶん聖は渋々付き合ってくれただけ。
それはなんとなく、感じてはいた。絶対、認めたくないけど。
あの時は、心配と不安と緊張で、吐きそうなくらい一杯一杯だったけど、今思えば。
聖は俺のこと、未だにただの友達としか見てないんじゃないか。
友情が崩壊するのは嫌だから、仕方なく俺と付き合うことにしたとか、そんな悪い推測ばっかりしてしまって、そんな自分にも嫌気が差す。
だって、素直に甘えても、シたいって直球でぶつけてみても、聖はことあるごとに『万年下痢なんだよな』とか『痔持ちだから』とか言って逃げる。
お腹がゆるいなんて、学生時代は聞いたことなかったよ。
それってやっぱり、意図的に避けられてるってことで、考えるとすごい、悲しくなる。
俺はもう、聖のことは友達だなんて思えないのに。
聖は、違うのかな。
「なんだよ、その子犬みてーなツラ」
「だって……。聖、冷たい」
俯きがちで言うと、聖は大きな溜め息をついた。
そのめんどくさそうな表情に、ショックを受ける。
俺のわがままで嫌われたくない。呆れられたくない。
……でも、俺のこと、もっとちゃんと見て欲しい。
「あのさあ」
怒気を含んだ低く強い口調に、びくり、と内心小さく肩が跳ねる。
ソファから起き上がって、スマホを置いた聖は、ラグに座っている俺を腕を組んで見下ろす。
「好きじゃなかったら男となんか付き合わねぇし、信用してなかったら合コンにも行かさねぇよ、俺は」
「っへ……?」
「なんで言わなきゃ分かんねぇんだよ」
その台詞に顔を上げれば、目が合った瞬間に俺から視線を逸らされてしまった。
横を向いて不服そうな聖は、ほんの少しだけ、顔が赤いように見える。
怒ってるみたいな声も、もしかしたら照れ隠しなのかも知れないことに気付いた俺は、待てを聞かない犬よろしく、我慢出来ずに思いっきり抱きついた。
「ちょっ、うぉお……!」
「好き! 聖、だいすき!」
「ぐぇっ、重っ!」
ごとんっとソファからスマホから落ちる。
座っていた聖は俺の体重と勢いでバランスを崩して、押し倒したような体勢になるけど、気にせずぎゅうぎゅうに抱きしめた。
単純だな、俺。
安心する、聖の体温。聖の匂い。
「どけって、潰れる……!」
「っ俺、やっぱりシたいよ、聖」
「はぁっ? こんな状況で何言ってんだよ……っ」
「こんな状況だからだよ。好きだから、えっちしなくても、側にいるだけでいいかなって思う時もあったけど、でも、好きだからこそ、シたいって思う」
「……あお、い?」
「半年以上、我慢した。聖に嫌われたくないし、大事にしたいって思うから、襲わないように毎日オナニーして、自分で慰めて」
「い、いやいや、そんな曝露いらんし……」
「こんなに、えっちしたいって気持ちになるのは、ずっと、ずっとずっと、聖だけなんだよ? 付き合うもっと昔から、俺は聖だけが、欲しくて欲しくて堪らない」
「っ、」
俺の下で、聖は恥ずかしそうに目を逸らす。
真っ赤な顔が、困ったように狼狽える様子でさえ、可愛い。
目の前に曝された、綺麗に筋が浮き上がった首に、噛みつきたい衝動に駆られる。
「……俺、今日、腹壊してる、から」
「だったら、正露丸飲んでから浣腸しよう、やったげる」
「いや、浣腸はさすがに恥ずかしいって。しかも痔持ちだし、絶対、痛いだろ……」
「俺が薬買ってくるし、ちゃんと塗ってあげるから……!」
いつもの言い訳でまた拒否されるのかと、悲しくて泣きそうになりながら、俺は必死で食い下がる。
「……そんなに溜まってんなら、手とか口とかでしてやろうか?」
「違うよ……っ」
そんなに嫌なの?俺とするの。
飲み込んで吐き出さなかった不安の数だけ、喉奥から込み上げる、熱い何か。
涙が溢れそうで、でも、まだ話さないといけないから、一生懸命耐える。唇が、震えた。
「聖がいいのっ、聖としたい、聖とだけ、繋がりたい……っ」
「ごめん、葵。泣くなよ……」
「ふ、うぅ゙ー…」
情けないぐちゃぐちゃな顔の俺の頭を、聖はまるで小動物にでも触れるように、優しく撫でる。
髪の隙間に指が入って、労るような触り方に愛情を感じて、それが余計に苦しくて。
「……俺も、本当のこと言うよ」
「……?」
「適当に理由つけて拒否ってきたけど、いい加減、腹据えるわ」
「な、に……?」
それは、俺にとっていいことなの?
