謎の荒廃したミッドチルダ。街中はあちこちの建物がボロボロになっており、道路は壊れた車で立ち往生したまま放置され、空はドス黒い雲で全体が覆われてしまっていた。
そんな中…
「ここは、一体…?」
とあるコロシアム前にて、街全体の惨状を見て二百式は愕然としていた。
「どういう事だ……ミッドチルダそっくりだが、何処もかしこもメチャクチャになってるだと…ッ!!」
周囲を見渡していた二百式は何かの気配を察知し、素早く建物の柱の陰に隠れる。すると二百式が気配を感じた方向から、人ではない何かがやって来る。
『どうだ、いたか?」
『いや、いねぇな。下等な人間共め、一体何処に隠れやがったんだ…』
(!? モンスターだと…!?)
現れたのはオークとスケルトンだった。二体はまるで偵察でもしているかのように、周囲を見回りしながら何処かへ移動していく。二体が立ち去るのを見届けてから、二百式は柱の陰からゆっくりと出て来る。
「何故モンスターが街中に……この街の状況と、何か関係が…?」
自分の知っているミッドチルダは、あのようなモンスターが平気で街中をうろついているような危ない世界ではなかった筈だ。そんな疑問を抱きながらも、二百式は情報を得るべく場所を移動しようとした……その時だった。
「…!?」
コロシアム内部から、謎の強大な力を察知する。
「何だ、この力は…!!」
二百式は力の正体を探るべくコロシアム内部へと入り、観客席までやって来る。コロシアム内のステージには誰もおらず、観客席にも人は誰一人存在してはいなかった。
「…気の所為、か?」
『このような所に、人間が来るとは珍しいな』
「ッ!!」
二百式は声の聞こえた方向へと素早く振り返り、そして戦慄する。
「お、お前は…!!」
『ほう、分かるのか? 私の気配が』
ガシャン、ガシャンと歩く際に音を立てながら“それ”は姿を現した。全身はいくつも傷が付いた銀の鎧、左腰には鞘に納められた長剣、右手に持っているペガサスのような紋章が刻み込まれた盾。だけそれらの特徴を見てみれば、その姿はまさに騎士その物である。しかし…
「デュラハン、だと…!?」
そう、その騎士は兜を被っていなかった……いや、そもそも“首”自体が無かったのだ。その鎧の中には誰も人が入っておらず、まさに二百式が知るデュラハンの特徴を一通り揃えていた。
『妙に綺麗な服装をしているな。レジスタンスの人間とやらも、綺麗な服を揃える余裕はあるという事か?』
「何? どういう事だ、それにこの街の惨状は…」
『む、知らんのか? この世界で起こったあの戦争を』
「戦争? 何の事だ!!」
デュラハンの言っている事がまるで意味分からない。二百式のそういった反応を見て、デュラハンはある事に気付く。
『…まさか貴様、この世界の人間ではないのか?』
「…あぁそうだ。だからお前の言っている事も、戦争とやらも俺にはまるで理解出来ない」
『そうか、この世界の人間ではないか……ならば知らないのも無理は無い…いやしかし、そうだとすれば…』
「…まぁ良い。この世界がどうであれ、俺のやる事に変わりは無い」
『む?』
観客席に座って考えているデュラハンに対し、二百式は太刀を抜いて構える。
「貴様を倒した後に情報を得る、それだけだ!!」
『ほう…』
二百式は太刀を振るって斬撃を飛ばし、デュラハンのいた観客席を破壊した。斬撃によって破壊された観客席から煙が上がる中、斬撃を回避したデュラハンは二百式から少し離れた位置に着地する。
『なるほど。レジスタンスの人間達とは、何か違うようだな』
「ゴチャゴチャ言わずにかかって来い!!」
『言葉はいらず、か……ならば仕方ない』
デュラハンは右手に持っていた盾を左手に持ち替え、鞘から剣を抜く。
『そちらがそのつもりであるなら……受けて立とう、異世界の戦士よ』
「ッ…!!」
その瞬間、デュラハンはとてつもない覇気を放ち、コロシアム全体が震撼する。二百式も肌で直に感じ取りながらも太刀を構えた姿勢は崩さず、彼の頬を一滴の汗が流れ落ちる。
『さぁ、始めよう』
「ッ…おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
