老王
C1 老い
C2 独白
C3 崩御
C1 老い
ヨネス王国。アレス王国との国境地帯。夜。トオル城。寝室。ベットに仰向けになるヨネス王国国王ヨハン・ヨネス。彼は目を見開き、飛び起きる。周りを見回した後、掌を見つめ、頷くヨハン・ヨネス。窓から、月明かりが彼の影を投影する。
ヨハン・ヨネス『そうかそうか。』
彼は笑顔を作った後、額に手を当てる。ベットの横のボタンを押す。軍靴の音が響き渡り、扉を開いて現れるヨネス王国国王親衛隊隊員達。
ヨネス王国国王親衛隊員A『陛下!いかがなされました?』
周りを見回し、調べるヨネス王国国王親衛隊員達。彼らを見つめるヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『賊ではない。』
ヨハン・ヨネスの方を向くヨネス王国国王親衛隊員達。ヨハン・ヨネスは立ち上がる。
ヨハン・ヨネス『…わしは今日中に王都に戻る。馬を使うぞ。準備を頼む。』
頭を下げるヨネス王国国王親衛隊員達。
ヨネス王国国王親衛隊員達『はっ!』
頷くヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『頼むぞ。』
寝室から去って行くヨネス王国国王親衛隊員達。ヨハン・ヨネスは組んだ手を腰に置き、窓から月を眺める。
ケーダ街道を馬に乗って駆け抜けるヨネス王国国王親衛隊の鎧に身を包むヨハン・ヨネスとヨネス王国国王親衛隊達。ヨハン・ヨネスはヨネス王国国王親衛隊員達の方を向く。
ヨハン・ヨネス『久しぶりの早馬とお前らの鎧じゃが、流石にこの年となると体が疲れるわ。』
ヨネス王国国王親衛隊員A『何をおっしゃる陛下。陛下はまだまだ御健勝。ますます武にも知にも磨きがかかっております!』
ヨハン・ヨネス『お世辞を言うな。』
ヨネス王国国王親衛隊員B『お世辞ではありません。ですから我ら一同、陛下を心から信頼しているのでございます。』
笑い出すヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『はっはっはっは。こやつら。』
笑うのを止め、口角を上げるヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『はは、では行くぞ。』
鉸具を入れ、先頭に出るヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『では、誰が王都に一番に辿り着くか競争じゃ!』
ヨハン・ヨネスの背を見るヨネス王国国王親衛隊員達。
ヨネス王国国王親衛隊員達『お、王!王!!』
彼らはヨハン・ヨネスについて疾走して行く。
C1 老い
C2 独白
ヨネス王国。王都ヨネスロード。深夜。ヨネスロード城の裏口に現れるヨネス王国国王親衛隊の鎧に身を包むヨハン・ヨネスとヨネス王国国王親衛隊員数名。ヨネス王国国王親衛隊員Aが裏口の扉を叩く。
ヨネス王国国王親衛隊員A『国王親衛隊だ!』
裏口ののぞき窓が開き、ヨネス王国国王親衛隊員Aを見つめるヨネス王国兵士A。のぞき窓が閉じ、開く裏口。城内に入って行く彼ら。閉まる裏口。
ヨネス王国。王都ヨネスロード。深夜。ヨネスロード城。廊下を歩くヨハン・ヨネスとヨネス王国国王親衛隊員達数名。ヨハン・ヨネスは国王の寝室の扉の前で立ち止まり、戸を叩く。しばらくして扉の縁から毀れる光。
ヨハン・ヨネス『わしだ。ヨハン・ヨネスだ。』
覗き穴が開き、ヨハン・ヨネスの顔を見つめるヨネス王国王妃のベリダ。国王の寝室の扉が開く。
ベリダ『…こんな夜更けに。』
国王の寝室に入るヨハン・ヨネス。彼は鎧を取りながらヨネス王国国王親衛隊員達の方を向く。
ヨハン・ヨネス『ご苦労だった。』
頭を下げ、扉を閉めて去って行くヨネス王国国王親衛隊員達。
ベリダ『こんな真夜中に現れるなんて若いころを思い出すわ。』
大笑いするヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『あの頃は、よくやったなぁ。今では考えられん。はっはっはっはっは。』
ヨハン・ヨネスの方を向くベリダ。
ベリダ『でも、あなた。お忍びでトオル城にいたのでは?』
ヨハン・ヨネス『うむ。急遽戻った。』
微笑むベリダ。
ベリダ『まるで夜逃げね。』
笑いながら頷くヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネスは笑うのを止め、散らばる星空を映す窓を見つめる。
ヨハン・ヨネス『アレスとの国境の城でわしが死んだら大変だろう。』
眼を見開くベリダ。
ベリダ『何をおっしゃいます。縁起でもないことを。』
笑みを浮かべ、頷くヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『近頃、体がだるい。』
ヨハン・ヨネスはベットに座り、ベリダの方を向く。
ヨハン・ヨネス『こちらに…。』
頷き、ヨハン・ヨネスの傍らに座るベリダ。ヨハン・ヨネスはベリダの肩に手をまわす。
ヨハン・ヨネス『もはやわしの寿命は後数日もつかわからん。』