まさか別れを……、なんて、縁起でもないことが頭をよぎった俺の心臓は、ばくばくと激しさを増した。
「お前とさ、その、付き合うなら、それなりのことするって覚悟してたよ。それで、ちょっと勉強しようと思って……」
「え、な、なに」
ごくん、と唾を飲み込む。
聖の声を聞き逃さないよう、神経を集中させた。
「ど、動画とか見てみたんだよ……っ、そしたら、男が男に掘られて、あんあん言ってて……俺もこんなんになるのかと思ったら、恥ずかしくて、でも、あんなの、入る気しねぇし、考えだしたら、怖じ気づいちゃって……」
「え? な、そんなこと、だったの……?」
「そんなことじゃねーよっ、俺は真剣に悩んでたってのに……」
「いいよ、俺がネコでも」
にっこりと笑って、俺は即答する。
別にさ、いいよ。聖と出来るんなら、どっちだって構わない。
好きだから、聖のナカの熱を感じたいってもちろん思うし、本能的には突っ込みたくなる。
けど、好きだから、聖が嫌がることはしたくない。
「……は? 本気かよ……」
「うん。俺はどっちでもいい。聖が入れられるの怖いなら、俺が受け入れるよ。聖から与えられる痛みなら、むしろ欲しいくらい」
「……」
ふにゃりと笑う俺に、今度は聖の顔色が暗くなる。
唇を噛みしめて、ちょっと泣きそうにも見える、弱気な珍しい表情だ。
一瞬の沈黙があったあと、聖は真摯な面持ちでじっとこちらを見つめて、口を開いた。
「……分かった。シよう、今から」
「今からでいいの? ふは、なんか変な感じだね。でも、すごく嬉しい」
「言っとくが、お前がタチな」
「……へ? で、でも聖、怖いんでしょ? 無理しなくても……」
「こっ、怖い、けど……! 俺だって、お前のこと好きなんだよ……!」
熱があるんじゃないってほど、顔を真っ赤にした聖が、いとおしくて、堪らなく好きで。
普段、絶対にこういうことを言わない恋人が、初めて“好き”だと、口に出して伝えてくれた。
それだけでもう、俺は。
嬉しくて嬉しくて、きっと今、世界中の誰よりも幸せな自信がある。
「俺も、聖が好きです。だいすき」
「……わ、分かってるよ!」
「痛くないようにする。ふたりとも、気持ちよくならないとね」
「……あぁ、頼んだよ、葵」
その夜、俺たちは初めて、本当の意味で結ばれたような気がした。
次の日の昼間。
「……腰いてー…」
「大丈夫? 今日はゆっくりしてて、無理しちゃだめだよ」
「……お前さ、男とすんの、初めてじゃねぇだろ」
「えー? 初めてだよ、男はね」
「いつもへらへらしてるくせに、ちゃっかりテクは身につけてんのな……。なんか色々ショックだわ」
「なにそれ、やめてよう。そのテクは、これから聖にしか使わないじゃん」
「うっさいハゲ!」
「えー! ハゲてないし! ていうか聖、そんなに気持ち良かったの? 確かに昨日、イきまくってたもんね」
「うあぁぁあぁ何言ってんのお前ぇぇえ……!」
罵声も嬌声も泣き顔も、もちろん笑った顔だって。
見とれちゃうのも、愛しくなるのも、俺がネコでもいい、なんて百歩も譲る必要がないくらい即答出来たのも、君だから、なんですよ。
fin.
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BLです。一応恋人同士。
なのにやらせてくれない受けと、どうしてもしたい攻めの話。
ちょっと下品で、攻めが泣き虫です。でも糖分過多。
葵(あおい)×聖(こうき)
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