剣と盾を構えて仁王立ちするデュラハンに挑むべく、二百式はその場から大きく駆け出すのだった。
一方、とある高層ビルでは…
「血の匂いは……このビルからですか…!!」
「おい待てディア、一人で突っ走ってんじゃねぇっての!!」
「やれやれ、無駄に足が速いですねぇ…」
「ま、今に始まった事じゃねぇしな」
血の匂いを察知したディアーリーズが走り、その後方からロキ逹が追いかける。一同はある高層ビルの中へと突入して行き、血の匂いのする場所まで駆け出していく。
「ここだ…よいしょおっ!!」
ディアは扉を蹴り壊し、部屋の中へと突入する。そこには…
『あ? 何だテメェ』
三叉槍を構えたリトルデビル、そしてその足元には……腹部から血を流したまま倒れている、長い銀髪の女性の姿があった。
『見ねぇ顔だな。レジスタンスの連中か?』
「貴様、その人に何を…!!」
『何をだぁ? 一度狙った獲物は確実に仕留める、それだけの話だ。さっきこの女が逃がしたガキも、俺がこの手で確実に仕留めてやるのさ。そして…』
リトルデビルの右手に魔力が集中する。
『テメェもここで、俺が仕留めてやるぜヒャッハァー!!』
「!? くっ…
リトルデビルが飛ばした魔力弾を回避し、ディアーリーズは詠唱を唱えると共に左腕が銀色に光り出し、巨大で鋭利な爪を持った腕へと変化させる。
「そんな事の為に、人を襲ったのか!!」
『そんな事だぁ? この俺に偉そうな口を聞いてんじゃねぇぞクズな人間がぁ!!!』
ディアーリーズの爪とリトルデビルの三叉槍がぶつかり合い、僅かな力の差でディアーリーズが壁まで弾き飛ばされる。それでもディアーリーズは体勢を立て直してからリトルデビルの振り回す三叉槍をかわし、倒れている女性の下まで素早く駆け寄る。
『おいおい、その女は俺が仕留めたんだ。横取りすんじゃ…』
「そぉい!!」
『おごわぁっ!?』
部屋に突入して来たBlazがリトルデビルの顔面に蹴りを炸裂させ、リトルデビルが部屋の奥に積まれたダンボールの山に突っ込んだ。
「ふぅ…おいおいディア、追いついてみたら何だこの状況は」
「Blazさん、ナイスタイミングです!!」
「ふぅ、やっと追いついた」
「全く。早過ぎですよディアさん」
Blazの後ろからは、ロキと刃も追いついて来た。
「んむ? ディアさん、そちらの方は…」
「えぇ、恐らく奴にやられて……けど、死なせはしない…!!」
≪リカバー・ナウ≫
血を流したまま倒れている女性を助けるべく、ディアーリーズはリカバーリングをウォーロックドライバーに翳してから女性に治癒魔法をかける。ディアーリーズと女性の真下に魔法陣が出現し、そこから溢れ出る光が女性の身体の傷を癒し始めた。
『おいおいおいおい横取りすんなって言ったよなぁ俺ぇ!! 耳悪いのかテメェはよぉっ!!!』
「「「!!」」」
ディアーリーズが女性を治療しているところに、崩れたダンボールの山から起き上がって来たリトルデビルが魔力弾を放ち、それに気付いたロキがデュランダルで素早く掻き消す。
「おっと、治療の邪魔は止して貰おうか」
『ふざけんじゃねぇぞ人間如きが……ゴミクズなんかが生きてて何になる、どうせ俺達ヴァリアントが築き上げる世界の礎になるだけの下等な種族の分際でぇ!!』
「ヴァリアント…?」
『絶対許さねぇ…テメェ等はここで叩き潰してやらぁっ!!!』
-ガシャアァンッ!!-
『『『『『グガガガガガッ!!』』』』』
「!? モンスターか!!」
リトルデビルが三叉槍に装飾として付いている赤い宝石を光らせた途端、ビルの窓ガラスを突き破って複数のスケルトンが出現した。武装したスケルトン逹は剣や盾、弓や槍などを構えてロキ逹に襲い掛かる。
「ディア、お前はその人の治療を!!」
「はい!!」
「では私も、OTAKU旅団No.21として初陣といきましょう…変身!」
≪チェンジ・ナウ!≫
「とっとと行くぜ…おんどりゃあっ!!!」
Blazが大剣を振るってスケルトンを粉砕するのを皮切りに、リトルデビル率いるスケルトン軍団との戦闘が開始される。ロキがデュランダルでスケルトンを三体同時に斬り裂き、刃の変身したクリムゾンがクリムゾンガンでスケルトン逹を狙い撃つ中、ディアーリーズは女性の治療を続ける。