眼を見開き、ヨハン・ヨネスの手を握るベリダ。
ヨハン・ヨネス『わしは隣国に数えきれぬ謀略を仕掛け、領土と利権を奪ってきた。しかし、アレス王国だけはかからなかった。だが、わしより若いマールは戦死し、王位継承のゴタゴタを収拾しつつある最中。ここで攻めれば利は得られる!まさに千載一隅の機会という時に…。』
大笑いするヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『自分の寿命が尽きる。皮肉なものだな。』
ヨハン・ヨネスを見つめるベリダ。
ベリダ『あなた…。』
ヨハン・ヨネス『これもわしの犯したことへの報いじゃろうな。』
ヨハン・ヨネスはベリダを向く。
ヨハン・ヨネス『王位は息子のヨナンに譲る。長子相続だ。家中は何の問題もないだろう。が、ヨナンも他の息子たちも甘いところがある。軍備は増強させてもよいが、対外戦争はつとまるまい。内政と外交に力を入れるように言うつもりだ。明日、息子たちを呼んでくれ。その旨を息子たちに話すつもりだ。今日は疲れた…。』
ベットに横になるヨハン・ヨネス。大いびきをかくヨハン・ヨネス。ベリダはヨハン・ヨネスに布団をかぶせる。
C2 独白 END
C3 崩御
ヨネス王国。王都ヨネスロード。ヨネスロード城。国王寝室。ベットに横になり吐息を立てるヨハン・ヨネス。椅子に座り、ヨハン・ヨネスの顔を見つめるベリダ。眼を開けるヨハン・ヨネス。
ベリダ『おはようございます。』
体を上げ、自身の身体を見回すヨハン・ヨネス。彼はベリダの方を向く。
ヨハン・ヨネス『おはよう。今日は暑いな…。』
ベリダ『窓をお開けしましょうか?』
頷くヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『ああ。頼む。』
立ち上がり、窓を開けるベリダ。風がヨハン・ヨネスの髪をなびかせる。
ヨハン・ヨネス『良い風だ。』
笑うヨハン・ヨネス。ベリダは椅子に座る。扉を叩く音。
ヨネス王国国王親衛隊員Aの声『ヨナン王子!サロン王子!ペリシュ王子!ロガ王子!参上!』
扉が開き、現れるヨネス王国第一王子のヨナン、第二王子のサロン、第三王子のペリシュに第四王子のロガ。
ヨナン『父上!』
サロン『父上!』
ペリシュ『父上!』
ロガ『父上!』
彼らはヨハン・ヨネスの傍らへ駆け寄る。王子達を見回すヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『おうおう。息子たちよ。』
王子達はヨハン・ヨネスを見つめる。
ヨハン・ヨネス『お前達に伝えねばならぬことがある。』
咳をするヨハン・ヨネス。眼を見開く王子達。
ヨハン・ヨネス『わしはもうすぐ死ぬ。』
唖然とする王子達。笑うヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『そんな顔をするな。これは誰も避けられん。あえていえば、こうして息子達に囲まれ、平穏に死ねるならば随分と幸せな死に方というものだ。』
ヨハン『そんなこと言わないでください父上。』
サロン『父上はまだまだお元気ではないですか!』
ペリシュ『父上が死ぬなんて考えたくもありません!』
ロガ『父上、嘘を言わないでください!そんなの悲しすぎます!』
笑うヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『どの子も誰に似たのか…。』
ヨハン・ヨネスはベリダの方を向いた後、王子達の方を向く。
ヨハン・ヨネス『孝行者に育って。』
ヨハン・ヨネスは王子達一人一人の顔を見ながら頷く。
ヨハン・ヨネス『王は長子のヨナンにする。』
ヨナンの方を向く王子達。ヨハン・ヨネスは王子達の肩に手を当て軽く抱く。
ヨハン・ヨネス『長子相続だ。問題はあるまい。』
頷く王子達。咳をするヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『…アレスの偽王子事件により、ユランシアの周辺諸国は殺気立っておる。わしは…国家の害になり、今も成り続けている私利私欲の輩や欲に溺れ、破滅した輩を多く見てきた。お前達は協力して国事にあたり、ヨナンを補佐してくれ。この国の未来はお前たちの双肩にかかっている頼むぞ。』
ヨハン・ヨネスの顔を見つめ頷く王子達。深く頷くヨハン・ヨネス。
ヨハン・ヨネス『身を守る為に軍備を増強させることは良い。しかし、決して戦争はするな。内政と外交に力を入れよ。』
頭を下げる王子達。
ヨナン『はは!』
サロン『はっ!』
ペリシュ『はい!』
ロガ『はい!』
王子達一人一人の顔を見つめた後、立ち上がり、東の方を向いてベット座るヨハン・ヨネス。彼の髪を風が靡かせる。
ヨハン・ヨネス『いい風じゃ。』
ヨハン・ヨネスの傍らに寄るベリダと王子達。眼を閉じるヨハン・ヨネス。風が国王の寝室を吹き抜けていく。
C3 崩御 END
END
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