≪リカバー・ナウ≫
「お願いです、息を吹き返して下さい……もうこれ以上、人が死んでいくのを僕は見たくない…!! だから、だから…!!」
≪リカバー・ナウ≫
≪リカバー・ナウ≫
≪リカバー・ナウ≫
女性を助けたいがあまり、ディアーリーズはひたすらリカバーを発動し彼女を治療し続ける。しかしリカバーを発動するたびにディアーリーズの中の魔力はどんどん消費されていっており、それはディアーリーズの体力を減らしていく事も同義だった。それでも、ディアーリーズは戸惑わない。
≪リカバー・ナウ≫
「頼む、間に合ってくれ…!!」
魔力が枯渇しようとも、ディアーリーズはリカバーを発動し続ける。しかしやはり体力を消費していっているからか、発動しているリカバーの魔法陣も輝きが少しずつ薄れていっている。
「!? おいディア、あんまり無茶はするな!!」
ディアーリーズの疲労に気付いたロキが声をかけるも、ディアーリーズは止めない。それだけ、彼女を助ける事で頭がいっぱいだった。しかし…
≪エラー≫
「ッ……絶対、に…死なせ、は…し、な……い…」
「ディアッ!!」
遂には魔力も限界に到達し、ディアーリーズが倒れると共に魔法陣も消えてしまった。ディアーリーズと女性の下まで駆け寄ろうとするロキだったが、スケルトン逹が邪魔で上手く身動きが取れない。
「くそ、邪魔すんじゃねぇよ!!」
『それはこっちの台詞だぁ!! テメェ等全員、俺がこの手でぶっ殺してやんよ!!』
「そっちこそ、やれるもんなら…やってみやがれぇっ!!!」
『ぐぉう!?』
三叉槍と大剣が鍔迫り合いになり、Blazは左手でリトルデビルを殴り飛ばす。吹っ飛ばされたリトルデビルが他のスケルトン逹とぶつかって転倒する中、クリムゾンは右手中指に嵌めていたリングを別のリングに嵌め変える。
「では、纏めて始末してしまいましょうか」
≪ブラッディー・ナウ≫
「さぁ、行きなさい!!」
『『『『『承知シマシタ、マスター』』』』』
『!? な、何だとぉ…!!』
クリムゾンの召喚した複数のブラッディードールが一斉にスケルトン逹を次々と粉砕し、リトルデビルを残してあっという間にスケルトン逹を全滅させた。これには流石のリトルデビルも驚きを隠せない。
『テ、テメェ等…何処までも俺をコケにしようってかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
「コケじゃないとすれば…」
≪ジャイアント・ナウ≫
『!? な…ホガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?』
クリムゾンの巨大化した右手がリトルデビルを殴りつけ、そのままリトルデビルを向かい側のビルまで吹っ飛ばしてしまった。
「あなたの場合はゴミ以下の存在です……って、もう聞こえてませんか」
クリムゾンは変身を解除してから刃の姿に戻り、ディアーリーズと女性の下まで駆け寄る。
「ロキさん、ディアさんは…」
「魔力の使い過ぎで気絶しただけだ。こっちの人も、何とか命は繋ぎ止めたようだ」
「良かったじゃねぇか。だがディアの奴、魔力が枯渇するまでやるたぁな…」
「それにしても、こちらの方は一体何者なのでしょうか? このような所で、モンスターにやられて倒れているなんて…」
「…それなんだよなぁ。さっきのモンスターに、この街の荒れ果て様……ちょっとばかり調べてみないと分かりそうにないな」
「とにかく、とっとと移動しようぜ。さっきの野郎がまたこっちに来たら面倒だ…」
『やってくれやがったなクソ共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
「!? あいつ、もう復活しやがったのか!!」
向かい側のビルまで吹っ飛ばされていたリトルデビルが、翼を広げてロキ逹のいるビルまで飛んで来ようとしていた。先程のクリムゾンの一撃で殴られた事で、リトルデビルは完全に怒りが爆発していた。
『もう許さねぇ…潰す、潰す、潰す潰す潰ス潰ス潰シテヤルヨ人間共ガァァァァァァァァァァァッ!!!』
「「「…!!」」」
リトルデビルが向かい側のビルから飛翔し、ロキ逹が一斉に身構えたその時…
≪EXCEED CHARGE≫
『あぁ!? 何だ―――』
それ以上、リトルデビルの声が聞こえて来る事は無かった。ビルからビルへ飛び立とうとしたリトルデビルの背中にサイガのエネルギーを纏わせたキック“コバルトスマッシュ”が炸裂し、リトルデビルを一瞬で灰化させてしまったからだ。
「サイガ!? てぇ事は…もしかしてユイちゃん?」
「…無事、仕留めた」
「OK、ご苦労さん」
「! 支配人か」
窓から入ったサイガはロキ逹の前で変身を解除し、ユイの姿に戻る。するとロキ逹の登って来た階段からは支配人とフィアレス、シグマが駆け付けて来た。
「あ~あ、またユイに獲物取られちまったぜ。ちったぁ俺にも寄越せっつうの」
「はいはい、その話は後にしなよ。今はロキさん達と合流出来た事を喜ばなきゃ」
「そういう事だ。さて……その女性は誰だ? さっきまで死にかけてたかのような感じだが…」
「あぁ、その話も一旦後だ。まずはここから移動しよう」
「そういう訳でBlazさん、ディアさんの方がお願いします」
「俺かよ!? チッ、しょうがねぇな…」
Blazが気絶したディアを、刃が未だ意識不明の女性を運ぶ形をなり、彼等はひとまずそのビルから別の場所へ移動する事となった。
『今のは、レジスタンスの人間じゃない…? アルカルド様に報告せねば…』
その様子を見ていた一匹の蝙蝠が、植物が蔓延る地上本部へと飛び去って行くのだった…
一方、別の場所では…
「……」
一緒だったmiriとはぐれてしまい、一番最初にこの荒廃したミッドチルダにやって来ていたげんぶは、とある光景に遭遇していた。
「……」
「…何だこれ」
げんぶの前には、うつ伏せのまま倒れている女性の姿があった。この何もかもが荒廃し切っている街中を見て驚いていたげんぶだったが、そんな状況の中で出くわした彼女の姿は明らかにシュールでしかなかった。
「…お~い、生きてるか~?」
げんぶはひとまず、倒れている女性の頭を指で突っつく。すると女性は「う~ん…」と声を上げながら、まだ僅かに意識が残っている事をげんぶに証明する。
「大丈夫か?」
「う、ん……お腹、すい…た…」
「…って、ただの行き倒れかよ」
どうやら、女性はただの空腹で倒れていただけだったらしい。げんぶは呆れた表情をしつつも女性にもう一度声をかける。
「おい、声は聞こえてるか?」
「ん~…」
僅かに首が頷くように動く。声は聞こえているようだ。
「俺なら、食料を問題なく用意出来るんだが―――」
「ぜひ恵んで下さいお願いします!!」
げんぶが言い切る前に、女性はげんぶに対して土下座の姿勢を見せるのだった。
また、街外れにある森の中では…
「…あり?」
人間の女性の上半身と蜘蛛の下半身を持った異形―――アラクネによって、Unknownは糸でグルグル巻きにされたまま巣まで持ち運ばれていた。
「どうしてこうなった?」
『ん、目覚めたか』
「ちょいちょ~い、どういう事かなこれは?」
『お前の中から、人ならざる力を感じる……あなたと交尾すれば、より強い子供が生まれる…』
「…ハッ!? ちょ、ちょい待ち!! 俺は人間だよ!? 俺なんかと情事に浸っても何にも無いよ!?」
焦りのあまり、無意識の内に一人称が「私」から「俺」に変わるUnknown。しかし彼の言葉に対し、アラクネは聞く耳を持たなかった。
『人間であろうと、あなたは強い力を秘めている事に変わりは無い……あなたにはこれから、必要な分だけ私の子作りに付き合って貰うから』
「ちょ、姉貴、先輩、お願い助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!??」
Unknownの叫びも空しく、アラクネは彼を森の中へと連れ去って行ってしまうのだった。果たして、彼の明日はどっちなのだろうか。
「「はっ!? アン娘(さん)が今、助けを呼んでくれた気がする…!!」」
(本当に凄いな、アン娘さんの事になると…)
朱音と瑞希がUnknownの叫びを察知し、awsが呆れ顔になっていたのはここだけの話である。
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